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争点訴訟と実質的当事者訴訟の違いとは?当事者訴訟の体系から整理

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行政事件訴訟法における「争点訴訟」と「実質的当事者訴訟」は、名称が似ているため混同されやすい重要な概念です。これらは訴訟の性質や目的が全く異なり、両者の違いを正確に理解しないと、適切な訴訟選択を誤る可能性があります。この記事では、それぞれの定義や具体例を整理し、訴訟の根拠や争いの対象といった観点から、両者の明確な違いを比較解説します。

当事者訴訟の全体像

当事者訴訟の2類型

当事者訴訟とは、対等な当事者間で公法上の権利義務を争う訴訟形態です。行政事件訴訟法に規定される行政訴訟の一つですが、行政庁の公権力の行使(処分)の違法性を直接争う抗告訴訟とは明確に区別されます。

当事者訴訟は、その性質から以下の2つの類型に大別されます。

当事者訴訟の2類型
  • 実質的当事者訴訟: 公法上の法律関係そのものの存否を直接争う訴訟です。
  • 形式的当事者訴訟: 個別法の規定に基づき、行政処分や裁決に関して、処分庁以外の利害関係者を被告として争う訴訟です。

いずれも行政主体と私人が対等な立場で争う点で民事訴訟に似た構造を持ちますが、公法上の法律関係を扱うため、行政事件訴訟としての特別な規律を受けます。

実質的当事者訴訟の定義と要件

実質的当事者訴訟は、公法上の法律関係に関する確認の訴えや、金銭などの給付を求める訴えを指します。行政主体と私人が対等な立場で、特定の行政処分を前提とせず、直接的に公法上の権利義務の存否や内容を争う点が特徴です。

要件は、争いの根拠が私法ではなく公法上の法律関係に基づくこと。具体例としては、以下のようなケースが挙げられます。

実質的当事者訴訟の具体例
  • 公務員の地位の確認を求める訴訟
  • 公務員が未払いの給与支払いを求める請求訴訟
  • 憲法の規定に基づく損失補償を国や地方公共団体に請求する訴訟
  • 適法な補助金交付決定を受けた事業者が、その支払いを求める請求訴訟

形式的当事者訴訟の定義と要件

形式的当事者訴訟は、当事者間の法律関係を確認または形成する行政処分や裁決に関する訴訟です。ただし、法令に特別な規定がある場合に限り、処分を行った行政庁ではなく、対立する利害関係人を被告として提起します。

実質的には行政処分に対する不服申し立ての性質を持ちますが、紛争の実態に即して利害関係者間で直接争わせることで、合理的かつ迅速な解決を図る目的があります。

代表例は、土地収用法に基づく損失補償額の増減を求める訴訟です。この場合、土地所有者と起業者(事業者)が、収用裁決を行った収用委員会を介さず直接争います。

最も重要な要件は、個別法に被告を名指しする特別な規定が存在することです。この規定がない限り、形式的当事者訴訟を選択することはできません。

争点訴訟の基本

争点訴訟の定義と目的(行訴法45条)

争点訴訟とは、私法上の法律関係に関する訴訟でありながら、その勝敗の前提として行政処分の効力の有無が争点となる訴訟を指します。行政事件訴訟法45条に規定されています。

この訴訟の本質はあくまで私人間の権利義務を争う民事訴訟であり、行政処分そのものを取り消すことが目的ではありません。しかし、行政処分の有効性を審理する特殊性から、行政事件訴訟法の一部の規定が準用されます。

争点訴訟に準用される行政事件訴訟法の主な規定
  • 行政庁の訴訟参加: 裁判所が必要と認める場合、関係行政庁を訴訟に参加させることができます。
  • 職権証拠調べ: 裁判所が職権で証拠調べを行うことができます。

これにより、裁判所は十分な情報に基づいて行政処分の効力を判断することが可能になります。

争点訴訟が用いられる具体例

争点訴訟は、最終的に私法上の権利の実現や財産的な損害の回復を目指す場合に利用されます。具体的には、以下のようなケースが典型例です。

争点訴訟の具体例
  • 農地買収処分が無効であると主張し、元の地主が現在の所有者に土地の所有権確認を求める。
  • 課税処分が重大かつ明白な瑕疵により無効であるとして、納税者が国や地方公共団体に納付済み税金の返還(不当利得返還請求)を求める。
  • 行政庁による競合他社への許認可が無効であることを理由に、自社が被った損害の賠償を競合他社に請求する。

いずれも、行政処分の無効を前提として、所有権や返還請求権といった私法上の権利を主張する構成をとります。

争点訴訟と実質的当事者訴訟の相違点

観点1:訴訟の根拠と性質

争点訴訟と実質的当事者訴訟は、訴訟の法的性質が根本的に異なります。争点訴訟は民事訴訟、実質的当事者訴訟は行政訴訟であり、適用される法律や審理原則に大きな違いがあります。

