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強制退去の手続きと流れ|裁判から執行までの期間・費用を解説

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賃貸物件の家賃滞納トラブルにより、強制退去を検討している貸主や、立ち退きを求められている借主の方は、法的な手続きを正確に理解することが不可欠です。貸主が独断で鍵を交換するなどの自力救済は法律で固く禁じられており、大きなリスクを伴います。正しい手順を踏まないと、問題解決が遠のくばかりか、新たなトラブルに発展しかねません。この記事では、裁判所が関与する強制退去(建物明渡)について、訴訟から強制執行に至るまでの法的な流れ、期間、費用を段階ごとに詳しく解説します。

強制退去の基礎知識

強制退去とは何か

強制退去とは、賃貸借契約に違反した賃借人(借主)を、貸主が法的な手続きを経て物件から立ち退かせる制度です。貸主の一方的な判断で鍵を交換したり、荷物を運び出したりすることはできません。必ず「建物明渡請求訴訟」などの裁判手続きを経て、裁判所の許可(判決など)を得る必要があります。そして、その許可に基づいて執行官が実際に物件の明け渡しを執行します。家賃滞納や無断転貸といった契約違反があった場合でも、法律で定められた厳格な段階を踏まなければ、強制的に退去させることはできません。

自力救済が禁止される理由

法律で自力救済が禁止されているのは、法治国家としての社会秩序を維持するためです。自力救済とは、権利を侵害された人が、裁判所などの公的機関を通さずに、実力で権利を回復しようとすることです。これを認めると、腕力や財力に勝る者が一方的に権利を行使することが横行し、社会が混乱に陥ります。貸主が借主とのトラブルを理由に、無断で鍵を交換したり、室内の家財道具を処分したりする行為は違法です。これらの行為は、貸主自身が法的な責任を問われる原因となります。

貸主が自力救済を行った場合、以下のようなリスクを負う可能性があります。

自力救済が貸主にもたらすリスク
  • 借主から損害賠償を請求される民事上の責任
  • 住居侵入罪や器物損壊罪といった刑事罰を科される可能性

強制退去が認められる法的要件

強制退去が法的に認められるかどうかは、「貸主と借主の間の信頼関係が破壊された」と客観的に判断できるかどうかが最も重要な要件です。賃貸借契約は、借主の生活基盤に関わる重要な契約であるため、一度や二度の軽微な契約違反で直ちに解除することはできません。裁判実務上では、信頼関係が破壊されたと判断される典型的なケースがあります。

信頼関係の破壊と判断される主なケース
  • 家賃を継続的に滞納している(目安として3か月分以上
  • 貸主に無断で物件の増改築や、第三者への転貸(又貸し)を行った
  • ペット禁止物件での無断飼育や、騒音などの迷惑行為を繰り返し、注意しても改善しない
  • 契約違反ではないが、建物の著しい老朽化で倒壊の危険があるなど、建て替えに正当な事由がある

裁判所による強制退去の流れ

段階1:交渉と内容証明郵便による催告

強制退去に向けた最初の手続きは、裁判外での交渉から始まります。家賃滞納などの問題が発生した場合、まずは電話や書面で状況を確認し、支払いを促します。この段階で話し合いがまとまれば、法的手続きを回避できます。交渉で解決しない場合は、次の手順で正式な催告を行います。

契約解除前の督促手順
  1. 借主本人との任意交渉で解決しない場合、連帯保証人や家賃保証会社に連絡し、支払いを要請します。
  2. それでも解決しない場合、配達証明付きの内容証明郵便で督促状を送付します。
  3. 内容証明郵便には、滞納額と支払期限を明記し、「期限内に支払いがない場合は賃貸借契約を解除する」旨を明確に記載します。
  4. この書面は、後に裁判になった際に、貸主が正式な手続きを踏んだことを証明する重要な証拠となります。

段階2:建物明渡請求訴訟の提起

内容証明郵便で指定した期限を過ぎても借主が支払いや明け渡しに応じない場合、管轄の裁判所に「建物明渡請求訴訟」を提起します。これは、建物の明け渡しと滞納家賃の支払いを求めて、貸主が裁判を起こす手続きです。

建物明渡請求訴訟の提起手順
  1. 請求の趣旨や原因を記載した「訴状」を作成し、賃貸借契約書などの証拠書類を添えて裁判所に提出します。
  2. 訴状が受理されると、裁判所は第1回の口頭弁論期日を、訴えの提起から約1か月後の日程で指定します。
  3. 裁判所から借主に対し、訴状の副本と期日呼出状が送達され、借主は正式に訴えられたことを知ります。
  4. 借主が不在や受け取り拒否で訴状が届かない場合は、「付郵便送達」や「公示送達」といった特別な手続きが必要になることもあります。

