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【施行年別】商業登記法の改正点を解説|代表取締役の住所非表示やオンライン化への対応

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企業の法務・財務担当者にとって、法改正への迅速かつ正確な対応は極めて重要です。特に商業登記法は企業の組織や運営の根幹に関わるため、近年のオンライン化やプライバシー保護を目的とした改正は、登記実務やコンプライアンス体制に直接的な影響を及ぼします。この記事では、2021年から2024年にかけて施行された商業登記法および関連規則の主な改正点について、施行年ごとに整理し、企業実務への影響と求められる対応を網羅的に解説します。

目次

【2024年10月施行】代表取締役等の住所非表示措置

制度の概要と改正の背景

令和6年10月1日より、株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人の住所について、登記事項証明書等での表示を市区町村までに限定できる制度が始まりました。従来、代表取締役等の住所は全て公開されており、取引の安全確保に寄与してきましたが、近年ではプライバシー侵害などのリスクが問題視されていました。

この改正は、特に自宅を本店所在地とするスタートアップ経営者や女性経営者などが、住所公開によるリスクを懸念して起業をためらうケースがあったことなどが背景にあります。プライバシー保護と健全な起業活動の促進を両立させることを目的としています。

改正の主な背景
  • インターネットやSNSの普及による個人情報の悪用リスクの増大
  • 代表取締役の自宅住所が特定されることによるストーカー被害等の懸念
  • 住所公開が起業の心理的な障壁となっているとの指摘
  • イノベーション促進の観点からの経済界からの要望

ただし、この措置は登記事項証明書等における「表示」を一部制限するものであり、法務局へ住所を届け出る義務がなくなるわけではありません。

住所非表示措置の対象者と適用要件

この制度を利用できるのは、株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人に限られます。合同会社や一般社団法人などは対象外です。

制度を利用するための最も重要な要件は、申出のタイミングです。具体的には、代表取締役等の住所が登記される下記の申請と「同時」に申し出る必要があります。現在登記されている住所について、後から非表示措置だけを単独で申請することはできません。

申出が可能な登記申請の例
  • 会社の設立登記
  • 代表取締役等の就任(重任を含む)の登記
  • 代表取締役等の住所移転による変更登記

申出に必要な添付書面は、会社が上場しているか否かで異なります。

会社形態 必要な添付書面(主なもの)
上場会社 株式が上場されていることを証明する書面(例:取引所のウェブサイトの写し)
非上場会社 本店の実在性を証する書面、実質的支配者の本人特定事項を証する書面などが必要
会社形態別の主な添付書面

非上場会社で求められる厳格な書類は、実体のないペーパーカンパニーによる制度の悪用を防ぐための措置です。

住所を非表示にするための具体的な手続きの流れ

住所非表示措置を利用するための手続きは、以下の流れで進めます。

手続きの基本的な流れ
  1. 登記申請書に「代表取締役等住所非表示措置を希望する旨」や対象者の氏名・住所等を記載します。
  2. 会社の状況(上場・非上場)に応じた添付書類を準備します。特に非上場会社は本店の実在証明(配達証明郵便の取得等)に日数を要するため、計画的な準備が必要です。
  3. 添付書類を揃え、管轄の法務局へ登記申請を行います。
  4. 登記官による審査を経て登記が完了すると、登記事項証明書等の住所欄が市区町村までの表示となります。

一度この措置が適用されれば、代表者の住所に変更がない限り、その後の役員重任登記などでは自動的に非表示措置が継続されます。ただし、代表者が引っ越しをした場合は、住所変更登記の際に改めて非表示措置の申出をしないと新しい住所は全て表示されてしまうため、注意が必要です。また、会社からの申出により、いつでも非表示措置を終了させることも可能です。

実務上の注意点(DV被害者等支援との関連含む)

