民事訴訟の被告になったら?訴状受領後の手続きと初動対応の要点
突然、民事訴訟の被告として訴状が届いたら、誰でも不安に感じるでしょう。しかし、訴状を無視したり対応を誤ったりすると、自身の主張をする機会を失い、一方的な敗訴判決を受けるリスクがあります。まずは被告の立場と訴訟の流れを正確に把握し、冷静に初期対応を行うことが不可欠です。この記事では、民事訴訟の被告の定義から、訴状受領後の具体的な手続き、そして弁護士へ相談する重要性までを解説します。
民事訴訟の「被告」とは
訴えられた側の当事者「被告」
民事訴訟において「被告」とは、裁判所に訴えを起こされた側の当事者を指します。私人間の権利や義務の存否を争う民事裁判において、被告は自らの正当性を主張し、防御を行う立場です。
被告という立場は、あくまで訴訟手続上の役割に過ぎず、その人に非があることを意味するものではありません。訴訟が提起された時点では、まだどちらの主張が正しいかは決まっておらず、裁判所が双方の主張や証拠を基に客観的な判断を下します。例えば、企業間で契約不履行を理由とする損害賠償請求訴訟が起きた場合、訴えられた企業が被告となります。
「原告」および刑事事件の「被告人」との違い
民事訴訟の「被告」は、自ら訴えを提起した「原告」と対立する当事者であり、刑事事件における「被告人」とは明確に異なります。民事事件は私人間の法的な紛争を解決する手続であり、被告になったとしても犯罪者として扱われるわけではありません。
一方、刑事事件の「被告人」は、検察官によって犯罪の疑いがあるとして起訴された人を指します。刑事裁判は、国家が個人に対して刑罰を科すか否かを判断する手続です。「被告」と「被告人」は名称が似ていますが、手続の目的や性質が全く異なるため、混同しないよう注意が必要です。
| 用語 | 立場 | 関連する事件 | 概要 |
|---|---|---|---|
| 被告 | 訴えられた側 | 民事事件 | 私人間の権利義務に関する紛争で、防御を行う当事者。 |
| 原告 | 訴えを提起した側 | 民事事件 | 自己の権利実現を求め、裁判所に訴えを起こす当事者。 |
| 被告人 | 起訴された者 | 刑事事件 | 検察官により犯罪の嫌疑で起訴され、有罪か無罪かの判断を受ける者。 |
訴状受領から判決までの流れ
①訴状の受領と答弁書の提出
民事訴訟は、裁判所から被告宛てに「特別送達」という特殊な郵便で訴状が届くことから始まります。訴状には原告の請求内容やその根拠となる事実が記載されています。
訴状を受け取った被告は、指定された期日までに、原告の主張に対する反論をまとめた「答弁書」を裁判所に提出しなければなりません。通常、第一回口頭弁論期日は訴状の受領から約1ヶ月後に設定され、答弁書の提出期限はその1週間前が目安です。答弁書を提出しておけば、第一回口頭弁論期日を欠席しても、答弁書の内容を法廷で述べたとみなされる「擬制陳述」という制度を利用できます。
②口頭弁論での主張と立証
答弁書の提出後、裁判所の公開法廷で口頭弁論が開かれます。口頭弁論では、原告と被告が「準備書面」という書面を交互に提出し、自らの主張を展開するとともに、それを裏付ける証拠を提出します。
裁判官は、双方の主張や証拠をもとに争点を整理します。この争点整理は、非公開の準備室で「弁論準備手続」として行われることもあります。主張と証拠が出揃い、争点が明確になった段階で、必要に応じて証人尋問や当事者本人尋問などの証拠調べが実施されます。
③審理の終結(和解または判決)
双方の主張や証拠調べが尽くされたと裁判所が判断すると審理は終結し、和解または判決によって紛争の解決が図られます。裁判所は訴訟のどの段階でも和解を勧めることができ、双方が合意すれば「和解調書」が作成され訴訟は終わります。
和解が成立しない場合は、裁判官が判決を言い渡します。判決内容に不服がある当事者は、判決書の送達を受けた日から2週間以内に上級裁判所へ「控訴」することができます。控訴がなければ判決は確定し、法的な紛争は最終的に解決します。
訴状が届いたらすぐに行うこと
訴状の請求内容を正確に把握する
裁判所から訴状が届いたら、まずはその内容を冷静かつ正確に把握することが不可欠です。訴状には、原告が求める結論である「請求の趣旨」と、その根拠となる事実を記載した「請求の原因」が書かれています。これらの記載を読み込み、原告が何を、どのような法的根拠に基づいて請求しているのかを理解する必要があります。同時に、添付された証拠書類も確認し、原告の主張がどの程度裏付けられているかを分析します。
答弁書の提出期限を厳守する
訴状には、第一回口頭弁論期日の呼出状と、答弁書の提出期限が記載された催告状が同封されています。この期限を厳守することが極めて重要です。期限は通常、第一回口頭弁論期日の1週間ほど前に設定されています。
もし、期限までに答弁書を提出せずに期日も欠席すると、原告の主張をすべて認めたものとみなされ(擬制自白)、敗訴判決が下される危険性が非常に高くなります。詳細な反論が間に合わない場合でも、まず「請求を棄却する」旨の簡潔な答弁書を期限内に提出することが鉄則です。
速やかに弁護士へ相談する
