会社法違反とは?罰則の種類(刑事罰・過料)と役員の責任を解説
企業の経営において、コンプライアンスの遵守は極めて重要であり、特に会社法違反のリスクは常に意識すべき経営課題です。役員の行為が意図せず法令に抵触していないか、どのような行為にどのような罰則が科されるのか、その全体像を正確に把握しておく必要があります。この記事では、会社法違反に問われる具体的な行為の種類から、刑事罰・過料・民事責任といった罰則の内容、さらには違反が発覚した際の対応フローまでを網羅的に解説します。
会社法違反における罰則の全体像
刑事罰(懲役・罰金):会社の信用を著しく損なう犯罪行為
刑事罰は、会社の存立基盤を揺るがす重大な会社法違反に対して科される、国家による制裁です。取締役や監査役などがその地位を悪用し、会社や利害関係者に損害を与えた場合に適用されます。有罪判決が確定すれば前科として記録され、個人の経歴に深刻な影響を及ぼすだけでなく、会社の社会的信用を根底から破壊します。
- 刑罰の種類: 身体の自由を奪う「拘禁刑」(従来の懲役刑と禁錮刑を一本化したもの)や、財産を強制的に徴収する「罰金刑」があります。
- 罰金額: 会社法上の犯罪では、最高で1,000万円という高額な罰金が科されることがあります。
- 信用の失墜: 役員が刑事罰を受けることは、企業のガバナンス不全の証左とみなされ、市場や金融機関からの信頼を大きく損なうことがあります。
- 両罰規定: 行為者個人だけでなく、法人である会社自身にも罰金刑が科される「両罰規定」が適用される場合があります。
過料(行政罰):会社法上の義務を怠った場合の制裁
過料は、刑事罰とは異なり、行政上の秩序を維持するために科される金銭的な制裁(行政罰)です。刑罰ではないため、前科はつきません。主な目的は、会社法が定める登記や公告といった、取引の安全を確保するための事務的な手続きを企業に遵守させることにあります。
代表例は、役員変更や本店移転から2週間以内に登記申請を怠る「登記懈怠」です。この場合、代表取締役個人に100万円以下の過料が科されます。過料は会社の経費として処理できず、会社が立て替えた場合は一般的に役員賞与として扱われ、所得税の課税対象となることがあります。支払いを怠ると、個人の財産に対して強制執行を受ける可能性があります。
民事上の責任:役員が会社や第三者に負う損害賠償
役員が会社法に違反して損害を生じさせた場合、刑事罰や行政罰とは別に、民事上の損害賠償責任を負います。この責任は、役員が職務を遂行する上で求められる善管注意義務に違反した場合などに発生し、個人の資産で賠償しなければならない極めて重いものです。ただし、役員の経営判断については、情報収集や手続きが合理的であったと認められれば責任を問われない「経営判断の原則」によって保護される場合があります。
| 項目 | 会社に対する責任(任務懈怠責任) | 第三者に対する責任 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 会社法423条 | 会社法429条 |
| 責任の要件 | 任務を怠り、会社に損害を与えたこと(故意・過失) | 職務を行うにつき悪意または重大な過失があったこと |
| 賠償の相手方 | 会社 | 直接損害を受けた第三者(株主、債権者、取引先など) |
| 具体例 | 不適切な融資の実行、会社資産の私的流用など | 粉飾決算を信じて取引し、損害を被った取引先への賠償など |
刑事罰の対象となる会社法上の主な犯罪
特別背任罪:役員が自己の利益のために会社に損害を与える行為
特別背任罪は、取締役などが自己もしくは第三者の利益を図り、または会社に損害を加える目的(図利加害目的)で任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を与えた場合に成立します。会社法違反の中でも特に重い犯罪の一つです。
法定刑は「10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金」、またはその両方が科される可能性があります。回収見込みのない会社への不当な融資や、個人的な損失の会社への付け替えなどが典型例です。経営判断の原則との線引きが問題となりますが、著しく不合理な判断や手続きの無視は、任務違背と認定される危険性が高まります。
会社財産を危うくする罪:違法な配当や自己株式取得など
会社財産を危うくする罪は、会社の資本を維持し、会社債権者の利益を保護するために設けられた犯罪類型です。法定刑は「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」が科されます。
