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社員の不祥事対応マニュアル|発生時のフローから平時の予防策まで解説

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社員による不祥事は、企業規模を問わず突発的に発生し、その初期対応を誤ると法的責任やブランド毀損といった深刻な経営リスクに直結します。万が一の事態に備え、平時から実効性のある体制を構築しておくことが不可欠です。この記事では、不祥事の主な種類から平時の予防策、そして実際に発生した際の初動対応から再発防止策まで、一連の対応フローをフェーズ別に網羅した実務マニュアルとして詳しく解説します。

目次

社員による不祥事の主な種類と具体例

業務上の横領・着服・背任行為

業務上横領とは、経理担当者など会社から正当に金品の管理を任されている従業員が、その金品を不法に自分のものにする犯罪行為です。会社の預金を自分の口座に移したり、店舗の売上金を抜き取ったりする行為が典型例です。一方、背任は、自己または第三者の利益を図る目的で会社に損害を与える行為を指し、取引先に不当に高く発注して見返りを受け取る(キックバック)などが該当します。

これらの行為は、会社との信頼関係を根本から破壊する重大な裏切りです。なお、金銭の管理権限を持たない一般社員が金庫から現金を盗む行為は、占有が会社にあるため窃盗罪となります。いずれも刑法で罰せられる犯罪であり、特に業務上横領は単純横領罪よりも重い刑罰が科されます。

行為の具体例
  • 経理担当者が会社の預金を自己の口座に不正に送金する
  • 営業担当者が集金した売上金を着服する
  • 店舗責任者がレジから現金を抜き取る
  • 会社から貸与されたPCや備品を無断で売却し換金する
  • 取引先と共謀して架空の取引を計上し、代金を着服する
  • 不当に高い価格で発注を行い、取引先から見返り(キックバック)を受け取る

顧客情報や企業秘密の不正な持ち出し・情報漏洩

顧客情報や技術情報などの情報資産は、企業の競争力の源泉です。これらの情報が外部に漏洩すると、顧客の流出や技術的優位性の喪失など、事業に深刻なダメージを与えます。情報漏洩は、退職予定の従業員が競合他社への転職を有利にするために顧客データを不正に持ち出すといった意図的なケースのほか、メールの誤送信やクラウドサービスの共有設定ミスといった過失によっても発生します。

不正競争防止法では、企業の重要な情報を「営業秘密」として法的に保護しています。保護対象となるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

営業秘密の三要件
  • 秘密管理性:情報が秘密として管理されていること(例:アクセス制限、マル秘表示)
  • 有用性:事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること
  • 非公知性:公然と知られていないこと

これらの要件を満たす営業秘密を不正に開示・使用した場合、刑事罰や損害賠償請求の対象となります。企業は、アクセス権限の厳格な管理や操作ログの監視といった技術的対策を講じ、情報資産を守る体制を構築することが不可欠です。

パワーハラスメント・セクシュアルハラスメントなどのハラスメント行為

職場におけるハラスメントは、従業員の尊厳を傷つけ、就業環境を悪化させる重大な不祥事です。これらの行為を放置すれば、被害者の離職を招くだけでなく、企業の安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われるリスクがあります。

種類 定義 具体例
パワーハラスメント 職務上の地位や人間関係の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える行為 ・同僚の前での執拗な叱責や人格を否定する暴言<br>・達成不可能な業務の強制や、逆に仕事を与えないこと
セクシュアルハラスメント 性的な言動により、労働者に不利益を与えたり就業環境を悪化させたりする行為 ・不必要な身体への接触<br>・性的な冗談や、食事やデートへの執拗な誘い
マタニティハラスメント 妊娠・出産・育児休業などを理由として、解雇や降格などの不利益な取り扱いを行う行為 ・妊娠を報告した従業員に退職を強要する<br>・育児休業からの復帰を妨げる、または不当な配置転換を行う
主なハラスメントの種類と具体例

業務上必要な指導とハラスメントの境界線を明確にし、全従業員が正しく理解するための研修が重要となります。

SNSでの不適切な投稿や業務外での信用失墜行為

従業員が個人で利用するSNSでの不適切な投稿が、企業のブランドイメージを大きく損なう事例が後を絶ちません。飲食店従業員が厨房で不衛生な行為を撮影・投稿する、いわゆる「バイトテロ」はその典型です。投稿者本人に悪意がなくても、情報は瞬時に拡散され、企業の社会的信用を失墜させます。

