準委任契約が偽装請負と見なされる基準とは?罰則や回避策を解説
準委任契約は外部の専門人材や協力会社を活用する上で有効な契約形態ですが、その運用方法を誤ると「偽装請負」という重大な法律違反に問われるリスクをはらんでいます。特に、発注者による「指揮命令」の有無が判断の分かれ目となりますが、その線引きは実務上、曖昧になりがちです。コンプライアンスを遵守し健全な事業運営を続けるため、偽装請負の正確な知識は不可欠です。この記事では、準委任契約が偽装請負と判断される具体的な基準、法的リスク、そして回避するための契約・実務上の対策を網羅的に解説します。
準委任契約で問題となる「偽装請負」の基本
偽装請負とは何か?準委任契約との関係性
偽装請負とは、契約形式上は準委任契約や請負契約といった業務委託契約でありながら、その実態が労働者派遣に該当する違法な状態を指します。準委任契約では、受託者が自己の裁量と責任において業務を遂行するものであり、発注者が受託者側の労働者に対して直接的な指揮命令を行うことは認められていません。
しかし、現場の実務において発注者が受託者側の担当者に直接作業指示を出したり、勤怠管理を行ったりするケースがあり、これが労働者派遣法などの規制を免れるための脱法行為とみなされます。準委任契約はシステム開発の保守・運用やコンサルティング業務などで広く活用されますが、成果物の完成義務を負わないため、発注者が労働力の管理に介入しやすく、意図せず偽装請負に陥るリスクがあります。契約書の名称にかかわらず、指揮命令関係の実態が判断の最優先基準となります。
偽装請負が法律で禁止される理由:労働者保護と中間搾取の防止
偽装請負が法律で厳しく禁止されているのは、労働者の権利を保護し、健全な労働市場を維持するためです。主な理由として、以下の点が挙げられます。
- 中間搾取の防止: 労働基準法第6条で禁止されている「中間搾取」に該当する恐れがあります。雇用責任を負わない第三者が介在し、労働者の賃金を不当に搾取する構造を防ぎます。
- 労働関係法令の責任逃れの防止: 本来、雇用主が負うべき社会保険の加入義務、労働時間管理、安全配慮義務といった責任が曖昧になり、労働者が保護されない事態を回避します。
- 労働者の権利保護: 労働災害が発生した際の補償が不十分になったり、不当な解雇が行われたりするなど、労働者が不利益を被るリスクから保護します。
- 適正な雇用管理の維持: 誰の指揮命令下で働いているかを明確にすることで、責任の所在をはっきりさせ、労働法体系の根幹を維持します。
偽装請負の判断に不可欠な契約形態の比較
準委任契約と請負契約の相違点
準委任契約と請負契約は、どちらも発注者から受託者へ指揮命令権がない点で共通しますが、契約の目的や負うべき責任が異なります。
| 比較項目 | 準委任契約 | 請負契約 |
|---|---|---|
| 契約の目的 | 事務処理の遂行そのもの | 仕事の完成 |
| 負うべき責任 | 善良な管理者の注意をもって業務を遂行する義務(善管注意義務) | 成果物を完成させ、引き渡す義務 |
| 契約不適合責任 | 原則として負わない | 負う(成果物が契約内容に適合しない場合) |
| 報酬の対象 | 業務の遂行(時間や工数に応じた支払いが多い) | 完成した仕事の成果物 |
| 根拠法令 | 民法第656条、第643条 | 民法第632条 |
準委任契約と労働者派遣契約の相違点
準委任契約と労働者派遣契約の最も決定的な違いは、労働者に対する指揮命令権の所在です。偽装請負と判断されるか否かの重要な分岐点となります。
| 比較項目 | 準委任契約 | 労働者派遣契約 |
|---|---|---|
| 指揮命令権の所在 | 受託者(発注者は指示できない) | 派遣先(派遣スタッフに直接指示できる) |
| 契約の目的 | 特定の事務処理の遂行 | 労働力の提供 |
