国内・海外のランサムウェア被害事例から学ぶ、事業への影響と企業が実践すべき対策
ランサムウェア攻撃は、今やあらゆる企業にとって事業継続を脅かす重大な経営リスクとなっています。自社の対策を検討する上で、他社がどのような被害を受け、事業にどれほど深刻な影響が及んだのか、具体的な事例を知ることは不可欠です。この記事では、国内外の業界別被害事例を具体的に紹介し、攻撃手口の巧妙化や事業への影響、そして講じるべき対策のフェーズについて網羅的に解説します。
【業界別】国内企業のランサムウェア被害事例
製造業・自動車業界:サプライチェーンへの影響と生産停止リスク
国内の製造業、特に自動車業界では、サプライチェーン全体を揺るがすランサムウェア被害が深刻な問題となっています。2022年に発生した大手自動車部品メーカーの事例では、子会社が利用していたリモート接続機器の脆弱性を突かれ、親会社の基幹サーバーが感染しました。これにより受発注システムが停止し、部品供給が完全にストップしました。
このインシデントの影響は甚大で、部品メーカーだけでなく、最終製品を組み立てる自動車メーカー本体の国内全工場が稼働停止に追い込まれるという異例の事態に発展しました。部品在庫を極力持たない「ジャストインタイム」方式が、かえってサプライチェーンの寸断に対する脆弱性を露呈した形です。システムの復旧には数日を要し、1万台以上の自動車生産に遅れが生じるなど、日次単位で億単位の経済的損失が発生しました。
- サプライチェーンの寸断による部品供給の停止
- 生産ラインの物理的な停止とそれに伴う巨額の逸失利益
- 取引先企業を含めたサプライチェーン全体でのリスク管理体制の構築が急務
- 委託先や子会社のセキュリティ不備が、自社の事業継続を脅かす重大なリスクとなる
医療機関・インフラ業界:社会機能の麻痺と人命に関わる脅威
人命を預かる医療機関や社会基盤を支えるインフラ業界へのランサムウェア攻撃は、市民生活や生命の安全を直接脅かす重大な事態を引き起こします。2021年には徳島県の町立病院で電子カルテシステムが暗号化され、患者情報が閲覧不能となり、新規の救急患者の受け入れを約2カ月間停止せざるを得なくなりました。
また、2022年には大阪府の大規模医療センターが給食委託事業者のVPN装置を経由して攻撃を受け、通常診療の再開までに2カ月以上を要しました。医療機関は24時間365日の稼働が前提であり、保有する患者の機微情報は攻撃者にとって価値の高い人質となるため、身代金支払いを迫られやすい状況にあります。
物流インフラでは、2023年に名古屋港のコンテナターミナル管理システムが感染し、コンテナの搬出入が全面的に停止しました。この事態は中部経済圏のサプライチェーン全体に深刻な打撃を与え、社会経済活動を麻痺させました。これらの事例は、閉鎖的なネットワークで運用されていると考えられがちな重要インフラであっても、委託先との接続点などの脆弱性が重大な侵入経路となり得ることを示しています。
小売・サービス・金融業界:顧客情報漏洩とブランドイメージの毀損
大量の個人情報を扱う小売、サービス、金融業界では、ランサムウェア被害が顧客情報の漏洩とそれに伴う深刻なブランドイメージの毀損に直結します。2024年に発生した大手出版社グループへの攻撃では、サーバーが暗号化され、動画配信やECサイトなど多岐にわたるサービスが長期停止しました。さらに、作家や顧客、従業員などの個人情報が大量に流出し、一部はダークウェブ上に公開される事態に至りました。
ECサイト事業者にとって、Webサイトの停止は売上の直接的な喪失を意味し、情報漏洩の事実は顧客の信頼を根底から揺るがします。一度失われた信頼の回復には多大な時間とコストが必要となり、事業の存続を脅かす重大な経営リスクとなります。
金融業界でも、通知物の発送を委託した印刷会社が攻撃を受け、複数の金融機関や自治体の顧客データが流出する事例が発生しました。これは、自社のセキュリティ対策を強化するだけでは不十分であり、業務委託先を含めたサプライチェーン全体での情報管理責任が問われることを示しています。
海外の著名な被害事例から見る攻撃の規模と影響
大規模インフラやグローバル企業を標的とした攻撃とその教訓
海外では、国家の重要インフラやグローバル企業を標的とした大規模なランサムウェア攻撃が発生し、その影響は国境を越えて広がっています。これらの事例は、サイバー攻撃が単なるITインシデントではなく、国家安全保障に関わる問題であることを示唆しています。
| 発生年 | 被害組織 | 概要と影響 | 教訓 |
|---|---|---|---|
