法務

争点訴訟と形式的当事者訴訟の違いとは?定義・具体例を比較解説

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行政事件訴訟法における「争点訴訟」と「形式的当事者訴訟」は、行政庁が直接の被告にならない点で類似しており、その違いを正確に理解するのは容易ではありません。これらの訴訟類型は、私人の権利救済を図る上で重要な役割を果たしますが、法的性質や訴訟の構造が根本的に異なります。この違いを理解せずにいると、実務で適切な訴訟選択を誤るリスクも考えられます。この記事では、両者の定義と具体例を挙げながら、法的性質、当事者構成、判決の効力といった観点から相違点を明確に比較・解説します。

各訴訟の基本定義と具体例

争点訴訟の定義と根拠条文

争点訴訟とは、私法上の法律関係に関する訴訟でありながら、その勝敗の前提として行政処分や裁決の有効性が争点となる訴訟類型です。根拠条文は行政事件訴訟法第45条に規定されています。 形式的にはあくまで民事訴訟ですが、実質的に行政処分の効力を審査する必要があるため、行政事件訴訟法の一部の規定が準用され、特殊な審理が行われます。

争点訴訟の主な特徴
  • 最終的な目的は、所有権確認など私法上の権利義務を確定することです。
  • 訴訟の形式は、あくまで私人間の争いを解決する民事訴訟です。
  • 行政処分の効力は、判決を導くための前提問題として審理されます。
  • 行政庁の訴訟参加や職権証拠調べなど、行政事件訴訟法の規定が一部準用されます。

争点訴訟の具体例(農地買収計画)

争点訴訟の典型例として、過去の農地買収処分を巡る所有権確認訴訟が挙げられます。 これは、元の地主が「国による農地買収処分は無効だ」と主張し、現在その土地を所有している買受人に対して、土地の所有権確認や返還を求めるケースです。 この訴訟の構造は以下のようになります。

農地買収を巡る争点訴訟の構図
  • 原告: 元の地主
  • 被告: 現在の土地所有者(買受人)
  • 訴訟の目的: 土地所有権の確認・返還(私法上の権利)
  • 争点(前提問題): 国が行った農地買収処分の有効性
  • 行政庁(国)の立場: 直接の当事者ではありませんが、裁判所の決定により訴訟に参加する場合があります。

形式的当事者訴訟の定義と根拠条文

形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認・形成する行政処分や裁決に関して、法令の規定によってその法律関係の当事者の一方を被告として提起する訴訟です。根拠条文は行政事件訴訟法第4条に規定される当事者訴訟の一類型ですが、具体的な訴訟要件や被告は個別法に定められます。 通常、行政処分に不服がある場合は処分を行った行政庁を訴えますが、この訴訟では対立する利害関係にある相手方当事者を被告とします。これは、当事者間で直接争わせることが紛争の合理的解決につながると考えられる場合に、個別法で特別に定められています。

形式的当事者訴訟の主な特徴
  • 実質的には行政処分への不服申立てですが、形式的には当事者間の訴訟という形をとります。
  • 被告は処分庁ではなく、法律で指定された相手方当事者となります。
  • 行政事件訴訟法が定める当事者訴訟の一類型に分類されます。
  • 個別法に特別な規定がある場合にのみ提起が可能です。

形式的当事者訴訟の具体例(土地収用)

形式的当事者訴訟の代表例は、土地収用法に基づく損失補償金の増減を求める訴訟です。 公共事業のために土地が収用される際、収用委員会が補償額を裁決しますが、その金額に土地所有者や起業者(事業者)が不服を持つことがあります。この場合、裁決を下した収用委員会ではなく、利害が対立する当事者同士で訴訟を行います。

土地収用の損失補償を巡る訴訟の構図
  • 争いの対象: 収用委員会が決定した損失補償金の額
  • 補償金の増額を求める場合: 土地所有者(原告)が、起業者(被告)を訴えます。
  • 補償金の減額を求める場合: 起業者(原告)が、土地所有者(被告)を訴えます。
  • 処分庁(収用委員会)の立場: 裁決を行いますが、訴訟の被告にはなりません。

両者の相違点を項目別に比較

相違点1:訴訟の法的性質

両者の最も基本的な違いは、訴訟の法的性質にあります。

法的性質の比較
  • 争点訴訟: あくまで私法上の権利(所有権など)の確定を目的とする民事訴訟です。行政処分の効力は、その判断の前提問題にすぎません。
  • 形式的当事者訴訟: 行政事件訴訟法に定められた公法上の訴訟(当事者訴訟)です。行政処分によって形成された法律関係の変更を求めます。

相違点2:訴訟の当事者構成

誰が原告・被告になるかという当事者構成も大きく異なります。

当事者構成の比較
  • 争点訴訟: 原告・被告ともに、私法上の権利関係の主体である私人です。行政庁は原則として当事者になりません。
  • 形式的当事者訴訟: 個別法の規定によって被告が指定されます。通常、処分によって利害が対立する相手方当事者が被告となり、処分庁は被告になりません。

