法人の準自己破産とは?取締役会の決議なしで申立てる手続きと要件
会社の経営が行き詰まり破産を検討すべき状況でも、代表取締役の不在や取締役間の対立により、正規の手続きである自己破産ができない場合があります。このような膠着状態を打開する手段が「準自己破産」です。この記事では、一部の役員が単独で申し立てできる準自己破産の要件、手続きの流れ、必要書類、そしてメリット・デメリットまでを実務的に解説します。
法人の準自己破産とは?通常の自己破産との違い
取締役会の決議を必要としない破産申立て手続き
法人が破産する場合、通常は法人自身が申立人となる「自己破産」を選択します。この手続きには、原則として取締役会の決議、または取締役の過半数の同意が必要です。
しかし、経営陣の意見が対立して決議ができない、代表取締役の協力が得られないといった理由で、法人としての意思決定が困難な場合があります。このような状況で、一部の取締役などが単独の判断で申し立てできるのが「準自己破産」です。
準自己破産は、法人の正規の意思決定プロセスを経ずに、役員個人の資格に基づいて行う破産申立てです。経営が客観的に破綻しているにもかかわらず、一部の反対によって清算が進まないといったデッドロック状態を解消し、債権者や従業員への被害拡大を防ぐことを目的としています。
通常の自己破産との主な相違点(申立権者・疎明責任)
通常の自己破産と準自己破産は、主に「誰が申し立てるか」と「何をどこまで説明する必要があるか」という点で異なります。
| 比較項目 | 通常の自己破産 | 準自己破産 |
|---|---|---|
| 申立人 | 法人自身 | 取締役、理事、清算人など(個人の資格) |
| 破産原因の立証責任 | 原則不要(自ら申し立てるため) | 疎明(そめい)責任がある |
「疎明」とは、裁判官に「一応確からしい」という推測を抱かせる程度の証拠を示すことです。裁判官に「間違いない」と確信させる「証明」よりも、立証の程度は緩やかです。
準自己破産で疎明責任が課されるのは、一部の役員による濫用的な申立てを防ぐためです。法人の正式な意思決定を経ない例外的な手続きであるため、裁判所は破産の必要性を慎重に判断します。そのため、申立人は自己破産の場合よりも準備に負担がかかります。
準自己破産の申立てができる人(申立権者)と要件
申立権を持つのは取締役・監査役・清算人など
準自己破産の申立権を持つ人(申立権者)は、破産法第19条で定められています。
- 株式会社・相互会社:各取締役、各監査役
- 一般社団法人・一般財団法人:各理事、各監事
- 合名会社・合資会社・合同会社:業務を執行する各社員
- 法人が解散した場合:各清算人
これらの役員は、取締役会などの決議なしに、単独で申し立てが可能です。ただし、これはあくまで法人についての破産を申し立てるものであり、申立人自身が破産するわけではありません。しかし、申立人が法人の債務を個人で連帯保証している場合、法人の破産に伴い保証人としての返済義務が生じるため、別途ご自身の自己破産などを検討する必要があります。
要件となる「破産手続開始の原因となる事実の疎明」とは
準自己破産を申し立てるには、「破産手続開始の原因となる事実」を疎明する必要があります。これは、法人が経済的に破綻していることを、客観的な資料を用いて裁判所に説明することです。主な原因は以下の2つです。
- 支払不能:財産や信用が不足し、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に支払えない状態。一時的な資金不足は含みません。
- 債務超過:法人の負債総額が資産総額を上回っている状態。すべての財産を換金しても、債務を完済できない状態です。
これらの事実を疎明するため、申立人は直近の決算書、資産目録、預金通帳の写しといった資料を収集し、提出しなければなりません。他の役員の協力が得られない中でこれらの資料を揃えるのは困難な場合もありますが、裁判所が疎明不十分と判断すれば申立ては却下されるため、弁護士など専門家の支援を得て、確実な準備を進めることが重要です。
準自己破産が選択される具体的なケース
代表取締役の行方不明や協力が得られない場合
代表取締役が病気で意思表示ができない、あるいは行方不明になった場合、会社の意思決定は事実上停止します。代表者が管理する会社の実印や銀行口座が動かせなくなり、通常の自己破産申立ては困難です。
このような状況で会社を放置すると、債権者からの督促が続き、会社の資産が散逸してしまうおそれがあります。準自己破産は、残された取締役が自らの資格で申し立てることで、代表者の関与なしに法的な清算手続きを開始できる有効な手段です。これにより、会社の財産を保全し、債権者へ公平に分配する道を開くことができます。
取締役間で意見が対立し、破産の決議ができない場合
会社の経営が完全に行き詰まっているにもかかわらず、一部の取締役が感情的な理由や個人的な利害から破産に強く反対し、取締役会で自己破産の決議ができないケースがあります。
