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犯罪捜査規範10条の3とは?被害者への加害者情報通知の範囲と手続きを解説

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犯罪事件の被害に遭われた方やそのご家族、あるいは被疑者となった方にとって、捜査の状況や相手方に関する情報がどのように扱われるのかは、非常に重要な関心事です。特に、どのような情報が、いつ、どのような手続きで被害者に伝えられるのか、その根拠となるルールを知ることは、今後の対応を考える上で不可欠と言えます。この記事では、警察が被害者等へ情報提供を行う際の法的根拠である「犯罪捜査規範10条の3」について、通知される情報の種類や手続き、そして情報が提供されない例外的なケースまで、実務的な観点から詳しく解説します。

目次

犯罪捜査規範10条の3の概要と目的

被害者への情報提供を定めた条文の趣旨

犯罪捜査規範10条の3は、警察が捜査の過程で、犯罪被害者やそのご家族に対し、適切な情報を提供すべきことを定めた規定です。この規定は、犯罪によって傷ついた被害者の精神的な負担を和らげ、捜査の状況を伝えることで不安を解消することを目的としています。被害者が自身の関わる事件の刑事手続を理解し、損害賠償請求などの正当な権利を行使しやすくなるよう支援する意図があります。

犯罪捜査規範10条の3が目指すもの
  • 犯罪被害者の精神的打撃を軽減し、捜査状況が不明であることによる不安を解消する
  • 捜査の進捗や刑事手続の概要を伝え、被害者の手続への理解を促す
  • 損害賠償請求など、被害者の正当な権利行使に必要な情報を提供する
  • 被害者が刑事司法手続において孤立することなく、適切な配慮を受けられる環境を整備する

捜査における被害者保護とプライバシー保護のバランス

本規定は被害者への情報提供を原則としつつも、無制限の開示を認めているわけではありません。捜査機関は、被害者の「知る権利」と、被疑者や関係者の「プライバシー権」という、時に相反する二つの利益を慎重に比較検討する必要があります。例えば、被疑者の氏名や住所は、被害者が損害賠償を請求する上で重要な情報ですが、不必要に拡散されれば、被疑者の名誉や社会的な更生を妨げるおそれがあります。そのため、個別の事案ごとに情報の必要性や開示範囲、タイミングが慎重に判断されます。

考慮される利益 具体的な内容
被害者の知る権利 捜査状況の把握、損害賠償請求のための情報(氏名・住所など)の取得
関係者のプライバシー権 被疑者やその家族などの名誉、社会的な更生、個人情報の保護
情報提供における比較衡量のポイント

他の被害者支援制度(被害者連絡制度など)との違い

犯罪捜査規範10条の3に基づく通知は、警察が運用する「被害者連絡制度」や検察庁の「被害者等通知制度」と連携しつつも、それぞれ役割が異なります。犯罪捜査規範10条の3は、警察の捜査段階における情報提供の基本的な指針を定めるものです。これに対し、被害者連絡制度は主に重大事件を対象とした実務上の仕組みであり、被害者等通知制度は事件が検察庁に送られた後の処分結果などを通知するものです。これらは相互に補完しあい、被害者を多角的に支援する体制を構築しています。

制度名 主な運用主体 対象となる段階 主な通知内容
犯罪捜査規範10条の3 警察 捜査段階全般 捜査状況、被疑者の氏名、処分結果など
被害者連絡制度 警察 捜査段階(主に重大事件) 捜査状況、被疑者の検挙事実など
被害者等通知制度 検察庁 検察への送致後 事件の処分結果、公判期日、裁判結果など
主な被害者支援制度の比較

被害者に通知される情報の具体的な内容と対象者

通知される情報の種類(被疑者の氏名・処分結果など)

被害者に通知される情報は、捜査の進捗や被疑者に関する情報が中心となります。これらの情報は、被害者が法的な権利を行使したり、精神的な回復を図ったりするために不可欠なものとして位置づけられています。

主に通知される情報の種類
  • 被疑者に関する情報: 氏名、年齢、住居など、損害賠償請求のために必要な情報
  • 事件処理に関する情報: 検挙の事実、検察庁への送致の有無・年月日、起訴・不起訴などの処分結果
  • 被害者支援に関する情報: 犯罪被害給付制度や損害賠償請求制度の概要、各種相談窓口の案内

情報通知の対象となる人物の範囲(被害者本人・法定代理人など)

情報の通知を受けられるのは、原則として犯罪の被害に遭われたご本人です。ただし、被害者の状況に応じて、そのご家族なども対象となります。通知の対象範囲は、事件の性質や被害者の置かれた状況に応じて個別に判断されます。

情報通知の対象者
  • 原則: 犯罪被害者本人
  • 被害者が未成年者等の場合: 法定代理人(親権者、成年後見人など)
  • 被害者が死亡・重篤な場合: 配偶者、直系の親族、兄弟姉妹
  • 代理人: 被害者から委任を受けた弁護士
  • その他: 特に必要があると認められる参考人(ただし通知内容は限定的)