相違点3:判決の効力が及ぶ範囲

裁判所の判決が誰に影響を及ぼすかという点も異なります。

判決の効力の比較
  • 争点訴訟: 民事訴訟であるため、判決の効力は原則として訴訟の当事者間にのみ及びます(相対効)。処分が無効と判断されても、その処分自体が客観的になくなるわけではありません。
  • 形式的当事者訴訟: 行政事件訴訟であるため、判決は関連する行政庁などを拘束します。ただし、取消訴訟のような第三者への一般的な効力(対世効)はありません。

相違点4:行政事件訴訟法の準用

行政事件訴訟法のどの規定が適用(準用)されるかにも違いがあります。

法令準用の比較
  • 争点訴訟: 民事訴訟が原則ですが、行政処分の効力を審理する特殊性から、行政庁の訴訟参加や職権証拠調べなど一部の規定のみが限定的に準用されます。
  • 形式的当事者訴訟: 当事者訴訟そのものであるため、当事者訴訟に関する規定が広く適用されます。関係行政庁への判決の拘束力に関する規定も準用されます。

実務における訴訟選択の判断ポイント

実務でどちらの訴訟を選択すべきかは、争いの目的と法的根拠によって決まります。

訴訟選択の判断基準
  • 争点訴訟を選択する場合: 私法上の権利(例:所有権)の実現が主目的で、その障害となっている行政処分の無効を主張したいケース。
  • 形式的当事者訴訟を選択する場合: 行政裁決による補償金額などに不服があり、その変更を求めたい場合で、かつ個別法に当事者間訴訟を定める規定があるケース。

他の行政訴訟類型との関係

実質的当事者訴訟との違い

形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟は、どちらも「当事者訴訟」ですが、対象が異なります。

形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟の違い
  • 形式的当事者訴訟: 行政処分や裁決の存在を前提とし、その処分によって生じた当事者間の権利関係を争います。
  • 実質的当事者訴訟: 特定の処分を前提とせず、公法上の法律関係そのものの確認を求めます(例:公務員の地位確認、損失補償の直接請求など)。

抗告訴訟との役割分担

抗告訴訟とこれらの訴訟は、行政活動をコントロールする上で、それぞれ異なる役割を担っています。

各訴訟の役割分担
  • 抗告訴訟: 行政処分そのものの違法性を問い、取消しや無効確認を直接求めることで、行政活動を正面から是正する役割を担います。
  • 形式的当事者訴訟: 処分の存在は受け入れつつ、そこから生じる財産的な利害を当事者間で調整する役割を持ちます。
  • 争点訴訟: 抗告訴訟の出訴期間が過ぎた場合など、間接的・補完的に行政処分の効力を争うことで、私人の権利救済を図る役割を果たします。

よくある質問

Q. 争点訴訟が民事訴訟とされる理由は何ですか?

争点訴訟が民事訴訟に分類されるのは、訴訟の目的(訴訟物)が、所有権の確認や金銭の返還請求といった私法上の権利関係の確定にあるためです。行政処分の効力は、あくまでその私法上の権利を判断するための前提問題にすぎず、原告は行政庁ではなく相手方の私人に対して権利の実現を求めているからです。

Q. 形式的当事者訴訟に出訴期間はありますか?

行政事件訴訟法自体には当事者訴訟の出訴期間に関する一般的な定めはありません。しかし、形式的当事者訴訟は実質的に行政処分への不服申立てであるため、法律関係を早期に安定させる必要があります。そのため、根拠となる個別法(土地収用法など)で、裁決書の送達日から6ヶ月以内といった具体的な出訴期間が定められているのが一般的です。

Q. なぜ形式的当事者訴訟のような特殊な訴訟類型があるのですか?

この訴訟類型が存在する理由は、紛争の実態に即した、より合理的で効率的な解決を図るためです。例えば補償金の争いでは、実質的な利害関係者は補償金を支払う起業者と受け取る土地所有者です。行政庁を介さずに、この両者が直接裁判所で争う方が、紛争を迅速かつ的確に解決できるため、このような特殊な制度が設けられています。

まとめ:争点訴訟と形式的当事者訴訟の違いを理解し適切な権利救済へ

本記事では、争点訴訟と形式的当事者訴訟の違いを解説しました。争点訴訟は、あくまで私法上の権利確定を目的とする民事訴訟であり、行政処分の効力は前提問題として扱われます。一方、形式的当事者訴訟は、個別法の規定に基づき当事者間の利害調整を図る公法上の当事者訴訟です。実務でどちらの訴訟類型を選択すべきか判断する際は、まず「最終的に何を争いたいのか」という目的を明確にし、土地収用法などの個別法に特別な定めがないかを確認することが重要です。両者は役割が異なり、抗告訴訟も含めた適切な訴訟選択が権利救済の鍵となります。ただし、具体的な事案への適用は複雑な法的判断を伴うため、必ず弁護士などの専門家に相談してください。

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