法務

会社法の内部統制システム基本方針、何をどう書く?記載事項と実務を解説

経営リスクナビ編集部

企業の持続的成長とコンプライアンス遵守のため、会社法が求める内部統制システムの構築は経営の重要課題です。特に大会社に該当する場合、その基本方針の策定は法的な義務であり、具体的に何を定めればよいか悩む担当者も少なくありません。この基本方針には、会社法および会社法施行規則で定められた必須項目があり、これらを網羅することが求められます。この記事では、会社法が定める内部統制システムの基本方針に盛り込むべき具体的な項目や、その策定から開示までの流れ、実務上のポイントを詳しく解説します。

目次

内部統制構築義務の対象会社

会社法で義務付けられる「大会社」の定義

会社法において、内部統制システムの構築が法的に義務付けられているのは「大会社」です。大会社は社会的な影響力が大きく、多数の利害関係者を抱えているため、業務の適正を確保するための厳格な体制整備が求められます。

会社法で定義される大会社とは、以下のいずれかの基準に該当する株式会社を指します。

大会社の定義(会社法第2条第6号)
  • 最終事業年度の貸借対照表において、資本金の額が5億円以上である
  • 最終事業年度の貸借対照表において、負債の合計額が200億円以上である

これらの基準は事業年度末の決算数値に基づいて判断されるため、増資や借入によって意図せず大会社の条件を満たす可能性があります。企業は決算ごとに自社が該当するかを確認し、該当した場合は速やかに内部統制システムの基本方針を決定する義務を負います。

取締役会設置会社であることの要件

会社法上、内部統制システムの基本方針を決定する義務が明文で課されるのは、大会社かつ取締役会設置会社です。これは、内部統制システムの構築が会社の業務執行に関する重要な決定であり、合議体である取締役会で審議・決定されるべき事項と位置づけられているためです。

取締役会設置会社である大会社では、内部統制システムの基本方針を取締役会の専決事項として決議しなければなりません。この権限を個別の取締役に委任することはできず、必ず取締役会という機関を通じて決定し、その運用状況を監督する責務があります。一方で、大会社であっても取締役会を設置していない会社の場合、会社法上の義務付けの対象としては明確に規定されていませんが、取締役の善管注意義務として同様の体制構築が求められる点に留意が必要です。

基本方針に定めるべき共通事項

取締役・使用人の職務執行の適法性確保体制

取締役および従業員(使用人)が、法令および定款を遵守して職務を遂行するための体制を整備することは、内部統制の根幹です。法令違反は企業の社会的信用を失墜させ、経営に深刻なダメージを与えるため、実効性のあるコンプライアンス体制が求められます。

具体的な施策としては、以下のようなものが挙げられます。

適法性確保のための主な施策
  • コンプライアンスに関する基本方針や企業倫理憲章の策定
  • 全役職員を対象としたコンプライアンス研修の定期的実施
  • 通常の指揮命令系統から独立した内部通報制度(ヘルプライン)の設置と運用
  • 内部通報者の秘密保持と不利益取扱いの禁止を規程で明文化

経営トップが法令遵守を最優先する姿勢を明確に示し、組織全体に浸透させることが不可欠です。

取締役の職務執行に関する情報の保存・管理体制

取締役の職務執行に関する意思決定プロセスや業務の執行状況を、後から検証できるように情報を適切に保存・管理する体制を整備する必要があります。これにより、経営の透明性を確保し、株主や監査役に対する説明責任を果たすことができます。

具体的には、文書管理規程などを定め、以下の情報を適切に管理します。

保存・管理の対象となる主な情報
  • 株主総会議事録および取締役会議事録
  • 重要な契約書や稟議書などの決裁書類
  • その他、取締役の職務執行に関する重要な記録

情報の重要度に応じた保存期間の設定、アクセス権限の管理、情報漏洩や改ざんを防ぐためのセキュリティ対策を講じることが重要です。特に電子データについては、情報セキュリティ体制の強化が不可欠となります。

損失の危険の管理(リスク管理)に関する規程等

事業活動に付随する様々なリスクを網羅的に識別・評価し、適切に管理するための規程や体制を整備します。リスクを放置すれば、企業の存続を脅かす重大な損失につながるおそれがあるため、予防的な管理体制が求められます。

