偽装請負とは?4つの典型パターンと罰則、企業の対策をわかりやすく解説
業務委託契約は、外部の専門性や労働力を活用する上で非常に有効な手段ですが、その運用方法を誤ると「偽装請負」とみなされ、重大な法的リスクを負う可能性があります。自社の契約や現場の実態が、意図せず違法状態に陥っていないか、不安を感じている経営者や法務・労務担当者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、偽装請負の基本的な定義から、典型的な4つのパターン、厚生労働省の判断基準、そして具体的な防止策までを詳しく解説します。
偽装請負とは?労働者派遣・業務請負との違いを整理
偽装請負の定義と判断における基本的な考え方
偽装請負とは、契約形式上は「業務請負」や「業務委託」でありながら、その実態が「労働者派遣」に該当する違法な状態を指します。本来、請負契約では、受託者が自らの裁量と責任で業務を遂行し、発注者と受託企業の労働者との間に指揮命令関係は生じません。しかし、実態として発注者が労働者に対し、作業手順を細かく指示したり、始業・終業時刻などの勤怠管理を行ったりしている場合、それは労働者派遣とみなされます。偽装請負の判断で最も重要なのは、契約書の名称や文言といった形式ではなく、実際の業務現場で誰が指揮命令を行っているかという「実態」です。厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)に基づき、業務の指示や労働時間の管理などが受託者によって自律的に行われているかが厳格に審査され、違反が認められれば主に労働者派遣法や職業安定法などの法令違反として扱われます。
適法な「業務請負(業務委託)」との違い
適法な業務請負(業務委託)と偽装請負の最大の違いは、受託者が発注者から独立して業務を処理している点にあります。請負契約は「仕事の完成」を、準委任契約は「特定の事務処理」を目的としますが、いずれも発注者が受託企業の労働者に直接指示を出すことはできません。適法な業務請負は、以下の要件を満たしている必要があります。
- 業務の遂行方法や労働者の配置に関する指示・管理を、受託者が自らの責任で行う
- 労働者の勤務時間や休日などの勤怠管理を、受託者が主体的に行う
- 業務に必要な機械、設備、資材などを、受託者が自らの負担で準備・調達する
- 単なる労働力の提供ではなく、受託者独自の技術や専門性に基づいて業務を遂行する
適法な「労働者派遣」との違い
適法な労働者派遣は、派遣元(派遣会社)と労働者が雇用契約を結び、労働者は派遣先の指揮命令を受けて業務に従事する形態です。派遣元と派遣先の間には労働者派遣契約が締結され、労働者派遣法に基づく許可や届出、派遣期間の制限といった厳格なルールが適用されます。偽装請負は、こうした適法な手続きを経ずに、実質的に労働者派遣と同じ状態を作り出している点が決定的に異なります。
| 項目 | 偽装請負(違法) | 業務請負(適法) | 労働者派遣(適法) |
|---|---|---|---|
| 契約形態 | 請負契約・業務委託契約 | 請負契約・業務委託契約 | 労働者派遣契約 |
| 指揮命令権の所在 | 発注者 | 受託者 | 派遣先 |
| 労働者との雇用関係 | 受託者 | 受託者 | 派遣元 |
| 主な適用法令 | 労働者派遣法、職業安定法、労働基準法に違反 | 民法、下請法など | 労働者派遣法、労働基準法など |
なぜ偽装請負が法律で禁止されているのか
偽装請負が法律で厳しく禁止されているのは、労働者の権利を侵害し、健全な雇用環境を破壊するリスクが非常に高いためです。主な理由は以下の通りです。
- 労働者保護の欠如: 発注者の指揮命令下にあるにもかかわらず直接の雇用関係がないため、労働基準法や労働安全衛生法などの労働関係法令による保護が及ばない危険性がある。
- 中間搾取の誘発: 受託者が実質的な管理を行わず労働者を仲介するだけの場合、労働基準法で禁じられている「中間搾取」に該当し、労働者の賃金が不当に低くなる恐れがある。
- 雇用安定の阻害: 労働者派遣法が定める派遣期間の制限や、派遣先の雇用安定措置といった規制を逃れる目的で利用され、労働者が不安定な雇用状態に置かれ続ける原因となる。