本制度を利用する際には、いくつかの実務上の注意点を理解しておく必要があります。

主な注意点
  • DV被害者等支援措置との違い: 本制度は「一部非表示」ですが、DV被害者等を保護する制度はより秘匿性が高く、別の制度として運用されています。深刻なリスクがある場合は、DV等支援措置の利用を検討すべきです。
  • 住所変更登記の義務: 住所が非表示になっても、実際に住所を移転した際の変更登記義務は免除されません。登記を怠ると過料の対象となる可能性があります。
  • 本人確認への影響: 金融機関での口座開設や重要な契約の際、登記事項証明書だけでは住所を証明できないため、別途、住民票の写しや印鑑証明書等の提出を求められる場面が増えることが予想されます。
  • 職権による措置の終了: 本店宛ての郵便物が届かないなど、会社の実在性が疑われる場合、登記官の職権によって非表示措置が終了させられることがあります。
  • 利害関係人による閲覧: 正当な理由を持つ利害関係人が登記申請書等の附属書類の閲覧請求を行った場合、非表示とされた住所情報が開示される可能性があります。

住所非表示措置が取引上の与信判断に与える影響

代表取締役の住所が非表示となることは、取引先の与信判断に影響を与える可能性があります。企業の信用調査では、代表者の住所情報が資産状況や過去の経歴を確認するための一つの材料となるためです。

この情報が非公開になることで、特に金融機関や卸売業など、与信管理を重視する業界では、取引開始の判断がより慎重になる、あるいは追加の資料提出を求められるといった影響が考えられます。一部の調査では、約2割の企業が「与信判断にマイナスの影響がある」と回答しており、取引上のコストが増加する可能性を認識しておく必要があります。

【2022年9月施行】商業登記規則等の主な改正点

支店の所在地における登記の廃止とその影響

令和4年9月1日より、支店の所在地を管轄する法務局で行う「支店所在地における登記」が廃止されました。従来は、本店の管轄外に支店を設置した場合、本店と支店の両方の法務局に登記申請が必要でしたが、このうち支店側での手続きが不要となった形です。

この改正により、企業は以下のメリットを受けられます。

支店登記廃止による主なメリット
  • 手続きの簡素化: 支店の設置・移転・廃止等の手続きが、本店所在地の法務局への申請のみで完結します。
  • コストの削減: 支店所在地での登記申請にかかる登録免許税(1箇所につき9,000円)や司法書士報酬が不要になります。

ただし、本店所在地の登記簿において支店の情報を登記する義務は引き続き残ります。支店を新たに設置したり廃止したりした場合は、本店を管轄する法務局への登記申請が必要です。また、過去の支店登記の情報が必要な場合は、閉鎖された登記簿の証明書を取得することで確認できます。

株主総会資料の電子提供措置制度と必要な定款変更

令和4年9月1日より、株主総会資料(事業報告や計算書類など)を自社のウェブサイト等に掲載し、株主へはそのサイトのアドレスを通知することで資料提供を完了できる「株主総会資料の電子提供制度」が始まりました。これにより、資料の印刷・郵送コストを削減し、より早期の情報開示が可能になります。

この制度の導入は、会社の形態によって対応が異なります。

対象 導入の要否 必要な対応
上場会社 義務 法改正により自動的に定款変更があったとみなされます。多くは後の株主総会で定款の文言を整備します。
非上場会社 任意 導入する場合、株主総会の特別決議で「電子提供措置をとる旨」を定款に定め、その登記申請が必要です。
会社形態別の対応

なお、制度を導入した場合でも、インターネットの利用が困難な株主は書面による資料の交付を請求する権利(書面交付請求権)を持っています。企業は、この請求に対応できる体制を整えておく必要があります。

役員等の旧氏併記に関する範囲の拡大

令和4年9月1日より、会社の役員等の登記簿上の氏名に、旧氏(旧姓)を併記できる範囲が拡大されました。従来は婚姻による氏の変更に限られていましたが、改正により、養子縁組や離婚など、他の理由で氏が変わった場合でも、変更前の氏を併記できるようになりました。

