フソー化成のストライキと不当労働行為|東京都労働委員会の命令と企業リスクを解説
企業の取引先管理において、対象企業の労務コンプライアンス体制を評価することは、自社の事業リスクを管理する上で極めて重要です。特に、ストライキや不当労働行為といった労働問題は、企業の安定性や評判(レピュテーション)に直結するため、その背景や事実関係を正確に把握する必要があります。この記事では、フソー化成株式会社で発生した一連の労働争議について、ストライキに至る経緯から東京都労働委員会による不当労働行為の認定、そして会社に命じられた救済措置までを客観的な情報に基づいて解説します。
フソー化成で発生した労働争議の経緯とストライキの概要
発端となった賃金カット問題と労働組合の結成
フソー化成における労働争議は、一人の従業員が会社から受けた懲戒処分や賃金カットといった不利益な取扱いが発端となりました。この従業員は、一連の会社の対応に自身の権利擁護と労働条件改善の必要性を感じ、令和4年1月13日に労働組合へ加入しました。組合は直ちに会社へ組合加入の事実を通知し、団体交渉を申し入れました。しかし、会社側は新型コロナウイルスの感染拡大などを理由に、団体交渉の開催を繰り返し延期しました。
- 就業時間中に就業規則を閲覧したことを理由に「賞与なし」の指導カードを交付(令和3年10月)
- 上記指導に基づき、賞与を不支給とする(令和3年12月)
- 他の従業員のタイムカードを打刻したとして、出勤停止の懲戒処分を下す
ストライキの実施と組合側の要求内容
会社側が団体交渉の開催を引き延ばし、誠実な対話に応じなかったため、労働組合は争議行為をもって対抗することを決定しました。令和4年2月20日、組合は会社に対し、翌21日に当該組合員がストライキを実施する旨を通告し、予告通りに組合員数十名が本社前に集結して抗議活動を行いました。このストライキは、膠着状態にある労使交渉を打開するための、労働組合法で認められた正当な権利行使として実施されました。
- 団体交渉の開催引き延ばしを中止し、誠実な交渉に応じること
- 組合員の自宅ポストへ業務連絡書を直接投函するなどの嫌がらせ行為を中止すること
- 一方的に不支給とされた賞与(一時金)や未払い賃金を支払うこと
- 正常な労使関係を構築し、労働条件を回復させること
会社側との団体交渉の経過と争点の深化
ストライキや労働委員会への救済申立てを経て、一度は和解が成立し、会社は誠実に団体交渉へ応じることを約束しました。しかし、令和4年12月11日に行われた団体交渉で、会社代表者は組合側の発言に感情的な態度を示し、わずか25分で一方的に交渉を打ち切りました。この交渉で会社側は、賞与の不支給理由について「ないものに理由はない」「評価がゼロだから払わない」などと抽象的な回答に終始し、組合が求めた具体的な根拠の提示を拒否しました。事前に通告していない議題には一切応じないという硬直的な姿勢も、実質的な議論を妨げ、労使間の溝をさらに深める結果となりました。この対応が、新たな不当労働行為救済申立てへとつながりました。
不当労働行為とされた具体的な行為の内容
「警備誘導」と称する業務命令の実態と問題点
会社は当該組合員に対し、通常の業務とはかけ離れた特異な業務を命じました。令和4年4月21日、東京工場の警備および誘導係として、氏名が表示されたヘルメットやたすきを着用させ、工場の屋外に置かれたパレットの上に一日中立ち、車両誘導を行わせました。この業務は、近隣住民や通行人の目に晒される環境下で長時間立ち続けることを強いるものであり、肉体的な苦痛だけでなく、精神的な屈辱を与えるものでした。東京都労働委員会は、この業務命令が対立する組合員への嫌悪感情から、精神的・身体的苦痛を与えることを目的としたものと認定しました。これは正当な人事権の範囲を逸脱した不利益取扱いであり、組合活動への報復的な意味合いを持つ支配介入であると判断されました。
組合員に対する「学習」命令と組合活動への影響
警備誘導業務の後、会社はさらに当該組合員へ「学習」を主な業務として命じました。令和4年12月、「できる仕事が少なくなった」などの理由をつけ、就業時間の大部分を学習に充てるよう指示しました。学習場所は、他の従業員から隔離された階段下などのスペースで、教材も業務との関連性が薄いビジネスマナー書などが含まれていました。このような隔離環境での無意味な学習の強制は、組合員を職場で孤立させると同時に、他の従業員への見せしめとして機能しました。労働委員会は、この行為が組合の団結力を弱め、組織運営を妨害することを意図した支配介入行為にあたると認定しました。
