異議申立てとは?特許異議申立ての手続きの流れ、期間、費用を解説
自社の事業に影響を及ぼす特許が登録されたり、法的な通知を受けたりした場合、対抗措置として「異議申立て」が有効な選択肢となります。しかし、いざ手続きを進めようにも、具体的な流れや期間、費用がわからず、行動計画を立てにくいのではないでしょうか。この記事では、特に企業の知財戦略で重要な「特許異議申立て」を中心に、手続きの全体像、各ステップの詳細、無効審判との違いまでを時系列で分かりやすく解説します。
異議申立て制度とは?目的と対象となる主な種類
異議申立て制度の目的と役割
異議申立て制度とは、行政庁の処分や決定に対し、その妥当性や適法性の再考を求める仕組みです。主な目的は、行政に自己反省を促し、自ら処分の誤りを是正させることにあります。これにより、国民の権利や利益を簡易かつ迅速に救済する役割を担っています。
裁判所の訴訟手続きに比べ、費用が安く、専門知識を持つ行政機関が判断するため、実情に即した柔軟な解決が期待できる点が特徴です。不服を申し立てる側には紛争を早期に解決する手段となり、行政庁側には処分の信頼性を高める機会となります。
- 国民の権利利益を簡易かつ迅速に救済する
- 行政庁に自己反省を促し、処分の誤りを是正させる
- 司法手続きに比べて低コストで紛争解決を図る
- 行政運営の適正化を公衆の監視によって担保する
対象となる主な手続き:特許・労働審判・支払督促
異議申立て制度は、様々な行政・司法手続きで活用されています。主な例として、特許、労働審判、支払督促が挙げられます。それぞれの手続きにおいて、異議申立ては紛争の性質を転換させたり、再審査を促したりする重要な分岐点として機能します。
| 手続きの種類 | 異議申立ての目的・効果 |
|---|---|
| 特許 | 特許付与の妥当性を公衆が審査し、瑕疵(かし)ある権利の成立を防ぐ |
| 労働審判 | 労働審判委員会の判断に不服がある場合に、審判の効力を失わせて通常訴訟へ移行させる |
| 支払督促 | 債務者が請求内容を争い、手続きを自動的に民事訴訟へ移行させる |
特許異議申立ての手続きの流れとタイムライン
【全体像】申立てから決定までの基本的なフロー
特許異議申立ては、特許権の設定登録後、特許掲載公報が発行されてから手続きが始まります。公報発行日から6か月以内に申立てを行う必要があり、この期間を過ぎると申立てはできません。以下に、申立てから最終的な決定までの基本的な流れを示します。
- 特許掲載公報の発行(申立て期間の開始)
- 申立書の提出と特許庁による方式審査
- 審判官合議体による本案審理(書面審理)
- 取消理由の発見時に、特許権者へ「取消理由通知」を送付
- 特許権者による応答(意見書や訂正請求の提出)
- 審理の終結と最終決定(維持または取消)
ステップ1:申立ての準備(申立書作成と証拠収集)
申立ての準備段階で最も重要なのは、特許を取り消すための強力な証拠を収集することです。まず、対象特許の権利範囲を定める請求項を精査し、どの部分に瑕疵があるかを特定します。次に、その発明が公知の技術から容易に創作できたことを示すため、先行技術文献を調査します。これらの準備を経て、特許法に定められた取消理由を構成し、論理的な申立書を作成します。
- 対象特許の請求項を精査し、瑕疵を特定する
- 新規性や進歩性を否定するための先行技術文献(国内外の特許公報、学術論文など)を調査・収集する
- 特許法が定める取消理由に基づき、具体的な主張を組み立てて申立書を作成する
- 申立人名義を決定し、必要に応じて代理人(弁理士など)と連携する
ステップ2:特許庁への申立てと方式審理
作成した特許異議申立書を特許庁長官宛てに提出すると、まず方式審理が行われます。これは、書類の記載事項に漏れがないか、手数料(印紙代)が正しく納付されているかといった、形式的な要件を確認する手続きです。
もし不備が見つかった場合、特許庁から補正命令が出されます。この命令に従わないと、申立てが却下される可能性があるため注意が必要です。方式審理を通過すると、申立書の副本(写し)が特許権者に送付され、いよいよ実体的な内容を審査する本案審理へと進みます。
ステップ3:審判官合議体による本案審理
本案審理は、3名または5名の審判官で構成される合議体が担当します。審理は、当事者が直接対面するのではなく、提出された書面のみで判断を下す書面審理が原則です。
合議体は、申立人が提出した理由や証拠だけでなく、自らの判断で調査を行う職権主義が採用されています。これにより、申立人が指摘しなかった理由で特許が取り消されることもあります。ただし、審理の対象は、あくまで異議が申し立てられた請求項の範囲内に限定されます。
ステップ4:取消理由通知と特許権者の応答(意見書・訂正請求)
審理の結果、特許を取り消すべき理由(瑕疵)が見つかった場合、特許庁は直ちに決定を下すのではなく、まず特許権者に対して取消理由通知を送付します。これは、最終決定の前に特許権者に反論の機会を与えるための予告手続きです。
通知を受けた特許権者は、指定された期間内に意見書を提出して反論したり、特許内容を修正する訂正請求を行ったりして、取消理由の解消を図ることができます。