偽装請負に該当する典型的な4つのパターンと具体例
【代表型】発注者が受託企業の労働者に直接指示を出すケース
最も一般的で典型的な偽装請負のパターンです。契約上は業務請負や業務委託であるにもかかわらず、実際には発注者の担当者が現場で受託企業の労働者一人ひとりに対して、作業の順序や具体的な方法を直接指示したり、始業・終業時刻の管理、残業や休日出勤の命令を行ったりします。請負契約では、これらの指示・管理はすべて受託企業の責任者が自社の労働者に対して行うべきであり、発注者による直接的な介入は認められません。
【形式だけ責任者型】現場責任者が名ばかりで発注者が管理するケース
受託企業が現場に責任者を配置しているものの、その責任者が実質的な指揮命令権を持たず、発注者の指示を伝達するだけの役割になっているパターンです。この場合、業務計画や人員配置の決定権は発注者が握っており、受託企業の責任者は単なる連絡係に過ぎません。責任者が自らの裁量で業務管理を行っていないため、実態は発注者による直接の指揮命令と変わらず、偽装請負と判断されます。
【使用者不明型】複数の企業が関与し指揮命令者が曖昧なケース
業務の再委託や多重下請構造が繰り返されることで、誰が指揮命令者で、誰が雇用主なのかが不明確になっているパターンです。例えば、元請けのA社からB社、さらにC社へと業務が委託され、C社の労働者がA社の現場でA社やB社の担当者から直接指示を受けるようなケースが該当します。契約関係のない上位企業の担当者から指示を受ける状態は、責任の所在を曖昧にし、労働者保護の観点から深刻な問題となります。
【一人請負型】個人事業主を実質的な労働者として扱うケース
企業が労働者と雇用契約を結ばず、個人事業主として請負契約を締結させ、実態としては自社の従業員と同様に指揮命令下で働かせるパターンです。形式上は独立した事業者間の契約でも、発注者が勤務時間や場所を厳格に指定し、業務の進め方を細かく指示している場合、その個人事業主は「労働者」と判断されます。この形態は、社会保険料の負担回避や労働法規制の潜脱を目的として行われることが多く、違法性が高いとされています。
厚生労働省の基準に基づく偽装請負の判断ポイント
業務の遂行方法に関する指示・管理の有無
偽装請負の判断において、業務の遂行方法に関する指示や進捗管理を、受託者が自律的に行っているかが重要なポイントです。仕事の割り振りや作業手順の指導、技術的な指示などを発注者が受託企業の労働者に直接行うことはできません。発注者が個々の労働者の業務遂行能力を評価したり、詳細な作業指示を出したりしている場合、受託者の独立性が失われているとみなされ、偽装請負と判断される可能性が高まります。
勤務時間や休日など時間的な拘束の有無
始業・終業時刻、休憩時間、休日、残業といった勤怠管理を、受託者が自らの責任で行っているかも厳しく問われます。発注者が受託企業の労働者に対して出退勤時間を指定したり、残業や休日出勤を直接命じたりすることは指揮命令に該当します。タイムカードで出退勤を直接管理したり、遅刻や早退の承認を発注者が行ったりする行為は、労務管理における独立性を欠く典型的な例とみなされます。
発注者側の服務規律や服務上のルールが適用されるか
職場の秩序維持に関するルールや服務規律についても、受託者が自社の規定に基づいて管理する必要があります。発注者が自社の就業規則を受託企業の労働者に適用したり、服装や言動について直接注意・指導を行ったりすることは、指揮命令権の行使と判断される可能性があります。ただし、事業所内の安全確保や情報セキュリティ維持のために合理的な範囲でルール遵守を求めることは、指揮命令とは区別されます。
労働者の代替性(業務を他の人が代われるか)
受託者が自らの責任で業務を遂行するためには、業務に従事する労働者を誰にするかを受託者自身が決定できる必要があります。発注者が特定の個人を指名したり、面接を実施して労働者を選別したりする行為は、受託者の人事権への介入とみなされます。業務を遂行する者が特定の個人に固定されず、受託者の判断で他の労働者と交代させることが可能かどうかが、業務の独立性を示す重要な要素となります。
業務に必要な機械・設備や資材の提供元