その他、組合の弱体化を意図したとされる言動
会社は、特異な業務命令以外にも組合員を標的とした差別的な取扱いを行いました。
- 社内回覧からの除外: 業務連絡や人事情報などが記載された社内回覧から当該組合員のみを意図的に除外し、休業日を知らされず出勤させるなどの不利益を生じさせた。
- 賞与(一時金)の不支給: 他の従業員には支給されている賞与を、当該組合員に対してのみ「評価ゼロ」を理由に不支給としたり、制度自体がないかのような虚偽説明を行ったりした。
これらの行為は、組合員であることを理由とした明白な差別であり、組合員を経済的・精神的に追い込むことで組合からの脱退を促し、組織の弱体化を図る不当労働行為意思に基づくものと判断されました。
東京都労働委員会による判断(令和4年(不)第79号事件)
事件の主な争点と労使双方の主張
本事件では、会社の一連の行為が労働組合法第7条で禁止される不当労働行為に該当するかが争われました。組合側は、すべての行為が組合を嫌悪・敵視する意図に基づくものだと主張したのに対し、会社側は業務上の正当な措置であると反論しました。
- 争点1: 団体交渉を一方的に打ち切った行為が、不誠実団交にあたるか。
- 争点2: 「学習」や「待機」を命じた業務指示が、不利益取扱いおよび支配介入にあたるか。
- 争点3: 社内回覧から除外した措置が、不利益取扱いおよび支配介入にあたるか。
- 争点4: 賞与(一時金)を不支給としたことが、不利益取扱いおよび支配介入にあたるか。
労働委員会が認定した不当労働行為の要点
東京都労働委員会は、審査の結果、組合側の主張を全面的に認め、会社の行為の多くを不当労働行為と認定しました。
- 団体交渉: 具体的な説明を避け一方的に交渉を打ち切った行為は、不誠実な団体交渉(労組法第7条第2号)に該当する。
- 業務指示: 業務と関連の薄い学習を隔離された場所で行わせたことは、不利益取扱い(同条第1号)および支配介入(同条第3号)に該当する。
- 社内回覧からの除外: 情報を意図的に遮断する行為は、不利益取扱いおよび支配介入に該当する。
- 一時金の不支給: 虚偽の説明を行い、反組合的な意図で不支給としたことは、差別的な不利益取扱いに該当する。
会社側に命じられた救済措置の具体的な内容
労働委員会は、認定した不当労働行為を是正し、正常な労使関係を回復させるため、会社に対して以下の救済措置を命じました。
- 今後、組合との団体交渉を途中で打ち切ることなく、誠実に応じること(誠実交渉命令)。
- 「待機」や「学習」の業務指示を撤回し、組合員を以前の屋内作業へ復帰させること(原職復帰命令)。
- 業務連絡や社内回覧において、組合員を他の従業員と差別的に取り扱わないこと。
- 不当に支給されなかった一時金相当額(合計30万円)を組合員に支払うこと(バックペイ命令)。
- 今後同様の行為を繰り返さない旨を約束する文書(ポスト・ノーティス)を組合に手渡し、社内に掲示すること。
一連の労働問題が企業に与える影響とコンプライアンス上の課題
企業の評判(レピュテーション)と信認への影響
労働委員会から不当労働行為の認定を受けると、企業の評判(レピュテーション)は深刻なダメージを受けます。これは公的機関から「法令を遵守しない企業」と判断されたことを意味し、「ブラック企業」との評価につながりかねません。このような情報はインターネットを通じて拡散しやすく、ブランドイメージの低下、顧客離れ、採用活動の困難化、従業員の離職率上昇など、事業の根幹を揺るがす問題に発展する可能性があります。
取引先から見た労務コンプライアンス上のリスク評価
現代の企業間取引では、サプライチェーン全体でのコンプライアンス遵守が重視されます。不当労働行為やストライキが発生する企業は、労務管理体制に問題があるとみなされ、取引先から敬遠されるリスクがあります。特にコンプライアンスを重視する大手企業は、取引開始時や継続時に労務状況を厳しく評価するため、取引の停止や契約解除につながる可能性も否定できません。労務コンプライアンスの欠如は、社内問題にとどまらず、企業の収益機会を失わせる重大な経営リスクとなります。
今後の労務管理体制に求められる改善点
同様の問題を再発させないためには、経営者の意識改革と公正な労務管理体制の構築が不可欠です。
