日本政策金融公庫の新創業融資制度は廃止。代わりの「新規開業資金」を解説
これから創業する方や、事業を始めたばかりの経営者にとって、資金調達は大きな課題です。日本政策金融公庫の「新創業融資制度」が廃止されたことを知り、代わりとなる制度の情報を探している方も多いのではないでしょうか。この記事では、2024年4月から新創業融資制度の機能を引き継いだ「新規開業資金」について、旧制度からの変更点や具体的な融資条件、審査で重要となるポイントを分かりやすく解説します。
2024年4月より新創業融資制度は「新規開業資金」へ一本化
これまでの「新創業融資制度」との関係性と一本化の背景
これまで日本政策金融公庫が提供していた「新創業融資制度」は、単独の商品ではなく、他の融資制度と組み合わせて無担保・無保証人での借入を可能にする特例的な枠組みでした。しかし、この二階建ての構造は創業者にとって分かりにくいという課題がありました。
そこで政府は、スタートアップ支援を強化し、起業家がより円滑に資金調達できる環境を整えるため、2024年3月末をもって新創業融資制度を廃止しました。その機能は「新規開業資金」に統合・拡充され、よりシンプルで使いやすい制度へと一本化されたのです。
制度変更によって創業者にとって何が改善されたか
制度の一本化により、創業者にとってのメリットが大幅に拡充されました。主な改善点は以下の通りです。
- 融資申し込みの前提であった自己資金要件「創業資金総額の10分の1以上」が撤廃された
- 融資限度額が従来の3,000万円から最大7,200万円へと大幅に引き上げられた
- 元本の返済を猶予できる据置期間が最長5年まで延長された
- 運転資金の返済期間が7年から10年へと長期化された
- 適用される利率の引き下げ幅が拡大され、より低金利での借入が可能になった
これらの変更により、創業初期における資金繰りの負担と返済リスクが大幅に緩和されました。
日本政策金融公庫「新規開業資金」の融資条件と概要
融資の対象となる方の要件
この制度は、主にこれから事業を始める方や、事業を開始しておおむね7年以内の方が対象です。民間金融機関からの融資が難しい創業期でも、事業計画の実現性が認められれば融資を受けられる可能性があります。
- 新たに事業を始める方
- 事業開始後、税務申告を2期終えていない方
- 事業開始後、おおむね7年以内の方
過去に事業を廃止した経験があり再挑戦する方や、現在勤務している企業と同じ業種で独立する方も対象に含まれます。法人・個人事業主を問わず利用できますが、公序良俗に反する事業や一部の金融業などは対象外となるため、事前の確認が必要です。
融資限度額と認められる資金使途
融資限度額は合計7,200万円で、そのうち運転資金として利用できるのは4,800万円が上限です。資金の使い道は事業に必要なものに限定され、具体的な使途と金額を客観的な資料(見積書など)で示す必要があります。
| 資金の種類 | 具体的な使途の例 |
|---|---|
| 設備資金 | 店舗・事務所の敷金、内装工事費、機械・車両の購入費、ソフトウェア導入費など |
| 運転資金 | 商品の仕入代金、従業員の給与、事務所の家賃、広告宣伝費、水道光熱費など |
事業と無関係な個人的な生活費や、既存の借入金の返済、株式投資などの投機目的には利用できません。
適用される利率(金利)と返済期間
適用金利は日本政策金融公庫の基準利率がベースですが、創業者には優遇措置があります。新たに事業を始める方や税務申告を2期終えていない方は、基準利率から原則として0.65%引き下げられます。さらに、雇用拡大などの要件を満たす場合は、最大で0.9%の引き下げも可能です。
返済期間は民間金融機関に比べて長く設定されており、創業初期の資金繰りを安定させやすくなっています。
| 資金の種類 | 返済期間 | 据置期間 |
|---|---|---|
| 設備資金 | 20年以内 | 最長5年 |
| 運転資金 | 10年以内 | 最長5年 |
据置期間中は利息のみの支払いで済むため負担は軽くなりますが、その分、返済総額に含まれる利息は増える点に注意が必要です。
旧制度からの変更点と創業者側のメリット
【変更点1】無担保・無保証人での利用が原則に
