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動産執行の手続きと費用、実効性を解説|費用倒れリスクの見極め方

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債権回収の最終手段として「動産執行」を検討しているものの、費用倒れのリスクから実施に踏み切れない経営者や担当者の方もいらっしゃるでしょう。動産執行は、債務者の財産が不明でも申し立てられる有効な手段ですが、事前調査を怠ると差し押さえる財産がなく、費用だけがかかる「執行不能」に終わる可能性も少なくありません。実行の可否を的確に判断するには、手続きの流れや対象財産、実効性を見極めるポイントを正確に理解しておくことが不可欠です。この記事では、動産執行の基本的な知識から、申立ての流れ、費用、そして実務上の注意点までを体系的に解説します。

動産執行とは?

強制執行の一種としての目的

動産執行は、債務者が任意に弁済しない場合に、裁判所の強制執行という手続きを通じて債権を回収する手段の一つです。裁判所の執行官が債務者の自宅や店舗などに直接赴き、現金や貴金属、商品といった動産を差し押さえます。差し押さえた動産は競売などで換金され、その売却代金が債権者への支払いに充てられます。

この手続きの主な目的は債権回収ですが、副次的な効果も期待できます。

動産執行の主な目的と効果
  • 金銭的回収: 差し押さえた財産を換金し、直接的に債権を回収する。
  • 心理的圧力: 執行官が自宅や事業所に立ち入ることで債務者に強いプレッシャーを与え、任意での支払いや交渉再開を促す。

このように、動産執行は単なる財産処分に留まらず、膠着した状況を打開するための強力な交渉カードにもなり得ます。ただし、財産が見つからず空振り(執行不能)に終わるリスクもあるため、実行には費用対効果の見極めが不可欠です。

不動産・債権執行との違い

強制執行には動産執行の他に、不動産執行と債権執行があります。それぞれ対象財産や手続きの進め方が異なり、状況に応じて使い分ける必要があります。

種類 対象財産 手続きの主体 メリット デメリット
動産執行 現金、貴金属、商品在庫など 執行官 債務者の財産が不明でも場所さえ分かれば着手しやすい 高価な財産が見つからず空振りに終わるリスクが高い
不動産執行 土地、建物 裁判所 回収額が大きくなる傾向がある 手続きが複雑で時間がかかり、予納金も高額になる
債権執行 預金、給与、売掛金など 裁判所 対象を特定できれば回収の確実性が高い 事前に勤務先や取引銀行などを特定する必要がある
主な強制執行の種類と特徴

動産執行は、執行官が物理的に現場で財産を確保する点に最大の特徴があります。他の財産情報が乏しい場合でも、債務者の生活圏や事業所が判明していれば申し立てられるという利点があります。

差押えの対象財産

差押えできる動産の具体例

動産執行では、民事執行法上の「動産」にあたる様々な有体物が差押えの対象となります。換金価値があるかどうかが一つの基準です。

差押え対象となる動産の例
  • 現金: 66万円を超える部分(法人の場合は全額)。その場で差し押さえられ、弁済に充てられる。
  • 貴金属・宝飾品: 指輪、ネックレス、高級腕時計、ブランドバッグなど。
  • 家財道具: 大型テレビ、高級オーディオ機器、絵画、骨董品など(生活必需品を除く)。
  • 法人資産: パソコン、コピー機、什器備品、商品在庫、原材料、機械設備など。
  • 有価証券: 小切手、約束手形、株券など。
  • 自動車関連: 未登録の自動車、軽自動車、オートバイなど(登録自動車は別の手続き)。

法律で定められた差押禁止動産

債務者の最低限の生活や事業の継続を保障するため、法律で差押えが禁止されている財産(差押禁止動産)が定められています。特に個人の債務者に対しては保護の範囲が広くなっています。

法律で差押えが禁止されている動産(個人の場合)
  • 生活必需品: 衣服、寝具、家具(整理タンスなど)、台所用品(冷蔵庫、電子レンジなど)、冷暖房器具など。
  • 当面の生活費: 66万円までの現金。
  • 食料・燃料: 1ヶ月間の生活に必要な食料および燃料。
  • 業務に不可欠な物: 農業者や技術者などが業務に使う器具や道具。
  • その他: 実印、仏像・位牌、学習に必要な器具、義手・義足など。

なお、法人が債務者の場合、この差押禁止の範囲は大幅に限定されます。例えば、現金に対する66万円の保護枠はなく、業務用の備品も原則として差押えの対象となります。

手続きの流れと必要書類

申立てから配当までの4ステップ

動産執行の手続きは、申立てから配当まで、主に以下の4つのステップで進行します。

動産執行の手続きの流れ
  1. 申立て: 債権者が管轄の地方裁判所の執行官に対し、動産執行申立書と必要書類を提出し、予納金を納付します。執行官と打ち合わせの上、執行日時を決定します。
  2. 差押え: 執行官が指定日時に執行場所へ赴き、屋内を捜索します。換価価値のある動産を発見した場合、それに封印票を貼るなどして差し押さえます。現金はその場で回収します。
  3. 売却(換価): 差し押さえた動産を、競り売りなどの方法で売却し、金銭に換えます。通常、差押えから1週間~1ヶ月後程度で売却期日が設定されます。
  4. 配当: 売却代金から手続き費用を差し引いた金額が債権者に支払われます。他に配当を要求する債権者がいる場合は、法律に基づき分配(配当)されます。