リスク管理体制には、以下の要素が含まれます。

リスク管理体制の構成要素
  • リスク管理に関する基本規程の策定
  • 事業・財務・災害・コンプライアンスなど、企業を取り巻くリスクの網羅的な洗い出しと評価
  • 全社的なリスクを管理する委員会等の設置と定期的なモニタリング
  • 重大な危機発生時における緊急時対応計画(コンティンジェンシープラン)の策定
  • 大規模災害やシステム障害に備えた事業継続計画(BCP)の策定と訓練

平時の予防的管理と、有事の迅速な対応の両面から体制を構築することが、企業の持続的成長を支えます。

取締役の職務執行の効率性確保に関する体制

コンプライアンスやリスク管理を徹底しつつも、取締役の職務執行が効率的に行われる体制を整備することも重要です。過度な統制によって経営のスピード感が失われると、企業の競争力低下につながるため、業務の適正性と効率性のバランスを取る必要があります。

効率性を確保するための具体的な施策は次の通りです。

職務執行の効率性を高める施策
  • 取締役会の付議基準を明確化し、意思決定の迅速化を図る
  • 業務執行に関する権限を適切に委譲するための職務権限規程の整備
  • 経営の監督と業務執行を分離する執行役員制度の導入
  • 中期経営計画や年度予算に基づく目標管理制度の運用
  • 稟議・決裁プロセスのIT化によるスピードアップ

適切な権限委譲と目標管理を通じて、迅速かつ効果的な経営判断を可能にする体制を整えます。

企業集団における業務の適正を確保する体制

親会社単体だけでなく、子会社を含めた企業集団(グループ)全体で業務の適正を確保する体制を構築する必要があります。子会社の不祥事や業績不振は、親会社の企業価値に直接的な影響を及ぼすため、グループガバナンスの確立が不可欠です。

企業集団における内部統制の具体策には、以下のようなものが考えられます。

グループガバナンス強化のための体制
  • グループ全体の経営方針やコンプライアンス方針の策定と共有
  • 子会社の重要事項に関する親会社への事前報告・承認ルールの設定
  • 親会社の内部監査部門による子会社への定期的な業務監査の実施
  • グループ共通の内部通報窓口の設置

子会社の自主性を尊重しつつも、グループ全体の統一的な方針のもとで適切な管理・監督を行う体制が求められます。

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監査役設置会社等の追加事項

監査役の職務を補助すべき使用人に関する体制

監査役がその職務を効果的に遂行できるよう、監査役の業務を補助する従業員(使用人)に関する体制を定める必要があります。監査役が独立した立場から広範な監査業務を行うには、情報収集や調査をサポートするスタッフの存在が重要だからです。

この体制には、監査役からの要請があった場合に、以下の対応を行うことなどを定めます。

監査役補助体制の整備
  • 監査役の指揮命令下に置かれる専任の組織(監査役室など)や担当者の配置
  • 補助使用人の人事(任命・異動・評価)に関して、監査役の同意を必要とするなど独立性を確保する措置
  • 補助使用人が取締役など他の役職員から独立して職務を遂行できる体制の確保

これにより、監査役監査の実効性を高める基盤を構築します。

取締役・使用人から監査役への報告体制

取締役や従業員から監査役へ、会社の重要な情報が適時かつ適切に報告される体制を整備します。監査役が不正行為や重大なリスクを早期に発見し、是正勧告などの権限を適切に行使するためには、現場からの情報提供が不可欠です。

報告体制には、以下の仕組みを盛り込むことが求められます。

監査役への報告体制の要点
  • 会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合の、監査役への即時報告義務
  • その他、監査役が定めた重要事項に関する定期的な報告ルートの確保
  • 内部通報制度で受け付けた情報が、監査役にも共有される仕組み
  • 監査役へ報告を行ったことを理由とする、報告者への不利益な取り扱いの禁止

情報が滞りなく監査役に集まり、かつ報告者が保護される仕組みを構築することで、監査役の監視機能が実質的に機能します。

その他監査役の監査の実効性を確保する体制

上記以外にも、監査役の監査が形骸化せず、実効性をもって行われるための環境を整備する必要があります。監査役が経営陣から独立した立場で職務を全うできるよう、人的・物的な支援体制を定めます。

監査の実効性を確保するための具体的な体制は次の通りです。

監査役監査の実効性を確保するための追加体制
  • 代表取締役と監査役との定期的な意見交換会の設定
  • 監査役の重要な会議への出席機会の保障
  • 監査活動に必要な費用(外部専門家の活用費用を含む)の予算確保と支払い手続きの明確化
  • 内部監査部門や会計監査人との緊密な連携体制の構築

