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準自己破産とは?通常の自己破産との違い、手続きの流れや費用を解説

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代表取締役の失踪や取締役間の深刻な対立により、会社が経営危機に瀕しているにもかかわらず、正規の破産手続きを進められず苦慮されているのではないでしょうか。このような膠着状態は、債権者や従業員への被害を拡大させ、状況を悪化させる一方です。こうした特殊な状況を打開する法的手段として「準自己破産」という制度が存在します。この記事では、準自己破産の定義や要件、通常の自己破産との違い、具体的な手続きの流れから費用、注意点までを専門的かつ実務的な観点から詳しく解説します。

目次

準自己破産とは?通常の自己破産との相違点

準自己破産の定義と会社清算における役割

準自己破産とは、法人の取締役や理事などが個人の立場から申立人となって行う法人の破産手続です。本来、会社の破産は法人自身の意思決定(取締役会の決議など)に基づき、代表者が会社を代表して申し立てる「自己破産」が原則です。しかし、代表者の失踪や取締役間の対立などにより、法人の意思決定機関が機能しない場合があります。このような場合に、取締役や理事が単独でも破産を申し立てられるようにし、会社の清算を可能にする制度が準自己破産であり、自己破産に準ずる手続きとして位置づけられています。

会社が支払不能や債務超過に陥った状態を放置すると、資産の散逸や債権者への損害拡大を招きます。準自己破産は、こうした事態を回避し、迅速な法的整理へ移行させるための安全弁としての役割を果たします。申立ての主体や要件は特殊ですが、会社が清算され消滅するという結果は通常の自己破産と変わりません。

通常の自己破産との決定的な違い(申立権者と意思決定プロセス)

通常の自己破産と準自己破産の最も大きな違いは、破産申立ての主体と、そこに至る法人内部の意思決定プロセスにあります。両者の違いを以下にまとめます。

項目 通常の自己破産 準自己破産
申立人 法人(会社自身) 取締役、理事、清算人などの個人
申立ての代表者 代表取締役など 申立てを行う取締役・理事個人
意思決定プロセス 必要(取締役会決議や取締役全員の同意など) 不要(法人の機関決定を経ずに申立て可能)
必要な証明 会社の意思決定を証明する書類(議事録など) 破産原因の存在を証明する「疎明」
自己破産と準自己破産の比較

このように、通常の自己破産が「法人の総意」に基づく手続きであるのに対し、準自己破産は、法人の総意が形成できない緊急事態において「取締役個人の判断」で手続きを開始できる点に決定的な違いがあります。

申立てに求められる「疎明」とは?破産原因の証明責任

準自己破産の申立てにおいて、申立人は破産手続開始の原因となる事実、すなわち「支払不能」または「債務超過」の状態にあることを「疎明(そめい)」する責任を負います。これは、準自己破産が法人の総意に基づかない特殊な申立てであるため、濫用的な申立てを防ぐための重要な要件です。

「疎明」とは、裁判官に対し「一応確からしい」という心証を抱かせる程度の証明活動を指し、厳密な証拠による「証明」よりも基準は緩やかです。しかし、単なる主張だけでは足りず、客観的な資料に基づいて説明する必要があります。

疎明のために用いられる資料の例
  • 直近の決算書(貸借対照表、損益計算書)
  • 会社の預金通帳の写し
  • 債権者一覧表や資金繰り表
  • 不動産の登記事項証明書や査定書

申立人はこれらの資料を用いて、会社が経済的に破綻していること、そして取締役会決議などを経た通常の自己破産ができない事情を、裁判所に説得的に説明しなければなりません。

準自己破産の申立要件と申立権者

準自己破産を申し立てられる人(申立権者)の範囲

準自己破産を申し立てることができる人(申立権者)は、破産法第19条に定められており、法人の業務執行に関わる役員などに限定されています。代表権の有無は問われず、平取締役でも申立てが可能です。ただし、監査役や株主には申立権は認められていません。

主な法人の種類と申立権者
  • 株式会社、相互会社: 取締役
  • 一般社団法人、一般財団法人: 理事
  • 合名会社、合資会社、合同会社: 業務を執行する社員
  • 解散後の法人: 清算人

