有給休暇の罰則とは?法律違反となるケースと企業がすべき対策を解説
企業の経営者や人事労務担当者として、自社の有給休暇の運用が労働基準法を遵守できているか、ご心配ではありませんか。特に2019年から義務化された年5日の有給休暇取得は、違反時の罰則も明確に定められており、適切な管理が不可欠です。どのような行為が法律違反となり、具体的にどのような罰則が科されるのかを正確に理解しておくことが、企業のリスク管理の第一歩となります。この記事では、有給休暇に関する企業の法的義務、違反時の罰則、そして法令遵守のための具体的な対策について、事例を交えながら網羅的に解説します。
有給休暇に関する企業の義務と違反時の罰則
労働基準法で定められた企業の3つの義務
労働基準法では、年次有給休暇に関して企業に以下の3つの義務を課しています。これらの義務は、正社員だけでなく、パートタイム労働者や管理監督者を含むすべての対象労働者に適用されます。
- 年次有給休暇の付与義務: 雇入れから6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対し、法で定められた日数の有給休暇を与える義務。
- 年5日の取得時季指定義務: 年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、付与日から1年以内に、使用者が時季を指定して5日間の有給休暇を確実に取得させる義務。
- 年次有給休暇管理簿の作成・保存義務: 労働者ごとに有給休暇の基準日、付与日数、取得時季を記録した管理簿を作成し、3年間(将来的には5年)保存する義務。
義務違反に対する罰則の全体像(罰金・懲役)
企業が有給休暇に関する義務に違反した場合、労働基準法に基づき罰金や懲役といった刑事罰の対象となる可能性があります。違反行為を行った担当者だけでなく、法人そのものも罰せられる「両罰規定」が適用される点に注意が必要です。
| 違反内容 | 罰則 |
|---|---|
| 年10日以上付与される労働者に年5日の有給休暇を取得させなかった場合 | 30万円以下の罰金(労働者1人につき1罪として扱われる) |
| 労働者が請求した時季に有給休暇を与えなかった場合(不当な時季変更権の行使を含む) | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
| 時季指定に関する事項を就業規則に記載していなかった場合 | 30万円以下の罰金 |
有給休暇管理簿の作成・保存義務と罰則
企業は、労働者ごとに年次有給休暇の基準日・日数・取得時季を明記した「年次有給休暇管理簿」を作成し、該当期間中および期間満了後3年間保存する義務があります。この保存期間は、将来的には法改正により5年間に延長される予定です。
管理簿の作成や保存を怠った場合、労働基準法第109条違反として同法第120条1号に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働基準監督署による是正指導の対象となります。調査の際に虚偽の内容を記載した管理簿を提出するなど悪質なケースでは、同様に労働基準法第120条違反として30万円以下の罰金が科される可能性があります。
罰則適用前の「是正勧告」とは?指摘を受けた際の対応
労働基準監督署の調査で法令違反が確認された場合、多くは罰則の適用前に「是正勧告書」が交付されます。これは行政指導であり、企業に自主的な改善を促すものです。指摘を受けた際は、以下の手順で速やかに対応する必要があります。
- 是正勧告書で指摘された違反内容を正確に把握する。
- 指定された期日までに、指摘事項を是正するための具体的な改善策を講じる。
- 実施した改善内容を「是正報告書」にまとめ、労働基準監督署に提出する。
是正勧告に従わず、改善が見られない場合は、悪質と判断され書類送検や罰則適用に至るリスクが高まります。
【ケース別】有給休暇の法律違反となる主なパターンと罰則詳細
年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合(罰金30万円以下)
2019年4月の法改正により、使用者は年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、基準日から1年以内に5日間の有給休暇を確実に取得させることが義務付けられました。この義務に違反した場合、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科されます。この罰則は、対象となる労働者1人につき1罪としてカウントされるため、違反人数が多ければ罰金額も増大する可能性があります。
取得させるべき5日間には、労働者が自ら請求した日数や計画年休で取得した日数も含まれます。これらで5日に満たない場合、使用者が時季を指定して不足分を取得させる必要があります。なお、時間単位の年休は、この5日の取得義務の日数に含めることはできないため注意が必要です。