これらの体制を整えることで、監査役が名実ともに企業の監視役としての役割を果たせるようになります。

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基本方針の決定から開示までの流れ

取締役会での決定が必須要件

内部統制システムの基本方針は、必ず取締役会の決議によって決定しなければなりません。これは、内部統制の構築が会社全体の業務執行の根幹に関わる最重要事項であり、個別の取締役に判断が委ねられるべきではないからです。

基本方針の決定は、以下のプロセスで進められます。

基本方針の決定プロセス
  1. 経営陣が自社の事業内容やリスクを分析し、会社法が求める項目を網羅した基本方針の原案を作成する。
  2. 原案を取締役会に上程し、社外取締役を含む全取締役で十分な審議を行う。
  3. 審議を経て、取締役会の決議によって基本方針を正式に決定する。
  4. 決定された基本方針は、経営環境の変化に応じて定期的に見直し、必要に応じて改定の決議を行う。

取締役会での決議は、会社法上の義務であると同時に、経営陣がガバナンスに対して責任を持つという強い意思表示でもあります。

事業報告における開示義務と記載内容

取締役会で決議された内部統制システムの基本方針は、その内容の概要と当該事業年度における運用状況の概要を、毎事業年度の事業報告に記載して開示する義務があります。これは、株主をはじめとするステークホルダーに対して経営の透明性を示し、説明責任を果たすための重要なプロセスです。

事業報告には、主に以下の内容を記載します。

事業報告における記載事項
  • 取締役会で決議した内部統制システムの基本方針の具体的な内容(の概要)
  • 当該基本方針に基づいて、その事業年度にどのように体制が運用されたかの状況(の概要)

例えば、コンプライアンス研修の実施回数や内部通報の件数、リスク管理委員会の開催状況などを具体的に記載します。この記載内容は監査役の監査対象となり、内容が不相当と判断されれば監査報告にその旨が記載されるため、正確かつ誠実な開示が求められます。

策定・運用における実務ポイント

自社の実態に合わせた具体性を持たせる

内部統制システムは、他社の模倣ではなく、自社の業種、規模、組織文化などの実態に合わせて具体的に設計することが極めて重要です。実態にそぐわない形式的なシステムは形骸化しやすく、いざという時に機能しないためです。

例えば、海外展開を進める企業であれば海外子会社の管理体制や為替リスク管理に、多店舗展開する小売業であれば各店舗の現金管理や労務管理に、それぞれ重点を置く必要があります。基本方針だけでなく、それを実行するための各種規程や業務マニュアルも、現場の従業員が迷わず実践できるレベルまで具体化することが、実効性を確保する鍵となります。

定期的な見直しと取締役会への報告

内部統制システムは一度構築したら終わりではなく、事業環境の変化に対応するため、継続的に見直し、改善していく必要があります。このPDCAサイクルを回すことが、システムの有効性を維持する上で不可欠です。

内部統制システムの運用サイクル
  1. 内部監査部門などが、各部門における内部統制の運用状況を定期的にモニタリングする。
  2. モニタリング結果を評価・分析し、課題や改善点を特定する。
  3. 評価結果と改善策を取締役会に報告し、審議を受ける。
  4. 取締役会からの指示や承認に基づき、基本方針や社内規程の見直し、運用の改善を行う。

このサイクルを定着させることで、内部統制システムを常に最新の経営環境に適応させることができます。

会社法改正への継続的な対応の必要性

会社法は社会経済情勢の変化に対応するため頻繁に改正されるため、企業は法改正の動向を常に注視し、内部統制システムを適時にアップデートしていく必要があります。法改正への対応を怠ると、意図せず法令違反の状態に陥るリスクがあります。

特にコーポレートガバナンスに関する改正は、内部統制システムに直接影響を与えることが少なくありません。法務部門などが中心となり、法改正の情報を迅速に収集・分析し、自社の規程や体制に修正が必要かどうかを検討し、必要であれば取締役会決議を経て変更対応を行うプロセスを確立しておくことが重要です。

基本方針と各種社内規程との役割分担と連携

取締役会で決定する「基本方針」と、現場で運用される「各種社内規程」の役割分担を明確にし、両者が矛盾なく連携するよう整備することが実務上重要です。基本方針が全社的な理念や大枠を示すものであるのに対し、社内規程は具体的な業務手順を定めるものです。

基本方針 各種社内規程(例)
役割 内部統制の全体像、目的、責任体制といった大枠を定める 日常業務における具体的な手続き、判断基準、担当者を定める
具体例 「コンプライアンスを徹底する体制を整備する」 「内部通報規程」「コンプライアンス規程」「稟議規程」
基本方針と社内規程の役割分担

