手続

民事再生における事業譲渡スキーム|計画内外の違いと実務上の要点

経営リスクナビ編集部

経営不振に陥り、民事再生手続きにおける事業譲渡を検討されている場合、その法的な枠組みと実務を正確に理解することが不可欠です。民事再生は事業価値を維持しながら再建を目指す手続きですが、迅速に進めなければ取引先の離反などで価値が大きく損なわれる恐れがあります。この記事では、事業価値を守りつつ再生を図るための事業譲渡について、そのスキーム、メリット・デメリット、具体的な手続きの流れから注意点までを詳しく解説します。

民事再生における事業譲渡とは

事業再生を目的とするM&A手法

民事再生における事業譲渡とは、経営危機に陥った企業が、収益性のある優良事業を第三者(スポンサー)に譲渡するM&A手法の一つです。この手法により、譲渡で得た対価を債権者への弁済に充てつつ、事業そのものは新たな担い手のもとで存続させることが可能となります。

企業全体としては過剰債務により存続が困難でも、個別の事業単位で見れば独自の技術や顧客基盤といった価値が残っていることは少なくありません。事業譲渡では、譲渡対象とする資産や負債を契約によって個別に選別できるため、不採算部門や過去の負債を切り離し、収益性の高い事業だけをクリーンな状態でスポンサー企業に移転できます。

事業を有機的な一体として譲渡することは、資産を個別に売却するよりも高く評価される傾向があります。このように事業譲渡は、事業の実体を消滅させることなく再生を図り、かつ債権者への弁済原資を確保するための、実務的で合理的な手法として位置づけられています。

なぜ民事再生で活用されるのか

民事再生手続きにおいて事業譲渡が多用される最大の理由は、事業価値の劣化を防ぎ、迅速な再生を実現できる点にあります。法的な倒産手続きを申し立てた事実は企業の信用を著しく低下させ、時間の経過とともに取引先の離反や従業員の流出を招き、事業価値が急速に毀損するリスクを伴います。

通常、民事再生では再生計画の策定から認可まで数か月を要します。この間に事業価値が低下すれば、譲渡対価も下がり、債権者への弁済額が減少しかねません。しかし、事業譲渡を活用すれば、一定の要件のもとで再生計画の認可を待たずに事業をスポンサーへ移管できます。財務基盤の安定したスポンサーのもとで事業を継続することで、取引先や従業員に安心感を与え、事業の収益力を維持することが可能となるのです。

事業価値の毀損を最小限に食い止め、債権者への弁済原資を最大化するという目的を達成するため、事業譲渡は極めて有効な選択肢となります。

通常の事業譲渡との相違点

民事再生における事業譲渡と、平時の企業が行う通常の事業譲渡との最も大きな違いは、裁判所の関与債権者の意向が強く反映される点にあります。これは、利害関係者である債権者の利益を厳格に保護する必要があるためです。

項目 通常の事業譲渡 民事再生下の事業譲渡
主な目的 事業の選択と集中、経営戦略 事業再生、債権者への弁済原資の確保
意思決定 株主総会の特別決議が原則 裁判所の許可と債権者の意向が最重視される
手続きの監督 当事者間の自由な契約が中心 裁判所が監督し、手続きの公正性を担保する
株主の関与 決議権を行使し、大きな影響力を持つ 債務超過の場合、実質的な経済的利益を失っているため権限は限定的
代替措置 なし 債務超過等の要件を満たせば、裁判所の許可が株主総会決議に代わることがある
通常の事業譲渡と民事再生下での事業譲渡の主な違い

このように民事再生下の事業譲渡は、裁判所の許可によって株主総会決議を省略できる迅速性を確保しつつ、債権者の意見聴取によって手続きの公正性を担保する独自の仕組みが設けられています。

事業譲渡のメリット・デメリット

譲渡側(再生債務者)の利点

譲渡側である再生債務者にとって、事業譲渡には事業と雇用の維持を図りつつ、債務者としての責任を果たすことができるという大きな利点があります。

譲渡側の主な利点
  • 事業の存続: 自力再建が困難な状況でも、スポンサーのもとで事業を継続できる。
  • 雇用の維持: 事業が存続することで、多くの従業員の雇用を守ることができる。
  • 弁済原資の確保: 事業譲渡の対価を、債権者への早期かつ確実な弁済に充てられる。
  • 不採算部門の分離: 収益性の高い優良事業のみを切り出し、不採算部門や負債を旧会社に残せる。