- 違法配当: 分配可能額を超えて剰余金の配当を行う行為。
- 不正な自己株式取得: 会社法の手続きに違反して、不当に自己株式を取得する行為。
- 過度な投機取引: 会社の事業目的を逸脱した投機的な取引によって、会社財産を危険にさらす行為。
取締役等の贈収賄罪:職務に関する不正な利益の授受
取締役等の贈収賄罪は、民間企業の役員の職務であっても、その公正さを確保するために設けられた規定です。役員が、その職務に関して不正な請託(依頼)を受け、賄賂を受け取ったり要求したりした場合に収賄罪が成立します。賄賂を渡した側には贈賄罪が適用されます。
賄賂には金品だけでなく、接待や旅行なども含まれます。法定刑は、収賄側が「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」、贈賄側が「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」です。取引先の選定で便宜を図る見返りに金品を受け取るキックバックなどがこれにあたります。
株主の権利行使に関する利益供与の罪
株主の権利行使に関する利益供与の罪は、会社が特定の株主に対し、株主総会での議決権行使などに際して財産上の利益を提供することを禁じるものです。かつての総会屋対策を主な目的としていますが、アクティビストなどへの不適切な対応も対象となります。
会社または子会社の計算で利益を供与した役員には「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」が科されます。利益を受け取った株主側も処罰の対象となり、受け取った利益を会社に返還する義務を負います。この役員の責任は、総株主の同意がなければ免除されません。
計算書類等の不実記載・虚偽報告に関する罪
会社の財務状況を正確に開示する義務に違反する行為を罰するものです。いわゆる粉飾決算が典型例で、貸借対照表や損益計算書に虚偽の記載をし、会社の財政状態を偽る行為が対象となります。
株式募集などの際に虚偽の記載がある文書を用いた役員などには、「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」が科されます。上場企業の場合、金融商品取引法違反にも問われ、上場廃止や課徴金納付命令といった極めて重い制裁を受ける可能性があります。非上場企業でも、銀行融資のために書類を偽れば詐欺罪に問われることがあります。
会社の設立に関する罪(見せ金・預合い)
会社の設立段階で、資本金の払込みを偽装する行為も犯罪となります。これらは、会社の財産的基礎を偽り、債権者を欺く行為とみなされます。
- 見せ金: 発起人が第三者から一時的に資金を借り入れて払込み、設立登記後にすぐ返済する行為。刑法の公正証書原本不実記載罪などに問われる可能性があります。
- 預合い: 発起人が金融機関と通謀し、融資金を資本金として払い込む一方で、その預金の引き出しを制限する行為。会社法上の預合いの罪に該当し、「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」が科されます。
過料の対象となる会社法上の主な義務違反
登記事項の変更を怠る行為(登記懈怠)
登記懈怠は、過料処分の中で最も頻繁に発生する義務違反です。株式会社は、登記事項に変更が生じた場合、2週間以内に変更登記を申請する義務があります。これを怠ると、代表取締役個人に100万円以下の過料が科されます。特に役員の任期満了に伴う重任登記は忘れがちで注意が必要です。
- 商号、本店所在地、事業目的
- 資本金の額
- 役員(取締役、監査役など)の氏名や住所
計算書類の作成・備置き・開示義務の違反
株式会社は、毎事業年度、計算書類や事業報告を作成し、株主総会の承認を得て、本店に備え置く義務があります。また、定時株主総会の終結後、遅滞なく貸借対照表などを公告(決算公告)しなければなりません。これらの義務に違反すると、役員個人に過料が科されます。
- 作成義務: 貸借対照表、損益計算書などの計算書類を作成する義務。
- 備置義務: 計算書類等を定時株主総会の2週間前から5年間、本店に備え置く義務。
- 開示義務: 株主や債権者からの閲覧請求に応じる義務、および決算公告を行う義務。
株主総会・取締役会の招集手続や議事録作成の不備
株主総会や取締役会の運営に関する手続き違反も過料の対象です。定められた期間内に適切な招集通知を出さなかったり、会議の議事録を作成・保存しなかったりした場合、役員に過料が科される可能性があります。