被害者が情報提供を受けるための申出手続き

警察への情報提供の申出方法とタイミング

被害者が情報提供を受けるための手続きは、捜査担当官からの意思確認で始まるのが一般的です。事情聴取などの際に、今後の情報提供を希望するかどうかを尋ねられます。もちろん、被害者側から自発的に照会することも可能です。損害賠償請求などを検討している場合は、捜査が警察段階にあるうちに早めに申し出ることが重要です。

申出の方法とタイミング
  • 申出の方法: 捜査員からの意思確認に応じるか、被害者から自発的に照会する(口頭、電話、書面)
  • 推奨されるタイミング: 捜査が警察段階にあるうち(事件が検察庁へ送致される前)
  • 申出が重要な理由: 民事上の損害賠償請求に必要な情報を早期に確保するため

申出にあたり準備しておくべきこと

情報提供の申出を円滑に進めるため、事前にいくつかの資料を準備しておくとよいでしょう。本人確認はもちろん、事件を特定できる情報があると、警察も迅速に対応しやすくなります。また、情報提供を求める目的を明確に伝えることも大切です。

申出時に準備すべきもの
  • 本人確認書類: 運転免許証やマイナンバーカードなど、本人であることを証明できるもの
  • 事件を特定する情報: 事件の受理番号など(交通事故の場合は交通事故証明書があると円滑)
  • 弁護士に依頼する場合: 弁護士への委任状
  • 情報提供を求める目的: 損害賠償請求の準備のためなど、具体的で正当な理由

捜査の進捗状況によって通知の可否や内容が変わりうる点

提供される情報の内容や可否は、捜査の進捗状況によって変化します。これは、捜査の密行性を保ち、証拠隠滅や被疑者の逃亡を防ぐためです。捜査上の必要性が優先されるため、被害者の要望するすべての情報が、希望するタイミングで得られるとは限りません。情報は捜査の進展に合わせて、段階的に提供されるのが一般的です。

捜査の進捗と通知内容の変化
  • 捜査初期(内偵段階など): 証拠隠滅や被疑者逃亡のおそれがあるため、通知は厳しく制限される
  • 被疑者検挙直後: 氏名や年齢など、基本的な情報が中心となる
  • 検察庁への送致後: 起訴・不起訴などの具体的な処分結果が通知可能となる

情報が通知されない例外的なケースとその具体例

「捜査に支障を及ぼすおそれ」があると判断される場合

犯罪捜査規範10条の3にはただし書きがあり、情報提供によって「捜査に支障を及ぼすおそれ」がある場合には、通知が制限されます。これは、事件の真相解明という捜査の最大の目的を達成するために必要な措置です。

「捜査への支障」と判断される具体例
  • 共犯者がまだ検挙されておらず、逃走や証拠隠滅のおそれがある場合
  • 提供した情報が漏洩し、関係者の安全が脅かされる危険がある場合
  • 被害者が知ることで、後の公判での証言の信頼性に影響が出る可能性がある場合
  • 組織犯罪や薬物事犯など、特に情報の機密性が求められる事件の場合

「関係者の名誉その他の権利を不当に侵害するおそれ」がある場合

情報提供が「関係者の名誉その他の権利を不当に侵害するおそれ」がある場合も、通知は行われません。被疑者にもプライバシー権や更生の機会が保障されており、過度な情報の流出は抑制されます。

「権利の不当な侵害」と判断される具体例
  • 被害者が情報をSNSなどで拡散し、私的制裁を行うおそれが高い場合
  • 加害者の家族構成や勤務先など、事件と直接関係ないプライバシー情報まで開示を求められた場合
  • 情報開示が新たな対立を招き、さらなる犯罪や嫌がらせを誘発する危険がある場合
  • 加害者の社会復帰や更生を著しく妨げると判断される場合

その他「通知することが相当でない」と判断されるケース

上記の二つ以外にも、社会通念に照らして「通知することが相当でない」と判断される特別な事情がある場合には、情報提供が見送られることがあります。これは、制度の趣旨から逸脱した利用を防ぐための規定です。

「通知が不相当」と判断されるその他の具体例
  • 情報提供を求める目的が、正当な権利行使ではなく好奇心や嫌がらせであると疑われる場合
  • 通知によって新たな紛争が誘発されることが客観的に明白な場合
  • 被害者や関係者が少年であったり、重い心身の疾患があったりするなど、特別な配慮が必要な場合

加害者(被疑者)側から見た留意点と対応

自身の個人情報がどの範囲で開示される可能性があるか

加害者(被疑者)となった場合、自身の個人情報が被害者に開示される可能性があります。特に、被害者からの損害賠償請求が見込まれる事案では、その請求に必要な範囲で情報が提供されやすくなります。ただし、開示される情報は事件に関連するものに限定されます。

開示される可能性のある個人情報の範囲
  • 開示されやすい情報: 氏名、住居(損害賠償請求に必要と判断された場合)
  • 原則として開示されない情報: 家族の氏名、勤務先の詳細な部署名や連絡先など、事件に直接関係ない情報