譲渡側(再生債務者)の欠点

譲渡側には、手続きの煩雑さや法的な制約といった欠点も存在します。

譲渡側の主な欠点
  • 複雑な実務負担: 資産や契約を個別に移転するため、取引先や従業員から個別の同意を得る手続きに多大な労力を要する。
  • 競業避止義務: 会社法に基づき、譲渡した事業と同一の事業を一定期間・地域で行えなくなる制約を受ける。
  • 事業規模の縮小: 事業の一部または全部を譲渡するため、元の会社の規模は必然的に縮小する。

譲受側(スポンサー)の利点

譲受側であるスポンサーにとっては、リスクを限定しながら必要な事業資源を効率的に獲得できるという魅力があります。

譲受側の主な利点
  • 必要な資産の選別取得: 契約によって、承継したい資産・負債を個別に選択できる。
  • 簿外債務のリスク遮断: 契約書に記載のない偶発債務や簿外債務を引き継ぐリスクを排除できる。
  • シナジー効果の創出: 自社の既存事業と組み合わせることで、新たな事業価値を生み出すことが期待できる。
  • 低コストでの事業拡大: 新規に事業を立ち上げるよりも、既存の設備や顧客基盤を低コストで獲得できる場合がある。

譲受側(スポンサー)の欠点

一方で、譲受側は権利義務の承継手続きが煩雑であるという大きな課題に直面します。

譲受側の主な欠点
  • 煩雑な承継手続き: 取引先との契約や従業員の雇用契約を個別に再締結または同意取得する必要がある。
  • 許認可の再取得: 建設業や運送業など、事業に必要な許認可は自動的に承継されず、新規に取得し直す必要がある。
  • 事業の空白期間リスク: 許認可の再取得に時間がかかると、事業を一時的に停止せざるを得ない空白期間が発生する恐れがある。
  • 主要な契約を引き継げないリスク: 一部の重要な取引先が契約の再締結に同意せず、事業の前提が崩れる可能性がある。
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事業譲渡の主要な2つの型

計画外事業譲渡(裁判所の許可)

計画外事業譲渡とは、再生計画の成立を待たずに、裁判所の許可を得て迅速に事業を譲渡する手法です(民事再生法第42条)。倒産手続きの開始によって事業価値が急速に劣化することを防ぐ目的で、実務上多く用いられます。

この手続きでは、事業譲渡の必要性などを記載した申立書を裁判所に提出します。裁判所は、知れている債権者や労働組合などの意見を聴取した上で、事業の再生に必要と認めるときに許可を出します。債務超過状態の株式会社であれば、裁判所の代替許可により株主総会の特別決議を省略でき、さらなる迅速化が可能です。

計画外事業譲渡は、債権者等の意見を聴取する慎重な手続きを経つつも、事業価値を早期に保全するための極めて重要な手法です。

計画内事業譲渡(再生計画への記載)

計画内事業譲渡とは、事業譲渡の実施とその対価の配分方法などを再生計画案に盛り込み、債権者集会の決議と裁判所の認可を経て実行する、より正統的な手法です。

この方法では、譲渡先、譲渡条件、譲渡対価の使途などを詳細に定めた再生計画案を作成し、債権者の多数決による同意を求めます。関係者の正規の関与を経て決定されるため、手続きの透明性と納得感が高いという特徴があります。

一方で、再生計画の策定から認可までには数か月の期間を要するため、その間の事業価値の劣化が懸念されない、比較的安定した事案に向いています。

どちらの型を選択すべきか

どちらの型を選択するかは、事業価値が劣化するスピードと、関係者の利害調整にかかる時間との兼ね合いで総合的に判断されます。

計画外事業譲渡 計画内事業譲渡
重視する点 迅速性 手続きの安定性・透明性
適した状況 事業価値の劣化が激しく、早期のスポンサー支援が不可欠な場合 事業価値が比較的安定しており、時間的な余裕がある場合
特徴 再生計画成立前の早期実行が可能(プレパッケージ型再生で多用) 債権者集会の正規の決議を経るため、高い正当性が得られる
リスク 債権者への事前説明が不十分だと、意見聴取で反対され許可が出ない可能性 手続きに時間がかかり、その間に事業環境が悪化する可能性
計画外・計画内事業譲渡の選択基準

対象事業の状況を的確に見極め、関係者の理解を得られる最適な手続きを選択することが、事業再生の成功の鍵となります。

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手続きの具体的な流れ

スポンサーの選定と基本合意

事業譲渡に向けた最初の一歩は、事業の受け皿となるスポンサーを選定し、基本的な条件について合意することです。スポンサーの支援なくして、手続きを進めることはできません。

