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訴訟の弁護士費用は相手に請求できる?費用負担の原則と例外を法務視点で解説

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企業間の民事訴訟において、勝訴した場合に弁護士費用を相手方に請求できるのかは、経営判断を左右する重要な問題です。日本の法律では、弁護士費用は原則として自己負担とされており、この点を理解しないまま訴訟に踏み切ると、想定外のコストで「費用倒れ」になるリスクがあります。しかし、不法行為に基づく損害賠償請求や、契約書に特定の条項がある場合など、例外的に費用の一部を相手方に負担させられるケースも存在します。この記事では、訴訟における弁護士費用負担の原則と例外、費用の内訳、そして費用倒れを防ぐための実務ポイントについて詳しく解説します。

訴訟における弁護士費用負担の原則

弁護士費用は原則として自己負担

日本の民事訴訟では、弁護士に依頼するために支払う費用は、勝訴・敗訴にかかわらず原則として自己負担となります。これは、弁護士に依頼するかどうかは当事者が自由に決められるべき、という考え方に基づいています。

裁判所に納める申立手数料(印紙代)や郵便切手代などの「訴訟費用」は、民事訴訟費用等に関する法律の定めに従い、基本的には敗訴者が負担します。しかし、この「訴訟費用」に弁護士費用は含まれません。そのため、裁判で勝訴したとしても、自身が依頼した弁護士の費用を当然に相手方へ請求することはできないのです。訴訟を検討する際は、勝訴して得られる利益と弁護士費用のバランスを考え、費用倒れ(費用を差し引くと手元に残る利益がほとんどない、あるいは赤字になる状態)のリスクを常に考慮する必要があります。

日本で「敗訴者負担」が採用されない背景

日本で弁護士費用の「敗訴者負担」制度が原則として採用されていないのは、国民の裁判を受ける権利を実質的に保障するためです。もし敗訴した場合に相手の高額な弁護士費用まで負担しなければならないとなると、経済的なリスクが大きくなりすぎます。

このような制度は、以下のような「萎縮効果」を生むと懸念されています。

敗訴者負担制度がもたらす懸念点
  • 正当な権利を持つ人でも、敗訴時の金銭的ペナルティを恐れて訴訟の提起をためらってしまう。
  • 特に、資金力や情報量で劣る個人が、大企業や行政を相手取って訴訟を起こすことが極めて困難になる。

誰もが過度な経済的負担を心配せずに司法を利用できる環境を維持するため、弁護士費用は各自が負担するという原則が維持されています。

弁護士費用の内訳と算定基準

主な費用の種類(着手金・報酬金など)

弁護士費用は、依頼する内容や法律事務所の方針によって異なりますが、主に以下のような費用で構成されます。

主な弁護士費用の種類
  • 着手金: 弁護士が事件に着手する際に支払う費用。結果の成功・不成功にかかわらず原則として返還されません。
  • 報酬金: 事件が成功した場合に、得られた経済的利益に応じて支払う成功報酬。完全敗訴の場合は発生しません。
  • 実費: 裁判所に納める印紙代、郵便切手代、交通費、記録謄写費用など、手続きを進める上で実際にかかる費用です。
  • 日当: 弁護士が事務所外での活動(出張、裁判所への出廷など)を行った場合に、その拘束時間に対して支払う費用です。
  • 手数料: 内容証明郵便の作成や契約書チェックなど、1回程度の手続きで完了する事務を依頼する際に支払う費用です。
  • タイムチャージ: 顧問契約や企業法務などで、弁護士がその案件に費やした作業時間に応じて計算される費用です。

旧日弁連報酬規程に基づく算定方法

現在、弁護士費用は各法律事務所が自由に設定できますが、多くの事務所では、かつて日本弁護士連合会が定めていた「(旧)報酬等基準規程」を参考に料金体系を設けています。この基準では、着手金や報酬金は、請求額や得られた利益である経済的利益の額に応じて、定められた割合で計算されます。