2024年4月の制度変更における最大のポイントは、無担保・無保証人での融資が原則となったことです。旧制度では特定の枠組みを併用する必要がありましたが、新制度では新たに事業を始める方や税務申告を2期終えていない方であれば、原則として担保も保証人(代表者個人の連帯保証も含む)も不要で利用できます。
これにより、万が一事業が立ち行かなくなった場合でも代表者個人が私財で返済するリスクが軽減され、不動産などの担保がない方でも挑戦しやすくなりました。これは、金融機関が事業の将来性をより重視する姿勢に転換したことを意味します。
【変更点2】自己資金要件の撤廃
もう一つの大きな変更点は、自己資金要件の撤廃です。旧制度では「創業資金総額の10分の1以上」の自己資金が必須でしたが、この数値的な縛りがなくなりました。
ただし、実務上、自己資金が全く不要になったわけではない点には注意が必要です。自己資金は事業への準備性や計画性を測る重要な評価項目であり、審査に大きく影響します。要件撤廃はあくまで申込のハードルを下げたものであり、審査が簡単になったわけではありません。可能な限り計画的に資金を準備することが融資成功の鍵となります。
【変更点3】融資利率の一律引き下げ
金利面でも創業者に有利な変更がありました。新たに事業を始める方や税務申告を2期終えていない方を対象に、利率が一律で引き下げられる特別措置が導入されました。具体的には、基準利率から0.65%が差し引かれます。さらに特定の要件を満たすと、最大0.9%まで引き下げ幅が拡大します。
創業初期の不安定なキャッシュフローにおいて、利息負担の軽減は経営の安定に大きく寄与します。無担保・無保証人という条件に加え、低金利で借入できる点は、公的金融機関ならではの強力な支援策といえるでしょう。
融資審査を通過するために押さえるべき重要ポイント
事業計画書の精度と実現可能性
融資審査において事業計画書は最も重要な書類です。審査担当者はこの書類から、事業の継続性や返済能力を判断します。説得力のある計画書を作成するには、以下の要素を具体的かつ客観的な根拠に基づいて記載する必要があります。
- 創業動機:なぜこの事業を始めるのか、自身の経歴とどう関連しているのか
- ビジネスモデル:誰に、何を、どのように提供して収益を上げるのか
- 市場・競合分析:市場規模や競合の状況を踏まえた自社の強みや独自性
- 数値計画:客単価や客数など、具体的な根拠に基づいた売上予測と資金計画
- リスク分析:想定される課題(競合出現など)とその対策
希望的観測ではなく、誰が読んでも納得できる実現可能な計画に仕上げることが不可欠です。
代表者の信用情報と事業関連の経歴
事業計画だけでなく、代表者個人の信頼性も厳しく審査されます。特に以下の2点は重要です。
- 個人の信用情報:クレジットカードやローンの返済履歴。過去に長期延滞や債務整理があると審査通過は極めて困難です。
- 事業関連の経歴:創業する事業分野での勤務経験が豊富であるほど、事業の成功確率が高いと評価されます。
未経験の分野で起業する場合は、資格取得や協力者の存在など、経験不足を補う具体的な要素をアピールする必要があります。
自己資金の準備(要件撤廃後も評価に影響)
制度上の必須要件はなくなりましたが、自己資金の準備状況は依然として審査における最重要項目の一つです。創業に向けて計画的に貯蓄してきた事実は、事業への熱意や資金管理能力を証明する強力な材料となります。
申し込み直前に一時的に用意した「見せ金」は、通帳の履歴から簡単に見破られ、虚偽申請と見なされるため絶対に行ってはいけません。目安として、創業資金総額の3分の1程度を準備できていると、審査において有利に働く可能性が高まります。
面談で担当者から質問されやすい項目と準備
書類審査を通過すると、担当者との面談が行われます。これは提出した事業計画の整合性を確認し、経営者の熱意や人柄を直接評価する場です。質問されやすい項目を事前に把握し、自信を持って答えられるよう準備しておきましょう。
- なぜこの事業を始めたいのか(創業動機)
- これまでの経験をどう活かすのか(経歴との関連性)
- どのようにして顧客を獲得するのか(集客方法)
- 売上予測の具体的な根拠は何か
- 計画通りに進まなかった場合のリスク対策は
計画書の内容を丸暗記するのではなく、自分の言葉で論理的に説明できるようにしておくことが重要です。