従業員が請求した時季に有給休暇を与えなかった場合(懲役6ヶ月以下または罰金30万円以下)
労働者が希望する時季に有給休暇を請求した場合、会社は原則としてそれを認めなければなりません。正当な理由なく請求を拒否すると、労働基準法第119条に基づき6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という重い罰則の対象となります。
会社が取得時季を変更できるのは、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られ、これを「時季変更権」と呼びます。ただし、単に「業務が多忙だから」「代替要員がいないから」といった恒常的な理由だけで時季変更権を行使することは、権利の濫用と判断される可能性が高く、認められません。
有給休暇の取得を理由に従業員へ不利益な取り扱いをした場合
労働基準法附則第136条は、労働者が有給休暇を取得したことを理由に、企業が不利益な取り扱いをすることを禁止しています。この条文自体に直接的な罰則はありませんが、そのような取り扱いは公序良俗に反し無効と判断される可能性があります。
- 有給休暇の取得日を欠勤扱いとして、皆勤手当や賞与を減額する。
- 人事考課において、有給休暇の取得をマイナス評価の要因とする。
- 昇進や昇給の判断材料として、有給休暇の取得日数を用いる。
有給休暇の法律違反を防ぐための具体的な対策
年次有給休暇管理簿を適切に作成・管理する方法
有給休暇の取得状況を正確に把握し、義務違反を防ぐためには、年次有給休暇管理簿の適切な運用が不可欠です。管理簿の作成にあたり、以下の3項目は必ず記載しなければなりません。
- 基準日: 年次有給休暇を付与した日
- 日数: 付与した日数と、そのうち取得した日数、残日数
- 時季: 実際に有給休暇を取得した具体的な日付
管理を効率化するため、従業員ごとの入社日ではなく、全社で基準日を統一する(例:毎年4月1日付与)といった工夫も有効です。その際は、入社時期によって労働者が不利益を被らないよう配慮が必要です。
計画年休制度の導入と運用のポイント
計画年休制度は、労使協定を結ぶことで、有給休暇のうち5日を超える部分について会社が計画的に取得日を指定できる制度です。この制度を活用することで、年5日の取得義務を計画的に達成しやすくなります。
- 一斉付与方式: 全従業員が同じ日に取得する(夏季休業や年末年始など)。
- 交替制付与方式: 部署やチームごとに交代で取得する。
- 個人別付与方式: 個人ごとに年間の取得計画表を作成する。
導入には、就業規則への規定と労働者の過半数代表者との労使協定の締結が必要です。また、労働者が自由に使える日として、最低5日間は残しておく必要があります。
会社による個別的な時季指定の実施方法と注意点
労働者が自発的に取得せず、年5日の取得が見込めない場合は、会社が個別に時季を指定して休暇を取得させる必要があります。その際は、一方的に決定するのではなく、適切な手順を踏むことが重要です。
- 就業規則に、使用者による時季指定の対象者や方法について規定する。
- 対象となる労働者に対し、取得したい時季について意見を聴取する。
- 労働者の意見を尊重し、具体的な取得日を決定して通知する。
時季指定を行った日に労働者を出勤させた場合、休暇を取得したことにはならず義務違反となるため、当日の業務をさせないよう徹底する必要があります。
従業員が有給休暇を取得しやすい職場環境の整備
法令遵守はもちろんのこと、従業員が心理的な負担なく休暇を取得できる職場環境づくりも企業の重要な責務です。具体的な取り組みとして、以下のようなものが挙げられます。
- 経営層や管理職が率先して有給休暇を取得し、休みやすい雰囲気を作る。
- 業務マニュアルの整備や情報共有を進め、特定の個人に業務が偏る「属人化」を防ぐ。
- チーム内でお互いの業務をカバーし合える協力体制を構築する。
- 有給休暇の取得状況を定期的に確認し、取得率が低い部署や個人へ働きかける。
管理監督者・中途採用者の取得義務管理における見落としやすい点
労働時間規制の適用が除外される「管理監督者」であっても、年次有給休暇については一般の労働者と同様に付与され、年5日の取得義務の対象となります。管理職だからといって取得管理を怠らないよう注意が必要です。
また、中途採用者は入社日によって有給休暇の基準日が個別に設定されるため、管理が煩雑になりがちです。特に、会社の統一基準日との兼ね合いで、次回の付与までの期間が1年未満になる場合は、取得義務期間や日数の管理を誤らないよう、正確な把握が求められます。
パート・アルバイトへの有給休暇付与における注意点
付与条件と日数の計算方法(比例付与)