| 労働者との関係 | 受託者が自社の労働者を管理 | 派遣元が雇用し、派遣先が指揮命令 |
| 法的規制 | 民法が適用される | 労働者派遣法が適用される(3年ルールなど) |
偽装請負に該当するかを判断する具体的基準
法的根拠となる「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」
偽装請負の判断は、厚生労働省が告示した「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(通称37号告示)に基づいて行われます。この基準は、契約の名称ではなく、業務の実態に即して労働者派遣に該当するか否かを判断するための具体的な要件を定めています。請負(準委任契約を含む)と認められるためには、この告示が示す複数の要件をすべて満たさなければならず、一つでも満たさない場合は労働者派遣と判断されます。したがって、準委任契約を適正に運用するには、この37号告示の理解が不可欠です。
判断基準①:業務の遂行方法や評価に関する指示・管理の有無
発注者が受託者側の労働者に対して、業務の進め方や内容について具体的な指示を出していないかが問われます。受託者が自らの裁量で業務を管理・遂行している必要があります。
- 労働者に対し、仕事の割り振りや遂行手順を直接指示すること。
- 業務の品質や進捗状況について、労働者個人を直接評価・査定すること。
- 労働者に対し、技術的な指導や教育を直接行うこと。
- 受託者側の現場責任者が単なる連絡役に過ぎず、実質的な管理権限を持っていないこと。
判断基準②:勤務場所や勤務時間に対する拘束の有無
労働者の勤務時間や休憩、休日に関する管理は、受託者が主体的に行わなければなりません。発注者がこれらを管理・拘束している場合、指揮命令関係にあると判断されやすくなります。
- 発注者が労働者の始業・終業時刻や休憩時間を指定・管理すること。
- 発注者が労働者の勤怠記録をとり、欠勤や遅刻に対して承認などを行うこと。
- 発注者が労働者に対して、残業や休日出勤を直接指示・命令すること。
- 発注者のオフィス内で特定の座席を指定し、自社の従業員と混在させて業務を行わせること。
判断基準③:業務依頼に対する諾否の自由の有無
準委任契約は対等な事業者間の契約であり、受託者には発注者からの業務依頼を引き受けるか否かを判断する諾否の自由がなければなりません。この自由が実質的にない場合、雇用関係に近い従属的な関係とみなされます。
- 発注者からの業務依頼を、受託者が正当な理由なく断れない状況にあること。
- 発注者が、契約範囲外の業務を一方的に追加・指示すること。
- 発注者が特定の個人を指名して業務に従事させたり、担当者の交代を要求したりすること。
判断基準④:代替性の有無と事業者性
業務を遂行する労働者に代替性があるか、また受託者が事業者として独立しているかも重要な判断基準です。これらが認められない場合、単なる労働力の提供とみなされるリスクが高まります。
- 発注者が特定の個人を指名し、その人でなければならないとして代替を認めないこと。
- 業務に必要なパソコンや機材、ソフトウェアなどをすべて発注者が無償で提供していること。
- 受託者が自らの専門性や技術を提供するのではなく、発注者の指示に従って単純な労務を提供しているに過ぎないこと。
- 報酬が業務の成果ではなく、純粋に労働時間のみを基準に支払われていること。
偽装請負と判断された場合の罰則と事業リスク
労働者派遣法に基づく罰則
偽装請負は、実質的に無許可で労働者派遣事業を行ったものとみなされ、労働者派遣法違反に問われます。この場合、受注者(派遣元とみなされる側)には「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科される可能性があります。また、発注者側も、無許可の事業者から派遣を受け入れたとして、行政指導や勧告、企業名公表の対象となるリスクがあります。
