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民法上の和解(和解契約)とは?法的効力や成立要件、示談との違いを解説

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企業間のトラブルが発生した際、訴訟は時間やコスト、取引関係への影響が懸念されます。こうした紛争を当事者間の話し合いで円満かつ迅速に解決する有効な手段が「民法上の和解」です。この記事では、民法上の和解(和解契約)の基本的な定義、法的効力、成立要件から、裁判上の和解との違い、メリット・デメリットまでを網羅的に解説します。

目次

民法上の和解(和解契約)とは?基本となる法的性質と効果

和解契約の定義:当事者間の紛争を解決する民法上の手段(民法695条)

和解契約とは、当事者間に存在する争いをやめることを目的として締結される契約です。民法695条では「当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる」と定められています。

企業活動においては、代金未払いや納期遅延など様々なトラブルが発生しますが、これらを裁判ではなく当事者間の話し合いで解決する主要な手段が和解契約です。法律上は当事者の合意のみで成立する「諾成契約」であり、必ずしも書面の作成は要件とされていません。

しかし、実務では合意内容を明確にし、後の紛争再発を防ぐために「和解契約書」や「合意書」といった書面を作成するのが一般的です。和解契約には、単に従来の権利関係を確認するだけでなく、合意によって新たな権利義務関係を創り出すという側面もあります。

和解契約が成立するための法律上の要件

民法上の和解契約が有効に成立するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

和解契約の成立要件
  • 当事者間に争いが存在すること:権利関係の存否や範囲について、当事者間の主張が食い違っている状態を指します。
  • 当事者が互いに譲歩すること(互譲):双方が自身の主張を一部譲り合うことが必要です。一方が全面的に譲歩する場合は、和解ではなく「債務の承認」や「権利の放棄」となります。
  • 争いをやめる合意をすること:紛争を最終的に終結させるという当事者双方の意思が合致することを指します。

和解契約の強力な法的効果「確定効」とは(民法696条)

和解契約が成立すると、「確定効」という強力な法的効果が生じます(民法696条)。これは、和解によって確定した権利関係について、後からその内容を覆すような主張は原則としてできなくなるという効力です。

例えば、和解で100万円を支払うと合意した後に、実は債務が存在しなかったことを証明する証拠が見つかったとしても、原則として和解の内容を覆すことはできません。この効力は、紛争の蒸し返しを防ぎ、法的な安定性を確保するために認められています。確定効には、以下の2つの側面があります。

確定効の2つの側面
  • 認定的効力:争いの対象となっていた従来の権利関係を、和解の内容通りに確定させる効力。
  • 創設的効力:和解の内容に基づき、新たな権利関係を創り出す効力。

実務上は、契約書に「清算条項」を設けることで、この確定効をより明確にし、和解の対象となった事項以外に請求権が存在しないことを相互に確認します。

裁判上の和解・示談との相違点

「裁判上の和解」との違い:手続きと効力の観点から

民法上の和解(私法上の和解)と裁判上の和解は、手続きと効力の面で大きな違いがあります。最大の違いは、裁判所が関与するか否かと、それによって生じる強制執行力の有無です。

項目 民法上の和解(私法上の和解) 裁判上の和解
関与者 当事者のみ(弁護士が代理することはある) 当事者、代理人弁護士、裁判官
成立場所 裁判所外(当事者間の交渉の場) 裁判所の手続内(法廷など)
成立文書 和解契約書(私文書) 和解調書(公文書)
強制執行力 なし(別途、公正証書作成や判決が必要) あり(和解調書は確定判決と同一の効力を持つ)
民法上の和解と裁判上の和解の比較

このように、裁判上の和解で作成される和解調書は、それ自体が債務名義となり、相手方が合意内容を履行しない場合に直ちに強制執行が可能です。一方、民法上の和解契約書だけでは強制執行はできません。

「示談」との違い:法的性質と契約内容の明確性

「示談」は法律で厳密に定義された用語ではなく、一般に「裁判外で紛争を解決する合意」を指す言葉として広く使われます。交通事故や不法行為に関する損害賠償の交渉でよく用いられます。

法的には、示談の多くは民法上の和解契約と同じ性質を持ちます。しかし、実務上は以下のような点で違いが見られることがあります。

和解と示談の主な違い
  • 法的性質:「示談」は、和解の要件である「互譲」を厳密には満たさず、一方的な債務承認に近い内容を含む場合があります。
  • 契約内容の明確性:「示談書」は専門家が関与せず作成されることもあり、契約内容が曖昧で、後日新たな紛争の原因となるリスクが相対的に高い傾向があります。

