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医療法人の破産手続き|一般法人との違いと具体的な流れ、注意点を解説

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医療法人の経営状況が悪化し、破産という重い決断を現実的な選択肢として検討されていることと存じます。医療法人の破産は、一般の法人破産とは異なり、地域医療への影響や患者様の安全確保、行政庁との連携など、特有の配慮が求められる複雑な手続きです。この記事では、医療法人が破産する場合の具体的な手続きの流れ、一般法人との違い、そして患者様や従業員への対応といった重要論点について、実務的な観点から詳しく解説します。

目次

医療法人破産の特徴|一般法人との相違点

地域医療への影響と行政庁との連携の必要性

医療法人の破産は、地域医療に深刻な影響を及ぼす可能性があります。特に、地域の中核を担う病院が破産した場合、診療の継続性が断たれ、多くの患者や職員が困難な状況に直面します。そのため、破産手続きを進めるにあたっては、関係各所との慎重な連携が不可欠です。

地域社会への主な影響
  • 診療の中断による患者の治療機会の喪失
  • かかりつけ医を失った患者の通院先の確保問題
  • 入院患者の安全な転院先の確保
  • 医師や看護師など、職員の大量離職

特に入院患者がいる場合、医療行為の継続が困難になるため、破産申立ての前に転院先の確保が最優先課題となります。申立てを行う経営者や代理人弁護士は、患者の安全を確保し、診療の空白期間を生まないよう、行政機関(都道府県、保健所)、地域の医師会、裁判所と緊密に連携しながら、計画的に手続きを進める必要があります。

診療録(カルテ)の保管義務と承継先の確保

医療法人が破産によって消滅した後も、診療録(カルテ)の保管義務は残ります。この義務は医師法で定められており、違反した場合は罰則が科される可能性があるため、適切な対応が求められます。

診療録の保管義務に関する要点
  • 保管期間: 診療録は診療完結の日から5年間、その他の諸記録(病院日誌、処方箋など)は2年間の保管が義務付けられています。
  • 罰則: 保管義務に違反した場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
  • 破産管財人の役割: 破産手続きにおいては、破産管財人が診療録の保管義務を引き継ぎます。
  • 理想的な保管期間: 医療過誤による損害賠償請求の時効が20年であることから、可能であれば20年間の長期保管が望ましいとされています。

施設の運営を引き継ぐ医療機関がある場合は、その承継先にカルテを引き継いでもらうのが最もスムーズです。しかし、承継先が見つからない場合は、破産財団(法人の資産を換価して得た金銭)から費用を支出し、外部の保管サービスなどを利用して安全に保管する必要があります。

許認可事業としての廃止・休止届出のタイミング

病院や診療所などの保険医療機関は、事業を廃止または休止する際に、地方厚生支局長への届出が義務付けられています。医療法人の破産手続きでは、この届出のタイミングが事業譲渡の成否を左右する重要なポイントとなります。

医療法人の病院開設許可は第三者に譲渡できないため、他の医療法人が同じ場所で病院を再開するには、一度現在の病院を廃止し、新たな開設許可を得る必要があります。しかし、安易に「廃止届」を提出すると、その場所における基準病床数の枠が失われ、第三者が新規の開設許可を得ることが困難になるリスクが生じます。その結果、病院施設の売却が困難になる可能性があります。

このリスクを回避するため、事業譲渡を前提とする場合は、直ちに「廃止届」を提出するのではなく、まず「休止届」を提出するという選択肢を検討することが重要です。これにより、基準病床数を維持したまま、買受人が新たな開設許可を得るまでの時間を確保できます。なお、介護サービス事業についても、休止または廃止する日の1か月前までに届出が必要です。

医療法人破産の具体的な手続きと流れ

ステップ1:弁護士への相談と破産申立ての方針決定

医療法人の破産手続きは、弁護士への相談から始まります。弁護士は、経営状況や債務総額、資産状況などを詳細にヒアリングし、破産手続きが最善の選択肢であるかを判断します。

相談時には、経営悪化の経緯、借入金や未払金といった負債の内容、不動産や医療機器などの資産状況を正確に伝えることが重要です。特に、医療法人の債務について理事長が連帯保証人になっているケースが多く、その場合は法人破産と同時に理事長個人の自己破産も検討する必要があります。これらの情報をもとに、事業をいつ停止するか、患者の転院をどのように進めるかなど、関係者への影響を最小限に抑えるための具体的な方針を決定します。

ステップ2:受任通知の発送と債権者対応の停止

弁護士との委任契約が完了すると、弁護士はすべての債権者に対して「受任通知(介入通知)」を発送します。この通知には、債権者からの直接の督促や取り立てを法的に停止させる効力があります。