経済的利益の額が大きくなるほど、適用される料率は低くなる仕組みです。

経済的利益の額 着手金 報酬金
300万円以下の部分 8% 16%
300万円を超え3,000万円以下の部分 5% 10%
3,000万円を超え3億円以下の部分 3% 6%
3億円を超える部分 2% 4%
旧日弁連報酬等基準規程に基づく算定基準(例)

実際には、この基準をベースにしながらも、事案の難易度や複雑さ、見込まれる労力などを考慮して、個別の案件ごとに費用が調整されるのが一般的です。

経済的利益に応じた計算シミュレーション

例えば、1,000万円の支払いを求める訴訟を提起する場合の弁護士費用を、旧日弁連報酬規程に基づいて計算してみましょう。

経済的利益1,000万円の場合の計算例(税別)
  1. 着手金の計算: 300万円までの部分(300万円×8%=24万円)と、300万円を超える部分(700万円×5%=35万円)を合計します。結果、着手金は59万円となります。
  2. 報酬金の計算: 訴訟で1,000万円全額が認められた場合、300万円までの部分(300万円×16%=48万円)と、300万円を超える部分(700万円×10%=70万円)を合計します。結果、報酬金は118万円となります。
  3. 費用の合計: このケースでは、着手金と報酬金の合計で177万円(59万円+118万円)の弁護士費用がかかります。別途、消費税と、印紙代などの実費も必要です。

このように、請求額が大きくなるほど費用も高額になるため、訴訟に踏み切る前の費用対効果の予測が不可欠です。

弁護士費用を相手方に請求できる例外

ケース1:不法行為に基づく損害賠償

原則自己負担である弁護士費用ですが、例外的に相手方への請求が認められるケースがあります。その代表例が、交通事故や名誉毀損といった不法行為を原因とする損害賠償請求です。

これは、不法行為の被害者は、自らの権利を守るために訴訟を起こさざるを得なかったという事情を考慮したものです。現代の複雑な訴訟において、専門家である弁護士の助けなしに十分な活動を行うことは困難であるため、裁判所は、弁護士費用も不法行為によって生じた相当因果関係のある損害の一部と認め、加害者にその負担を命じています。同様の考え方は、安全配慮義務違反など、不法行為に類似した債務不履行に基づく損害賠償請求でも適用されることがあります。

ケース2:契約書に費用負担の特約がある

当事者間で交わした契約書に、弁護士費用の負担に関する特別な条項(特約)がある場合も、例外的に相手方への請求が可能です。

企業間の取引で用いられる業務委託契約書や秘密保持契約書などでは、契約違反(債務不履行)が生じた場合に、「違反者は、相手方が権利保全のために要した合理的な弁護士費用を負担する」といった条項が設けられることがよくあります。これは契約自由の原則に基づき、当事者間の合意によって紛争解決コストの分担をあらかじめ決めておくもので、有効と解されています。このような特約は、契約違反の抑止力として機能すると同時に、実際にトラブルが発生した際の自社の経済的負担を軽減する効果が期待できます。

特約に基づく請求時の注意点と実務上の限界

契約書に弁護士費用の負担特約を盛り込んだとしても、実際に支出した費用の全額を請求できるとは限りません。実務上は、以下のような点に注意が必要です。

特約があっても注意すべき点
  • 裁判所による相当性の判断: 特約があっても、裁判所は事案の難易度や認容額などを考慮し、社会通念上「相当と認められる合理的な範囲」の金額のみを損害として認定する傾向があります。
  • 高額な費用は回収できないリスク: 実際に支払った弁護士費用が高額であっても、裁判所の判断で減額され、一部しか回収できないリスクは残ります。
  • 消費者契約における制約: 消費者と事業者の契約においては、消費者に一方的に過大な負担を課す条項は、消費者契約法により無効と判断される可能性があります。

