人事労務

人員整理における派遣切り|派遣先企業が知るべき法的手続きと注意点

catfish_admin

企業の経営状況が悪化し、やむを得ず人員整理を検討する際、派遣社員の契約終了、いわゆる「派遣切り」は選択肢の一つとなり得ます。しかし、その手続きを誤ると、派遣元からの損害賠償請求や企業の信用失墜といった重大なリスクを招きかねません。この記事では、リストラの一環として派遣契約を終了させる際の法的な位置づけ、中途解除と雇止めの違い、具体的な手順、そして潜在的なリスクと回避策について網羅的に解説します。

目次

リストラにおける「派遣切り」とは?法的な位置づけと基本知識

いわゆる「派遣切り」とは?契約終了の2つの類型(中途解除・雇止め)

企業の経営状況悪化などに伴い、派遣労働者の契約を終了させる、いわゆる「派遣切り」は、法的に2つの類型に大別されます。それぞれの法的性質や要件は大きく異なるため、正確な理解が不可欠です。

類型 定義 法的性質・要件
中途解除 契約期間の満了前に、派遣先の都合で一方的に労働者派遣契約を解約すること。 原則として「やむを得ない事由」が必要であり、法的ハードルは非常に高い。
雇止め 契約期間の満了時に、次回の契約更新を行わずに契約を終了させること。 原則として自由だが、反復更新の実態などによっては「雇止め法理」により無効となる場合がある。
派遣契約終了の2つの類型

派遣先企業は、自社が検討している人員整理がどちらの類型に該当するかを正確に把握し、それぞれのリスクに応じた適切な手順を踏む必要があります。特に中途解除は契約違反に該当するリスクが高く、慎重な判断が求められます。

正社員の整理解雇とは異なる法的整理と派遣先の責任範囲

正社員の整理解雇と派遣契約の終了は、法的な枠組みが根本的に異なります。正社員の解雇は労働契約法上の厳しい解雇規制を受けますが、派遣契約の終了は、あくまで派遣先と派遣元との間の商取引契約の終了という位置づけになります。

対象 正社員の整理解雇 派遣契約の終了
法的根拠 労働契約法(解雇権濫用法理) 労働者派遣法、民法(契約)
主な要件 整理解雇の四要件(人員削減の必要性、解雇回避努力など)を厳格に満たす必要がある。 契約期間満了による終了が原則。中途解除の場合は「やむを得ない事由」が必要。
当事者 企業(使用者)と正社員(労働者) 派遣先企業と派遣元企業
整理解雇と派遣契約終了の法的整理の違い

ただし、派遣先企業が一切の責任を負わないわけではありません。派遣先は派遣労働者の就業環境を実質的に支配していることから、労働者派遣法に基づき、特に契約を中途解除する場合には、派遣労働者の雇用安定を図るための措置を講じる義務があります。安易な契約終了は、派遣元からの損害賠償請求や企業の社会的信用の低下につながるリスクを伴います。

派遣先・派遣元・派遣社員の三者間における契約関係の基本

派遣労働は、派遣先・派遣元・派遣社員の三者がそれぞれ異なる契約関係で結ばれています。この構造を理解することが、トラブルを回避する上で重要です。

三者間の主な契約関係
  • 派遣元と派遣社員: 労働契約を締結。派遣元が雇用主として賃金支払いや社会保険手続きの義務を負う。
  • 派遣元と派遣先: 労働者派遣契約を締結。派遣料金の取り決めなどを行う商取引契約。
  • 派遣先と派遣社員: 直接の契約関係はないが、派遣先が業務上の指揮命令を行う。

この関係から、派遣社員の雇用主はあくまで派遣元企業です。派遣先が派遣契約を終了しても、それは派遣元と派遣社員の間の労働契約が直ちに終了することを意味しません。派遣元は、引き続き雇用主として、対象社員に休業手当を支払ったり、次の派遣先を探したりする責任を負います。派遣先は、自社の行為が派遣元との契約終了に過ぎないことを認識し、派遣元の雇用責任にも配慮した対応が求められます。

派遣契約を「中途解除」する場合の法的要件と派遣先の義務

契約期間中の中途解除は原則不可|「やむを得ない事由」が必須

期間の定めがある労働者派遣契約は、その期間中は当事者双方を拘束します。したがって、派遣先の都合で契約期間の途中に解除することは原則として認められません。中途解除を正当化するには、民法上の規定に基づき「やむを得ない事由」の存在が不可欠です。