| 2021年 | コロニアル・パイプライン社(米国) | 石油パイプラインが停止し、東海岸の燃料供給が麻痺。社会的なパニックを引き起こした。 | 重要インフラがサイバー攻撃により物理的な社会混乱を招くことを証明した。 |
| 2021年 | JBS社(ブラジル) | 世界最大級の食肉加工会社が操業停止。食肉価格が高騰し、世界の食糧供給網に影響を与えた。 | 事業継続を優先し、巨額の身代金支払いを余儀なくされる現実を示した。 |
| 2024年 | チェンジ・ヘルスケア社(米国) | 医療IT企業のシステムが停止し、全米の薬局や病院で保険請求処理が麻痺。医療システム全体が混乱した。 | 攻撃の分業化・ビジネス化(RaaS)が進み、社会的に影響の大きい組織が狙われる傾向が強い。 |
これらの大規模攻撃の背景には、RaaS(Ransomware as a Service)に代表される犯罪エコシステムの存在があります。攻撃者は標的の事業規模や社会的影響力を分析し、最も効果的なタイミングで攻撃を仕掛けます。グローバル企業やインフラ事業者は、サイバー攻撃を事業継続における最重要リスクとして捉え、経営層主導で高度な防御・復旧体制を構築することが不可欠です。
事例から見るランサムウェア攻撃の主な手口と感染経路
手口の巧妙化:二重脅迫・三重脅迫による多角的な圧力
近年のランサムウェア攻撃は、単にデータを暗号化するだけでなく、より悪質で多角的な脅迫手法を用いて被害組織を追い詰めます。主流となっているのが、データを暗号化する前に窃取し、その情報の公開を盾に身代金を要求する「二重脅迫」です。これにより、バックアップからの復旧だけでは問題を解決できなくなりました。
さらに手口は巧妙化・悪質化しており、被害企業の顧客や取引先に直接連絡して圧力をかける「三重脅迫」や、DDoS攻撃でサービスを停止させる「四重脅迫」も確認されています。
- 二重脅迫: データを暗号化し、さらに窃取したデータの公開を脅して身代金を要求する。
- 三重脅迫: 被害企業の顧客や取引先に直接連絡し、情報漏洩の事実を伝えて心理的圧力をかける。
- 四重脅迫: 上記に加え、WebサイトなどへのDDoS攻撃を仕掛け、事業活動を妨害する。
これらの複合的な脅迫は、被害企業が身代金の支払いを拒否しにくい状況を意図的に作り出すものであり、情報漏洩を前提とした危機管理体制の構築が求められます。
攻撃範囲の拡大:サプライチェーンの脆弱性を突く攻撃
大企業のセキュリティ対策が強化されるにつれて、攻撃者はセキュリティ対策が比較的脆弱な取引先や子会社を踏み台にする「サプライチェーン攻撃」を多用しています。企業間のネットワーク接続が広がる現代では、サプライチェーンの一部に存在する脆弱性が全体の脅威となります。
国内の病院や自動車部品メーカーの事例でも、保守ベンダーや子会社のネットワーク機器が侵入口となり、信頼された通信経路を悪用して内部へと侵入されました。自社の対策を万全にしても、取引先のセキュリティ不備が自社のリスクに直結するのです。
- 取引先や関連会社を含めたサプライチェーン全体でのセキュリティレベルの向上を目指す。
- 委託先に対するセキュリティ要件を契約で明示し、定期的な監査を実施する。
- ネットワークを適切に区分け(セグメンテーション)し、万一侵入されても被害を局所化する。
- アクセス権限を必要最小限に絞り、接続元からの不審な通信を常に監視する。
攻撃のビジネス化:RaaS(Ransomware as a Service)の台頭
ランサムウェア被害が世界的に拡大し続ける背景には、サイバー攻撃の分業化とビジネス化を象徴する「RaaS(Ransomware as a Service)」という犯罪エコシステムの存在があります。これは、ランサムウェアの開発者が攻撃ツールをサービスとして提供し、実行役(アフィリエイト)を募るビジネスモデルです。
このモデルにより、高度な技術力を持たない攻撃者でも容易にランサムウェア攻撃に参入できるようになり、攻撃の総数が爆発的に増加しました。RaaSプラットフォームは、攻撃ツールだけでなく、交渉用チャットやリークサイト、攻撃マニュアルまで提供しており、正規のビジネスのように運営されています。
- 開発者: 高度なランサムウェアや攻撃用インフラを開発・保守し、サービスとして提供する。
- アフィリエイト(実行犯): 開発者が提供するサービスを利用して標的を攻撃し、得られた身代金を分配する。
- イニシャルアクセスブローカー(IAB): 企業ネットワークへの侵入に必要な認証情報などを調達し、アフィリエイトに販売する。
このように攻撃が高度に組織化・効率化されている現状では、防御側も組織全体で継続的に防御力を強化していく必要があります。
主な侵入経路①:VPN機器・リモートデスクトップの脆弱性