これらの申立権者は、債務者である法人に準ずる立場(準債務者)として、個人の立場から破産手続開始の申立てを行います。

申立ての前提となる「破産手続開始の原因」とは

準自己破産を申し立てるには、法人に「破産手続開始の原因」が存在し、それを申立人が疎明する必要があります。法人の破産原因は、以下の2つです。

法人の破産手続開始原因
  • 支払不能: 債務者が支払能力を欠き、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できない客観的な状態。一時的な資金不足とは異なります。
  • 債務超過: 負債の総額が資産の総額を上回っている状態。貸借対照表上で資産よりも負債が多い状態を指します。

法人の場合、このいずれかの状態にあれば破産手続きを開始できます。準自己破産では、これらの事実が存在することを客観的な資料に基づいて裁判所に示す必要があります。

申立権者が単独で申立てを行う際の法的根拠

取締役などが単独で準自己破産を申し立てる法的根拠は、破産法第19条第1項です。この規定により、法人の理事や取締役などが、法人としての機関決定を経ることなく、個人の判断で破産手続開始の申立てを行う権限が認められています。

この規定は、会社の経営が破綻しているにもかかわらず、取締役間の対立や代表者の不在によって必要な意思決定ができず、会社が「塩漬け」状態になるのを防ぐ目的で設けられました。これにより、緊急時において債権者保護や社会的な混乱の防止を図り、迅速な清算手続きへの移行を可能にしています。

準自己破産が選択される具体的なケース

代表取締役の失踪や連絡不能により取締役会が機能しない場合

準自己破産が選択される典型的なケースとして、代表取締役が経営難から失踪したり、死亡・病気などで連絡不能になったりする状況が挙げられます。代表者が不在では、破産申立てに必要な取締役会を開催し、決議することができません。このような状況で会社を放置すれば、債権者や従業員への被害が拡大してしまいます。残された取締役が準自己破産を申し立てることで、代表者不在のままでも法的に会社を清算する手続きを進めることができます。

一部の取締役が破産申立てに反対し、合意形成ができない場合

会社の財務状況が客観的に破綻していても、一部の取締役が破産に強く反対し、取締役会で申立ての決議ができない場合があります。「まだ再建できるはずだ」という希望的観測や、経営責任を問われることへの懸念から反対されるケースです。このような内部対立によって会社としての自己破産申立てが不可能になると、問題は先送りされ、状況は悪化の一途をたどります。この膠着状態を打開するため、危機感を抱いた取締役が単独で準自己破産を申し立て、法的手続きを強制的に開始させることが有効な手段となります。

会社財産の散逸を防ぐため、緊急の保全措置が必要な場合

経営破綻が明らかになると、特定の債権者による資産の持ち出しや、経営者自身による財産隠し(散逸)のリスクが急激に高まります。取締役会での決議を待っている間に会社の資産が流出してしまえば、全債権者への公平な配当が困難になります。このような緊急事態において、取締役が迅速に準自己破産を申し立てることで、裁判所による保全処分の発令を促すことができます。保全処分が出されれば、資産の処分が禁止され、その後の破産管財人による適正な管理・換価へとつなげることが可能となり、被害の拡大を最小限に抑えられます。

準自己破産申立ての手続きと全体の流れ

ステップ1:弁護士への相談と受任通知の発送

まず、倒産実務に精通した弁護士に相談することが不可欠です。準自己破産は、疎明活動など専門的な対応が求められるためです。弁護士への依頼後、通常は各債権者へ「受任通知」を発送し、会社への直接の取り立てを停止させます。これにより、申立て準備に集中できる環境を確保します。ただし、事案によっては資産保全を優先し、債権者に知られずに準備を進める「密行型」が選択されることもあります。

ステップ2:裁判所への破産手続開始の申立て

弁護士が申立書類を作成し、管轄の地方裁判所に提出します。申立書には、申立人である取締役個人の情報、債務者である法人の情報、破産原因となる事実などを記載します。決算書や債権者一覧表などの基本的な書類に加え、準自己破産特有の疎明資料や、取締役会決議を経ずに申し立てる事情を説明した報告書などを添付します。同時に、裁判手続費用である予納金を納付する必要があります。