職業安定法に基づく罰則
偽装請負が悪質な「労働者供給事業」に該当すると判断された場合、職業安定法第44条違反となります。この法律は、労働組合などが厚生労働大臣の許可を得て無料で行う場合を除き、労働者供給事業を全面的に禁止しています。違反した場合、供給元である受注者だけでなく、供給先である発注者も罰則の対象となり、双方に「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科される可能性があります。
労働基準法上の使用者責任を問われる可能性
偽装請負と判断されると、発注者は実質的な「使用者」とみなされ、労働基準法上の責任を負うことになります。これにより、以下のような予期せぬ義務やリスクが発生します。
- 未払い残業代の支払い義務: 法定労働時間を超える労働に対して、割増賃金を支払う義務が生じます。
- 安全配慮義務: 労働災害が発生した場合、使用者として損害賠償責任を負う可能性があります。
- 労働契約申込みみなし制度の適用: 違法な状態を知りながら労働者を受け入れた場合、発注者がその労働者に対して直接雇用を申し込んだとみなされ、労働者が承諾すれば雇用契約が成立します。
法令違反による企業イメージや社会的信用の低下
偽装請負が発覚した場合、法的な罰則以上に深刻なのが、社会的信用の失墜という事業リスクです。コンプライアンス違反の事実は、企業のブランドイメージを大きく損ない、長期的な経営への打撃となります。
- レピュテーションの悪化: 「ブラック企業」との評判が広まり、顧客や消費者からの信頼を失う。
- 人材確保の困難化: 採用活動において優秀な人材が集まらなくなり、既存社員の離職にもつながる。
- 取引関係への悪影響: 取引先からの信用を失い、契約の打ち切りや新規取引の機会損失につながる。
万が一、偽装請負を指摘された場合の初期対応
行政機関などから偽装請負の疑いを指摘された場合は、隠蔽したり軽視したりせず、迅速かつ誠実に対応することが極めて重要です。以下の手順で対応を進めましょう。
- 事実関係の迅速な調査: 指摘された現場の業務実態について、指揮命令系統や労務管理の状況を客観的に調査・把握します。
- 専門家への相談: 弁護士などの労働問題の専門家に速やかに相談し、法的な見解と対応策について助言を求めます。
- 是正措置の実施: 指摘された問題点を是正するため、契約内容の見直しや現場の運用ルールの変更など、具体的な改善策を策定し実行します。
- 行政への誠実な報告: 行政から是正指導や勧告を受けた場合は、真摯に受け止め、期限内に改善計画や結果を報告します。
- 再発防止策の構築: 同様の問題が再発しないよう、社内の管理体制や研修制度を整備し、コンプライアンス意識の徹底を図ります。
偽装請負を回避するための契約・実務上の対策
契約書作成で注意すべき項目と表現
偽装請負のリスクを回避するためには、まず契約書の段階で、業務委託契約としての独立性を明確にしておくことが重要です。
- 指揮命令権の否定: 発注者に指揮命令権がなく、受託者が自己の裁量で業務を遂行する旨を明確に記載する。
- 業務範囲の具体化: 委託する業務の内容、範囲、求める品質などを可能な限り具体的に定義し、範囲外の業務指示を抑制する。
- 管理責任者の明記: 業務の指示や管理は、受託者が指定する現場責任者を通じて行うことを条項に盛り込む。
- 服務規律の適用除外: 発注者の就業規則や服務規律が、受託者の労働者には適用されないことを明記する。
- 報酬の算定基準: 報酬が単なる時間給ではなく、業務の処理や成果に対する対価であることを示す算定基準にする。
日常業務におけるコミュニケーションの注意点
契約書の内容を遵守するため、現場でのコミュニケーション方法に細心の注意を払う必要があります。発注側の担当者が無意識に行う言動が、指揮命令とみなされることがあるためです。