テレワークの普及に伴い利用が拡大したVPN機器やリモートデスクトップ(RDP)は、ランサムウェアの主要な侵入経路となっています。警察庁の調査でも、感染経路の多くがこれらに起因すると報告されています。
攻撃者は、インターネット上で公開されている機器の既知の脆弱性を常に探索しており、修正パッチが適用されていない機器を狙って侵入します。また、推測されやすい安易なパスワード設定や、多要素認証が導入されていない環境も格好の標的となります。
- VPN機器のファームウェアやソフトウェアの脆弱性情報を常に収集し、迅速にパッチを適用する。
- リモートデスクトップ(RDP)をインターネットに直接公開せず、必要な場合のみアクセスを許可する。
- 認証には必ず多要素認証(MFA)を導入し、不正ログインのリスクを低減させる。
- 推測されにくい複雑なパスワードを設定し、安易なパスワードの使い回しを禁止する。
主な侵入経路②:従業員を標的とするフィッシングメール
古典的な手法でありながら、従業員を標的としたフィッシングメールは依然として非常に有効な侵入経路です。攻撃者は取引先や公的機関になりすまし、業務に関連する巧妙な件名や本文で不正なメールを送りつけます。
受信者がメールに記載されたURLをクリックしたり、マクロが埋込まれた添付ファイルを開いたりすることで、端末がマルウェアに感染します。近年では、過去のメールの返信を装うなど手口が巧妙化しており、見分けることが困難になっています。感染した端末は社内ネットワークへの侵入の足掛かりとされ、そこから攻撃範囲を拡大されます。
- 従業員に対する定期的なセキュリティ教育と、標的型攻撃メールを想定した実践的な訓練を実施する。
- メールのフィルタリング機能を強化し、不審なメールを検知・隔離する仕組みを導入する。
- Officeドキュメントのマクロ自動実行をグループポリシーで無効化し、リスクを低減させる。
- 不審なメールを受信した場合の報告ルートを明確化し、組織全体で脅威情報を共有する。
ランサムウェア被害が事業に与える深刻な影響
事業停止による直接的な金銭的損失と高額な復旧コスト
ランサムウェアによって基幹システムや生産設備が停止すると、企業は事業活動そのものが不可能となり、深刻な金銭的損失を被ります。製造業では工場の操業停止、小売業ではECサイトの閉鎖など、売上機会が即座に失われ、その損害は時間経過と共に拡大します。
さらに、システムの復旧には莫大なコストが発生します。原因究明のためのフォレンジック調査、専門家へのコンサルティング、システムの再構築、顧客対応のためのコールセンター設置など、多岐にわたる費用が必要となり、総額は数億円から数十億円に達することもあります。身代金を支払う選択は、データが戻る保証がない上に、さらなる攻撃を誘発するリスクを伴います。
顧客・取引先からの信頼失墜とブランドイメージの毀損
サービスの停止や納期遅延は、顧客や取引先からの信頼を著しく損ないます。特に個人情報や機密情報の漏洩を伴う場合、企業としての管理体制が厳しく問われ、社会的信用を失墜させます。一度失われた信頼を回復するには長い時間と多大なコストがかかり、その間に顧客が競合他社へ流出するリスクも高まります。
インシデントの発生やその後の対応がメディアで報道されると、ブランドイメージは急速に悪化します。情報開示の遅れや不誠実な対応は、隠蔽体質とみなされ、さらなる批判を招きかねません。上場企業であれば株価の下落にも直結し、経営陣の責任問題に発展する可能性もあります。
情報漏洩に伴う損害賠償請求と法規制上のリスク
ランサムウェア攻撃により個人情報が漏洩した場合、企業は法的な責任と民事上の損害賠償責任を負います。改正個人情報保護法では、情報漏洩が発生した際の個人情報保護委員会への報告と本人への通知が厳格に義務付けられており、違反した場合は罰則の対象となります。
また、情報漏洩の被害者である顧客や従業員から、損害賠償を求める集団訴訟を起こされる可能性があります。漏洩件数が大規模になれば、賠償総額は極めて高額になります。さらに、取引先から預かった機密情報が流出した場合は、契約違反として損害賠償を請求されるリスクもあります。
サプライチェーン攻撃で『加害者』になった場合の法的・契約的責任
自社のセキュリティ不備が原因で、取引先のネットワークに被害を拡大させてしまった場合、自社は被害者であると同時に「加害者」の立場に置かれます。取引先の事業を停止させたり、情報漏洩を引き起こしたりすれば、契約上の義務違反を問われ、多額の損害賠償を請求される可能性があります。