特に議事録は、会社の意思決定の過程を示す重要な証拠です。議事録の作成を怠ったり、虚偽の内容を記載したりすると、過料だけでなく、役員の善管注意義務違反を問われるリスクも高まります。作成した議事録は、本店で10年間保存しなければなりません。
株主名簿の作成・備置き義務の違反
株主名簿は、会社の所有者が誰であるかを証明する基本台帳であり、その作成・備置きは全ての株式会社に義務付けられています。名簿の作成を怠ったり、株主からの正当な閲覧請求を拒否したりすると、役員に100万円以下の過料が科されます。
特に非上場会社では、相続や株式譲渡の際に名義書換が放置され、実際の株主と名簿上の株主が一致しないケースが見られます。これは経営権争いや事業承継の際の大きな障害となるため、株主名簿は常に正確な状態に保つ必要があります。
過料処分の通知を受けた際の実務対応と信用の影響
登記懈怠などで裁判所から過料決定の通知が届いた場合、速やかな対応が必要です。過料は前科にはなりませんが、企業の評価や金融機関の融資審査、取引先の与信判断において不利に働く可能性があります。
通知を受けた後の基本的な流れは以下の通りです。
- 代表取締役の住所に、裁判所から「過料決定」の通知が届きます。
- 通知内容に不服がある場合、受け取ってから1週間以内に即時抗告することができます。
- 即時抗告をしない場合、決定が確定し、約1ヶ月後に検察庁から納付告知書が送付されます。
- 告知書に従い過料を納付します。支払いを怠ると、代表取締役個人の財産が差し押さえられる可能性があります。
会社法違反が発覚した場合の具体的な影響
役員個人への影響:逮捕・勾留や刑事罰、役員資格の喪失
特別背任罪などの重大な会社法違反の疑いが生じた場合、役員個人には計り知れない影響が及びます。捜査機関による捜査が開始されれば、その後の人生を大きく左右する事態に発展します。
- 身体拘束: 逮捕・勾留により長期間身柄を拘束され、経営から完全に隔離されます。
- 刑事罰と前科: 有罪判決が下れば拘禁刑や罰金刑が科され、前科がつきます。
- 役員資格の喪失: 禁錮以上の刑が確定すると、会社法上の欠格事由に該当し、役員の資格を失います。
- 経済的打撃: 役員を解任され、退職金が不支給となるなど、経済的基盤を失います。
会社全体への影響:社会的信用の失墜と取引関係への悪影響
役員の不正行為は、会社全体の存続を危うくします。一度失った信用を回復することは極めて困難であり、事業活動のあらゆる側面に深刻なダメージを与えます。
- 社会的信用の失墜: 報道によりブランドイメージが毀損し、顧客や消費者が離反します。
- 取引関係の悪化: 取引先から取引を停止されたり、支払い条件を厳しくされたりします。
- 資金繰りの悪化: 金融機関からの信頼を失い、新規融資が停止されたり、既存融資の一括返済を求められたりします。
- 人材の流出: 優秀な従業員が離職し、新たな人材の採用も困難になります。
役員の任務懈怠責任に基づく損害賠償請求のリスク
会社法違反により会社に損害を与えた役員は、刑事責任とは別に、会社に対して民事上の損害賠償責任を負います。この賠償額は、時に数億円から数十億円に達することもあり、役員個人にとって最大の経営リスクの一つです。
会社が役員を訴えない場合でも、株主が会社に代わって役員の責任を追及する「株主代表訴訟」を提起される可能性があります。役員等賠償責任保険(D&O保険)に加入していても、故意の法令違反は補償の対象外となることが一般的であり、個人の財産に大きな影響を及ぼす可能性があります。
会社法違反の疑いが発覚した際の対応フロー
初動対応:迅速な事実関係の調査と証拠保全
会社法違反の疑いが発覚した場合、最初の24時間以内の初動対応がその後の展開を大きく左右します。まずは関係者に気づかれないよう、水面下で迅速に調査を開始し、証拠を確保することが最優先です。
- 秘密裏の調査開始: 疑惑の対象者に知られぬよう、信頼できるメンバーのみで調査チームを編成します。
- 客観的証拠の収集: 契約書、稟議書、会計データ、電子メールなど、関連する資料を網羅的に収集・分析します。
- 証拠保全の実施: パソコンやサーバーのデータを保全するデジタルフォレンジックなどを活用し、証拠の改ざんや隠滅を防ぎます。
- 情報管理の徹底: 調査に関する情報が一元管理される体制を構築し、社内での不必要な情報拡散を防ぎます。
外部専門家への相談:弁護士による法的リスクの評価
社内調査と並行して、できるだけ早い段階で企業法務に精通した弁護士に相談することが不可欠です。内部の人間だけでは冷静な判断が難しく、対応を誤るリスクが高いためです。
