法務

支払督促の異議申立てで訴訟移行に。債権者がすべき対応と手続き

経営リスクナビ編集部

支払督促に相手方から異議が出され、通常訴訟に移行することになり、今後の対応にお困りではないでしょうか。簡易な手続きで終わるはずが、訴訟となると費用や期間、必要な準備も大きく異なり、対応を誤ると債権回収が困難になる恐れがあります。この記事では、通常訴訟へ移行した後の手続きの流れ、債権者が準備すべきこと、費用や期間の目安を具体的に解説します。

支払督促に異議が出ると何が起きるか

督促手続は終了し通常訴訟へ自動移行

支払督促に対して債務者から適法な督促異議が申し立てられると、支払督促はその効力を失います。法的には、支払督促の申立て時にさかのぼって訴えが提起されたものと見なされ、手続きは自動的に通常の民事訴訟へと移行します。

これにより、手続きの性質が大きく変化します。債権者は、改めて訴訟を遂行するための準備が必要になります。

支払督促から通常訴訟への主な変化
  • 審理の形式: 書類審査のみの簡易な手続きから、公開法廷での口頭弁論へ変わる。
  • 立証活動: 債権者は、自らの主張を裏付ける証拠を提出し、法的に証明する必要が生じる。
  • 所要時間: 短期間で完結する督促手続きと異なり、判決までには長期を要する場合が多い。

訴訟の管轄裁判所はどこになるか

通常訴訟へ移行した場合、裁判は支払督促を申し立てた簡易裁判所、またはその所在地を管轄する地方裁判所で行われます。支払督促は債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てるため、債権者は相手方の所在地にある遠方の裁判所へ出向く必要がある場合があります。

請求額(訴額)によって、審理が行われる裁判所が異なります。

請求額(訴額) 管轄裁判所
140万円以下 支払督促を発付した簡易裁判所
140万円を超える 簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所
請求額と管轄裁判所

通常訴訟への移行手続きと流れ

裁判所からの訴訟移行通知の受領

債務者から督促異議が申し立てられると、裁判所は債権者に対し「訴訟移行通知書」を送付します。この通知書には、異議が出された事実と、今後の手続きに関する指示が記載されています。債権者はこの通知をもって、事件が正式に訴訟段階へ入ったことを把握します。通知書に記載された期限内に対応しないと、訴えが却下される恐れがあるため、内容は速やかに確認しなくてはなりません。

追加手数料(印紙)の納付

通常訴訟へ移行する際、債権者は追加の裁判手数料を収入印紙で納付する必要があります。支払督促の申立時に納めた手数料は、通常訴訟の半額です。そのため、訴訟移行に伴い、差額である残りの半額分を追加で納付します。また、訴訟で必要となる郵便切手代(予納郵券)が不足している場合も、裁判所の指示に従い追加で納める必要があります。

第1回口頭弁論期日の指定と呼出状

追加手数料の納付が確認されると、裁判所は第1回口頭弁論期日を決定し、債権者と債務者の双方に「期日呼出状」を送付します。呼出状には、裁判が開かれる日時と法廷の場所が明記されています。期日は、通知からおおむね1か月から1か月半後に設定されるのが一般的です。債権者はこの期日までに、主張をまとめた書面(準備書面)や証拠書類を提出するなど、本格的な訴訟準備を進めることになります。

訴訟移行後に債権者がすべき準備

請求権の主張を改めて整理する

通常訴訟では、請求権の存在やその内容について、法的な要件を満たす形で具体的に主張し直す必要があります。支払督促の申立てのような簡易な記載ではなく、契約日、当事者、契約内容、債務不履行の事実などを時系列に沿って論理的に説明する書面を作成します。相手方からの反論を想定し、請求の根拠となる事実関係を明確に整理することが、裁判官に請求の正当性を理解させる上で不可欠です。