一度インターネット上に拡散された情報は完全に削除することが困難であり、「デジタルタトゥー」として永続的に企業の評判に悪影響を及ぼし続けます。業務時間外の私的な投稿であっても、従業員の身元が特定されれば、その言動は企業の評価と結びつけられます。企業はSNS利用に関するガイドラインを策定し、就業規則に基づいて懲戒処分の対象となる行為を具体的に周知しておくことが、リスク管理の観点から不可欠です。

飲酒運転やその他私生活における犯罪行為

従業員が私生活で起こした犯罪行為も、企業の社会的信用を大きく損なう不祥事となり得ます。特に飲酒運転は、社会的な非難が極めて強く、厳しい処分が科される重大な犯罪です。

飲酒運転で検挙された場合、運転者には免許停止・取消といった行政処分に加え、重い刑事罰が科されます。人身事故を起こした場合は、さらに罪の重い危険運転致死傷罪に問われる可能性もあります。従業員の逮捕は業務に支障をきたすだけでなく、報道などを通じて企業名が公になれば、企業全体のイメージダウンは避けられません。運送業など車両を業務で利用する企業では、事業許可の取消しといった経営の根幹を揺るがす事態に発展するリスクさえあります。企業は、アルコールチェックの徹底や定期的な研修を通じて、従業員に公私を問わず高い倫理観を持つよう指導する責任があります。

不祥事対応を誤った場合に想定される経営リスク

法的責任の追及(損害賠償請求・行政処分など)

不祥事が発生した際、企業は様々な法的責任を問われる可能性があります。対応を誤ると、その責任はさらに拡大し、企業の存続を脅かす事態にもなりかねません。

企業が追及される主な法的責任
  • 使用者責任(民法):従業員が業務中に第三者に与えた損害を、雇用主である企業が賠償する責任。
  • 安全配慮義務違反(労働契約法):ハラスメントや過重労働から従業員を守る義務を怠った場合に、被害者から損害賠償を請求される責任。
  • 善管注意義務違反(会社法):経営陣が不祥事対応を怠り会社に損害を与えた場合に、株主から代表訴訟を起こされる責任。
  • 各種行政処分:労働基準法や個人情報保護法などの法令違反に対し、是正勧告や業務停止命令、許認可の取消しといった処分を受けるリスク。
  • 刑事罰:贈収賄や談合、不正競争防止法違反など、事案によっては企業自身や経営者が刑事罰の対象となる。

これらの法的リスクは、企業の財務状況に直接的な打撃を与えるだけでなく、事業の継続そのものを困難にします。

企業ブランドの毀損と社会的信用の失墜(レピュテーションリスク)

不祥事がもたらすレピュテーションリスク(評判や評価が損なわれるリスク)は、金銭的な損失以上に深刻な影響を及ぼすことがあります。長年かけて築き上げた信頼やブランドイメージも、一度の不祥事とその後の不適切な対応によって一瞬で崩壊しかねません。

現代ではSNSなどを通じてネガティブな情報が瞬時に拡散するため、一度失墜した社会的信用を回復するには、多大な時間とコストを要します。ブランド価値の毀損は、顧客離れによる売上減少や株価の急落を招き、企業の財務基盤を揺るがします。最悪の場合、再起不能なダメージとなる可能性も否定できません。

顧客・取引先からの信頼喪失と事業への影響

顧客や取引先との信頼関係は、事業活動の根幹です。不祥事によってこの信頼が損なわれると、既存契約の解除や新規取引の停止など、事業に直接的な打撃が及びます。例えば、製造業で品質データの改ざんが発覚すれば、取引先はコンプライアンス上のリスクを回避するため、取引を停止せざるを得ません。

このような取引の断絶は、売上の急減だけでなく、サプライチェーン全体の混乱を引き起こします。一度信頼を失った企業は市場での競争力を失い、競合他社にシェアを奪われることになります。事業の継続性を確保するためには、取引先に対して誠実な説明と透明性のある対応を行い、信頼回復に全力を尽くすことが不可欠です。