このようなデッドロック状態が続くと、税金や社会保険料の滞納額が膨らみ、従業員への給与未払いも発生するなど、関係者への被害が拡大します。準自己破産は、多数決の壁を越えて法的な清算手続きへ移行させるための最後の手段です。会社の状況を憂慮する取締役がこの手続きを選択することで、不利益の拡大を防ぎます。
債務超過や支払不能など破産原因が明らかな場合
財務状況が客観的に見て債務超過であり、事業の継続による再建の見込みが全くない場合、速やかに破産を申し立てることは、取締役が負う善管注意義務(善良な管理者として会社を経営する義務)を果たすことにも繋がります。
破産原因が明白であるにもかかわらず、不合理な理由で経営を続ければ、さらに負債を増大させることになりかねません。これは後に、他の役員や債権者から任務懈怠として損害賠償を請求されるリスクを伴います。客観的な証拠が揃っていれば裁判所への疎明も比較的スムーズに進むため、準自己破産は迅速な経営判断として活用されることがあります。
申立て前に試みるべき他の取締役との交渉・調整
準自己破産は法的に認められた権利ですが、最終手段と位置づけるべきです。申立ての前に、可能な限り他の取締役と交渉し、合意形成を試みることが望ましいでしょう。
- 臨時取締役会を招集し、破産申立てを正式に提案する。
- 取締役会で破産が否決された事実を議事録に残す。
- 破産を先延ばしにすることの法的リスク(損害賠償責任など)を具体的に説明する。
- 弁護士など第三者を交えて協議の場を設け、客観的な説得を試みる。
こうした交渉の記録は、裁判所に対して「やむを得ず準自己破産を申し立てた」という経緯を説明する際の有力な資料にもなります。交渉の結果、同意が得られれば、より負担の少ない通常の自己破産手続きに切り替えることも可能です。
準自己破産申立ての手続きの流れと必要書類
弁護士への相談から申立て準備までのステップ
準自己破産の手続きは複雑なため、まず倒産実務に詳しい弁護士に相談することから始めます。準備の基本的な流れは以下の通りです。
- 弁護士への相談:法人の財務状況などを伝え、準自己破産の要件を満たすか、見通しについて助言を受けます。
- 弁護士による受任通知の発送:正式に依頼すると、弁護士が各債権者へ受任通知を送付します。これにより、債権者からの直接の取立ては原則として停止します。
- 疎明資料の収集・作成:決算書、債権者一覧表、財産目録など、申立てに必要な書類を集め、作成します。申立人となる役員が、自ら入手できる範囲で資料を揃えることになります。
裁判所への申立てから破産手続開始決定までの流れ
申立ての準備が整うと、裁判所での手続きが始まります。
- 裁判所への破産手続開始申立て:管轄の地方裁判所に申立書と添付書類を提出します。
- 裁判官による審尋:申立人が裁判官と面談し、破産原因の有無や申立てに至った経緯について説明します。準自己破産では、この審尋で疎明が十分かどうかが特に慎重に判断されます。
- 予納金の納付:裁判所が定める予納金を納付します。
- 破産手続開始決定・破産管財人の選任:申立てが相当と認められると、裁判所は破産手続開始決定を出し、同時に破産管財人(弁護士)を選任します。これ以降、法人の財産の管理・処分権はすべて破産管財人に移ります。
申立て時に裁判所へ提出する主な書類一覧
準自己破産の申立てでは、通常の自己破産で必要な書類に加え、特有の事情を説明する書類も求められます。
- 破産手続開始申立書
- 登記事項証明書(法人のもの)
- 決算報告書(直近2〜3期分)
- 債権者一覧表
- 財産目録
- 従業員名簿
- 破産原因(支払不能や債務超過)の存在を疎明する上申書
- 他の役員の協力が得られない経緯などを説明する報告書
これらの書類に不備や虚偽があると申立てが認められない可能性があるため、弁護士の助言のもと、正確に作成することが不可欠です。
疎明資料の収集が困難な場合の対処法
他の役員が協力しない、あるいは妨害することで、決算書などの重要書類の入手が困難になることがあります。その場合は、代替資料で疎明を試みます。
- 税務署に提出した確定申告書の控え
- 銀行口座の取引履歴
- 主要な取引先から取り付けた残高確認書
- 資料収集が妨害されている状況を説明する陳述書
資料が完璧に揃わなくても、複数の間接的な証拠を組み合わせることで、破産原因の存在を裁判官に推認させられる可能性があります。弁護士と連携し、粘り強く証拠を積み上げていくことが重要です。
準自己破産申立てにかかる費用とその負担者
裁判所に納める予納金の目安と内訳
予納金は、破産管財人の報酬や手続きの運営実費に充てるため、申立て時に裁判所へ納付する費用です。金額は法人の負債総額や事案の複雑さによって変動します。
弁護士が代理人となる一般的な法人破産では、手続きを簡素化する少額管財という運用が適用され、予納金がおおむね20万円程度になることがあります。しかし、準自己破産は役員間の対立があるなど複雑な事案と見なされやすく、通常の管財事件として扱われることが多く、その場合、最低でも50万〜70万円以上の予納金が必要になるケースも少なくありません。予納金の具体的な金額は、裁判所や事案の複雑さによって異なります。