ここでいう「やむを得ない事由」とは、単なる業績不振や業務量の減少といった理由では足りず、客観的に契約の継続が著しく困難と認められる、極めて限定的な状況を指します。例えば、天災事変による事業所の壊滅や、倒産の危機に瀕し事業の大幅な縮小が避けられない場合などが該当し得ます。安易な経営判断による中途解除は、法的に無効と判断されるリスクが非常に高いと認識すべきです。

派遣先の都合で解除する場合に負うべき損害賠償責任

やむを得ない事由なく派遣先の都合で契約を中途解除する場合、派遣先は派遣元に対して債務不履行に基づく損害賠償責任を負います。派遣元は、その派遣社員を休ませる間の休業手当や、やむなく解雇する場合の解雇予告手当などを負担する必要があり、これらの費用が損害として請求されることになります。

実務上、トラブルを避けるためには、少なくとも解除予定日の30日前までに派遣元へ予告することが求められます。即日解除など、予告期間を確保できない場合は、派遣元との協議の上、残りの契約期間の派遣料金相当額や、少なくとも30日分の賃金相当額を損害賠償金として支払うことで合意解約を目指すのが一般的です。これは派遣労働者の生活保障に充てられるものであり、派遣先として果たすべき社会的責任でもあります。

派遣労働者の新たな就業機会を確保する措置義務

派遣契約を中途解除する場合、派遣先は金銭的な補償だけでなく、労働者派遣法に基づき、派遣労働者の新たな就業機会を確保するための措置を講じる義務を負います。これは、派遣労働者の雇用の安定を図るための重要な責務です。

措置義務の履行は、損害賠償による金銭解決に先立って行われるべきです。

新たな就業機会の確保に向けた具体的措置
  • 自社の関連会社や取引先に対し、当該派遣労働者の受け入れを打診し、就業をあっせんする。
  • 派遣元と協力し、他の派遣先に関する情報を提供するなど、次の就業先の確保を支援する。
  • 上記の措置を講じてもなお就業先が見つからない場合に、休業手当等の費用を負担する。

「やむを得ない事由」の具体的な判断基準と立証のポイント

中途解除を正当化する「やむを得ない事由」の有無は、個別の事情に応じて判断されますが、裁判などでは非常に厳格に審査されます。単なる経営不振ではなく、企業の存続が危ぶまれるほどの高度な経営危機などが求められます。

「やむを得ない事由」を立証するためには、客観的な証拠に基づき、中途解除が不可避であったことを示す必要があります。

「やむを得ない事由」の立証におけるポイント
  • 売上の急減や大幅な赤字を示す財務諸表など、経営危機を裏付ける客観的な資料を提示する。
  • 特定の事業部門の閉鎖や工場閉鎖など、業務自体が消滅した事実を示す。
  • 役員報酬の削減や新規採用の停止など、派遣契約の解除前に行った解雇回避努力を具体的に説明する。

派遣契約を「更新しない(雇止め)」場合の注意点と手続き

雇止めが無効と判断されるケース(雇止め法理の適用可能性)

契約期間満了時に更新を行わない「雇止め」は、中途解除と異なり原則として自由ですが、一定の条件下では労働契約法第19条に定められた「雇止め法理」により無効と判断されることがあります。

雇止めが無効とされるのは、主に以下のいずれかのケースに該当し、かつ雇止めに客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合です。

雇止め法理が適用されうる主なケース
  • 契約が何度も更新されており、実質的に期間の定めのない契約と変わらない状態と評価される場合。
  • 派遣社員が、契約が更新されるものと期待することに合理的な理由があると認められる場合。(例:上司から「長く働いてほしい」と言われたなど)

これらのケースに該当すると判断された場合、雇止めは無効となり、派遣元は従前と同一の条件で契約を更新したものとして扱われます。そのため、派遣先としても、派遣元における契約管理の実態を把握し、安易な雇止めを誘発しないよう注意が必要です。

契約を更新しない場合の事前予告義務(30日前ルール)

一定の条件を満たす有期労働契約を更新しない場合、雇用主である派遣元は、労働者に対して少なくとも契約期間満了の30日前までにその予告をしなければなりません。

事前予告が必要となる条件
  • 有期労働契約が3回以上更新されている場合。
  • 雇用開始から1年を超えて継続して勤務している場合。

この予告義務を負うのは法的には派遣元ですが、派遣先が更新しない意向を派遣元に伝えるのが遅れると、派遣元はこのルールを守れなくなります。その結果、派遣元が派遣社員との間でトラブルになり、派遣先に責任が追及される可能性も否定できません。したがって派遣先は、契約満了の1ヶ月以上前には更新の有無を決定し、派遣元に通知する社内体制を整えておくことが極めて重要です。