特約があるからといって全額回収を前提とせず、慎重な費用対効果の見極めが求められます。

損害として認められる費用の範囲

不法行為で認められる弁護士費用の相場

不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、裁判所が損害として認定する弁護士費用の金額は、実務上、請求が認められた金額(認容額)の10%程度が相場となっています。

例えば、裁判所が加害者に対して500万円の損害賠償を命じた場合、それに加えて弁護士費用相当額の損害として50万円(500万円の10%)が上乗せして認められる、という運用です。ただし、この「10%」はあくまで目安であり、実際に被害者が弁護士に支払った着手金や報酬金の全額が補填されるわけではありません。現実の弁護士費用は認容額の10%を超えることも多く、その不足分は被害者の自己負担となるのが実情です。

裁判所が損害額を認定する際の考慮要素

裁判所は、弁護士費用相当の損害額を認定する際、単に認容額の10%を機械的に適用するわけではありません。最高裁判所の判例に基づき、以下のような事情を総合的に考慮して、個別の事案ごとに妥当な金額を判断します。

裁判所が考慮する諸般の事情
  • 事案の難易度: 医療過誤や建築瑕疵など、高度な専門知識が要求される事件か。
  • 請求額と認容額: 当初請求した金額と、最終的に裁判所が認めた金額との関係。
  • 訴訟活動に要した労力: 証拠収集の困難さや、審理に要した期間・労力など。

したがって、特に複雑で困難な事件では10%を超える割合が認められる可能性があり、逆に定型的な事件では低く抑えられることもあります。

費用倒れを防ぐための実務ポイント

契約書への費用負担条項の記載方法

費用倒れのリスクを未然に防ぐためには、契約を締結する段階で、弁護士費用の負担条項を適切に定めておくことが重要です。その際は、以下の点を意識すると実効性が高まります。

費用負担条項に含めるべきポイント
  • 費用の範囲を明記する: 「損害を賠償する」だけでなく、「権利の保全や回復のために要した合理的な弁護士費用を含む」と具体的に記載する。
  • 裁判外の手続きも対象にする: 訴訟だけでなく、示談交渉や調停、保全手続きに要した弁護士費用も対象に含めることで、紛争の初期段階から適用できるようにする。
  • 「合理的な範囲」と加える: 「全額」ではなく「合理的な範囲」とすることで、条項自体の有効性が争われにくくなり、相手方も合意しやすくなる。

訴訟提起前に行うべき相手方の資力調査

たとえ勝訴判決を得たとしても、相手方に支払い能力(資力)がなければ、判決は「絵に描いた餅」となり、費やした時間と費用は回収できません。そのため、訴訟を提起する前には、相手方の資力調査が不可欠です。

主な資力調査の方法
  • 公的記録の確認: 不動産登記情報や商業登記情報を取得し、資産の有無を確認する。
  • 現地調査: 相手方の所在地を訪問し、事業の状況や生活状況を把握する。
  • 弁護士会照会制度の活用: 弁護士に依頼すれば、弁護士会照会制度などを活用し、資産状況の手がかりを得られる場合があります

調査の結果、資産の散逸が懸念される場合は、訴訟提起と同時に仮差押えなどの民事保全手続きを行うことも極めて重要です。

費用対効果の慎重な見極め

訴訟に踏み切るか否かは、常に費用対効果という経済合理性の観点から判断する必要があります。特に請求額が少額の事案では、弁護士費用が回収見込額を上回り、確実に費用倒れとなるケースも少なくありません。そのような場合には、以下のような代替策も視野に入れるべきです。

費用倒れリスクが高い場合の代替策
  • 内容証明郵便での催告: 弁護士に依頼せず、まずは自社で催告書を送付して相手の反応を見る。
  • 支払督促や少額訴訟の利用: 通常の訴訟よりも簡易かつ低コストで利用できる裁判手続きを検討する。
  • 交渉による早期和解: 全額回収に固執せず、一部を譲歩してでも交渉段階で早期に和解し、回収を確定させる。