申立てに必要な書類(債務名義等)

動産執行を申し立てるには、債権の存在と、それを強制的に執行できる権利があることを公的に証明する書類が必要です。

申立てに必要な主な書類
  • 債務名義の正本: 確定判決、和解調書、調停調書、仮執行宣言付支払督促、強制執行認諾文言付公正証書など。
  • 執行文: 債務名義に執行力があることを証明する文書で、裁判所書記官や公証人が付与します。
  • 送達証明書: 債務名義が債務者に送達されたことを証明する書類です。
  • 動産執行申立書: 裁判所所定の書式に必要事項を記入します。
  • 資格証明書(商業登記事項証明書など): 当事者が法人の場合に必要です(発行から3ヶ月以内)。
  • 委任状: 代理人弁護士に依頼する場合に必要です。

動産執行にかかる費用

裁判所への予納金の目安

動産執行を申し立てる際、執行官の活動費用(手数料、交通費など)に充てるため、事前に予納金を裁判所(執行官室)に納付する必要があります。金額は裁判所によって異なりますが、一般的には3万円~5万円程度が目安です。

この予納金はあくまで費用の前払いですので、執行が終了した時点で実費を差し引いた残額が返還されます。逆に、手続きが複雑化して費用が不足した場合は、追加での納付を求められることもあります。

弁護士費用とその他の実費

予納金の他にも、状況に応じて様々な実費が発生する可能性があります。

予納金以外に発生する可能性のある費用
  • 弁護士費用: 手続きを弁護士に依頼する場合の着手金や成功報酬です。着手金は10万円~20万円程度が相場です。
  • 解錠技術者(鍵屋)の費用: 債務者が不在または入室を拒否した場合に、鍵を開けるための費用です(2万円~3万円程度)。原則、当日現金での支払いが必要です。
  • 運搬・保管費用: 差し押さえた動産を運び出し、倉庫などで保管する場合にかかる費用です。
  • 鑑定費用: 差し押さえた骨董品や美術品の価値を評価するために専門家の鑑定が必要な場合の費用です。

これらの実費は、売却代金から優先的に支払われますが、回収額が少なければ債権者の負担(費用倒れ)となるリスクがあります。

実効性と執行不能リスク

動産執行が有効なケース

動産執行は、対象や目的を絞れば非常に効果的な手段となり得ます。特に以下のようなケースでは、その実効性が高まります。

動産執行が有効となりやすいケース
  • 現金商売の店舗や事務所: レジや金庫に売上金が現金で保管されている可能性が高い場合。
  • 高価な在庫や設備を持つ法人: 商品在庫や事業に不可欠な機械設備を差し押さえることで、支払いを促せる場合。
  • 富裕層の個人: 自宅に高級腕時計、貴金属、骨董品などを多数所有していることが明らかな場合。
  • 心理的圧力をかけたい場合: 回収額よりも、執行をきっかけに債務者を交渉の場に着かせたい場合。

執行不能で費用倒れになる場合

動産執行には、現場に行っても差し押さえるべき財産が全く見つからず、手続きが終了してしまう「執行不能」のリスクが伴います。特に個人の一般家庭では、差押禁止財産が多いため執行不能となるケースが少なくありません。

債務者が既に転居していたり、室内がもぬけの殻だったりした場合も同様です。執行不能に終わると、予納金の一部や解錠費用、弁護士費用などは返ってこず、債権者の負担だけが残る「費用倒れ」となってしまいます。

ただし、執行不能後に交付される「不能調書」は、債権回収が困難であることの公的な証明となり、税務上の貸倒損失として処理できる場合があります。

執行当日の実務上の注意点

執行当日は、債権者または代理人が現場に立ち会い、執行官の職務を補助します。スムーズな進行のために、いくつかの点に注意が必要です。

執行当日の注意点
  • 時間厳守と案内: 執行官との待ち合わせ時間に遅れず、現場までスムーズに案内できるように準備します。
  • 解錠技術者の手配: 債務者不在の可能性に備え、事前に執行官と相談の上、鍵屋を手配しておきます。
  • 執行官の指示に従う: 執行官は中立な立場です。債権者が勝手に室内を物色したり、債務者を罵倒したりする行為は許されません。
  • 差押えの補助: 何に価値があるかを執行官に伝えることはできますが、最終的な差押えの判断は執行官に委ねます。
  • 和解交渉への備え: 現場で債務者から支払いの申し出があることも想定し、和解条件などの決済権限を持つ人が立ち会うか、連絡が取れる体制を整えておきます。