従業員の士気低下と組織コンプライアンス意識の崩壊

不祥事の影響は、組織内部にも深刻なダメージを与えます。会社が問題を隠蔽したり、不祥事を起こした従業員に甘い処分を下したりすると、真面目に働く他の従業員の士気は著しく低下します。会社への不信感は、優秀な人材の流出や組織全体の生産性低下につながります。

最も危険なのは、組織全体のコンプライアンス意識が崩壊し、「不正をしても許される」という歪んだ企業風土が定着することです。このような状態に陥ると、新たな不祥事が連鎖的に発生する負のスパイラルに陥りかねません。経営陣が率先してコンプライアンス遵守の重要性を訴え、不正を一切許さないという断固たる姿勢を示すことが、組織の自浄作用を取り戻すために不可欠です。

不祥事の発生に備える平時の体制構築

就業規則・服務規律の整備と周知徹底

就業規則は、従業員との間の労働条件や服務規律を定めたルールブックであり、不祥事発生時に懲戒処分を行うための法的な根拠となります。服務規律には、業務上の不正行為はもちろん、SNSの不適切利用や私生活上の非行など、会社の信用を損なう行為を具体的に禁止事項として明記しておく必要があります。

ただし、規則を整備するだけでは不十分です。労働基準法では、就業規則を従業員に周知する義務が定められています。周知方法としては、事業所内での掲示、書面の配布、社内イントラネットへの掲載などがあります。周知義務を怠ると、懲戒処分が無効と判断されるリスクがあるため、周知した日時や方法を記録しておくことが重要です。

内部通報制度(ヘルプライン)の設置と実効性の確保

内部通報制度は、社内の不正を早期に発見し、組織の自浄作用を促すための重要な仕組みです。改正公益通報者保護法により、一定規模の事業者には体制整備が義務付けられています。

制度を実効的に機能させるためには、以下の点が重要です。

内部通報制度を機能させるためのポイント
  • 通報者の保護の徹底:通報したことを理由とする解雇や降格などの不利益な取り扱いを厳格に禁止する。
  • 通報しやすい窓口の設置:社内の担当部署だけでなく、外部の法律事務所や専門業者にも窓口を設け、通報のハードルを下げる。
  • 匿名性の確保:報復を恐れずに通報できるよう、匿名での通報を受け付ける仕組みを整える。
  • 調査・是正プロセスの明確化:通報後の調査手順や是正措置、再発防止策までのフローを規程で定めておく。

制度の存在と利用方法を全従業員に繰り返し周知し、安心して利用できる環境を整えることが、不祥事の芽を早期に摘み取ることにつながります。

実用的な不祥事対応マニュアルの作成ポイント

不祥事が発生した直後の混乱した状況では、冷静かつ的確な判断を下すことは極めて困難です。そのため、平時から具体的な対応手順を定めたマニュアルを準備しておくことが不可欠です。

実用的なマニュアルを作成するためのポイントは以下の通りです。

不祥事対応マニュアル作成のポイント
  • 指揮命令系統の明確化:誰が情報を集約し、誰が意思決定を行うのか、緊急対策本部の構成メンバーをあらかじめ定める。
  • 危機レベルの設定:事案の重要性や緊急性に応じた危機レベルを定義し、レベルごとの対応体制を定める。
  • 報告ルートの確立:情報の隠蔽を防ぐため、事案の大小にかかわらず速やかに経営トップに報告が上がる仕組みを構築する。
  • 視覚的な分かりやすさ:フローチャートや図解を多用し、誰が見ても直感的に次のアクションが分かるように工夫する。
  • 具体的事例の盛り込み:過去の事例や他社のケーススタディを取り入れ、より実践的な内容にする。

マニュアルに盛り込むべき主要項目とは

実用的な不祥事対応マニュアルには、事案の発見から収束まで、各フェーズで求められるアクションを網羅的に記載する必要があります。

マニュアルの主要項目リスト
  • 発見・報告:第一発見者が「誰に」「何を」「どのように」報告するかの初期動作を定める。
  • 初動対応:事実関係の確認、証拠保全、被害拡大防止のための応急措置の手順。
  • 調査体制:社内調査委員会の設置基準、メンバー構成、外部専門家の活用方法。
  • 対外広報:公表の判断基準、プレスリリースの雛形、記者会見の運営要領、マスコミ対応窓口の一本化。
  • 関係者対応:被害者や取引先への謝罪・説明、補償に関する基本方針。
  • 行政・捜査機関への報告:監督官庁や警察への報告が必要な場合の基準と手順。
  • 再発防止策:原因究明から再発防止策の策定、実行、モニタリングまでのプロセス。
  • 緊急連絡先リスト:弁護士、広報代理店、調査会社などの連絡先をまとめておく。