ステップ3:破産審尋(裁判官との面談)の実施

申立てが受理されると、裁判官が申立人から直接事情を聴取する「破産審尋」が行われます。申立人である取締役は、代理人弁護士とともに出頭し、裁判官からの質問に答えます。審尋では、会社の財産・負債状況、破産に至った経緯、そして準自己破産を選択した理由などが問われます。ここで破産原因の存在が認められるかどうかが、手続きを進める上で重要なポイントとなります。

ステップ4:破産手続開始決定と破産管財人の選任

審尋の結果、裁判所が要件を満たしていると判断すれば、「破産手続開始決定」が出されます。これと同時に、中立な立場の弁護士が「破産管財人」として選任されます。この決定により、会社の財産(破産財団)の管理処分権はすべて破産管財人に専属することになり、申立人を含む取締役は経営から完全に離れます。この事実は官報に公告され、債権者に通知されます。

ステップ5:破産管財人による財産管理・換価と債権者への配当

破産管財人は、会社の資産(不動産、売掛金、在庫など)を調査・管理し、売却などを通じて現金化(換価)します。申立人である取締役は、管財人の業務に協力し、会社の状況について説明する義務を負います。資産の換価が完了し、税金や従業員給与などの優先的な支払いを終えた後、残った金銭があれば、債権額に応じて各債権者へ公平に配当されます。

ステップ6:債権者集会の開催と手続きの終結

破産手続開始決定から約3ヶ月後を目安に、裁判所で第1回の「債権者集会」が開催されます。この集会では、破産管財人が債権者に対し、破産に至った経緯や財産の状況、配当の見込みなどを報告します。申立人も原則として出席が求められます。すべての財産の換価と配当が完了すると、裁判所は「破産手続終結の決定」を下します。配当できる財産が形成できなかった場合は「破産手続廃止の決定」となります。この決定をもって手続きは終了し、会社の法人格は消滅します。

申立てに必要な費用と準備書類

裁判所に納める予納金の目安と内訳

裁判所に納める予納金は、破産管財人の報酬となる「引継予納金」と、官報公告費などの実費から構成されます。準自己破産は、取締役間の対立などで管財業務が複雑化しやすいため、通常の自己破産(少額管財事件で20万円〜)よりも高額な「特定管財(通常管財)」として扱われることが一般的です。その場合、予納金は最低でも70万円以上、負債総額に応じて数百万円に上ることもあります。この費用は、原則として申立人である取締役が立て替える必要があります。

弁護士費用の相場と算出方法

準自己破産の手続きを弁護士に依頼する場合、その費用は通常の法人破産より高額になる傾向があります。疎明資料の収集・作成や、複雑な社内事情への対応など、弁護士の業務負担が大きくなるためです。弁護士費用は、負債総額や債権者数、事案の複雑性によって変動しますが、着手金として50万円から100万円以上が一つの目安となります。この費用も、予納金と同様に申立人が個人で準備する必要があります。

申立て時に提出が求められる主要な書類

準自己破産の申立てには、会社の状況を明らかにするための多様な書類が必要です。準備すべき書類は多岐にわたりますが、主に以下のようなものが挙げられます。

準自己破産申立ての主要な提出書類
  • 破産手続開始申立書
  • 会社の登記事項証明書、定款、株主名簿
  • 直近3期分程度の決算報告書(貸借対照表、損益計算書)
  • 資産に関する資料(不動産登記簿、預金通帳写し、車検証、保険証券など)
  • 負債に関する資料(債権者一覧表、金銭消費貸借契約書など)
  • 従業員に関する資料(従業員名簿、賃金台帳)
  • 破産原因の存在を明らかにする疎明資料
  • 準自己破産を申し立てるに至った経緯をまとめた報告書

準自己破産のメリット・デメリットと注意点

メリット:取締役会決議なしで迅速に会社を清算できる

準自己破産の最大のメリットは、取締役会の決議など法人の正式な意思決定がなくても、取締役個人の判断で迅速に破産手続きを開始できる点です。これにより、経営破綻状態の放置による資産の散逸や債務の拡大を防ぎ、債権者への損害を最小限に抑えることが可能になります。膠着状態を打破し、会社を法的に清算する唯一の手段となり得ます。