また、手続きも簡素化され、役員の就任登記などと同時でなくても、任期の途中などに旧氏併記の申出だけを単独で行うことが可能になりました。これにより、ビジネスで旧姓を使い続けている役員が、契約や本人確認の場面で登記簿上の氏名と通称名の不一致によって生じる不便を解消しやすくなります。

【2021年2月施行】オンライン手続き・電子化に関する改正点

オンライン申請における印鑑提出の任意化

令和3年2月15日より、オンラインで商業登記を申請する場合に限り、会社の代表者印(実印)の法務局への届出が任意となりました。従来は、オンライン申請であっても別途、印鑑届書を郵送等で提出する必要がありましたが、この改正により、代表者がマイナンバーカード等による電子署名を行えば、印鑑を届け出ることなく手続きを完了できます。

これにより、会社設立登記などを法務局へ一度も出向くことなく「完全オンライン」で完結させることが可能になりました。ただし、書面で登記申請を行う場合は、引き続き印鑑の届出が必要です。また、日本の商慣習上、金融機関との取引などで印鑑証明書が求められる場面は依然として多いため、実務上は設立時に印鑑を届け出るケースが多いのが現状です。

商業登記電子証明書のオンラインでの請求

会社の「電子的な印鑑証明書」にあたる商業登記電子証明書について、その発行請求手続きがオンラインで完結できるようになりました。従来は、申請ファイルを作成した後に法務局へ出向くか郵送する必要がありましたが、改正後は専用ソフトとオンライン申請システムを通じて、申請から取得までをオンライン上で行えます。

オンライン請求の主な流れ
  1. 専用ソフトで申請ファイルを作成します。
  2. 代表者個人のマイナンバーカード等で電子署名を行い、データを送信します。
  3. 発行手数料をインターネットバンキング等で電子納付します。
  4. 手続き完了後、電子証明書をパソコンにダウンロードして取得します。

これにより、24時間いつでも申請が可能となり、証明書取得にかかる時間と手間が大幅に削減されました。

登記申請に利用できる電子証明書の種類拡大

オンライン登記申請の際に添付する議事録などの電子文書に付与する電子署名について、利用できる電子証明書の種類が拡大されました。具体的には、マイナンバーカードに搭載されている公的個人認証サービス電子証明書のほか、法務大臣の認定を受けた民間のクラウド型電子署名サービスも利用可能になりました。

これにより、普段の業務で利用しているクラウド契約サービス等の電子署名を、そのまま登記手続きに利用できるケースが増えました。取締役が遠隔地にいる場合でも、物理的な押印のために書類を郵送し合う「ハンコ・リレー」を解消し、迅速な登記手続きを実現する上で非常に有効です。

一連の法改正が企業実務に与える影響と必要な対応

登記手続きの効率化とオンライン化への移行

一連の法改正は、企業の登記手続きにおける「脱ハンコ」「ペーパーレス」「オンライン化」を強力に後押しするものです。これにより、法務局へ一度も足を運ばずに手続きを完了させることが現実的になりました。企業は、従来の書面中心の業務フローを見直し、議事録の電子化や電子署名の活用、オンライン申請の導入などを検討することで、法務コストの削減と業務効率化を図ることが重要です。

コーポレートガバナンス体制の見直し(電子提供措置関連)

株主総会資料の電子提供制度は、単なるコスト削減ではなく、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化にも繋がります。株主が議案を検討する時間を十分に確保できるようになり、建設的な対話が促進されるためです。企業は、定款変更やウェブサイトの整備、システム障害等のリスクへの備えなど、適切な運用体制を構築する必要があります。