受任通知の発送により、経営者は日々の厳しい取り立てから解放され、精神的な負担が大幅に軽減されます。これにより、破産申立ての準備に冷静に集中できる環境が整います。また、通知発送後は「債権者平等の原則」に基づき、一部の債権者だけに返済する「偏頗弁済」を避け、すべての債権者への支払いを停止しなければなりません。これまで支払いに充てていた資金は、破産手続きに必要な費用として確保することが可能になります。

ステップ3:破産申立ての準備(資料収集・財産保全)

裁判所へ破産を申し立てるためには、法人の財産状況や負債状況を明らかにするための多くの書類が必要です。弁護士の指示に従い、正確な資料を迅速に収集することが求められます。

破産申立てに必要な書類の例
  • 申立書、陳述書(破産に至る経緯を説明する書類)
  • 財産目録、債権者一覧表
  • 直近2〜3期分の決算書、確定申告書控え
  • 預金通帳の写し(過去2年分程度)
  • 不動産登記簿謄本、賃貸借契約書
  • 有価証券、保険証券など

この期間中、財産を隠したり、不正に処分したりする行為は厳禁です。これは「資産隠し」とみなされ、詐欺破産罪という刑事罰の対象となるほか、理事長個人の自己破産において借金が免除されなくなる「免責不許可事由」に該当する可能性があります。また、従業員の解雇手続きや事務所の明け渡し準備なども並行して進めます。

ステップ4:裁判所への破産手続開始申立て

すべての必要書類が揃い、申立費用(弁護士費用、裁判所への予納金など)の準備が整ったら、弁護士が代理人として管轄の裁判所に破産手続開始の申立てを行います。依頼者本人が裁判所へ出向く必要はありません。

裁判所へ納める費用には、申立手数料(収入印紙)、官報公告費用、郵便切手代などがあります。法人の破産は、破産管財人が選任される「管財事件」となるため、その活動費用として最低でも20万円以上の予納金が必要となります。申立て後、通常は1〜2週間程度で裁判所から破産手続開始決定が出されます。

ステップ5:破産手続開始決定と破産管財人の選任

裁判所が申立書類を審査し、支払不能または債務超過の状態にあると認めると、「破産手続開始決定」を下します。この決定と同時に、裁判所は「破産管財人」を選任します。

破産管財人は、破産手続きを中立的な立場で進める中心的な役割を担う専門家であり、通常は裁判所が管轄地域の弁護士から選任します。開始決定後は、法人の財産を管理・処分するすべての権限が破産管財人に移ります。これにより、法人の経営者は自らの判断で財産を処分することができなくなります。

ステップ6:破産管財人による財産管理・換価と配当

選任された破産管財人は、法人が所有していたすべての財産(破産財団)を調査・管理し、売却などを通じて現金化(換価)します。換価の対象には、不動産、医療機器、在庫薬品、診療報酬債権などが含まれます。

医療法人特有の注意点として、麻薬や向精神薬など、法律で譲渡が制限されている薬品は売却できないため、納入業者への返品などの適切な処理が必要です。すべての財産の換価が完了すると、その資金を元に、法律で定められた優先順位に従って債権者への配当が行われます。税金や社会保険料などが優先的に支払われ、残りの資金が一般の債権者に債権額に応じて公平に分配されます。

ステップ7:債権者集会の開催と手続きの終結

破産手続開始決定からおおむね3か月後に、裁判所で債権者集会が開催されます。これは、破産管財人が債権者に対して、財産の換価状況や手続きの進捗を報告し、意見を聞くための場です。

法人の破産では債権者が集会に出席しないことも多く、その場合は数分で終了します。ただし、法人の代表者には集会への出席義務があり、破産管財人や裁判所からの質問に答える必要があります。財産の換価と配当がすべて完了すると、裁判所は「破産手続終結決定」を出し、手続きはすべて終了します。配当する財産が形成できなかった場合は、配当を行わずに手続きを終了する「異時廃止」となります。手続きが完了すると、医療法人の法人格は消滅します。

医療法人破産における3つの重要論点

患者への対応:告知と転院先の確保

医療法人の破産において、最も優先されるべきは患者の生命と身体の安全確保です。破産手続きに入ると診療の継続は極めて困難になるため、入院・通院中の患者一人ひとりに対して適切な対応が求められます。

特に入院患者については、安全かつ迅速な転院が不可欠です。転院先の確保や調整には時間がかかるため、弁護士や行政機関、地域の医師会と緊密に連携し、計画的に進める必要があります。通院患者に対しても、近隣の代替医療機関を案内するなど、治療が中断しないよう配慮しなければなりません。患者やその家族の不安を和らげるため、紹介状や診療録のコピー交付依頼などには誠実に対応することが重要です。