ビジネス上の経営判断として、紛争解決に投下するコストと時間を総合的に考慮し、最も合理的な選択をすることが重要です。

弁護士との委任契約時に確認すべき費用関連の重要事項

弁護士に事件を依頼する際は、後々のトラブルを防ぐため、委任契約書の内容を十分に確認し、費用に関する事項を明確にしておくことが大切です。

委任契約時の確認事項
  • 受任範囲の明確化: 委任する業務の範囲(例:交渉のみか、第一審訴訟までか、控訴審も含むか)を確認する。
  • 経済的利益の定義: 着手金や報酬金の算定基礎となる「経済的利益」をどのように定義するか(例:請求額か、回収額か)をすり合わせる。
  • 成功報酬の計算方法: 相手の請求を退けたり減額させたりした場合(経済的利益が金銭取得ではない場合)の成功報酬の計算方法を確認する。
  • 中途解約時の精算: 事件が途中で終了した場合の着手金の返還や報酬の清算ルールを把握する。
  • 日当・実費の負担: 出張時の日当の金額や、どのような実費が自己負担となるのかを事前に確認する。

弁護士費用に関するよくある質問

訴訟費用(印紙代等)と弁護士費用の違いは?

「訴訟費用」と「弁護士費用」は、法律上の性質や誰が負担するかが異なります。

項目 訴訟費用 弁護士費用
内容 裁判所に納める印紙代、郵便切手代、証人の日当・旅費など 弁護士に支払う着手金、報酬金、相談料など
根拠 民事訴訟費用等に関する法律に定められている 弁護士との委任契約に基づき発生する
負担者 原則として敗訴者が負担する 原則として依頼者自身が負担する
訴訟費用と弁護士費用の違い

敗訴時に相手の弁護士費用を支払う義務は?

日本の民事訴訟は敗訴者負担制度ではないため、原則として、裁判で敗訴したからといって相手方の弁護士費用を支払う義務はありません

ただし、例外として、①不法行為の加害者として損害賠償を命じられた場合や、②契約書に弁護士費用の負担に関する特約があり、その契約に違反したと判断された場合には、相手方の弁護士費用の一部を負担するよう命じられることがあります。

法人向けの弁護士費用保険は利用できますか?

はい、利用できます。近年、事業活動で発生する様々な法的トラブルに備えるため、法人や個人事業主を対象とした弁護士費用保険が提供されています。

この保険に加入しておけば、債権回収、労働問題、取引先との紛争などで弁護士に依頼する際の着手金や報酬金が保険金で支払われるため、費用倒れのリスクを大幅に軽減できます。ただし、補償の対象となるトラブルの範囲、支払われる保険金の上限額、免責事由などは契約内容によって異なるため、導入を検討する際は内容をよく確認することが重要です。

まとめ:訴訟における弁護士費用請求の原則を理解し、費用倒れを防ぐ

日本の民事訴訟では、弁護士費用は原則自己負担であり、敗訴者に当然に請求できるわけではありません。これは、裁判所に納める印紙代などの「訴訟費用」とは明確に区別されます。ただし、不法行為に基づく損害賠償請求や、契約書に費用負担に関する特約がある場合は、例外的に弁護士費用の一部を損害として相手方に請求できる可能性があります。その場合でも、認められる金額は裁判所が事案の難易度などを考慮して相当と判断した範囲に限られ、全額回収は困難なのが実情です。そのため、訴訟を検討する際は、事前に相手方の資力を調査し、契約書に費用負担条項を盛り込むなどの対策が重要になります。最終的な訴訟提起の判断は、勝訴によって得られる利益と、回収不能リスクを含む費用負担のバランスを慎重に見極める必要がありますので、具体的な見通しは個別の事案に応じて専門家にご相談ください。

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