派遣労働者から理由の明示を求められた際の対応

雇止めの予告を受けた派遣社員から、更新しない理由について証明書の交付を求められた場合、雇用主である派遣元は、遅滞なくこれを交付する義務があります。この際、派遣元は派遣先に対して、雇止めの具体的な理由について情報提供を求めることになります。

派遣先としては、派遣元からの照会に対し、客観的かつ具体的な理由を誠実に説明する必要があります。単に「契約期間満了のため」といった形式的な理由だけでは、後の紛争に発展するリスクがあります。「担当していたプロジェクトの終了」「事業規模の縮小に伴う業務量の減少」など、事実に基づいた具体的な理由を整理し、派遣元と共有しておくことが、無用なトラブルを避ける上で不可欠です。

人員整理で派遣契約を終了させる際の具体的な手順と流れ

【手順1】派遣元企業への契約終了の申し入れと協議

人員整理のために派遣契約を終了させる場合、最初に行うべきは派遣元企業への正式な申し入れです。中途解除はもちろん、契約満了による雇止めの場合でも、更新しない方針が固まり次第、可及的速やかに申し入れを行います。一方的な通告ではなく、契約終了に至った経営上の背景などを丁寧に説明し、派遣元との協議の場を設ける姿勢が重要です。この段階で、契約終了の時期、派遣社員への告知方法、中途解除の場合の補償などについて、双方の合意形成を図り、協議内容は書面で記録しておきましょう。

【手順2】派遣元による派遣社員への通知と派遣先の協力事項

派遣元との間で契約終了の方針が固まったら、派遣社員本人への通知は必ず派遣元から行ってもらいます。派遣先の担当者が直接、解雇や契約終了を告げることは厳禁です。このような行為は、派遣先が実質的な雇用主であるかのような誤解を招き、「労働契約申込みみなし制度」の適用など、予期せぬ法的リスクを生じさせる原因となります。派遣先は、派遣元が本人へ説明する際に必要な情報を提供する、面談の場所を確保するなど、あくまで後方支援に徹することが肝要です。

【手順3】契約終了に伴う実務上の引継ぎと最終手続き

契約終了日が確定したら、最終出勤日に向けて計画的に業務の引継ぎを進めます。派遣社員が担当していた業務をリストアップし、後任者への引継ぎスケジュールを明確にします。特に、引継ぎ期間が短い場合は、業務マニュアルの整備を優先するなど、円滑な業務移行を最優先に考えます。また、最終日には、入館証やPC、制服といった貸与品の返却を漏れなく確認し、社内システムのアカウント削除なども手配します。これまでの貢献に感謝の意を伝え、円満な関係で終了できるよう配慮することが、企業の信頼性を保つ上で大切です。

派遣元との協議を円滑に進めるための交渉・調整のポイント

派遣元との協議は、感情的な対立を避け、建設的な解決を目指すことが重要です。そのためには、事前の準備と交渉に臨む姿勢がポイントとなります。

交渉・調整を円滑に進めるポイント
  • 事前に労働者派遣契約書を読み込み、特に中途解除に関する条項を確認しておく。
  • 経営状況の悪化を示す資料など、契約終了がやむを得ないことを示す客観的根拠を準備する。
  • 一方的に要求を押し付けず、派遣元の立場(派遣社員の雇用維持)にも配慮した代替案や解決金を提示する。
  • 協議の経過や合意内容は必ず書面に残し、後のトラブルを防止する。

派遣切りで起こりうる法的リスクとトラブル回避策

派遣元企業からの損害賠償請求リスクへの備え

派遣契約を中途解除した場合に最も現実的なリスクが、派遣元企業からの損害賠償請求です。派遣先の一方的な都合で契約を打ち切れば、派遣元は派遣料金という得べかりし利益を失うだけでなく、派遣社員に支払う休業手当などの新たな費用負担が発生します。これらの損害を補填するよう求められるのは、法的に正当な権利です。このリスクに備えるには、安易な中途解除を避け、やむを得ない場合でも、契約書に基づいた誠実な協議と、残存期間に応じた金銭的補償を前提とした合意解約を目指すことが賢明な対応となります。

労働契約申込みみなし制度の適用リスクと回避のポイント

労働者派遣法には、派遣期間制限違反などの違法派遣があった場合に、派遣先が派遣社員に対して直接雇用の申し込みをしたとみなされる「労働契約申込みみなし制度」があります。人員整理をきっかけに過去の違法状態が発覚し、この制度が適用されると、解雇どころか直接雇用する義務が生じるという、本末転倒の結果を招きかねません。