弁護士費用の相場と依頼内容
弁護士に依頼する場合、予納金とは別に弁護士費用がかかります。法人破産の着手金は、負債額や債権者数にもよりますが、おおむね50万円〜100万円以上が一つの目安です。
- 法律相談、手続き全般に関する助言
- 債権者への受任通知の発送と窓口対応
- 疎明資料の収集支援と申立書類の作成・提出
- 裁判所での審尋への同席
- 破産管財人との打ち合わせへの同席や調整
準自己破産は、通常の自己破産に比べて疎明活動などで弁護士の作業量が増えるため、費用が高くなる傾向があります。
原則として申立人が費用を立て替える必要がある点
通常の自己破産では、法人の資産から予納金や弁護士費用を支出できます。しかし、準自己破産では、法人の資産を申立人が自由に動かせないことが多いため、申立人となる役員が個人資産からこれらの費用を立て替える必要があります。
立て替えた費用は、破産手続きの中で財団債権として扱われ、他の一般債権よりも優先的に返還を受けられます。ただし、これは法人に資産が残っており、破産管財人がそれを換価できた場合に限られます。換価すべき資産がなければ、立て替えた費用は回収できず、申立人の自己負担となるリスクがあります。
準自己破産を選択するメリットとデメリット
メリット:取締役会の同意なしで会社の清算手続きを開始できる
準自己破産の最大のメリットは、経営陣の意思決定が麻痺した状態でも、法的な清算手続きを強制的に開始できる点にあります。
- 経営陣の合意形成がなくても、会社の法的清算を開始できる。
- 債権者からの個別の取立てや差押えを停止させ、混乱を収束できる。
- 会社の財産を法的な管理下で保全し、全債権者への公平な分配を目指せる。
- 破綻状態の放置による被害拡大を防ぎ、取締役としての社会的責任を果たすことができる。
デメリット:申立人の費用負担と疎明責任が重い
準自己破産は、申立人となる役員個人に大きな負担がかかるというデメリットがあります。
- 予納金や弁護士費用を個人資産で立て替える必要がある。
- 会社に資産がなければ、立て替えた費用が回収できないリスクがある。
- 会社の協力なしに破産原因を疎明する必要があり、資料収集の労力が大きい。
- 他の取締役との対立が決定的になり、人間関係が悪化する可能性がある。
これらの重い負担とリスクを考慮した上で、それでもなお法人の清算が不可欠だと判断した場合に選択される、極めて重い決断を伴う手続きです。
法人の準自己破産に関するよくある質問
申立てをした取締役に個人的なリスクはありますか?
準自己破産を申し立てたこと自体で、取締役個人が法人の債務を負うことはありません。法人と個人は別人格だからです。
ただし、例外が2つあります。1つは、取締役が法人の借入れについて個人で連帯保証人になっている場合です。この保証債務は法人が破産しても消えないため、保証人として請求を受けます。もう1つは、取締役としての任務懈怠(義務違反)によって法人に損害を与えた場合で、破産管財人から損害賠償を請求される可能性があります。
他の取締役から準自己破産申立てを阻止することはできますか?
申立人に申立権があり、破産原因の疎明がなされている場合、他の取締役が申立てを法的に阻止することは極めて困難です。裁判所は、役員間の対立よりも、法人が客観的に破綻しているかどうかを重視して判断するためです。
反対派の役員ができることとしては、裁判所の審尋などの場で「破産原因は存在しない」あるいは「申立ては嫌がらせ目的である」といった反論を行うことです。会社の資産が十分にあることなどを証明できれば、申立てが却下される可能性はあります。
会社の資産が全くない場合でも準自己破産は可能ですか?
はい、可能です。破産手続きの目的は、資産を分配することだけでなく、債務を整理して法人格を消滅させることにもあります。
ただし、資産がない場合でも、裁判所に納める予納金は免除されません。したがって、申立人がこの費用を個人で負担できることが、手続きを進めるための実質的な条件となります。予納金を納付できれば、破産管財人が資産がないことを確認した上で手続きは終了(破産廃止)し、法人は消滅します。
まとめ:準自己破産は最終手段。まずは弁護士に相談を
準自己破産は、代表取締役の不在や取締役間の対立によって会社が機能不全に陥った際、一部の役員が単独で破産を申し立てできる法的な手続きです。取締役会の決議が不要な一方で、申立人には破産原因を客観的な資料で疎明する重い責任が課されます。また、予納金や弁護士費用を個人で立て替える必要があり、会社資産がなければ回収できないという金銭的リスクも伴います。まずは他の取締役との交渉を試みるべきですが、それが困難な場合は、倒産実務に詳しい弁護士に速やかに相談し、ご自身の状況で申立てが可能か、リスクに見合うかを慎重に判断することが重要です。