パートやアルバイトであっても、「雇入れ後6か月間の継続勤務」と「全労働日の8割以上の出勤」という2つの要件を満たせば、年次有給休暇が付与されます。ただし、所定労働時間が週30時間未満かつ所定労働日数が週4日以下の労働者には、労働日数に応じた日数が比例的に付与されます(比例付与)。
| 継続勤務年数 | 週4日勤務 | 週3日勤務 | 週2日勤務 | 週1日勤務 |
|---|---|---|---|---|
| 0.5年 | 7日 | 5日 | 3日 | 1日 |
| 1.5年 | 8日 | 6日 | 4日 | 2日 |
| 2.5年 | 9日 | 6日 | 4日 | 2日 |
| 3.5年 | 10日 | 8日 | 5日 | 2日 |
| 4.5年 | 12日 | 9日 | 6日 | 3日 |
| 5.5年 | 13日 | 10日 | 6日 | 3日 |
| 6.5年以上 | 15日 | 11日 | 7日 | 3日 |
年5日取得義務の対象となる条件
パート・アルバイトでも、年次有給休暇の付与日数が10日に達した時点から、年5日の取得義務の対象となります。例えば、上の表で週4日勤務の労働者は勤続3.5年、週3日勤務の労働者は勤続5.5年で付与日数が10日以上となるため、その時点から企業は年5日の休暇を確実に取得させる義務を負います。
参考:有給休暇の義務違反に関する指導・送検事例
事例1:年5日の取得義務違反で書類送検されたケース
飲食店を運営する企業が、対象となる労働者に対し年5日の有給休暇を取得させなかったとして、労働基準法違反の疑いで書類送検されました。この企業は、労働基準監督署からの是正勧告を無視し、改善措置を講じなかったため、悪質と判断されました。年5日の取得義務違反が刑事事件に発展しうることを示す事例です。
事例2:虚偽の年次有給休暇管理簿を提出したケース
建設会社が、実際には年5日の有給休暇を取得していない従業員がいるにもかかわらず、全員が取得したかのように偽装した虚偽の年次有給休暇管理簿を作成し、労働基準監督署に提出したとして書類送検されました。取得義務違反そのものに加え、調査に対する虚偽報告という隠蔽行為が、より悪質であると判断されたケースです。
事例3:不当な時季変更権の行使で是正勧告を受けたケース
ある企業が、慢性的な人手不足を理由に、従業員からの有給休暇申請を恒常的に拒否していました。労働基準監督署の調査により、代替要員の確保努力を怠ったまま時季変更権を濫用していると判断され、是正勧告を受けました。単なる業務多忙は、時季変更権の正当な理由として認められにくいことを示しています。
有給休暇の罰則に関するよくある質問
罰金は会社と担当者のどちらが支払うのですか?
労働基準法違反の罰則は、違反行為を直接行った者(例:人事担当者や管理職)だけでなく、その事業主である法人(会社)にも科されるのが原則です。これは「両罰規定」と呼ばれるもので、会社の労務管理体制そのものの責任が問われます。したがって、会社と担当者の両方が処罰の対象となる可能性があります。
年度末に年5日の有給休暇を取得できなかった従業員が出た場合、どうすればよいですか?
基準日から1年が経過した時点で年5日の取得が未達成の場合、その時点で法律違反が確定します。後から遡って休暇を取得させることはできません。この場合、直ちに罰則が科されるとは限りませんが、労働基準監督署の調査があれば指摘を受けることになります。企業としては、違反の事実を認め、次年度以降の再発防止策(管理体制の見直し、計画的な取得勧奨など)を徹底することが重要です。
従業員本人が有給休暇の取得を拒んだ場合でも、会社の義務違反になりますか?
はい、会社の義務違反になります。年5日の有給休暇取得は、労働者の意思に関わらず会社に課された法的義務です。たとえ従業員本人が「忙しいから休まない」と希望したとしても、会社はその義務を免れることはできません。会社は、労働者の意向を聞いた上で、必要であれば時季指定権を行使して、業務命令として休暇を取得させる必要があります。
まとめ:有給休暇の罰則を理解し、確実な法令遵守体制を築く
本記事では、有給休暇に関する企業の法的義務と、違反した場合の罰則について具体的に解説しました。特に年5日の取得義務違反は、対象労働者1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があり、企業にとって重大なリスクです。法令違反を防ぐためには、年次有給休暇管理簿による正確な取得状況の把握を徹底し、計画年休制度や使用者による時季指定を適切に運用することが求められます。管理監督者やパート・アルバイトも対象となる点を見落とさず、全従業員の状況を管理することが重要です。法令遵守は単なるリスク回避に留まらず、従業員が安心して働ける職場環境の基盤となります。まずは自社の管理体制を再点検し、確実な運用を目指しましょう。