みなし制度適用リスクの回避策
  • 派遣可能期間(原則3年)など、労働者派遣法上の各種規制を日頃から遵守・管理する。
  • 派遣先が派遣社員の採用面接を行うなど、雇用主であるかのような行為(偽装請負)をしない。
  • 契約終了を検討する際は、自社の受け入れ状況に違法な点がないかを改めて確認する。

法務以外の経営リスク|風評被害や社内の士気低下への対策

派遣切りは、法的な問題だけでなく、企業の評判や組織全体に悪影響を及ぼす経営リスクもはらんでいます。不誠実な対応はSNSなどで拡散され、「ブラック企業」というレッテルのもとで風評被害を受け、採用活動やブランドイメージに深刻なダメージを与える可能性があります。また、派遣社員がぞんざいに扱われる様子は、他の正社員にも「明日は我が身」という不安を与え、組織全体の士気低下や人材流出につながる恐れがあります。

経営リスクへの対策
  • 対象となる派遣社員に対し、法的義務を果たすだけでなく、人間的な誠意をもって対応する。
  • 社内に対しては、人員整理の必要性や経緯を可能な範囲で説明し、憶測や不安が広がらないよう努める。
  • 契約終了のプロセス全体を通じて、公正さと透明性を担保するよう心がける。

派遣社員の契約終了に関するよくある質問

派遣社員本人に契約終了の旨を直接伝えても問題ないですか?

絶対に避けるべきです。 派遣社員との雇用契約の当事者は、あくまで派遣元企業です。派遣先の担当者が直接、契約終了や解雇に類する通告を行うと、派遣先が使用者であると誤認され、「労働契約申込みみなし制度」が適用されたり、不当解雇として責任を追及されたりする重大なリスクが生じます。契約に関する重要な通知は、必ず派遣元を通じて行わなければなりません。

正社員の整理解雇より先に派遣契約を終了させるのは問題ありませんか?

はい、法的に問題ありません。 むしろ、正社員の整理解雇が有効と認められるためには、その前提として、役員報酬のカットや希望退職者の募集と並んで、派遣契約の終了といった非正規雇用の調整を行う「解雇回避努力」を尽くしたことが求められます。したがって、経営合理化の一環として、正社員の雇用を守るために先に派遣契約を見直すことは、一般的に正当な手順とされています。ただし、それが契約期間中の中途解除にあたる場合は、別途「やむを得ない事由」が必要となります。

一度契約を終了させた派遣社員を、後日再度受け入れることはできますか?

はい、再度受け入れること自体は可能です。ただし、注意すべき点として、個人単位の派遣期間制限(同一の組織単位で3年)に達したことを理由に契約を終了させた場合、3ヶ月と1日以上の「クーリング期間」を空けなければ、同じ派遣社員を同じ組織単位で再び受け入れることはできません。この期間を空けずに受け入れると、派遣期間が通算されて期間制限違反となります。事業所の業績が回復した場合など、再度受け入れを検討する際は、このクーリング期間のルールを遵守する必要があります。

まとめ:派遣契約の終了は慎重な判断と誠実な対応が不可欠

人員整理における派遣契約の終了は、「中途解除」と「雇止め」のどちらに該当するかで法的リスクが大きく異なります。特に契約期間中の「中途解除」は原則として認められず、派遣元への損害賠償や派遣労働者の就業機会確保など、派遣先には重い責任が課されます。一方、契約満了時の「雇止め」であっても、反復更新の実態によっては無効となる可能性があるため、適切な事前予告と理由説明が不可欠です。いかなる場合も、派遣社員への通知は必ず雇用主である派遣元を通じて行い、派遣先が直接通告することは厳禁です。法的なリスクだけでなく、企業の評判を守るためにも、まずは労働者派遣契約書の内容を確認し、早期に派遣元と誠実な協議を開始することが、トラブルを回避する第一歩となります。

Baseconnect株式会社
サイト運営会社

本メディアは、「企業が経営リスクを正しく知り、素早く動けるように」という想いから、Baseconnect株式会社が運営しています。

当社は、日本最大級の法人データベース「Musubu」において国内1200万件超の企業情報を掲げ、企業の変化の兆しを捉える情報基盤を整備しています。

加えて、与信管理・コンプライアンスチェック・法人確認を支援する「Riskdog」では、年間20億件のリスク情報をAI処理、日々4000以上のニュース媒体を自動取得、1.8億件のデータベース等を活用し、取引先の倒産・不正等の兆候の早期把握を支援しています。

記事URLをコピーしました