費用倒れを防ぐための事前調査と情報収集

費用倒れのリスクを最小限に抑えるには、申立て前の徹底した事前調査が不可欠です。闇雲に申し立てるのではなく、回収の見込みを立てることが重要です。

費用倒れを防ぐための事前調査の例
  • 現地確認: 債務者が実際に居住・営業しているか、電気メーターや郵便受けの状況を確認する。
  • 外観からの観察: 店舗や工場の外から、高価そうな在庫や機械設備がないか確認する。
  • インターネット調査: ホームページやSNSで事業の活動状況や、債務者の生活ぶりから資産のヒントを探す。
  • 過去の情報の洗い出し: 取引記録や会話の中から、債務者の趣味や資産に関する情報を再確認する。
  • 信用調査会社への依頼: 専門の調査会社を利用して資産状況を調査する。

実施すべきかの判断基準

個人の債務者に対する判断

個人の債務者への動産執行は、極めて慎重に判断すべきです。差押禁止財産の範囲が広く、特に一般的な給与所得者などに対しては、費用倒れに終わる可能性が非常に高いためです。

実施を検討できるのは、債務者が富裕層で高価な動産を所有している確証がある場合や、自営業者で自宅に多額の現金を保管している可能性がある場合などに限られます。あるいは、回収そのものよりも、執行による心理的圧力を利用して、他の財産情報を開示させたり、和解交渉を促したりすることを主目的とする戦略的な選択肢として考えるべきでしょう。

法人の債務者に対する判断

法人に対しては、個人よりも積極的に動産執行を検討できます。法人には生活必需品の概念や66万円の現金保護がなく、事務所の備品、商品在庫、機械設備など、事業に関わるほぼ全ての動産が差押えの対象となるからです。

特に、現金商売の店舗であれば売上が多い時間帯を狙う、工場の機械を差し押さえて事業継続に影響を与えるなど、効果的なプレッシャーをかけやすいのが特徴です。ただし、既に事業を停止しているなど営業実態がない場合は空振りに終わるため、現在の営業状況の確認が判断の最大のポイントとなります。

執行不能後の債権管理と次の選択肢

動産執行が執行不能に終わったとしても、そこで全てが終了するわけではありません。次の行動につなげるための選択肢が残されています。

執行不能後の選択肢
  • 税務処理: 執行不能調書を根拠に、回収不能な債権として「貸倒損失」を計上し、法人税などの節税を図る。
  • 債権執行への移行: 執行現場で発見した通帳や郵便物から判明した銀行口座や勤務先に対し、預金差押えや給与差押えを行う。
  • 財産開示手続の利用: 裁判所を通じて債務者本人に財産状況を陳述させる「財産開示手続」や、銀行などに情報提供を命じる「第三者からの情報取得手続」を申し立てる。

動産執行の失敗を、次の有効な一手を打つための情報収集の機会と捉え、粘り強く回収活動を継続することが重要です。

動産執行のよくある質問

債務者が不在だった場合はどうなりますか?

債務者が不在でも、動産執行は実施されます。執行官には、債務者の同意なく住居に立ち入る権限があります。玄関が施錠されている場合は、事前に手配した解錠技術者(鍵屋)が鍵を開け、債権者などの立会人のもとで室内に入り、差押え手続きを進めます。

執行不能の場合、費用は回収できますか?

残念ながら、執行不能に終わった場合、申立てにかかった費用を債務者から回収することはできません。予納金から実費を差し引いた残額は返還されますが、既に使用された手数料や交通費、鍵屋の日当などは債権者の負担となります。これを「費用倒れ」と呼びます。

申立てから現金化までの期間は?

事案によりますが、申立てから現金化までの期間は概ね1ヶ月から2ヶ月程度が目安です。申立て後、数日~2週間で執行日が決まり、差押えが実施されます。現金以外は、差押えから1週間~1ヶ月後を目処に売却期日が設定され、そこで売却されて初めて現金化が完了します。

リース品など第三者の所有物があった場合は?

執行現場にある物が第三者の所有物(リース品など)であっても、外形的に債務者が占有していれば、執行官はそれを差し押さえることが可能です。真の所有者は、後日「第三者異議の訴え」という裁判手続きで差押えの無効を主張できます。ただし実務上は、リース契約書が提示されるなど所有関係が明らかな場合、トラブル回避のために差押えが見送られることが一般的です。

まとめ:動産執行を成功させるための判断基準と注意点

動産執行は、債務者の動産を差し押さえて債権を回収する強制執行手続です。執行官が直接現場に赴くため債務者への心理的圧力が大きく、交渉を有利に進めるきっかけになり得ます。しかし、価値のある財産が見つからなければ、費用だけがかかる「執行不能」に終わるリスクも常に伴います。 実施を判断する上での最大のポイントは、この費用倒れのリスクをいかに低減できるかという点です。個人の債務者は差押禁止財産の範囲が広く、特に慎重な検討が必要であり、法人の場合は現在の営業実態の有無が成功を左右する重要な見極めポイントとなります。 動産執行を検討する際は、まず債務者の居住実態や事業所の営業状況といった事前調査を徹底し、回収の見込みを立てることが不可欠です。本記事で解説した内容は一般的な手続きの流れですが、個別の事案に応じた最適な判断や現場での対応には専門的な知識が求められるため、不安な点があれば弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

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