新規開業資金の申し込み手続きの流れと必要書類
相談から融資実行までの具体的なステップ
申し込みから融資実行までの手続きは、一般的に以下の流れで進みます。全体で1ヶ月から1ヶ月半程度の時間を見込んでおきましょう。
- 事前相談:最寄りの支店窓口やインターネットで事業内容や必要書類について相談します。
- 申し込み:インターネットから必要事項を入力し、事業計画書などの書類をアップロードします。
- 面談:担当者と日程を調整し、指定の支店で事業内容や計画について説明します(約1時間)。
- 審査:面談後、2週間前後で審査が行われます。必要に応じて現地調査が実施されることもあります。
- 契約手続き:審査通過後、郵送またはオンラインで融資契約の手続きを行います。
- 融資金の着金:契約書類の確認が完了次第、指定した銀行口座に融資金が振り込まれます。
申し込みにあたり準備すべき書類一覧
申し込みには、事業内容や資金計画を証明するための様々な書類が必要です。不備なく準備することで、手続きをスムーズに進めることができます。
- 借入申込書、創業計画書(公庫所定の書式)
- 代表者の本人確認書類(運転免許証など)の写し
- 履歴事項全部証明書(法人の場合)
- 代表者名義の預金通帳の写し(直近半年〜1年分)
- 設備投資や内装工事などの見積書
- 許認可証の写し(許認可が必要な業種の場合)
- 確定申告書や決算書の控え(事業開始済みの場合)
融資実行後の資金管理と報告に関する留意点
融資実行後も、資金の取り扱いには注意が必要です。借り入れた資金は、事業計画書に記載した使途以外には絶対に使用してはなりません。融資後、領収書の提出や現地確認によって資金使途をチェックされることが一般的です。
万が一、私的利用や他債務の返済などに流用したことが発覚した場合、融資金の一括返済を求められる可能性があります。公庫との信頼関係を維持するためにも、透明性の高い資金管理を徹底してください。
新規開業資金の利用に関するよくある質問
自己資金が全くなくても融資は受けられますか?
制度上は申し込み可能ですが、現実的に融資を受けることは極めて困難です。自己資金は事業への準備性や計画性を証明する重要な指標であり、全く準備がない場合は返済能力を疑問視される可能性が非常に高くなります。最低でも創業資金総額の1割、理想としては2〜3割程度を用意することが、審査通過の現実的な目安と考えられます。
個人事業主として開業する場合も対象になりますか?
はい、対象になります。新規開業資金は法人のみならず、個人事業主として開業する方や、開業後間もないフリーランスの方も広く利用できます。手続きや必要書類に大きな違いはありませんが、個人の家計と事業の資金を明確に分けて計画を立てることが重要です。
申し込みから融資実行までの期間はどのくらいですか?
一般的には、申し込みから融資が実行されるまで1ヶ月から1ヶ月半程度かかります。書類に不備があったり、大型連休を挟んだりするとさらに時間がかかる場合もあるため、資金が必要になる時期から逆算し、少なくとも2ヶ月程度の余裕を持って準備を始めることをお勧めします。
新創業融資制度が廃止された理由は何ですか?
最大の理由は、創業者支援の仕組みをより分かりやすく、使いやすいものにするためです。旧制度の課題を解消し、機能を「新規開業資金」に一本化・拡充することで、より強力なスタートアップ支援体制を構築することが目的です。
- 融資制度の構造が二階建てで複雑だったため
- 自己資金要件などの制限が現代の起業環境にそぐわなくなっていたため
- 創業者向けの支援窓口を一本化し、利便性を高めるため
まとめ:創業者支援が強化された「新規開業資金」を最大限活用するために
2024年4月より、新創業融資制度は「新規開業資金」へと一本化され、創業者にとってより有利な制度へと生まれ変わりました。無担保・無保証人が原則となり、自己資金要件が撤廃されるなど、資金調達のハードルは大きく下がったと言えます。しかし、融資審査が簡単になったわけではなく、事業計画の実現性や代表者の信頼性がこれまで以上に重視される点に注意が必要です。制度変更のメリットを最大限に活かすためにも、事業計画を綿密に練り上げ、余裕を持ったスケジュールで準備を進めましょう。この制度を有効活用し、事業の成功に向けた第一歩を踏み出してください。