- 意見書: 審判官合議体の判断に対し、法的・技術的な反論を述べる書面
- 訂正請求: 特許請求の範囲を減縮(権利範囲を狭めること)したり、誤記を訂正したりして取消理由を解消する手続き
ステップ5:審理の終結(決定)と決定後の対応
特許権者の応答などを踏まえ、合議体は審理を終結させ、最終的な結論として維持決定または取消決定を下します。決定内容は決定書としてまとめられ、当事者双方に送達されます。
特許を維持する決定が出た場合、申立人はその決定に不服を申し立てることはできません。もし、さらに争いたい場合は、利害関係人として別途無効審判を請求する必要があります。
一方、特許を取り消す決定が出た場合、特許権者はその判断を不服として、知的財産高等裁判所に訴訟を提起することができます。訴えを提起せずに決定が確定すると、特許権は初めから存在しなかったものとみなされます。
申立ての成否を分ける証拠資料の具体例と収集方法
申立ての成否は、提出する証拠資料の質と量に大きく左右されます。特許の新規性や進歩性を否定するためには、その特許の出願日より前に公開されていた技術資料が必要です。これらの資料は、データベースや専門機関を通じて網羅的に調査・収集します。
- 日本国内外の特許公報や実用新案公報
- 学会誌、技術専門誌、学術論文
- 製品カタログ、パンフレット、技術マニュアル
- 展示会で配布された資料やウェブサイトで公開された情報
これらの資料は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)などのデータベースで検索するのが一般的です。古い文献や特殊な資料については、国立国会図書館や専門の調査会社を利用して入手する方法もあります。
特許異議申立ての重要ポイント(期間・費用・申立理由)
申立てが可能な期間と期限の起算点
特許異議申立てができる期間は、法律で厳格に定められています。期限は「特許掲載公報の発行日から6か月以内」です。この期間の計算は、公報が発行された日の翌日から始まります。
この6か月という期間は不変期間であり、いかなる理由があっても延長されることはありません。期限を1日でも過ぎると申立ては受理されないため、期限管理を徹底することが極めて重要です。
手続きにかかる費用(印紙代)の内訳
特許異議申立てに要する公的な費用は、特許庁に納付する印紙代です。費用は、基本手数料と、申し立てる請求項の数に応じた加算額の合計で算出されます。
- 基本手数料: 16,500円
- 加算額: 2,400円 × 請求項の数
例えば、3つの請求項に対して異議を申し立てる場合、費用は「16,500円 + (2,400円 × 3) = 23,700円」となります。これは、当事者間の紛争解決を目的とする無効審判の手数料に比べ、低額に設定されています。なお、弁理士などの専門家に依頼する場合は、別途代理人報酬が発生します。
申立てが認められるための理由(取消理由)の要件
申立てが認められる理由は、特許制度の信頼性を確保するという公益的な観点から、法律で定められたものに限定されています。一方で、当事者間の私的な紛争に関する理由は、異議申立ての対象外となります。
| 区分 | 具体例 | 備考 |
|---|---|---|
| 認められる理由(公益的事由) | 新規性・進歩性の欠如、明細書の記載不備など | 特許付与の妥当性に関する客観的な瑕疵 |
| 認められない理由(私的事由) | 冒認出願(発明者でない者による出願)など | 当事者間の権利帰属の問題であり、無効審判で争うべき事項 |
申立てを行う際は、収集した証拠に基づき、特許法に定められた取消理由に該当することを論理的に主張する必要があります。
申立て実行前のチェックリスト:事業影響とコストの検討
異議申立てを実行する前には、法的な勝算だけでなく、事業への影響やコストとのバランスを総合的に判断することが重要です。感情的に判断するのではなく、ビジネス上のメリットを多角的に分析しましょう。
- 対象特許が自社の事業活動の妨げになっているか
- 客観的な証拠に基づき、申立ての成功可能性を評価する
- 印紙代、調査費用、代理人報酬などの総コストを試算する
- 申立てによって得られる事業上のメリットとコストを比較衡量する
- 相手方との関係性を考慮し、紛争が激化するリスクを評価する
特許異議申立てと無効審判の比較と使い分け
目的と申立てができる人(申立人適格)の違い
特許異議申立てと無効審判は、どちらも成立した特許の有効性を争う制度ですが、その目的や申立てができる人(申立人適格)が異なります。
異議申立ては、特許庁の審査の誤りを是正するという公益的な目的が強く、申立人は何人も可能です。特定の利害関係がない第三者でも手続きを行えます。
一方、無効審判は、当事者間の具体的な紛争解決を目的とする準司法的な手続きです。そのため、申立ては、その特許によって事業上の不利益を受ける利害関係人(例:競合他社)に限定されます。
申立て期間と審理方式の違い