全社的なコンプライアンス意識を醸成する研修の実施

不祥事を未然に防ぐ上で最も効果的なのは、従業員一人ひとりの高いコンプライアンス意識です。この意識を組織全体に浸透させるためには、定期的かつ継続的な研修が欠かせません。

研修を効果的に行うには、役職や職務に応じた内容にすることが重要です。例えば、新入社員には社会人としての基本ルールを、管理職にはハラスメント防止やリスク管理の視点を重点的に教育します。単なる座学だけでなく、実際の事例を用いたグループディスカッションやロールプレイングを取り入れることで、従業員がコンプライアンスを「自分事」として捉えるきっかけになります。研修を通じて、不正を許さないクリーンな組織風土を醸成していくことが、究極のリスク管理と言えます。

マニュアルが形骸化しないための定期的な見直しと訓練

どれほど精緻なマニュアルを作成しても、書棚に眠らせたままでは意味がありません。マニュアルを「生きたツール」にするためには、定期的な見直し実践的な訓練が不可欠です。最低でも年に一度は内容を見直し、組織体制の変更や新たなリスクに対応できるよう更新します。さらに、不祥事の発生を想定したシミュレーション訓練を実施し、マニュアル通りに対応が機能するかを確認します。訓練で見つかった課題をマニュアルにフィードバックするサイクルを回すことで、組織全体の危機対応能力を高めることができます。

【フェーズ別】不祥事発生後の対応フロー

初動対応:事実関係の迅速な確認と証拠保全

不祥事発生後の対応は、初動のスピードと正確さがその後の展開を大きく左右します。対応が遅れると、被害が拡大するだけでなく、社会から「隠蔽体質」との厳しい批判を浴びることになりかねません。

初動対応の基本ステップ
  1. 即時報告と情報集約:事案を認知した者は、定められたルートに従い、速やかに経営層や担当部署へ報告する。情報は一元的に集約する。
  2. 客観的な事実確認:「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」の5W1Hに基づき、憶測を排して客観的な事実を把握する。
  3. 証拠保全の徹底:関係者のPCやスマートフォン、関連書類などを速やかに確保する。特に電子データは改ざんや消去を防ぐため、アクセスログの保全など専門的な対応(デジタルフォレンジック)も検討する。
  4. 被害拡大の防止:進行中の被害がある場合は、製品の出荷停止やシステムの停止など、被害を最小限に抑えるための応急措置を最優先で実施する。

社内調査:調査委員会の設置と調査計画の策定

初動対応で事実の概要が把握できたら、真相究明のための本格的な調査体制を構築します。事案の重大性に応じて、社内に調査委員会を設置します。委員会のメンバーは、事案と直接利害関係のない役員や法務・監査部門の担当者で構成し、調査の中立性・公平性を確保します。経営陣の関与が疑われるなど、特に深刻な事案では、弁護士などの外部専門家のみで構成される第三者委員会を設置し、調査の客観性を担保することが求められます。

調査委員会は、調査の範囲、期間、具体的な手法を定めた調査計画を策定し、計画に基づいて関係者へのヒアリングや証拠の分析を進めます。調査の目的は、単に事実を解明するだけでなく、不正が発生した背景や組織的な問題点まで掘り下げることにあります。

関係者へのヒアリング実施における注意点

ヒアリングは、事実関係を明らかにするための重要なプロセスですが、進め方を誤ると真相解明を困難にする恐れがあります。実施にあたっては、以下の点に注意が必要です。

ヒアリング実施時の注意点
  • 複数人での実施:質問役と記録役など、二人一組で対応するのが基本。
  • 目的の事前説明:対象者に調査の目的を伝え、協力義務があること、虚偽報告は懲戒対象になり得ることを明確にする。
  • 客観的な態度:相手を決めつけるような詰問は避け、冷静かつ傾聴の姿勢を貫く。
  • 証拠の突き合わせ:本人の供述だけに頼らず、客観的な証拠と矛盾がないかを確認しながら進める。
  • 記録の作成と確認:聴取内容は速やかに書面化し、対象者に内容を確認させた上で署名・捺印を求める。