主張を裏付ける証拠を収集・準備する

民事訴訟では、主張する事実が真実であることを証明する責任(立証責任)は、原則として主張する側にあります。そのため、債権者は自らの主張を裏付ける客観的な証拠を収集し、裁判所に提出しなければなりません。

証拠が不十分な場合、たとえ事実であっても裁判所に認めてもらえず、敗訴するリスクがあります。

主張を裏付ける証拠書類の例
  • 契約書、発注書、納品書、請求書、領収書
  • 取引に関するメールやチャットの履歴
  • 交渉内容を記録した議事録や録音データ
  • 経緯を記録した業務日報や内部資料

弁護士に依頼するかどうかの判断

訴訟対応には、法律の専門知識と多くの時間が必要です。企業の担当者が自ら対応する「本人訴訟」も可能ですが、書面作成や平日の期日出廷は通常業務の大きな負担となります。特に、相手方が弁護士を立ててきた場合、法的主張の構成や手続き面で不利になる可能性が高まります。請求額の大きさや事案の複雑さを考慮し、自社での対応が困難と判断した場合は、速やかに弁護士への依頼を検討することが重要です。

債務者の異議申立ての意図を分析する

訴訟準備と並行して、債務者がなぜ異議を申し立てたのか、その意図を分析することも戦略上重要です。意図を見極めることで、訴訟で徹底的に争うべきか、あるいは和解による早期解決を目指すべきかの方向性を判断できます。

考えられる異議申し立ての意図
  • 請求内容への不満: 商品の瑕疵やサービスの不備など、請求内容自体に正当な不満がある。
  • 時間稼ぎ: 資金繰りが悪化しており、支払いを先延ばしにする目的で異議を申し立てた。
  • 交渉の希望: 債務は認めているが、一括ではなく分割での支払いを希望している。

通常訴訟の費用と期間の目安

追加で納付する印紙代の計算方法

追加で納める印紙代は、請求額である訴額に応じて決まります。計算式は「通常訴訟の印紙代 - 支払督促申立時に納付した印紙代(通常訴訟の半額)」となります。例えば、訴額100万円の場合、通常訴訟の印紙代は1万円、支払督促の印紙代は5千円なので、追加納付額は5千円です。正確な金額は、裁判所のウェブサイトにある手数料早見表で確認できます。

弁護士に依頼する場合の費用相場

弁護士費用は、主に「着手金」と「報酬金」で構成されます。法律事務所によって料金体系は異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。請求額が少額の場合、弁護士費用が回収額を上回る「費用倒れ」のリスクもあるため、依頼前に必ず見積もりを確認しましょう。

費用項目 内容 目安(税別)
着手金 事件を依頼する際に支払う費用。結果にかかわらず返金されない。 請求額の5%〜10%程度(最低着手金が設定されていることが多い)
報酬金 回収に成功した場合など、成果に応じて支払う費用。 経済的利益(回収額)の10%〜20%程度
弁護士費用の一般的な構成と目安

判決までにかかる期間の見通し

通常訴訟は、督促手続きのように短期間では終わりません。争点が少ない事案でも、第一審判決までには半年程度かかることが一般的です。当事者の主張が複雑に対立する事案では、1年以上を要することも珍しくありません。さらに、判決に不服がある当事者が控訴すれば、審理期間はさらに数か月以上延びることになります。

訴訟を回避するための選択肢

訴訟移行後の和解交渉の進め方

訴訟が長引くことによる費用や時間の負担を避けるため、手続きの途中で和解による解決を目指すことは有効な手段です。裁判官から和解を勧められることも多くあります。和解交渉に臨む際は、遅延損害金のカットや分割払いの受け入れなど、自社が譲歩できる条件の最低ラインをあらかじめ決めておくことが重要です。判決によるリスクと回収の確実性を比較検討し、柔軟に対応を判断します。