申立てが可能な期間と審理の進め方にも大きな違いがあります。異議申立ては、特許掲載公報の発行から6か月以内に限られます。審理は、書面のみで行われる書面審理が原則で、当事者の負担は比較的小さいです。
対して無効審判は、特許権の存続期間中であればいつでも請求できます。審理は、当事者が審判官の前で直接主張を述べ合う口頭審理が原則であり、裁判に近い厳格な手続きとなります。
決定後の不服申立ての可否と効果の違い
手続き終了後の対応にも違いがあります。異議申立てで特許を維持する決定が出た場合、申立人は不服を申し立てることができません。一方、特許権者は、取消決定に対して訴訟を提起できます。
無効審判では、審決(決定に相当)に対して当事者の双方が不服を申し立て、訴訟を提起することが可能です。また、異議申立てで敗れても、後から同じ理由で無効審判を請求できますが、無効審判で確定した判断については、原則として再び争うことはできません(一事不再理)。
自社の状況に応じた戦略的な制度選択のポイント
どちらの制度を利用するかは、自社の目的や状況に応じて戦略的に選択する必要があります。以下に、状況に応じた選択のポイントをまとめます。
| 項目 | 特許異議申立て | 特許無効審判 |
|---|---|---|
| 目的 | 公益保護(審査の誤り是正) | 私益保護(当事者間の紛争解決) |
| 申立人 | 何人も(利害関係は不要) | 利害関係人に限定 |
| 申立て期間 | 特許掲載公報の発行日から6か月以内 | 特許権存続中および消滅後も請求可能 |
| 審理方式 | 原則として書面審理 | 原則として口頭審理 |
| 不服申立て(維持/有効) | 申立人は不可 | 請求人・被請求人ともに可能 |
| 戦略的選択 | 早期に権利を不安定化させたい場合。コストを抑えたい場合。 | 侵害訴訟などで徹底的に争う必要がある場合。 |
特許異議申立てに関するよくある質問
特許異議申立ての成功率はどのくらいですか?
統計上、申立てによって特許が完全に取り消される割合は全体の約1割程度です。しかし、特許の一部が取り消されたり、特許権者が自ら権利範囲を狭める訂正を行ったりするケースを含めると、申立てによって何らかの成果が得られる割合は5割を超えます。自社の事業と競合する部分が権利範囲から外れれば、実質的に申立ての目的は達成されたと評価できます。
匿名で異議申立てを行うことは可能ですか?
法律上、完全な匿名での申立ては認められておらず、申立書には氏名や住所の記載が必要です。しかし、実務上は、代理人である弁理士個人の名義で申立てを行うことで、背後にいる企業名を伏せるダミー申立てが活用されています。これにより、相手方との無用な対立を避けつつ、特許の有効性を争うことが可能になります。
一度提出した異議申立てを取り下げることはできますか?
申立ての取下げは可能ですが、時期に制限があります。具体的には、審理の結果、特許庁が「取消理由通知」を発送した後は、取り下げることができなくなります。これは、公益的な観点から特許の瑕疵を是正する必要性が生じたため、申立人個人の意思だけで手続きを終了させることができなくなるためです。
特許維持決定や取消決定に不服がある場合、どうすればよいですか?
決定の種類と当事者の立場によって、その後の対応が異なります。特許権者は、自らの権利が否定される「取消決定」に対しては、知的財産高等裁判所に訴訟を提起して争うことができます。一方で、申立人は、特許権を認める「維持決定」に対して、直接不服を申し立てる手段はありません。
| 決定の種類 | 特許権者の対応 | 申立人の対応 |
|---|---|---|
| 取消決定 | 知的財産高等裁判所へ提訴可能 | – |
| 維持決定 | – | 不服申立て不可(別途、無効審判の請求は可能) |
申立て期間を過ぎてしまった場合、他に特許を争う方法はありますか?
6か月の申立て期間を過ぎてしまった後でも、特許の有効性を争う方法はあります。主な手段は以下の2つです。
- 特許無効審判を請求する: 利害関係人であれば、特許権が存続している限りいつでも請求できます。
- 無効の抗弁を主張する: もし相手方から特許権侵害で訴えられた場合に、その裁判の中で「特許は無効である」と主張して対抗する方法です。
これらの手段の中から、自社の状況や紛争の緊急性に応じて最適なものを選択することになります。
まとめ:異議申立てを戦略的に活用し、事業リスクに備える
本記事では、特許異議申立て制度の目的から、具体的な手続きの流れ、費用、期間、そして無効審判との違いまでを解説しました。異議申立ては、特許掲載公報発行後6か月以内という厳格な期間制限がありますが、比較的低コストで第三者の立場から特許の妥当性を問える有効な手段です。成功の鍵は、新規性や進歩性を否定する客観的な証拠を収集し、法律で定められた取消理由を論理的に構成することにあります。
申立てを実行する前には、事業への影響やコストを総合的に評価し、無効審判という別の選択肢も視野に入れることが重要です。維持決定が出た場合は不服を申し立てられない点も考慮し、自社の状況に応じた最適な戦略を選択しましょう。必要であれば弁理士などの専門家と相談しながら、計画的に手続きを進めることが求められます。