原則として、業務に必要な機械、設備、資材などは、受託者が自らの責任と費用負担で準備・調達することが求められます。発注者が所有する設備や資材を無償で提供している場合、受託者の事業者としての独立性が疑われ、単なる労働力の提供とみなされるリスクが高まります。発注者の設備等を使用する必要がある場合は、有償の賃貸借契約を別途締結するなど、独立した事業者間の取引であることが明確になるような対応が望まれます。
良かれと思っての行為がリスクに?現場で注意すべきグレーゾーンな関わり方
現場での親切心や業務効率を優先した行動が、意図せず偽装請負と判断されるリスクを招くことがあります。特に注意すべきグレーゾーンな行為には、以下のようなものがあります。
- 発注者側の社員が、良かれと思って受託企業の労働者に直接技術指導や作業の修正指示を行う
- 発注者が主催する定例会議や朝礼への参加を受託企業の労働者に義務付ける
- 発注者の社員名簿に受託企業の労働者を掲載したり、社内行事への参加を強制したりする
- 業務上の連絡や調整を、受託企業の責任者を通さずに個々の労働者に直接行う
偽装請負が発覚した場合の罰則と法的リスク
労働者派遣法違反による罰則(無許可の派遣事業)
偽装請負と判断された場合、実態は労働者派遣とみなされます。受託企業が労働者派遣事業の許可を得ていなければ「無許可派遣」となり、労働者派遣法違反に問われます。この場合、受託企業の事業主には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。また、発注企業側も違法な派遣を受け入れたとして行政指導や勧告の対象となり、従わない場合は企業名が公表されるリスクがあります。
職業安定法違反による罰則(違法な労働者供給事業)
偽装請負が、職業安定法で原則禁止されている「労働者供給事業」に該当すると判断されることもあります。これは、供給契約に基づき労働者を他人の指揮命令下で労働させる行為です。違反した場合、労働者を供給した受託企業には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。発注企業も、違法な労働者供給事業を受け入れたとして行政指導や勧告の対象となることがあります。
労働基準法違反による罰則(中間搾取の禁止)
偽装請負が労働者供給事業とみなされる場合、労働基準法第6条が禁止する「中間搾取」に該当する恐れがあります。これは、業として他人の就業に介入して利益を得る行為であり、違反した受託企業の事業主には1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。発注企業も、違法な労働者供給事業を受け入れたとして、行政指導の対象となる可能性はありますが、直接的に中間搾取の罪に問われることは通常ありません。
罰則以外のリスク(労働契約申込みみなし制度の適用)
刑事罰とは別に、発注企業にとって極めて重大なリスクが「労働契約申込みみなし制度」の適用です。これは、偽装請負などの違法派遣を受け入れた発注企業が、その時点で対象労働者に対し、派遣元と同じ労働条件で直接雇用の申込みをしたとみなす制度です。労働者が承諾すれば、発注者の意思にかかわらず直接の労働契約が成立してしまいます。発注側に違法性の認識がなくても、善意無過失が証明されない限り適用されるため、意図せず直接雇用義務を負うことになります。
偽装請負を未然に防ぐための具体的な対策
契約書作成時の注意点:指揮命令関係の明確化と業務範囲の特定
偽装請負を防止するには、まず契約書の内容を適切に整備することが重要です。以下の点を明確に定め、請負契約としての独立性を担保する必要があります。
- 業務遂行に関する指揮命令権が受託者にあり、発注者にはないことを明確に記載する
- 仕様書などを活用し、委託する業務の範囲、内容、求める成果物を具体的かつ詳細に特定する
- 業務の完了(検収)基準や、成果物に不備があった場合の責任の所在(瑕疵担保責任)を定める
- 受託者が自らの判断で再委託できるか否かなど、再委託に関するルールを明記する
現場での運用ルールの徹底:発注者からの直接指示を避ける体制づくり
契約内容が適切でも、現場での運用実態が伴っていなければ意味がありません。発注者から受託企業の労働者への直接指示を物理的・組織的に防ぐ体制を構築することが不可欠です。