- 連絡ルートの一本化: 業務上の依頼や質問は、必ず受託者側の管理責任者を通じて行うことを徹底する。
- 直接指示の禁止: 発注担当者が受託者側の個々の労働者に対し、作業手順の変更や優先順位の指示などを直接行わない。
- 過度な進捗管理の回避: 進捗確認は必要最小限にとどめ、マイクロマネジメントと受け取られるような細かすぎる管理は避ける。
- 評価・指導の禁止: 労働者の能力や勤務態度について、発注者が直接評価したり、技術指導を行ったりしない。
定期的な業務実態の確認と契約内容の見直し
契約当初は適正であっても、時間の経過とともに現場の運用が契約内容から乖離し、偽装請負状態に陥ることがあります。これを防ぐため、定期的な監査と見直しが不可欠です。
- 定期モニタリングの実施: 半年や一年に一度など、定期的に現場の業務実態をヒアリングや実地調査で確認する。
- チェックリストの活用: 37号告示の基準に基づいたチェックリストを作成し、自己点検を行う。
- 契約内容のアップデート: 法改正や業務内容の変化に応じて、契約書の内容を定期的に見直し、実態に合わせて更新する。
現場担当者への周知徹底と管理体制の構築
偽装請負のリスクは、法務部門だけでなく、事業部門の現場担当者が正しく理解していなければ防げません。全社的な管理体制の構築が求められます。
- コンプライアンス研修の実施: 現場の管理職や担当者向けに、偽装請負のリスクと判断基準に関する研修を定期的に行う。
- 相談窓口の設置: 現場で判断に迷った際に気軽に相談できる法務部や人事部などの専門窓口を設ける。
- 従業員との区別の明確化: 受託者側のスタッフには、社員証とは異なる入館証を貸与したり、座席を物理的に分けたりして、指揮命令関係がないことを明確にする。
準委任契約と偽装請負に関するよくある質問
Q. 契約書に「指揮命令関係はない」と明記すれば安全ですか?
いいえ、安全とは言えません。 偽装請負の判断では、契約書の文言よりも業務の実態が最優先されます。契約書に指揮命令関係を否定する条項があっても、現場で発注者が直接指示を出していれば、偽装請負と認定される可能性が非常に高いです。契約書はあくまで基本ですが、その内容を遵守する現場の運用体制が伴って初めてリスクを回避できます。
Q. チャットツールでの進捗確認や仕様の協議も指揮命令になりますか?
ケースバイケースです。契約内容の範囲内で仕様を確認したり、成果物の進捗状況を報告し合ったりすることは、通常、指揮命令にはあたりません。しかし、チャットツールを使ってリアルタイムで作業の優先順位を変えさせたり、具体的な作業手順を細かく指示したりすると、指揮命令とみなされるリスクが高まります。連絡は受託者の責任者を通す、指示ではなく要望として伝える、といった工夫が必要です。
Q. 偽装請負が発覚した場合、発注者と受注者どちらの責任が重いですか?
法律上、発注者と受注者の双方が重い責任を負います。 受注者は無許可派遣として、発注者は無許可事業者からの受け入れとして、それぞれ罰則の対象となります。ただし、労働契約申込みみなし制度によって労働者を直接雇用する義務を負う可能性がある点や、取引の主導権を握っていると見なされやすい点から、社会的な非難は発注者側により強く向けられる傾向があります。どちらか一方の責任ではなく、双方にとって極めて深刻なリスクです。
Q. 個人事業主や一人親方との契約で特に注意すべき点はありますか?
個人事業主との契約は、組織的な管理体制がないため、偽装請負と認定されるリスクがより高まります。特に以下の点に注意が必要です。
- 時間的・場所的拘束をしない: 勤務時間や場所を厳格に指定せず、本人の裁量に委ねることが重要です。
- 事業者性を尊重する: パソコンなどの業務に必要な機材は、原則として本人に用意してもらうなど、独立した事業者として扱う必要があります。
- 諾否の自由を保障する: 発注する業務を断る自由を実質的に保障し、他の業務との兼業を認めます。
- 代替性を認める: 本人が業務を遂行できない場合に、本人の責任で代替者を立てることを認めるなど、特定の個人にのみ依存する関係を避けます。
まとめ:準委任契約を適正に運用し、偽装請負リスクを回避するために
本記事では、準委任契約における偽装請負のリスクとその対策について解説しました。偽装請負に該当するか否かは、契約書の文言よりも「指揮命令」の有無といった業務の実態によって判断されます。厚生労働省の基準に基づき、業務遂行方法への指示や勤務時間の管理、事業者としての独立性などが総合的に評価されるため、意図せず違反状態に陥るケースも少なくありません。偽装請負と判断された場合、法的な罰則だけでなく、使用者責任の追及や社会的信用の失墜といった深刻な事業リスクを招きます。まずは本記事で示した判断基準を参考に、自社の契約内容と現場の運用実態に乖離がないかを確認し、必要に応じて契約の見直しや現場担当者への教育を徹底することが重要です。