争点訴訟 実質的当事者訴訟
訴訟の性質 民事訴訟 行政訴訟
根拠法規 民事訴訟法(行訴法45条が一部準用) 行政事件訴訟法
相手方 主に私人 国や地方公共団体などの行政主体
審理の原則 当事者主義・弁論主義 行政訴訟特有の公法的な規律
訴訟の根拠と性質の比較

観点2:争いの対象となる法律関係

両者は、訴訟で直接争う対象となる法律関係が異なります。争点訴訟は私法上の権利義務を、実質的当事者訴訟は公法上の権利義務を直接の審判対象とします。

争点訴訟 実質的当事者訴訟
直接の争点 私法上の権利義務(所有権、不当利得返還請求権など) 公法上の権利義務(公務員の地位、損失補償請求権など)
行政処分の位置づけ 審理の前提問題となる 直接の争点ではない
争いの対象となる法律関係の比較

観点3:判決の効力が及ぶ範囲

判決の効力が及ぶ範囲にも明確な違いがあります。争点訴訟の判決効は当事者間に限定されるのに対し、実質的当事者訴訟の判決は行政庁も拘束します。

争点訴訟 実質的当事者訴訟
効力の範囲 原則として訴訟の当事者間のみ(相対効) 当事者および関連する行政庁を拘束する
第三者への効力 なし なし(取消訴訟のような対世効はない)
行政処分の効力 当該訴訟内で否定されるのみで、処分自体は有効なまま
判決の効力の比較

出訴期間の観点から見た訴訟選択の留意点

出訴期間は、訴訟を選択する上で重要な要素です。

形式的当事者訴訟は、土地収用法(裁決書送達から6ヶ月)のように、個別法で厳格な出訴期間が定められていることが一般的です。

一方、争点訴訟や実質的当事者訴訟自体に行政事件訴訟法上の出訴期間の定めはありません。しかし、処分の取消訴訟の出訴期間(処分を知った日から6ヶ月など)を経過した後にこれらの訴訟を提起する場合、処分の効力を否定するためには、「重大かつ明白な瑕疵」があり処分が無効であると主張・立証する必要があり、そのハードルは極めて高くなります。

関連訴訟との関係整理

実質的・形式的当事者訴訟の違い

同じ当事者訴訟に分類される両者ですが、その前提や根拠となる法律の規定が大きく異なります。

実質的当事者訴訟 形式的当事者訴訟
前提となる処分 不要 必要(行政処分や裁決が前提)
争いの対象 公法上の法律関係そのもの 処分等から生じる財産的利害の調整
根拠規定 不要(公法上の権利関係があれば可) 個別法に被告を指定する特別規定が必須
機能 公法上の権利義務の確認・形成 行政処分への不服申し立てに近い機能
実質的当事者訴訟と形式的当事者訴訟の比較

争点訴訟と通常の民事訴訟の関係性

争点訴訟は、通常の民事訴訟の一種です。したがって、訴訟手続きの基本は民事訴訟法に従い、当事者対等の原則などがそのまま適用されます。

通常の民事訴訟との唯一の違いは、行政処分の効力が前提問題として争点となる点です。この特殊性から、行政の専門的判断を尊重し、公益的見地から真実を発見するために、行政事件訴訟法の行政庁の訴訟参加職権証拠調べといった規定が準用されます。

実務上は、通常の民事訴訟の準備に加え、行政処分の違法性に関する公法的な主張・立証を並行して行う、高度な対応が求められます。

争点訴訟と無効等確認訴訟の違い

行政処分の無効を主張する点で共通しますが、訴訟の目的や提起するための要件が全く異なります。適切な訴訟形式を選択しないと、訴えが不適法として却下されるリスクがあります。

争点訴訟 無効等確認訴訟
訴訟の性質 民事訴訟 行政訴訟(抗告訴訟)
訴訟の目的 私法上の権利関係の確定 行政処分の無効確認そのもの
補充性の要件 なし(私法上の権利回復が主目的) あり(他の訴訟で目的を達成できない場合に限る)
行政処分の位置づけ 権利関係を判断するための前提問題 訴訟の直接の対象(訴訟物)
争点訴訟と無効等確認訴訟の比較

例えば、金銭の返還を求めるなど、争点訴訟(民事訴訟)によって紛争を直接解決できるのであれば、補充性の要件により無効等確認訴訟は認められません。

まとめ:争点訴訟と実質的当事者訴訟の違いを理解し、適切な訴訟を選択する

本記事では、争点訴訟と実質的当事者訴訟の定義や相違点について解説しました。争点訴訟はあくまで私法上の権利を争う民事訴訟であり、実質的当事者訴訟は公法上の権利義務を直接争う行政訴訟である点が、両者の根本的な違いです。争点訴訟では行政処分の効力が「前提問題」となるのに対し、実質的当事者訴訟では公法上の法律関係そのものが「直接の争点」となります。どちらの訴訟を選択すべきかは、最終的に実現したい権利が私法上のものか、公法上のものかによって判断します。実際の事案では、出訴期間などの制約も複雑に関わるため、具体的な訴訟選択にあたっては弁護士などの法律専門家に相談することが不可欠です。

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