段階3:口頭弁論期日と判決の確定

口頭弁論期日では、貸主と借主の双方がそれぞれの主張を述べ、証拠を提出します。第1回期日に借主が答弁書を出さずに欠席した場合、貸主の主張がすべて認められ、即時に勝訴判決が出ることがほとんどです。借主が争う姿勢を見せた場合は、約1か月に1回のペースで期日が重ねられます。審理の途中、裁判官から和解が勧められることも多く、分割払いや退去期限などを条件に合意できれば、和解調書が作成されて手続きは終了します。和解が成立しない場合は、裁判所が判決を下します。判決書を受け取った日の翌日から2週間以内に控訴がなければ、判決は確定し、法的に強制執行が可能になります。

段階4:強制執行の申立て

明け渡しを命じる判決が確定しても借主が自主的に退去しない場合、貸主は地方裁判所の執行官に対して強制執行を申し立てます。貸主が自らの手で借主を追い出すことは「自力救済」として禁止されているため、国家権力によって明け渡しを実現する必要があります。申立てには、以下の書類が必要です。

強制執行の申立てに必要な主な書類
  • 債務名義(確定した判決正本など)
  • 執行文(債務名義に裁判所書記官が付与したもの)
  • 送達証明書(判決が借主に送達されたことを証明する書類)

申立ての際には、執行官への手数料や郵便切手代に充てるための予納金(通常は数万円程度)を裁判所に納める必要があります。申立てが受理されると、執行官と打ち合わせを行い、具体的な執行日程を決定します。

段階5:執行官による催告と断行

強制執行の申立て後、実際の明け渡しは「催告」と「断行」の2段階で進められます。これは、借主に自主的な退去を促す最後の機会を与えるための手続きです。

強制執行の実施手順
  1. 明渡しの催告:執行官が貸主らと物件に赴き、占有状況を確認します。その場で、約1か月後の「断行予定日」と「それまでに任意で退去すべき」旨を記載した公示書を室内に貼り付けます。
  2. 断行:催告で指定された期限を過ぎても借主が退去しない場合、断行予定日に強制的な明け渡しが実施されます。執行官の指揮のもと、執行補助業者(専門の業者)が室内の家財道具をすべて搬出します。
  3. 引渡しと完了:すべての荷物が運び出され、物件が空になったことを確認した後、鍵を交換して貸主に引き渡されます。これで一連の強制退去手続きは完了です。

強制退去の期間と費用

手続き全体にかかる期間の目安

強制退去の手続きは、家賃滞納が発生してから実際に物件の明け渡しが完了するまで、全体で約6か月から1年、場合によってはそれ以上かかることもあります。借主が裁判で争うか、あるいは送達手続きがスムーズに進むかによって期間は大きく変動します。

手続き段階 所要期間の目安
家賃滞納発生から内容証明送付まで 約3か月
訴訟提起から第一回期日まで 1か月から1.5か月
審理(借主が争う場合) 数か月程度
判決言い渡しから確定まで 2週間
強制執行申立てから断行まで 1か月から1.5か月
合計 約6か月から1年
強制退去手続きにかかる期間の目安

主な費用の内訳(裁判・執行)

強制退去には、訴訟と強制執行の各段階で様々な費用が発生します。特に、強制執行の際に荷物を運び出す執行補助業者の費用は高額になる傾向があります。費用の総額は、最低でも50万円以上、物件の状況によっては100万円を超えることもあります。

強制退去にかかる主な費用
  • 弁護士費用:弁護士に依頼した場合の着手金や報酬金で、30万円~50万円程度が目安です。
  • 裁判費用:訴状に貼る収入印紙代や、書類送達のための郵便切手代で、数万円程度です。
  • 執行予納金:強制執行を申し立てる際に裁判所へ納める費用で、執行官手数料や郵便切手代として6万円~7万円程度が目安です。
  • 執行補助業者費用:荷物の搬出、運搬、保管などにかかる費用です。部屋の広さや荷物の量で大きく変動し、30万円~100万円以上かかることもあります。

費用の負担者は原則どちらか

法律上、訴訟費用や強制執行にかかった費用は、原則として敗訴した借主(債務者)が負担すべきものと定められています。しかし、現実にはこれらの費用を貸主が回収できるケースは極めて少なく、ほとんどの場合で貸主の持ち出しとなります。

費用を貸主が負担せざるを得ない理由
  • 借主が経済的に困窮しており、支払い能力がないケースがほとんどであるため。
  • 借主が自己破産を申し立てた場合、法的に費用の回収が不可能になるため。
  • 弁護士費用は、裁判の勝敗にかかわらず、原則として依頼した本人が負担するものとされているため。

立て替えた執行費用を回収するための実務

貸主が立て替えた執行費用を回収する現実的な方法は非常に限られています。一つの方法として、強制執行の際に借主の動産(家財道具など)を差し押さえて売却し、その代金を回収に充てる「動産執行」があります。しかし、生活に不可欠な家財道具の多くは法律で差押えが禁止されています。そのため、換金価値のある貴金属や美術品などが残されているケースは稀であり、動産執行で費用を全額回収できることはほとんど期待できません。

強制退去に関する注意点

貸主側の注意点(証拠保全など)