デメリット:申立人が予納金等を立て替える必要がある

申立てに必要な予納金や弁護士費用を、原則として申立人である取締役個人が立て替えなければならない点が大きなデメリットです。これらの費用は、破産手続きの中で会社の資産から優先的に回収(財団債権)できる可能性がありますが、会社に回収可能な資産がなければ、申立人の自己負担となってしまいます。

デメリット:破産原因の疎明が認められないリスク

準自己破産特有の要件である「破産原因の疎明」が、裁判所に認められないリスクがあります。特に、他の取締役の非協力により会社の経理資料などを十分に入手できない場合、客観的な証拠が不足し、疎明が不十分と判断される可能性があります。その場合、申立ては却下され、費やした時間と費用が無駄になる恐れがあります。

注意点:他の取締役から責任追及を受ける可能性

他の取締役の意に反して破産を申し立てるため、他の取締役や株主から損害賠償請求などの責任を追及される可能性があります。「まだ会社は再建できたはずだ」と主張され、善管注意義務違反などを問われるリスクです。また、申立ての前後で、他の取締役から妨害を受ける可能性も想定しておく必要があります。

注意点:疎明資料の確保と、他の取締役への事前通知の要否

申立てを成功させるためには、会社の財務状況を示す客観的な資料を、可能な限り事前に確保しておくことが極めて重要です。また、他の取締役への事前通知については、慎重な判断が求められます。協力を得られそうな場合は通知も考えられますが、資産隠しや妨害を誘発する恐れがある場合は、通知せずに「密行型」で申立てを進めるべきケースもあります。

準自己破産に関するよくある質問

準自己破産で特別代理人が必要になるのはどのようなケースですか?

会社の代表取締役が死亡、行方不明、または病気などで長期間不在となり、法的に会社を代表する者が誰もいない場合に「特別代理人」の選任が必要となります。破産手続きでは、債務者である法人側の代表者として裁判所の書類を受領したり、審尋に応答したりする役割の人物が必要です。この役割を担う者がいない場合に、申立人である取締役が破産申立てと同時に裁判所へ選任を申し立てます。

申立人が破産手続きの予納金を支払えない場合はどうなりますか?

申立人が裁判所の定める期限までに予納金を納付できない場合、破産手続開始の申立ては却下されます。予納金の納付は手続き開始の必須要件であるため、これがなければ手続きは一切進みません。費用の準備が困難な場合は、申立て自体を断念せざるを得ないこともあります。

申立てから破産手続開始決定まで、どのくらいの期間がかかりますか?

事案の複雑さにもよりますが、通常の自己破産に比べて時間がかかる傾向にあります。疎明資料が十分に揃っており、裁判所の審査がスムーズに進めば、申立てから数週間~1ヶ月程度で開始決定が出ることもあります。しかし、疎明に慎重な判断を要する場合や、他の取締役からの反論が予想される場合などは、数ヶ月を要することもあります。

準自己破産の根拠となる法律の条文は何条ですか?

準自己破産の直接的な法的根拠は破産法第19条です。同条第1項で株式会社の取締役などが申立権者であることが定められ、同条第3項で、これらの者が単独で申し立てる場合には「破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない」と規定されています。

申立人個人が会社に貸付金(役員貸付金)を持っている場合、その債権はどうなりますか?

申立人である取締役が会社に対して有する貸付金(役員貸付金)は、他の一般債権者と同じ「破産債権」として扱われます。したがって、会社の資産から税金や労働債権などが優先的に支払われ、なお残額がある場合に、他の一般債権者と債権額に応じて按分された配当を受けることになります。多くの場合、配当率は低く、貸付金の全額が回収できる可能性は極めて低いのが実情です。

まとめ:準自己破産は会社の膠着状態を打開する最終手段

本記事で解説した通り、準自己破産は、代表者の失踪や取締役会の機能不全といった異常事態において、取締役などが単独で申し立てられる破産手続きです。法人の意思決定を経ずに迅速な法的整理を開始できる点が最大のメリットですが、申立人が予納金等の費用を立て替える必要があり、破産原因の「疎明」という特有のハードルが存在します。また、他の取締役から責任を追及されるリスクも考慮しなければなりません。この手続きを検討する際は、疎明資料の事前確保が成功の鍵を握ります。複雑な判断と実務を伴うため、必ず倒産分野に精通した弁護士に相談し、慎重に準備を進めることが不可欠です。

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