- 受託企業側に業務全体を管理する「現場責任者」を必ず配置し、指示や連絡はその責任者を通じて行うことを徹底する
- 発注者の従業員と受託企業の労働者の作業スペースをパーティションで区切る、または明確に分離する
- 共有の備品や設備の使用ルールを定め、混同されないように管理する
定期的な業務実態の確認と社内コンプライアンス研修の実施
偽装請負のリスクは、一度対策すれば終わりではありません。人事部門や法務部門が定期的に現場の業務実態をヒアリングや巡回によって確認し、契約と実態に乖離が生じていないかをチェックする仕組みが重要です。また、発注側の現場管理者や従業員が偽装請負のリスクを正しく理解していないケースも多いため、定期的なコンプライアンス研修を実施し、全社的に正しい知識とリスク意識を共有することが、未然防止に繋がります。
偽装請負のリスクを発見した場合の社内調査と是正フロー
万が一、偽装請負の疑いが発覚した場合は、速やかに適切な対応をとる必要があります。以下のフローで調査と是正を進める体制を整えておくことが望ましいです。
- 人事・法務部門が中心となり、関係者へのヒアリングなど客観的な事実調査を実施する。
- 調査結果に基づき、弁護士などの専門家も交えて偽装請負に該当するかを法的に評価・判断する。
- 偽装請負と判断された場合、指揮命令系統の是正や、適法な労働者派遣契約への切り替えなど、速やかに是正措置を講じる。
- 行政機関から指導を受けた場合は、是正計画書や報告書を誠実に提出し、指示に従う。
偽装請負に関するよくある質問
契約書に「指揮命令関係はない」と明記していれば問題ないですか?
いいえ、契約書への記載だけでは不十分です。偽装請負の判断は、契約書の文言といった形式よりも、現場での「実態」が最優先されます。たとえ契約書に「指揮命令関係はない」と明記されていても、実際に発注者が受託企業の労働者に直接指示を出していれば、実態に即して偽装請負と判断されます。契約内容と運用実態を一致させることが不可欠です。
業務委託先の作業員への安全衛生に関する指示は偽装請負にあたりますか?
労働安全衛生法などに基づき、事業所内の安全を確保するために必要な指示は、業務遂行に関する指揮命令とは区別され、偽装請負には当たらないと解されています。例えば、危険な場所への立ち入り禁止の指示や、保護具の着用を徹底させることなどは、発注者としての責務です。ただし、これを口実に日常的な作業手順にまで介入することは許されません。
IT業界のSES契約で特に注意すべき点は何ですか?
IT業界で多いSES(システムエンジニアリングサービス)契約は、準委任契約の一種であり、技術者がクライアント企業に常駐するため、特に偽装請負に陥りやすい傾向があります。注意すべき点は、クライアント(発注者)の社員が常駐エンジニアに直接、業務の指示や進捗管理、勤怠管理を行わないことです。すべての指示や連絡は、必ずベンダー(受託者)の責任者を通じて行う必要があります。
偽装請負と判断された場合、労働者との直接雇用義務は生じますか?
はい、生じる可能性が非常に高いです。労働者派遣法の「労働契約申込みみなし制度」により、発注者が違法な派遣(偽装請負)を受け入れた場合、その時点で対象労働者に対して直接雇用の申込みをしたとみなされます。労働者が同意すれば、発注者の意図にかかわらず、直接の雇用契約が成立します。この制度は、発注者が違法状態を知らなかったとしても、それに過失がないことを証明できない限り適用される強力な措置です。
まとめ:契約と実態の両面から偽装請負リスクを回避する
本記事では、偽装請負の定義から具体的なパターン、法的リスク、そして防止策までを網羅的に解説しました。最も重要なポイントは、偽装請負の判断基準が契約書の文言ではなく、発注者が労働者に直接指示を出しているかという「指揮命令の実態」にある点です。自社の業務委託が典型的なパターンに該当しないか、契約内容と現場の運用ルールの両面から点検することが不可欠です。罰則のみならず「労働契約申込みみなし制度」という経営に直結するリスクを避けるためにも、現場管理者への教育を徹底し、指揮命令系統を明確に保つ体制を構築してください。少しでも判断に迷う点があれば、弁護士などの専門家に相談し、コンプライアンス体制を万全にすることが賢明です。