当該社員への対応:自宅待機命令の検討と実行

不祥事への関与が疑われる従業員に対しては、調査期間中、自宅待機を命じることが有効な場合があります。これは、証拠隠滅や関係者との口裏合わせを防ぎ、職場内の混乱を避けることを目的とします。自宅待機は就業規則に基づく業務命令として行いますが、命令書にはその理由、期間、待機中の遵守事項(連絡方法など)を明記し、書面で交付します。

注意すべきは、待機期間中の給与の扱いです。懲戒処分が確定する前の自宅待機は、会社の都合による休業と見なされるため、原則として給与の支払い義務が生じます。無給とすることは法的な紛争リスクが高いため、慎重な判断が求められます。

懲戒処分の検討:処分の種類と量定の判断基準

調査によって不正の事実が確定したら、就業規則に基づき当該従業員への懲戒処分を検討します。処分を決定する際は、行為の重さと処分の重さのバランス(相当性の原則)が極めて重要ですます。軽すぎる処分は組織の規律を緩ませ、重すぎる処分は後に訴訟で無効と判断されるリスクがあります。

処分の量定における判断基準
  • 行為の態様・悪質性:計画的か、常習的か、動機は何か。
  • 会社への損害:金銭的損害や信用的損害の程度。
  • 本人の職責・地位:高い役職者ほど重い責任が問われる。
  • 過去の勤務態度:日頃の勤務状況や過去の懲戒歴の有無。
  • 反省の度合い:事実を認め、真摯に反省しているか。

最も重い懲戒解雇は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が厳格に求められます。また、いかなる処分であっても、本人に弁明の機会を与える手続きを必ず踏む必要があります。

対外公表の判断:公表の要否・タイミング・内容の決定

不祥事を外部に公表するかどうかの判断は、経営の根幹に関わる重要な意思決定です。隠蔽は最も避けるべき対応であり、社会的な影響が大きい事案や顧客に被害が及ぶ可能性がある場合は、透明性の原則に基づき、迅速な公表が求められます。

公表のタイミングは、事実関係の調査がある程度進んだ段階が望ましいですが、憶測が広がる前のできるだけ早い段階で「第一報」として公表し、調査中であることを誠実に伝えることも有効です。公表する内容は、確定した事実、謝罪、原因、当面の対応、再発防止への決意などを基本とします。企業の言い分を主張するのではなく、まずは迷惑をかけた関係者への謝罪を真摯に行う姿勢が不可欠です。対応窓口を広報部門に一本化し、社内から矛盾した情報が発信されないよう、情報統制を徹底します。

被害者・取引先への対応と謝罪の進め方

不祥事によって直接的な被害を受けた方や、迷惑をかけた取引先への対応は、何よりも優先して誠心誠意行う必要があります。謝罪は、可能な限り経営トップが直接出向き、言い訳や責任転嫁をせず、会社全体の責任として真摯に行います。

取引先には、事態の概要と今後の事業への影響、具体的な再発防止策を丁寧に説明し、信頼関係の維持に努めます。金銭的な補償が必要な場合は、法的責任の有無だけでなく道義的な観点からも検討し、被害者の損害を回復できるよう誠実に対応します。一度の謝罪で終わらせず、事態の進捗や改善状況を継続的に報告することが、信頼回復への道のりとなります。

再発防止策の策定と着実な実行

一連の対応の最終目標は、二度と同じ過ちを繰り返さないための再発防止策を策定し、組織に定着させることです。策定にあたっては、調査で明らかになった原因を徹底的に分析し、「個人の問題」で終わらせず、不正を許した「組織・仕組みの問題」にまで踏み込む必要があります。

対策は、承認プロセスの見直しや監視カメラの設置といったハード面の対策と、コンプライアンス研修の強化や行動規範の見直しといったソフト面の対策の両輪で進めます。策定した計画は、誰が・いつまでに・何を実行するのかを明確にし、その進捗状況を定期的に確認するモニタリング体制を構築します。不祥事を負の遺産とせず、組織が生まれ変わるための教訓として活かす姿勢こそが、真の信頼回復につながります。

社員の不祥事対応に関するよくある質問

不祥事を起こした社員を即日解雇できますか?