弁護士を通じた情報開示の制限に関する申入れ

加害者側が、自身の個人情報が不必要に開示されることを防ぎたい場合、早期に弁護士へ依頼することが極めて重要です。弁護士を通じて、捜査機関に対し、情報の取り扱いに配慮を求める申入れを行うことができます。特に、示談交渉の窓口を弁護士に一本化することで、警察も当事者間の直接の連絡を避け、個人情報の直接開示を抑制する判断をしやすくなります。

弁護士を通じた情報開示制限の申入れ手順
  1. 早期に弁護士に依頼し、代理人として活動を開始してもらう
  2. 弁護士から警察に対し、個人情報を安易に開示しないよう求める申入書を提出する
  3. 申入書には、情報開示が名誉や権利を不当に侵害する具体的なリスクを記載する
  4. 示談交渉の窓口を弁護士に一本化し、誠実に対応する意思があることを示す

【被害者側へ】通知された情報の適切な取り扱いと二次加害のリスク

被害者として加害者の情報を受け取った場合、その取り扱いには細心の注意が必要です。提供された情報は、あくまで損害賠償請求といった正当な目的のために利用すべきものです。インターネット上で加害者の実名を公開するなどの行為は、プライバシー侵害名誉毀損にあたる可能性があり、二次的なトラブルを招きかねません。

通知された情報の不適切な取り扱いに伴うリスク
  • 民事上のリスク: 加害者からプライバシー侵害や名誉毀損で損害賠償請求をされる
  • 刑事上のリスク: 名誉毀損罪などの犯罪に問われる可能性がある
  • 紛争解決上のリスク: 事件の解決が複雑化・長期化し、本来の権利救済が妨げられる

犯罪捜査規範10条の3に関するよくある質問

加害者の連絡先(電話番号や住所)まで教えてもらえますか?

加害者の連絡先について、どこまで開示されるかは状況によります。当事者間の直接の接触は新たなトラブルを生む可能性があるため、警察は慎重に判断します。安全かつ円滑な解決のためには、弁護士を介した連絡が推奨されます。

連絡先開示の可否
  • 住所: 損害賠償請求など正当な目的があれば、通知される可能性がある
  • 電話番号: 当事者間の直接接触によるトラブルを防ぐため、原則として開示されない
  • 推奨される方法: 弁護士に依頼し、相手方の代理人を通じて連絡を取るのが安全かつ確実である

警察から情報提供を拒否された場合、不服を申し立てる方法はありますか?

警察の判断に不服がある場合でも、情報提供を法的に強制する直接的な不服申立制度は設けられていません。警察の捜査に関する情報管理は、高度な裁量に委ねられているためです。しかし、弁護士を通じて再度働きかけたり、別の制度を利用したりする道は残されています。

情報提供を拒否された場合の対応
  • 直接的な不服申立制度: 警察の判断に対して、法的に開示を強制する直接的な制度はない
  • 弁護士を通じた再交渉: 開示の必要性を具体的に記した要望書を警察に提出し、再考を促す
  • 検察庁への照会: 事件が送致された後、検察庁の被害者等通知制度を利用して照会する

加害者が未成年(少年事件)の場合、情報の通知はどのようになりますか?

加害者が未成年の少年事件では、少年の健全な育成とプライバシー保護が特に重視されるため、成人事件以上に情報の取り扱いは慎重になります。被害者の権利回復とのバランスを考慮しつつ、限定的な運用がなされます。

少年事件における情報通知のポイント
  • 原則: 少年のプライバシー保護のため、氏名や住所などの個人情報開示は抑制的に運用される
  • 代替措置: 少年本人の情報に代わり、法定代理人(保護者)の連絡先などが通知されることがある
  • 家庭裁判所の手続: 事件が家裁送致された後は、裁判所に申し出ることで審判の傍聴や結果の通知を受けられる制度がある

示談が成立した場合でも、加害者の情報は通知されるのでしょうか?

示談が成立すると、損害賠償という目的は達成されるため、加害者の個人情報に関する通知の必要性は大きく低下します。ただし、被害者が刑事手続の最終的な結果に関心を持っている場合は、その部分についての通知は継続されることがあります。

示談成立後の情報通知
  • 民事上の解決が完了した場合: 示談交渉で必要な情報は共有済みのため、警察からの追加の個人情報通知は通常不要となる
  • 刑事処分の結果を知りたい場合: 被害者が希望すれば、起訴・不起訴などの最終的な処分結果については引き続き通知される

まとめ:犯罪捜査規範10条の3を理解し、適切な権利行使へ

本記事では、犯罪捜査規範10条の3に基づく被害者への情報提供について解説しました。この規定は、被害者の精神的負担を軽減し、損害賠償請求などの正当な権利行使を支援するために設けられた重要な制度です。通知される情報は被疑者の氏名や処分結果などが中心ですが、捜査への支障や関係者のプライバシー保護の観点から、必ずしも全ての情報が常に開示されるわけではない点も理解しておく必要があります。被害者側は通知された情報を適切に取り扱う責任があり、加害者側は弁護士を通じて不必要な情報開示への配慮を求めることも可能です。この制度の趣旨と限界を正しく理解し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することが、ご自身の権利を守り、適切な解決を目指すための第一歩となります。

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