支払督促の申立て取下げの判断と手続き

訴訟を維持するコストが回収見込み額を上回る「費用倒れ」が予想される場合、申立て自体を取り下げるという選択肢もあります。特に、請求額が少額で、弁護士費用や出廷コストの負担が大きい場合に検討されます。手続きは、管轄裁判所に「取下書」を提出するだけで完了します。ただし、取り下げるとそれまでにかかった印紙代などは返還されず、法的な回収を断念することになるため、慎重な判断が必要です。

訴訟継続の判断材料となる債務者の支払い能力(与信状況)

たとえ勝訴判決を得ても、債務者に支払い能力や差し押さえるべき資産がなければ、債権を実際に回収することはできません。そのため、訴訟を継続するかどうかの判断には、債務者の支払い能力(与信状況)の調査が不可欠です。事業の継続状況、不動産の有無、預金口座などを調査し、強制執行をしても回収が見込めないと判断される場合は、無駄なコストを避けるために訴訟継続を見送る決断も必要になります。

よくある質問

異議申立書に理由がなくても訴訟になりますか?

はい、なります。督促異議の申立ては、異議があるという意思表示だけで法的に有効です。申立書に具体的な理由が記載されていなくても、裁判所は適法な申し立てとして受理し、手続きは自動的に通常訴訟へ移行します。債権者は、相手の主張内容が不明な段階から訴訟の準備を進める必要があります。

弁護士に依頼せず自分で対応できますか?

法律上、弁護士に依頼せず企業の担当者が訴訟対応を行う本人訴訟は可能です。しかし、法的な主張を組み立てた書面の作成や、証拠の適切な提出、期日への出廷など、専門的な知識と多くの労力が必要です。相手方が弁護士を立ててきた場合には、手続き上、著しく不利な状況に陥るリスクが高いため、専門家である弁護士に依頼することを強くお勧めします。

勝訴すれば相手に弁護士費用を請求できますか?

原則として請求できません。日本の民事訴訟では、弁護士費用は「各自負担」が原則です。そのため、売掛金請求などで勝訴したとしても、自社が支払った弁護士費用を判決によって相手方に負担させることは、通常は認められません。ただし、不法行為に基づく損害賠償請求など、一部の例外的なケースでは請求が認められることもあります。

相手に異議申立ての取下げを依頼できますか?

はい、可能です。訴訟への移行を避けるため、債務者と直接交渉し、督促異議を取り下げてもらうよう依頼することは実務上よく行われます。例えば、分割払いの相談に応じるなど、相手の状況に合わせた和解案を提示することで、異議の取下げに合意してもらえる場合があります。相手が取下げに応じれば、支払督促の効力が復活し、迅速な解決が期待できます。

まとめ:支払督促に異議が出たら、訴訟継続の費用対効果を冷静に判断しよう

支払督促に債務者から異議が申し立てられると、手続きは自動的に通常訴訟へ移行し、債権者は請求の正当性を主張・立証する責任を負います。訴訟を継続するには、追加の印紙代や弁護士費用、そして長期にわたる時間的コストが発生するため、これらのコストと回収見込み額、相手方の支払い能力を比較検討して冷静に判断することが不可欠です。まずは相手の異議の意図を分析し、訴訟で争うのか、和解を目指すのか、あるいは費用倒れを避けるために取り下げるのか、方針を定めましょう。たとえ勝訴しても相手に支払い能力がなければ債権は回収できないため、対応に迷う場合は早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

Baseconnect株式会社
サイト運営会社

本メディアは、「企業が経営リスクを正しく知り、素早く動けるように」という想いから、Baseconnect株式会社が運営しています。

当社は、日本最大級の法人データベース「Musubu」において国内1200万件超の企業情報を掲げ、企業の変化の兆しを捉える情報基盤を整備しています。

加えて、与信管理・コンプライアンスチェック・法人確認を支援する「Riskdog」では、年間20億件のリスク情報をAI処理、日々4000以上のニュース媒体を自動取得、1.8億件のデータベース等を活用し、取引先の倒産・不正等の兆候の早期把握を支援しています。

記事URLをコピーしました