スポンサー選定と基本合意までの流れ
  1. 自社の事業とシナジー効果が見込めるスポンサー候補を探索する。
  2. 複数の候補から譲渡価格や雇用条件などを比較検討し、最適な候補を選定する。
  3. 経営陣同士でトップ面談を行い、事業再生に向けた意思確認を行う。
  4. 譲渡対象の範囲、価格の目安、スケジュールなどを定めた基本合意書(LOI)を締結する。

裁判所への許可申立て

計画外事業譲渡を行う場合、基本合意後、裁判所に対して事業譲渡の許可を申し立てます。民事再生手続き下での事業譲渡は、法律により裁判所の事前の許可が義務付けられています。

裁判所への許可申立ての流れ
  1. 事業譲渡の必要性や譲渡対価の妥当性を説明する申立書を作成し、裁判所に提出する。
  2. 裁判所が、監督委員、知れている債権者、労働組合などから意見を聴取する期日を設定する。
  3. 意見聴取の結果、特に合理的な反対意見がなければ、裁判所が事業譲渡を許可する決定を下す。

事業譲渡契約の締結

裁判所の許可が得られた後、再生債務者とスポンサーとの間で、最終的な事業譲渡契約を締結します。これにより、事業譲渡の具体的な内容や当事者間の権利義務が法的に確定します。

契約書には、譲渡対象となる資産・負債の明細、最終的な譲渡対価、譲渡実行日、従業員の引き継ぎ条件などを詳細に規定します。事前のデューデリジェンス(資産査定)の結果を踏まえ、双方の合意のもとで厳密に内容が定められます。

事業譲渡の実行と対価の受領

契約で定められた譲渡実行日(クロージング日)に、資産の引き渡しや契約の移転手続きを完了させ、譲渡対価を受領します。これをもって、事業の所有権がスポンサーへ実質的に移転します。

事業譲渡実行(クロージング)の主な内容
  1. 工場、設備、不動産などの有形資産の引き渡しや所有権移転登記を行う。
  2. 従業員の転籍や取引先との契約関係の移転手続きを完了させる。
  3. 譲受側(スポンサー)が、契約に基づき譲渡対価を支払う。
  4. 譲渡側は対価の着金を確認し、資産に設定された担保権などを抹消する手続きを行う。

成功させるための実務上の注意点

従業員の処遇と転籍手続き

事業譲渡では従業員の雇用契約は自動的に引き継がれないため、個別の同意がなければ転籍させることはできません。事業継続に不可欠な人材の流出を防ぐため、丁寧な対応が求められます。

従業員の転籍に関する注意点
  • 個別の同意取得: 従業員一人ひとりから、書面による明確な転籍同意書を取得することが法的に必須となる。
  • 丁寧な説明: 事業譲渡の目的や、転籍後の給与・勤務地といった労働条件について、早期に説明会や個別面談を実施する。
  • 不安の払拭: 従業員の不安や疑問に真摯に耳を傾け、新しい体制でのキャリアパスを示すなど、きめ細やかな対応を心がける。

許認可の承継に関する確認

事業の継続に不可欠な行政の許認可は、事業譲渡によって自動的に承継されないことがほとんどです。許認可の断絶は事業停止に直結するため、事前の確認と準備が極めて重要です。

許認可の承継に関する注意点
  • 事前の行政協議: M&Aの検討初期段階で、管轄の行政庁に許認可の再取得に必要な要件やスケジュールを確認する。
  • 空白期間の回避: 譲受企業が新規に許認可を取得するまでの審査期間を考慮し、事業が停止しないよう計画を立てる。
  • スケジュールへの組込み: 許認可の再取得プロセスを、事業譲渡全体のスケジュールに正確に組み込んで管理する。

契約関係の引き継ぎ交渉

重要な取引先との契約や不動産の賃貸借契約なども、自動的には引き継がれません。事業価値の源泉であるこれらの契約を維持するため、相手方との個別交渉が不可欠です。

契約引き継ぎに関する注意点
  • 個別同意の取得: 原則として、契約の相手方一社一社から、契約上の地位を承継することについて書面で同意を得る必要がある。
  • 支配権変更条項の確認: 契約書に支配権の変更(M&Aなど)を理由とする契約解除条項がないか事前に確認する。
  • メリットの提示: スポンサーの信用力など、契約を継続することの相手方にとってのメリットを丁寧に説明し、同意を取り付ける。