- 労働関係法令を正しく理解し、就業規則や賃金規程などを法令に適合する形で整備・運用する。
- 人事評価や懲戒処分などの人事権行使において、恣意性を排除し、合理的で説明可能な基準を設ける。
- 労働組合を敵視せず、対等な交渉パートナーとして尊重し、誠実な対話を通じて課題解決を図る。
- ハラスメント防止対策や内部通報制度を整備し、問題の早期発見と解決が可能な職場環境を構築する。
経営者が注意すべき「支配介入」の意図認定と判断基準
経営者は、自身の言動が「支配介入」と認定されるリスクを理解する必要があります。支配介入の成立には、組合を積極的に弱体化させようという明確な意図(支配介入意思)まで必要とされず、客観的に見て組合の運営に影響を及ぼすおそれがあるという認識があれば足りると解されています。つまり、経営者が「良かれと思って」した発言や個人的な組合批判も、組合員の活動を萎縮させる効果があれば不当労働行為とみなされる可能性があります。本件のように、特定の組合員を隔離する行為は、それ自体が反組合的な意図を強く推認させます。経営者は、組合員への言動が第三者にどう受け止められるかを常に意識し、介入とみなされかねない行為を厳に慎むべきです。
フソー化成の労働問題に関するよくある質問
そもそも不当労働行為とは何ですか?
不当労働行為とは、憲法で保障された労働者の権利(団結権、団体交渉権、団体行動権)を侵害する使用者の行為を指し、労働組合法第7条で禁止されています。
- 不利益取扱い: 組合員であることを理由に解雇や減給など不利益な処分をすること。
- 団体交渉拒否: 正当な理由なく団体交渉を拒否したり、不誠実な態度をとったりすること。
- 支配介入: 組合の結成や運営に干渉し、組合を弱体化させようとすること。
- 報復的不利益取扱い: 労働委員会へ救済を申し立てたことなどを理由に不利益な処分をすること。
この不当労働行為事件は労働委員会の命令で終結したのですか?
いいえ、必ずしも終結したとは限りません。労働委員会の命令に不服がある場合、会社または組合は、国の中央労働委員会に再審査を申し立てたり、裁判所に命令の取消しを求める訴訟(行政訴訟)を提起したりできます。これらの不服申立て手続きが取られず期間が満了するか、あるいは裁判で命令が確定した時点で、法的に終結します。
フソー化成はどのような事業を行っている会社ですか?
公開情報によると、フソー化成株式会社は東京都足立区に本社を置き、主にエアコン関連部材の製造・販売を手掛けています。登記情報には事業目的として「プラスチック成型加工及び販売」などが記載されており、プラスチック製品のメーカーであることがわかります。
フソー化成の代表取締役社長は誰ですか?
公開されている情報によれば、フソー化成株式会社の代表取締役社長は小林洋氏です。東京都労働委員会の命令書では個人名は伏せられていますが、労働組合の活動報告などで実名が公表されています。労働争議においては、経営トップの判断が事態の推移に大きな影響を与えます。
労働組合との団体交渉で企業側が特に注意すべき点は何ですか?
最も重要なのは「誠実交渉義務」を果たすことです。単に交渉の席に着くだけでなく、組合の要求や質問に対し、具体的な根拠や資料を示して誠実に回答・説明する義務があります。正当な理由なく交渉を打ち切る、議題を一方的に制限する、決定権限のない担当者のみを交渉に出席させるといった行為は、不誠実団交として不当労働行為にあたる可能性があります。感情的な対立を避け、冷静な対話を通じて問題解決を目指す姿勢が求められます。
まとめ:フソー化成の事例から学ぶ取引先選定における労務リスク評価の重要性
フソー化成の一連の労働問題は、従業員個人への不利益な取扱いをきっかけに労働組合との紛争に発展し、最終的に会社の行為が公的機関から不当労働行為と認定された事例です。東京都労働委員会は、会社側による不誠実な団体交渉や、組合員を隔離するような業務命令、差別的な賞与不支給などを組合活動を妨害する意図を持った行為だと明確に判断しました。この命令は、同社の労務コンプライアンス体制に重大な課題があることを客観的に示唆しています。取引先のコンプライアンス体制を評価する上で、このような公的機関による認定は極めて重い事実と捉えるべきです。サプライチェーン全体での法令遵守が求められる今日、取引先の労務リスクを正確に把握し、自社の事業への影響を慎重に見極めることが不可欠です。