個人情報保護と社内の情報管理体制の強化

代表取締役の住所非表示措置や役員の旧氏併記は、個人のプライバシー保護に貢献する一方、企業にはより厳格な情報管理体制が求められます。住所非表示措置を利用した場合、代表者の住民票など、高度な個人情報を取引先に提出する機会が増えるため、その取り扱いに関する社内ルールを整備し、漏洩リスクを防ぐ必要があります。また、電子証明書やパスワードの管理も「会社の印鑑」と同様に重要であり、適切なセキュリティ体制の構築が不可欠です。

オンライン申請の普及と社内の電子証明書管理体制の整備

オンライン申請の普及により、商業登記電子証明書やマイナンバーカードは「デジタルな実印」としての重要性を増しています。物理的な印鑑と異なり、不正利用のリスクが見えにくいため、管理体制の整備が急務です。具体的には、電子証明書の保管場所や利用担当者を限定し、使用履歴を記録するほか、有効期限が切れて手続きが滞ることのないよう、更新スケジュールを管理する仕組みを整えることが求められます。

商業登記法改正に関するよくある質問

代表取締役の住所非表示措置は、どのような会社でも利用できますか?

いいえ、すべての会社が利用できるわけではありません。この制度を利用できるのは「株式会社」に限られており、合同会社や特例有限会社などは対象外です。

また、株式会社であっても、代表取締役の住所が登記される申請と同時に申し出る必要があります。具体的には、会社の設立、役員の就任・重任、住所移転などのタイミングです。既に登記されている住所について、後から非表示にすることだけを単独で申請することはできません。

さらに、非上場会社の場合は、本店が実在することを証明する書面など、複数の添付書類が必要となり、手続きの準備には相応の手間がかかります。これは、実体のない会社による制度の悪用を防ぐためです。

支店の所在地における登記が廃止されましたが、自社で何か手続きは必要ですか?

基本的に、会社側で特別な手続きを行う必要はありません。 令和4年9月1日の改正法施行と同時に、全国の法務局にあった支店所在地の登記記録は、登記官の職権によって自動的に閉鎖されました。

ただし、注意点として、これはあくまで「支店所在地での登記」がなくなっただけであり、「本店所在地での支店に関する登記」の義務は存続します。今後、新たに支店を設置したり、既存の支店を移転・廃止したりした場合は、これまで通り、本店を管轄する法務局へ変更登記を申請する必要があります。

株主総会資料の電子提供措置を導入する場合、まず何をすべきですか?

自社が上場会社か非上場会社かによって、最初に行うべきことが異なります。

  • 上場会社の場合: 導入は義務であり、法改正によって定款に定めがあるものとみなされています。実務上は、施行後の株主総会で、みなし規定に沿って定款の条文を整備する決議を行うのが一般的です。
  • 非上場会社の場合: 導入は任意です。導入を決めた場合、まず株主総会の特別決議で「電子提供措置をとる旨」を定款に定める必要があります。その後、効力発生日から2週間以内に、その旨を登記申請します。

いずれの場合も、制度を運用するためには、以下の準備が必要です。

電子提供措置導入に向けた主な準備事項
  • 株主総会資料を掲載するウェブサイトの確保
  • 資料掲載サイトのアドレス等を記載した招集通知(アクセス通知)の様式の準備
  • 株主からの書面交付請求に対応するための社内フローの確立
  • サーバーダウンなどシステム障害発生時の代替策の検討

まとめ:近年の商業登記法改正を理解し、適切な実務対応を

本記事では、2021年から2024年にかけて施行された商業登記法の主な改正点を解説しました。一連の改正は、手続きのオンライン化・効率化と、代表者のプライバシー保護という二つの大きな潮流に沿ったものです。具体的には、代表取締役等の住所非表示措置、株主総会資料の電子提供制度、支店登記の廃止、各種オンライン申請の拡充などが挙げられます。これらの変更は、単なる手続きの簡素化に留まらず、企業のコーポレートガバナンスや情報管理体制にも影響を及ぼします。自社に関係する改正点を正確に把握し、必要に応じて定款変更や社内規程の整備、電子証明書の管理体制構築といった具体的な対応を進めていくことが重要です。

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