税務上の取り扱いと論点

事業譲渡は、譲渡側・譲受側の双方に法人税や消費税などの複雑な税務問題を引き起こします。想定外の税負担で資金計画が頓挫しないよう、専門家を交えた事前の検討が必須です。

税務上の主な論点
  • 譲渡側の法人税: 資産の帳簿価額と譲渡対価の差額である事業譲渡益に法人税が課される(繰越欠損金との相殺が可能)。
  • 譲受側の消費税: 土地や有価証券を除く課税資産(建物、設備、営業権など)の取得に対して消費税の負担が発生する。
  • 不動産関連税: 不動産を承継する場合、不動産取得税や登録免許税が課される。
  • 対価の資産区分: 契約書上で、譲渡対価を土地、建物、営業権など資産ごとに区分し、課税関係を明確にしておくことが重要。

スポンサー選定プロセスの公正性と透明性

スポンサーの選定過程は、特定の関係者に不当な利益が渡ることのないよう、公正性と透明性が厳格に求められます。不当に低い価格での譲渡は債権者の利益を害するため、裁判所の許可が得られません。広く候補を募る入札手続きの実施や、第三者機関による評価などを通じて、選定プロセスの客観性を担保することが重要です。

譲渡対価の妥当性と債権者への説明責任

事業譲渡の対価は、債権者への配当原資に直結するため、その金額が客観的に妥当でなければなりません。公認会計士や専門の評価機関による企業価値評価(バリュエーション)を実施し、その評価額に基づいて対価が決定されたことを債権者に論理的に説明する責任があります。特に、事業を清算した場合の価値(清算価値)を上回る対価であることを示す必要があります。

よくある質問

事業譲渡の対価は何に使われますか?

事業譲渡によって得られた対価は、再生債務者の資産として管理され、主に債権者に対する債務の弁済に充てられます。具体的には、税金や労働債権など優先的に支払われる債務への支払いの後、残った資金が再生計画に基づいて一般の再生債権者への配当原資となります。譲渡対価は、債権者への責任を果たすための重要な資金であり、厳格に管理されます。

事業譲渡後、元の会社はどうなりますか?

事業譲渡後も、元の会社(譲渡側)の法人格は存続します。その後の扱いは、譲渡した事業の範囲によって異なります。一部の事業のみを譲渡した場合は、残った事業で再建を目指します。一方、全ての事業を譲渡した場合は、事業活動を行う実体がなくなるため、譲渡対価を債権者に配当した後、特別清算や破産といった手続きを経て最終的に法人格が消滅することが一般的です。

簿外債務を引き継ぐリスクはありますか?

事業譲渡では、譲受企業が予期せぬ簿外債務(帳簿に記載されていない債務)を引き継ぐリスクは極めて低いです。事業譲渡は、契約書に明記した資産と負債のみを個別に引き継ぐ「個別承継」という形式をとります。そのため、契約書に記載のない債務は原則として承継されず、倒産企業特有の不透明な財務リスクを効果的に遮断できます。これは、スポンサーにとって事業譲渡が魅力的な手法とされる大きな理由の一つです。

従業員の転籍に組合の同意は必要ですか?

従業員の転籍自体に、法的に労働組合の同意は必須ではありません。最も重要なのは、従業員本人の個別の同意です。労働契約に関する権利は労働者一人ひとりに属するため、本人の明確な意思表示(通常は転籍同意書への署名)がなければ転籍は成立しません。ただし、民事再生手続きにおける事業譲渡の許可を裁判所が判断する際には、労働組合等の意見を聴取する手続きが設けられています。組合との関係が良好でなければ手続きが円滑に進まない可能性があるため、実務上は組合への丁寧な説明と協議が不可欠です。

まとめ:民事再生における事業譲渡を成功させ、事業価値を守るために

民事再生における事業譲渡は、裁判所の監督のもとで収益性の高い事業をスポンサーへ譲渡し、その対価で債務を弁済する有効な再建手法です。この手法の大きな利点は、再生計画の認可を待たずに事業を移管できる「計画外事業譲渡」を活用することで、事業価値の毀損を最小限に抑えられる点にあります。事業価値の劣化スピードが速い場合は迅速な「計画外」を、時間的余裕があり関係者の合意形成を重視するなら「計画内」を選ぶなど、状況に応じた判断が求められます。実際に手続きを進めるには、従業員の転籍同意、許認可の再取得、契約関係の引継ぎなど、法務・税務にわたる複雑な実務が伴います。本記事で解説した内容は一般的な情報であり、個別の事案については、最適なスキームを構築するためにも早期に弁護士などの専門家へ相談することが重要です。

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