近年の取引契約では、セキュリティ対策の実施を求める条項が盛り込まれることが多く、これを怠っていた場合は重過失とみなされる恐れがあります。最悪の場合、取引停止や契約解除につながり、事業の存続そのものが危ぶまれる事態となります。自社がサプライチェーンの弱点とならないよう対策を講じることは、もはや企業の経営責任です。
被害を未然に防ぎ、最小化するための対策フェーズ
【予防】侵入を防ぐための基本的な対策(脆弱性管理・従業員教育)
ランサムウェアの侵入を防ぐための予防策は、技術的な対策と人的な対策の両輪で進めることが重要です。攻撃者は常にシステムの脆弱性を狙っています。
- 脆弱性管理の徹底: OSやソフトウェア、特にVPN機器などのファームウェアを常に最新の状態に保ち、既知の脆弱性を放置しない。
- 認証の強化: 多要素認証(MFA)を導入し、パスワードだけに頼らない強固な認証プロセスを確立する。
- 攻撃対象領域の削減: 不要なポートを閉鎖し、外部に公開するサービスを必要最小限に絞る。
- 従業員教育の継続: フィッシングメールの見分け方やパスワードの適切な管理方法について、定期的な教育と訓練を実施し、セキュリティ意識を向上させる。
【予防】被害を最小限に抑えるためのデータバックアップ戦略
万が一侵入されデータが暗号化された場合、事業を復旧させるための最後の砦はバックアップデータです。しかし、ランサムウェアはバックアップデータ自体も標的にするため、堅牢なバックアップ戦略が不可欠です。
効果的な戦略として「3-2-1ルール」の実践が推奨されます。
- データを3つ(オリジナル+2つのコピー)保有する。
- 2種類の異なる媒体(例:社内サーバーとクラウド)に保存する。
- そのうち1つはネットワークから切り離したオフライン環境や遠隔地に保管する(エアギャップ)。
また、バックアップを取得するだけでなく、定期的に復旧テストを実施し、いざという時に確実にデータを復元できることを確認しておくことが極めて重要です。目標復旧時間(RTO)などを定め、計画的に運用する必要があります。
【検知・対応】侵入を早期に発見し対処する仕組み(EDR導入など)
攻撃の侵入を100%防ぐことは困難であるため、侵入を前提として早期に検知し、被害が拡大する前に対処する仕組みが重要になります。従来のアンチウイルスソフトでは検知できない未知の攻撃に対応するため、EDR(Endpoint Detection and Response)の導入が有効です。
EDRは、PCやサーバーなどのエンドポイントにおける操作や挙動を常時監視し、マルウェア感染後の不審な活動を検知・分析します。これにより、攻撃の兆候を早期に捉え、感染端末の隔離などの初動対応を迅速に行うことが可能となり、被害の深刻化を防ぎます。
ただし、EDRを有効に活用するには、検知されたアラートを分析・対応できる専門知識が必要です。自社での対応が難しい場合は、24時間365日体制で監視・分析を代行するSOCやMDRといった専門サービスの利用を検討すべきです。
【復旧】インシデント発生に備えた対応計画(IRP)の策定と訓練
ランサムウェア被害からの迅速な回復には、インシデント発生時の対応手順を定めた「インシデントレスポンス計画(IRP)」を事前に策定しておくことが不可欠です。IRPには、インシデント発生時の指揮命令系統、各担当者の役割、具体的な対応手順、関係各所への報告フローなどを明確に定めます。
- インシデント対応チームの体制と責任者、緊急連絡網
- インシデントの検知から封じ込め、根絶、復旧までの具体的な手順
- 経営層や法務、広報、外部専門家との連携フロー
- 顧客や監督官庁への報告・通知に関するコミュニケーションプラン
- 身代金要求に対する基本方針(原則として支払わないなど)
策定した計画は、机上訓練や実践的な演習を通じて定期的に見直し、実効性を高めていくことが重要です。経営層を巻き込んだ訓練を行うことで、組織全体の危機対応能力を向上させることができます。
策定だけで終わらせない、実効性のあるインシデント対応計画(IRP)の運用ポイント
IRPは、一度策定したら終わりではありません。組織の実態に合わせて常に更新し、「生きた計画」として運用することが実効性を担保する上で重要です。
- 連絡網や体制図を人事異動のたびに最新の状態に更新する。
- システム環境の変更や新たな脅威動向を反映させ、対応手順を定期的に見直す。
- 緊急時に参照しやすいよう、アクションカードやチェックリスト形式に要点をまとめる。
- 訓練や実際のインシデント対応から得られた教訓をフィードバックし、計画を継続的に改善する(PDCAサイクル)。
形式的な文書で終わらせず、現場レベルで活用できる状態を維持することが、有事の際の組織の対応力を左右します。
ランサムウェア対策に関するよくある質問
もしランサムウェアに感染したら、最初に何をすべきですか?