従業員への対応:医師・看護師等への説明と解雇手続き

破産手続きが開始されると、原則として全従業員は解雇の対象となります。ただし、破産管財人の業務を補助するため、事務職員など一部の従業員が一時的に雇用を継続される場合もあります。

従業員への説明は、給与の未払いが深刻化する前に行うのが理想です。解雇にあたっては、法的なトラブルを避けるため、弁護士と相談の上で適切な手続き(解雇予告など)を踏む必要があります。万が一、給与や退職金が未払いのまま破産に至った場合、従業員は「未払賃金立替払制度」を利用できます。これは、国が事業主に代わって未払賃金の一部(上限あり)を支払う制度であり、従業員の生活を保護するための重要なセーフティネットです。

診療録の保管:閉院後も続く法的義務と保管場所の確保

前述の通り、医療法人が閉院した後も診療録(カルテ)の保管義務は法律で定められています。医師法により最終診療日から5年間の保存が義務付けられており、これに違反すると罰金が科される可能性があります。

破産手続きでは、この保管義務は破産管財人が引き継ぎます。保管場所の確保は重要な課題であり、病院施設が他の医療機関に売却された場合は、その買受人に保管を依頼するのが一般的です。適切な承継先が見つからない場合は、破産財団の費用で外部の倉庫などを借りて保管することになります。なお、紙カルテをスキャンして電子データで保管する場合、「電子署名」と「タイムスタンプ」の付与が法的要件となっており、これを満たせば原本として認められます。

申立て準備期間中の資金管理と偏頗弁済のリスク

破産申立ての準備期間中、特に支払不能の状態に陥った後は、資金の取り扱いに細心の注意が必要です。特定の債権者にだけ優先的に返済する行為は「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼ばれ、破産法で固く禁じられています。

偏頗弁済は、すべての債権者を平等に扱うという「債権者平等の原則」に反する行為です。これが発覚した場合、破産管財人は「否認権」を行使して、支払われた金銭を破産財団に取り戻すことができます。また、理事長個人が自己破産する際には、偏頗弁済が免責不許可事由と判断され、個人の借金が免除されなくなる重大なリスクを伴います。

破産以外の選択肢|再建型手続きとの比較

民事再生手続きによる事業再建の可能性

経営が悪化しても、事業の継続に価値や可能性がある場合、民事再生という再建型の手続きを選択できることがあります。民事再生は、裁判所の監督のもとで再生計画を策定し、債権者の同意を得ながら事業の立て直しを目指す手続きです。

破産のように財産をすべて処分するのではなく、現在の経営陣が事業を続けながら、債務を圧縮・整理できる点が最大の特徴です。医療法人の場合、事業の公共性が高いため債権者の協力も得やすく、破産に比べて患者や地域医療への影響を抑えながら再建を図れる可能性があります。

私的整理(任意整理)による債権者との交渉

私的整理(任意整理)は、裁判所を介さず、債権者(主に金融機関)と直接交渉して、返済計画の見直し(リスケジュール)や債務の一部免除などを合意する手続きです。法的な強制力はありませんが、柔軟かつ非公開で手続きを進められるメリットがあります。

債権者の数が少なく、交渉に応じてくれる見込みがある場合に有効な選択肢です。弁護士が代理人として交渉することで、将来利息のカットや返済期間の延長など、経営者の負担を軽減する条件での合意を目指します。

破産と再建型手続きの選択基準

どの手続きを選択すべきかは、法人の経営状況や再建の可能性によって異なります。破産は事業を清算して法人を消滅させる「清算型」の手続きであり、再建の見込みが立たない場合に選択されます。一方、民事再生や私的整理は事業の継続を前提とした「再建型」の手続きです。

手続きの種類 目的 経営権 特徴
破産 事業の清算・法人格の消滅 消滅(破産管財人が管理) 資産をすべて換価し、債権者に配当して法人を清滅させる。
民事再生 事業の再建 原則として維持 裁判所の監督下で事業を継続しながら、再生計画に基づき債務を整理する。
私的整理 事業の再建 維持 裁判所を介さず、債権者との直接交渉により債務整理を行う。
主な債務整理手続きの比較

特に医師や歯科医師は、法人が破産しても資格を失うことはないため、再建の見込みが薄い状況で無理に事業を続けるよりも、早期に破産を選択して再出発を図る方が賢明な場合も少なくありません。

事業譲渡を前提とした破産申立ての留意点(休止届の活用)