弁護士は、収集した証拠に基づき、当該行為が会社法上のどの規定に違反し、どのような法的リスク(刑事・民事・行政)があるかを客観的に評価します。その上で、捜査機関への対応、関係者へのヒアリング方法、株主や取引先への情報開示のタイミングと内容など、危機管理全体にわたる戦略的な助言を提供します。
是正措置と再発防止策の策定・実行
事実関係の調査が完了し、不正行為が明らかになった場合は、速やかに是正措置と再発防止策を講じる必要があります。これらは、失墜した信頼を回復するための第一歩となります。
- 是正措置: 不正に関与した役職員の懲戒解任、不正に流出した会社資産の回収、損害賠償請求の実行など。
- 再発防止策: 不正の温床となった業務プロセスの見直し(決裁権限の分散など)、内部監査体制の強化、全役職員を対象としたコンプライアンス研修の徹底など。
違反を未然に防ぐための内部統制と役員の監視義務
会社法違反を未然に防ぐためには、実効性のある内部統制システムの構築が不可欠です。これには、法令遵守を徹底するための規程整備、内部通報制度の設置と適切な運用、定期的な内部監査の実施などが含まれます。
また、取締役会の重要な機能として、取締役相互の業務執行を監督する監視義務があります。他の役員の不正行為や法令違反の兆候に気づきながらこれを黙認した場合、監視義務違反として同様に責任を問われる可能性があります。健全な議論ができる風通しの良い組織文化を醸成し、自浄作用が働く体制を維持することが、最大のリスク管理策です。
会社法違反に関するよくある質問
会社法違反に時効はありますか?
会社法違反の「時効」は、罰則の種類によって考え方が異なります。
| 罰則の種類 | 時効の考え方 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 刑事罰 | 刑事訴訟法上の公訴時効が適用されます。 | 罪の重さにより異なる(例:特別背任罪は7年)。 |
| 過料 | 法律上の明確な時効規定はありません。登記懈怠は何年経っていても、発覚した時点で処分の対象となり得ます。 | ― |
| 民事責任 | 民法上の消滅時効が適用されます。 | 損害及び加害者を知った時から3年または5年、または行為の時から10年または20年。 |
会社法違反の疑いがある場合、どこに通報・告発すればよいですか?
違反の内容や通報者の立場に応じて、複数の通報先が考えられます。客観的な証拠を添えて通報することで、各機関が対応しやすくなります。
- 社内の窓口: 内部通報窓口、コンプライアンス部門、監査役など。
- 捜査機関: 特別背任や横領などの犯罪行為については、警察署や検察庁に告訴・告発します。
- 証券取引等監視委員会: 上場企業の粉飾決算やインサイダー取引などについては、こちらが有力な通報先となります。
- 法務局: 登記懈怠などの登記に関する義務違反については、法務局が事実上の申告先となります。
会社法違反で警察の捜査が入ることはありますか?
はい、あります。ただし、すべての会社法違反が警察の捜査対象になるわけではありません。捜査が入るのは、主に刑事罰の対象となる重大な犯罪に限られます。
特別背任罪、贈収賄罪、詐欺的な資金調達など、会社や第三者に大きな財産的損害を与える悪質なケースでは、警察や検察による強制捜査が行われる可能性が高いです。その場合、令状に基づく捜索差押えが実施され、関係書類やパソコンなどが押収されます。一方で、登記懈怠や決算公告の失念といった過料の対象となる行政上の義務違反で、警察が動くことは通常ありません。
まとめ:会社法違反のリスクを理解し、健全な経営体制を構築する
本記事で解説したように、会社法違反には、役員個人の経歴に傷がつく「刑事罰」、行政上の義務違反に対する「過料」、そして会社や第三者への「民事上の損害賠償責任」という、性質の異なる3つの罰則が存在します。特別背任罪などの重大な犯罪行為は会社の存続を揺るがす一方、登記懈怠のような日常業務に潜む手続き上の違反も、過料処分を通じて企業の信用に影響を及ぼす可能性があります。経営者や担当者としては、これらのリスクを正しく理解し、日頃から内部統制システムを整備・運用することで、違反を未然に防ぐ体制を構築することが最も重要です。万が一、違反の疑いが発覚した場合には、決して自己判断で対応せず、速やかに弁護士などの外部専門家に相談し、初動対応を誤らないことが被害を最小限に抑える鍵となります。健全なガバナンス体制の維持こそが、企業の持続的な成長と社会的信頼を守るための礎となるでしょう。