感染が疑われる端末を、直ちにネットワークから物理的に切り離すことが最優先です。LANケーブルを抜き、Wi-Fiをオフにすることで、他の機器への感染拡大を防ぎます。その後、速やかに自社の情報システム部門やセキュリティ担当者に報告し、指示があるまで端末の電源は切らずにそのままの状態で待機してください。自己判断での操作は、証拠を失わせる原因となる可能性があります。
身代金を支払ってもデータが戻らないケースはありますか?
はい、支払ってもデータが完全に戻る保証は全くありません。復号キーが提供されなかったり、提供されてもデータが破損していたりするケースが多数報告されています。また、一度支払うと「支払いに応じる企業」とみなされ、再び攻撃の標的になるリスクが高まります。身代金は犯罪組織の活動資金となるため、警察などの公的機関は支払わないよう強く推奨しています。
バックアップがあればランサムウェア対策は十分でしょうか?
いいえ、バックアップだけでは不十分です。近年のランサムウェアはネットワーク上のバックアップデータも標的にして暗号化や削除を行います。また、データを窃取され「公開する」と脅される二重脅迫には、バックアップからの復旧では対抗できません。バックアップはあくまで復旧の最後の砦であり、侵入を防ぐ予防策や、侵入を早期に検知する仕組みなど、多層的な防御と組み合わせることが不可欠です。
中小企業もランサムウェア攻撃の標的になりますか?
はい、むしろ中小企業こそが格好の標的となっています。大企業に比べてセキュリティ投資が十分でなく、対策が手薄な場合が多いため、攻撃者にとっては侵入しやすいからです。また、大企業への侵入の足掛かりとして、取引先である中小企業を狙うサプライチェーン攻撃も急増しています。攻撃者は無差別に脆弱性を探しているため、企業規模に関わらず全ての組織が標的となり得ます。
身代金を支払うか否かの判断基準と、支払った場合のリスクとは?
原則として、身代金は支払うべきではありません。支払ってもデータが戻る保証はなく、再攻撃のリスクを高め、犯罪を助長することになります。法的・倫理的な問題も伴います。しかし、人命に関わる医療機関などで代替手段が全くなく、事業継続が不可能となるような極めて例外的な状況下では、経営上の究極の判断として支払いが検討されるケースもゼロではありません。その場合でも、必ず警察や弁護士などの専門家と相談し、あらゆるリスクを慎重に評価した上で決定する必要があります。
まとめ:ランサムウェア被害事例から学ぶ、事業継続のための実践的対策
本記事で紹介した国内外の事例が示すように、ランサムウェア攻撃はサプライチェーン全体を巻き込み、事業停止や信頼失墜など、組織の存続を揺るがす壊滅的な被害をもたらします。攻撃手口は二重脅迫やサプライチェーン攻撃など巧妙化・悪質化しており、自社だけでなく取引先を含めたセキュリティレベルの向上が不可欠です。被害を最小化するためには、脆弱性管理やバックアップといった基本的な予防策に加え、侵入を前提としたEDRなどの検知・対応の仕組み、そして実効性のあるインシデント対応計画(IRP)の策定と定期的な訓練が極めて重要となります。これらの事例を対岸の火事と捉えず、自社のセキュリティ体制を客観的に再評価し、経営層が主導して具体的な対策に着手することが、企業の未来を守るための第一歩です。