企業法務においては、「示談」という言葉を使う場合でも、その実質が民法上の和解契約であることを意識し、権利義務関係を明確にした契約書を作成することが重要です。

民法上の和解を選択するメリットと注意すべきデメリット

メリット:紛争の迅速かつ柔軟な解決が期待できる

民法上の和解を選択する主なメリットは、紛争を迅速かつ柔軟に解決できる点です。

迅速性・柔軟性に関するメリット
  • 迅速な解決:裁判手続に比べて期間が短く、当事者の合意さえあれば即座に紛争を終結させ、事業活動に集中できます。
  • 柔軟な解決内容:金銭支払いに限らず、分割払いや将来の取引継続の約束、謝罪、秘密保持義務など、当事者の実情に合わせた多様な条件を設定できます。

メリット:訴訟に比べ費用を抑え、当事者間の関係悪化を防ぎやすい

訴訟と比較して、コストや当事者間の関係性においてもメリットがあります。

コスト・関係性に関するメリット
  • 費用の抑制:裁判所に納める印紙代や弁護士費用など、訴訟にかかる経済的コストを大幅に削減できます。
  • 当事者関係の維持:対立が深刻化しにくく、話し合いによる解決のため、将来の取引関係などを維持できる可能性が高まります。
  • 非公開での解決:協議は非公開で行われるため、紛争の事実が外部に漏れることによる企業の信用低下リスクを回避できます。

デメリット:確定効により、原則として和解内容を蒸し返せない

和解契約の最大の注意点は、その強力な確定効にあります。一度有効に成立した和解は、原則として内容を覆すことができません。

和解成立後に、自分に有利な証拠が見つかったり、譲歩しすぎたと感じたりしても、和解の無効や取消しを主張することは極めて困難です。この不可逆性から、和解交渉では安易な妥協は禁物であり、事実関係を十分に調査した上で慎重に判断する必要があります。

注意点:和解契約書だけでは強制執行ができない

民法上の和解は、あくまで私的な契約です。そのため、相手方が和解で約束した金銭の支払いを怠っても、和解契約書だけを根拠に強制執行(財産の差押えなど)を行うことはできません。

強制執行を行うには、改めて訴訟を提起して勝訴判決を得る必要があります。この点が、確定判決と同一の効力を持つ裁判上の和解との大きな違いです。このデメリットへの対策として、以下の方法が考えられます。

強制執行力を確保するための対策
  • 強制執行認諾文言付き公正証書を作成する。
  • 簡易裁判所の即決和解(訴え提起前の和解)手続を利用する。

訴訟ではなく和解を選択すべきかの判断ポイント

和解か訴訟かの選択は、事案の状況を総合的に考慮して判断します。一般的に、和解が合理的な選択となるのは以下のようなケースです。

和解が適しているケース
  • 証拠が不十分で、訴訟での勝訴見込みが低い場合。
  • 勝訴しても相手方に資力がなく、債権回収が困難と予想される場合。
  • 請求額が少額で、訴訟費用や時間が見合わない場合。
  • 取引先との関係を維持し、円満な解決を図りたい場合。

逆に、自社の正当性を公的に証明したい場合や、相手の主張が著しく不当で譲歩の余地がない場合は、訴訟を選択することが適切です。

和解契約書の作成方法と主要な記載事項

和解契約締結までの一般的な手続きの流れ

和解契約を締結するまでの手続きは、一般的に以下のステップで進められます。

和解契約締結までの流れ
  1. 事実関係と争点の整理:自社と相手方の主張を整理し、何が争点かを明確にします。
  2. 交渉の開始:書面や面談を通じて、互いの譲歩できる条件を探ります。
  3. 主要条件の合意:支払金額、支払条件、その他の履行義務など、和解の骨子について合意します。
  4. 和解契約書案の作成と確認:合意内容を正確に反映した契約書案を作成し、双方が文言を確認します。
  5. 契約の締結:内容に問題がなければ、当事者が署名(または記名)捺印し、契約が正式に成立します。