結論から言うと、即日解雇は極めて困難です。日本の労働法では、解雇権の濫用が厳しく制限されており、不祥事を起こしたからといって、一方的に即日解雇することはできません。懲戒解雇が有効と認められるには、就業規則に明確な規定があることに加え、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。また、原則として30日前の解雇予告か、30日分以上の解雇予告手当の支払い義務があります。手続き的にも、本人に弁明の機会を与える必要があります。感情的な判断で解雇を強行すると、後に不当解雇として訴訟を起こされ、解雇が無効となるリスクが高いため、まずは自宅待機を命じ、慎重に調査を進めるのが賢明です。

社内調査で本人が非協力的・虚偽の説明をした場合はどうすればよいですか?

従業員には、会社の調査に誠実に協力する義務があります。本人が調査に非協力的であったり、虚偽の説明を繰り返したりする場合、その行為自体が服務規律違反として新たな懲戒処分の対象となり得ます。まずは調査協力義務があることを本人に伝え、不誠実な対応が不利益な結果を招く可能性があることを警告します。その上で、本人の供述だけに頼らず、PCのログやメール履歴、関係者へのヒアリングなど、客観的な証拠を積み重ねて事実関係を固めることが重要です。客観的証拠によって不正が立証できれば、本人が認めなくても処分は可能です。

警察への被害届や刑事告訴はどのタイミングで行うべきですか?

被害届や刑事告訴を行うタイミングは、被害回復を優先するか、厳正な処罰を求めるかによって判断が分かれます。業務上横領などの財産犯の場合、被害額の回収を最優先するなら、まずは本人と示談交渉を行い、全額弁済を求めるのが一般的です。刑事告訴すると、本人が処罰され支払い能力を失う可能性があるからです。一方で、本人が不正を認めない、被害額が極めて大きい、社会的影響が甚大といったケースでは、企業のけじめとして速やかに刑事告訴を検討すべきです。判断に迷う場合は、早い段階で弁護士に相談し、警察とも連携しながら最適なタイミングを見極めることが重要です。

マスコミから取材依頼があった場合の初期対応はどうすべきですか?

マスコミへの初期対応を誤ると、意図しない形で情報が広まり、事態が悪化する恐れがあります。まず、対応窓口を広報担当者などに一本化し、従業員が個別に取材に応じないよう徹底します。取材依頼に対しては、「現在、事実関係を確認中です。確認でき次第、改めてご説明します」と冷静かつ丁寧に対応するのが基本です。不正確な段階で回答すると後の説明と矛盾が生じるため、憶測での発言は厳禁です。ただし、完全に沈黙を続けると「隠蔽」と見なされるリスクもあるため、適切なタイミングでプレスリリースを発表するなど、企業側が主導権を持って情報発信を行う姿勢が求められます。

退職した元社員の在職中の不祥事が発覚した場合の対応は?

退職後であっても、在職中の不正行為に対する責任を追及することは可能です。懲戒処分を下すことはできませんが、不正によって会社が被った損害については、民事上の損害賠償請求ができます。まずは元社員に連絡を取り事実確認を求め、応じない場合でも社内調査で証拠を固め、訴訟を提起することを検討します。また、犯罪に該当する悪質なケースでは、刑事告訴も選択肢となります。退職金の支払いがまだの場合は、就業規則の規定に基づき減額や不支給とすることも考えられますが、法的な要件が厳しいため弁護士への相談が不可欠です。不正を放置せず、適切に対処することが企業のガバナンスを示す上で重要です。

まとめ:不祥事を組織の教訓とし、信頼を再構築するために

本記事では、社員による不祥事の予防から事後対応までの一連のフローを解説しました。横領や情報漏洩、ハラスメントといった多様な不祥事は、法的責任の追及やブランド毀損など、企業の存続を揺るがす深刻な経営リスクに直結します。最も重要なのは、就業規則の整備や内部通報制度の構築といった平時からの体制構築であり、これが有事の際の対応の成否を分けます。万が一不祥事が発生した際は、隠蔽することなく、迅速な事実確認と証拠保全、そして関係者への誠実な対応を徹底することが信頼失墜を防ぐ鍵となります。一連の対応プロセスを単なる事後処理で終わらせず、原因を徹底的に究明して実効性のある再発防止策に繋げることで、不祥事を組織が生まれ変わるための教訓とし、より強固なコンプライアンス体制を築き上げることが求められます。

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