破産手続きを進める中で、病院の事業を他の医療法人や医師に譲渡(M&A)できる場合があります。これは、地域医療の機能を維持しながら経営を立て直す有効な手段となり得ます。

事業譲渡を円滑に進めるためには、行政への届出タイミングが重要です。前述の通り、安易に「廃止届」を提出すると、地域の基準病床数の問題で譲受人が新規の開設許可を得られないリスクがあります。そのため、まずは「休止届」を提出し、病床数を確保した状態で譲渡手続きを進めるのが賢明です。また、診療録を引き継ぐ際には、個人情報保護法の観点から、事業譲渡契約の中で適切に取り扱う必要があります。

医療法人の破産手続きを弁護士に相談するメリット

債権者対応の一任による経営者の負担軽減

弁護士に破産手続きを依頼する最大のメリットの一つは、債権者対応から解放されることです。弁護士が送付する受任通知により、金融機関や取引先からの直接の督促が停止します。すべての連絡窓口が弁護士に一本化されるため、経営者は精神的なプレッシャーから解放され、破産手続きの準備や関係者への説明に集中することができます。

複雑な法的手続きと行政対応の円滑な進行

医療法人の破産は、通常の法人破産に加えて、保健所や地方厚生局などへの届出といった複雑な行政手続きが伴います。専門家である弁護士に依頼すれば、膨大な申立書類の作成から裁判所とのやり取り、行政庁との調整まで、一貫してスムーズに進めることができます。法律知識がないまま独断で手続きを進めると、意図せず法律に違反する行為をしてしまい、後々大きなトラブルに発展するリスクがあります。

関係者(患者・従業員)への影響を最小化する実務的助言

弁護士は、法律面だけでなく、破産に伴う様々な関係者への影響を最小限に抑えるための実務的なサポートも行います。

弁護士による実務的サポートの例
  • 入院患者の安全な転院先の確保に向けた行政機関との調整
  • 法的要件を満たした診療録の適切な保管方法の提案
  • 従業員に対する適切な解雇手続きの実施と未払賃金立替払制度の案内
  • 理事長個人の連帯保証債務に関する解決策の提示

これらの専門的な助言により、混乱を最小限に食い止め、すべての関係者にとって最善の着地点を目指すことが可能になります。

医療法人の破産に関するよくある質問

医療法人が破産した場合、理事長の個人資産はどうなりますか?

法人と個人は別人格であるため、法人が破産しても、原則として理事長個人の資産が処分されることはありません。ただし、法人の借入金などについて理事長が連帯保証人になっている場合、法人に代わって返済義務を負うことになります。その返済が困難な場合は、理事長個人も自己破産などの債務整理手続きを検討する必要があります。

破産手続き中も診療を続けることはできますか?

破産手続開始決定後は、原則としてすべての診療は停止されます。医療行為の継続は極めて困難になるためです。ただし、入院患者の転院先がすべて決まるまでの間など、患者の安全確保のために必要不可欠な範囲で、限定的に診療体制を維持するケースはあります。

病院が破産した場合、従業員の給与や退職金は支払われますか?

破産手続きの開始に伴い、原則として全従業員は解雇されます。未払いの給与や退職金がある場合、それは破産債権として扱われますが、財産の状況によっては全額が支払われないこともあります。その救済措置として、従業員は「未払賃金立替払制度」を利用し、国から未払賃金の一部(上限あり)の支払いを受けることが可能です。

法人が破産しても、理事や医師は医師免許を維持できますか?

はい、維持できます。医療法人の破産は、医師免許の欠格事由(免許を与えられない、または取り消される条件)には該当しません。医師法で定められている欠格事由は、罰金以上の刑に処せられた場合などであり、法人の経営破綻は含まれません。したがって、破産後も医師として別の医療機関に勤務するなど、キャリアを継続することは可能です。

まとめ:冷静な判断と専門家への早期相談が重要

本記事では、医療法人が破産する際の手続きの流れや、一般法人とは異なる特有の注意点について解説しました。特に、地域医療への影響を考慮した行政庁との連携、患者様の安全確保、そして診療録の適切な保管は、医療法人破産における極めて重要な論点です。これらの手続きは法的に複雑であり、理事長個人の連帯保証問題も絡むため、独断で進めることは大きなリスクを伴います。経営状況が悪化し、破産を視野に入れ始めた段階で、できるだけ早く倒産実務に精通した弁護士へ相談することが、関係者への影響を最小限に抑え、最善の解決策を見出すための第一歩となります。破産だけでなく、民事再生や事業譲渡といった再建の道も残されている可能性があるため、まずは専門家と共に現状を正確に把握し、冷静に今後の選択肢を検討しましょう。

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