貸主が強制退去の手続きを円滑に進めるためには、法的手続きを裏付ける客観的な証拠を事前にしっかりと保全しておくことが極めて重要です。証拠が不十分なまま訴訟に踏み切ると、主張が認められないリスクがあります。

貸主が保全すべき証拠の例
  • 家賃滞納の証拠:家賃管理台帳、入金履歴がわかる預金通帳の写しなど。
  • 契約違反行為の証拠:無断転貸や迷惑行為の状況を記録した写真、動画、近隣住民からの苦情が書かれた書面など。
  • 督促・通知の証拠:配達証明付き内容証明郵便の控えや、借主との交渉内容を記録したメモ、録音データなど。

借主側の対応策(交渉・相談など)

借主の立場で裁判所から訴状を受け取った場合、絶対に無視してはいけません。放置すると、貸主の主張が一方的に認められ、すぐに強制退去させられてしまいます。速やかに以下の対応を取ることが重要です。

借主が訴状を受け取った場合の対応手順
  1. 訴状に同封されている「答弁書」を、指定された期限内に必ず裁判所へ提出します。
  2. 答弁書には、支払いが困難な事情や、分割払いを希望するなどの和解案を誠実に記載します。
  3. 裁判所の期日には必ず出席し、裁判官を介して貸主との和解交渉に臨みます。
  4. 自治体の無料法律相談や法テラスなどを利用し、できるだけ早く弁護士に相談します。

執行現場で起こりうる想定外のトラブルと対処法

強制執行の断行日には、予期せぬトラブルが発生することもありますが、執行官はこれらに対処するための権限を持っています。

トラブルの例 対処法
借主が暴れるなど激しく抵抗する 執行官は警察官に援助を要請する権限があり、安全を確保しながら執行します。
鍵が交換されていて室内に入れない 事前に手配した解錠技術者が、執行官の許可のもとで強制的に鍵を開けます。
契約者ではない第三者が居住している こうした事態を防ぐため、訴訟提起前に「占有移転禁止の仮処分」を申し立てておくことが有効です。
執行現場のトラブルと対処法

よくある質問

裁判所からの訴状を無視するとどうなりますか?

裁判所から送られてきた訴状や期日呼出状を無視すると、借主は「貸主の主張をすべて認めた」とみなされます(擬制自白)。その結果、第1回の裁判期日で直ちに貸主勝訴の判決が下され、強制執行の手続きが速やかに進められてしまいます。話し合いや分割払いの機会を失い、一方的に住居を追われることになるため、訴状は絶対に無視せず、誠実に対応する必要があります。

強制執行で運び出された荷物はどうなりますか?

強制執行で運び出された家財道具などの荷物は、執行官が指定する倉庫で一時的に保管されます。その後の流れは以下の通りです。

搬出された荷物の流れ
  1. 執行補助業者が荷物をすべて搬出し、専門の倉庫で約1か月間保管します。
  2. 保管期間中であれば、借主は費用を支払って荷物を引き取ることができます。
  3. 保管期間を過ぎても引き取りがない場合、荷物は競売にかけられて売却されるか、価値がないものとして廃棄処分されます。

執行の際に警察は関与しますか?

強制執行は民事上の手続きであるため、原則として警察は「民事不介入」の立場から直接関与しません。しかし、執行現場で借主が暴力行為に及ぶなど、執行官や作業員の安全が脅かされる危険な状況が発生した場合は例外です。このような場合は、執行官の判断で警察に援助を要請することができ、警察官が現場に臨場して安全の確保を補助します。

住む場所がなくても退去は必要ですか?

はい、必要です。裁判で建物の明け渡しを命じる判決が確定した場合、「次に住む場所が見つからない」という個人的な事情は、退去を拒む法的な理由にはなりません。判決の効力は強力であり、自主的に退去しなければ強制執行によって住居から立ち退かされることになります。このような事態を避けるためにも、以下の対応を早期に行うことが重要です。

退去を迫られた場合の相談先
  • 裁判の段階で貸主と和解交渉し、退去までの猶予期間を設けてもらう。
  • 自治体の福祉課や生活相談窓口に相談し、公的な支援制度を利用する。
  • 住居確保給付金など、家賃補助や転居費用に関する支援が受けられないか確認する。

まとめ:強制退去の法的手続きを理解し、適切な対応を取るために

裁判所を通じた強制退去は、貸主・借主双方の権利を守るための厳格な法的手続きです。貸主による自力救済は固く禁じられており、訴訟から強制執行まで、定められた段階を踏む必要があります。このプロセスは半年から1年以上かかることもあり、費用も高額になるため、双方にとって大きな負担となります。そのため、まずは交渉による解決を目指し、訴訟に至った場合でも和解の可能性を探ることが重要です。貸主は家賃滞納の証拠保全を徹底し、借主は訴状を無視せず誠実に対応することが求められます。強制退去の手続きは複雑であり、個別の事情によって対応が異なるため、トラブルが発生した際は早めに弁護士などの専門家に相談し、適切な助言を得るようにしましょう。

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