基本方針の理念が、個別の規程を通じて現場の隅々まで浸透するよう、両者の整合性を保ちながら整備・運用していく必要があります。

方針の不備が取締役の善管注意義務違反に問われるリスク

内部統制システムの構築・運用は取締役の善管注意義務(善良な管理者の注意義務)の一環です。もしシステムに重大な不備があったり、構築を怠ったりした結果、会社に損害が発生した場合、取締役は任務懈怠責任を問われ、会社に対して損害賠償責任を負うリスクがあります。

過去の裁判例では、形式的に内部統制の基本方針を決議していたとしても、その内容が不十分であったり、実質的に機能していなかったりした場合には、取締役の責任が認められています。取締役は、自らの法的責任を十分に認識し、自社のリスクに見合った実効性のある内部統制システムを構築・運用する義務があります。

よくある質問

会社法とJ-SOXの内部統制の違いは?

会社法が定める内部統制と、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(通称J-SOX)は、目的や対象が異なります。会社法の内部統制が経営全般の適正化を目指すのに対し、J-SOXは財務報告の信頼性確保に特化しています。

項目 会社法に基づく内部統制 金融商品取引法に基づく内部統制(J-SOX)
根拠法 会社法 金融商品取引法
目的 業務全般の適正性の確保(健全な会社経営) 財務報告の信頼性の確保(投資家保護)
対象会社 主に大会社(取締役会設置会社) 全ての上場企業
焦点 コンプライアンス、リスク管理、効率性など広範 決算・財務報告プロセスに限定
開示 事業報告において基本方針と運用状況を開示 内部統制報告書として提出・開示
外部監査 開示内容自体への監査義務はない(監査役の監査対象) 公認会計士または監査法人による監査が義務
会社法と金融商品取引法(J-SOX)における内部統制の比較

両者は目的が異なりますが、実務上は多くの部分で関連し合っており、一体的に整備・運用されることが一般的です。

基本方針の見直し頻度はどのくらいが適切?

基本方針の見直し頻度について、法的な定めはありません。しかし、経営環境は常に変化するため、少なくとも年に1回は定期的にその内容を検証し、見直す機会を設けることが推奨されます。多くの企業では、事業年度末に当該年度の運用状況を評価し、次年度計画を策定するタイミングで見直しを行っています。

また、定期的な見直しに加え、以下のような重要な変化があった場合には、随時見直しを行う必要があります。

随時見直しが必要となる主なケース
  • M&A(企業の合併・買収)による組織の大きな変化
  • 新規事業への進出や事業内容の大きな変更
  • 重大な法令違反や不祥事の発生
  • 関連する法制度の改正

大会社でなければ基本方針は不要ですか?

会社法上の決定義務があるのは大会社(かつ取締役会設置会社)のみであり、それ以外の会社に基本方針の策定・開示義務はありません。しかし、法的義務の有無にかかわらず、あらゆる企業にとって内部統制システムを整備することは強く推奨されます

その理由は、企業の規模を問わず、取締役は会社に対して善管注意義務を負っており、適切な管理体制を構築する責任があるからです。また、内部統制の整備には以下のようなメリットがあります。

大会社以外でも内部統制を整備する意義
  • 従業員の不正行為や業務上のミスを未然に防止する
  • 取引先や金融機関からの社会的信用を高める
  • 将来的な株式上場(IPO)を目指す上での必須要件となる
  • 健全な組織文化を醸成し、企業価値の向上に貢献する

まとめ:会社法が求める内部統制システムの基本方針を理解し、実効性ある体制を構築する

会社法は、大会社である取締役会設置会社に対し、内部統制システムの基本方針を取締役会で決議することを義務付けています。この基本方針には、取締役の職務執行の適法性・効率性の確保、リスク管理体制、企業集団における業務の適正化など、会社法施行規則で定められた項目を漏れなく盛り込む必要があります。また、監査役設置会社では、監査役の監査の実効性を確保するための体制も追加で定めることが求められます。重要なのは、法令上の要件を満たすだけでなく、自社の事業規模やリスクの実態に即した、実効性のあるシステムを構築・運用することですのです。まずは自社が会社法上の大会社に該当するかを確認し、該当する場合は基本方針に法定の項目が網羅されているかを見直すことから始めましょう。内部統制システムの構築・運用は、取締役の善管注意義務にも関わる重要な責務であるため、具体的な方針策定や運用に際しては、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

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