和解契約書に盛り込むべき主要な条項

実効性のある和解契約書を作成するためには、以下の条項を盛り込むことが重要です。

和解契約書の主要な記載条項
  • 当事者及び紛争の特定:誰と誰が、どの紛争について和解するのかを明確にします。
  • 和解条項:支払金額、支払期日、支払方法など、合意内容の核心部分を具体的に記載します。
  • 遅延損害金:支払いが遅れた場合のペナルティを定めます。
  • 期限の利益喪失条項:分割払いを一度でも怠った場合に、残額を一括請求できる権利を定めます。
  • 守秘義務条項:和解内容や紛争の存在を第三者に口外しないことを約束させます。
  • 清算条項:本件に関して、契約書に定める以外の債権債務がないことを相互に確認します。

将来の紛争を防ぐ「清算条項」の役割と記載例

清算条項は、和解契約において極めて重要な条項の一つです。これは、当事者間に「この和解契約で定めた権利義務以外には、一切の債権債務が存在しないこと」を相互に確認するものです。

この条項により、紛争の蒸し返しや追加請求を防ぎ、問題を終局的に解決する効果があります。一般的な記載例は以下の通りです。

「甲と乙は、本件に関し、本契約に定めるもののほか、甲乙間に何らの債権債務も存在しないことを相互に確認する。」

清算条項を設ける際は、対象となる紛争の範囲(「本件」が何を指すか)を明確に定義することが、新たなトラブルを避ける上で重要です。

和解条件の妥当性をどう判断し、社内合意を得るか

和解条件が妥当かどうかは、主に「訴訟になった場合の勝訴確率」と「判決で認められるであろう金額」を基準に判断します。これに、訴訟にかかる費用や時間、解決までの労力といったコストを考慮し、和解案が経済的に合理的かを検討します。

社内で合意を得るためには、感情論ではなく、客観的なデータに基づいて説明することが有効です。訴訟を継続した場合の金銭的・時間的コストや事業への影響といったリスクを具体的に示し、弁護士など専門家の意見書を添付することで、説得力を高めることができます。

民法上の和解に関するよくある質問

一度成立した和解契約を撤回・解除することはできますか?

原則として、一度有効に成立した和解契約を、一方の都合で撤回・解除することはできません。 和解の確定効により、合意した権利関係が法的に固定されるためです。

ただし、以下のような例外的なケースでは、契約の効力を争うことが可能です。

和解契約の効力を争える例外ケース
  • 債務不履行による解除:相手方が和解で定めた義務(金銭の支払いなど)を履行しない場合。
  • 詐欺や強迫による取消し:契約の意思表示が、詐欺や強迫によって行われた場合。
  • 重大な錯誤による取消し:和解の前提となる重要な事実に、当事者の認識と異なる点があった場合。

これらの例外が認められるための要件は厳格であり、安易な撤回は許されないと考えるべきです。

和解の前提となった事実に錯誤があった場合、和解は無効になりますか?

和解契約の効力は、当事者が争いの対象とした事項に及びますが、争いの前提として双方が疑いを持たなかった事実については及びません。

したがって、その「前提」部分に重大な錯誤(勘違い)があった場合、和解の無効や取消しが認められる可能性があります。例えば、交通事故の示談で、当時は軽傷だと思っていたものが、後に重い後遺障害であることが判明した場合、後遺障害に関する損害については示談の効力が及ばないとした判例があります。

一方で、当事者が譲歩した「争いの対象」そのものについて「やはり自分の認識が間違っていた」と主張しても、それは確定効によって遮断され、錯誤を理由とする取消しは認められません。

和解契約書を公正証書にするメリットは何ですか?

金銭支払いを内容とする和解契約書を公正証書にするメリットは、主に以下の3点です。

和解契約書を公正証書にするメリット
  • 強制執行が可能になる:「強制執行認諾文言」を付すことで、裁判所の判決なしに直ちに強制執行(差押え)ができます。
  • 高い証拠能力を持つ:公証人が作成するため、契約の成立や内容について争いが生じにくくなります。
  • 紛失・改ざんのリスクがない:原本が公証役場に保管されるため、安全性が高いです。

まとめ:民法上の和解を正しく理解し、紛争解決に活かす

民法上の和解契約は、当事者間の譲り合いによって紛争を解決する、裁判外の有効な手段です。最大の特長は、成立すると原則として内容を覆せない「確定効」にあり、紛争の蒸し返しを防ぎます。訴訟に比べて迅速かつ柔軟に解決できるメリットがある一方、契約書だけでは強制執行力がない点には注意が必要です。このデメリットは、強制執行認諾文言付き公正証書を作成することで補うことができます。自社の状況を踏まえ、訴訟とのメリット・デメリットを慎重に比較検討し、最適な紛争解決方法を選択することが重要です。

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