訴状を受け取ったら、自社だけで対応しようとせず、速やかに法律の専門家である弁護士に相談することが重要です。民事訴訟は専門的な知識と複雑な手続ルールに基づいて進行するため、専門家の支援なしに適切な対応を行うことは困難です。
弁護士に依頼すれば、答弁書や準備書面の作成、法廷への出頭、証拠収集の方針決定など、訴訟に関する一切の対応を任せることができます。相談が遅れると、有効な反論の機会を失うリスクが高まるため、迅速な相談がリスクを最小限に抑える最善策となります。
関連部署への情報共有と証拠保全の指示
社内で訴訟を担当する部署は、速やかに関係部署へ情報を共有し、証拠保全を指示する必要があります。訴訟では、自社の主張を裏付ける客観的な証拠が不可欠です。時間の経過によって重要なデータが失われることを防ぐため、関連する文書や電子データを安全に保管し、改ざんや破棄が起きないよう徹底しなければなりません。
- 契約書、覚書、仕様書、利用規約など
- 電子メール、ビジネスチャットの履歴
- 業務日報、議事録、稟議書
- 経理帳簿、請求書、領収書など
答弁書の役割と作成の要点
被告の最初の反論となる重要書類
「答弁書」は、原告の訴えに対して被告が最初に裁判所へ提出する、極めて重要な反論書類です。この書面を通じて、被告は原告の請求に応じる意思がないことを公式に表明します。通常、「原告の請求を棄却する」「訴訟費用は原告の負担とする」という判決を求める旨を記載し、徹底して争う姿勢を明らかにします。答弁書は、裁判官が事件の争点を把握する最初の材料となり、訴訟全体の方向性を左右することもあります。
請求に対する認否と主張の記載方法
答弁書を作成する上で最も重要なのは、原告が主張する事実一つひとつに対して、的確に認否を示すことです。認否には以下の3種類があり、明確に区別する必要があります。
- 認める(自白): 原告の主張する事実を認めること。一度認めると、原則として撤回できません。
- 否認する: 原告の主張する事実を明確に否定すること。
- 知らない(不知): 原告の主張する事実について、知らないと表明すること。法律上、否認したものと推定されます。
安易に事実を認めると、裁判上の自白として扱われ不利になるため、認否は慎重に行わなければなりません。その上で、自社の正当性を裏付ける事実や証拠を論理的に記載することが、説得力のある答弁書を作成する要点です。
反訴の提起も視野に入れるべきケース
答弁書の作成にあたっては、防御だけでなく、原告に対して逆に訴えを起こす「反訴」の提起も戦略的に検討すべき場合があります。例えば、取引先から契約不履行で訴えられた際に、被告側からも相手方の義務違反による損害賠償を請求するようなケースが考えられます。
反訴を提起すると、被告は攻撃的な立場に転じることができます。また、一つの訴訟手続の中で関連する紛争をまとめて解決できるため、効率的です。本訴と関連性があり、十分な証拠が確保できる場合には、反訴の提起が訴訟を有利に進める有効な手段となり得ます。
裁判を欠席した場合のリスク
原告の主張どおりの判決が下される
民事訴訟において、被告が答弁書を提出せず、第一回口頭弁論期日も欠席することは、致命的な結果を招く極めて危険な行為です。この場合、裁判所は被告が原告の主張する事実をすべて認めたものとみなします。これを「擬制自白」と呼びます。
擬制自白が成立すると、原告は厳密な証拠を提出することなく、主張どおりの勝訴判決を得ることが可能になります。このような欠席裁判で下された判決も法的な効力を持ち、確定すれば預金や不動産などの財産に対する強制執行の根拠となります。「身に覚えがない」「忙しい」といった理由で訴状を無視することは、自らの権利を放棄するに等しい行為であるため、絶対に行ってはなりません。
被告側で発生する主な費用
弁護士費用の内訳と目安
被告として弁護士に訴訟対応を依頼する場合、様々な費用が発生します。弁護士費用は法律事務所によって異なりますが、一般的に以下の要素で構成されます。
- 法律相談料: 弁護士に相談する際に時間単位で発生する費用。
- 着手金: 事件を依頼した段階で支払う費用。結果に関わらず返還されないのが通常です。
- 報酬金: 請求の棄却や減額など、有利な結果が得られた場合に支払う成功報酬。
- 日当: 弁護士が裁判所へ出廷するなど、事務所外の活動に対して支払う費用。
- 実費: 収入印紙代、郵便切手代、交通費など、手続に実際にかかった費用。
依頼する前には、費用の総額や算定方法について明確な見積もりを確認し、委任契約書を取り交わすことが不可欠です。
訴訟費用の基本的な負担ルール
民事訴訟では、弁護士費用とは別に、裁判手続自体に要する「訴訟費用」が発生します。これには、訴状に貼付する収入印紙代や、書類送達のための郵便切手代、証人の日当などが含まれます。
訴訟費用は、原則として敗訴した当事者が負担します(敗訴者負担の原則)。被告が全面勝訴すれば原告に全額を請求できますが、一部敗訴の場合は裁判所の判断で按分されることもあります。
なお、和解で訴訟が終了する際は、和解条項で「訴訟費用は各自の負担とする」と定めるのが一般的です。重要な点として、弁護士費用は原則としてこの訴訟費用に含まれません。
民事訴訟の被告に関するQ&A
Q. 弁護士に依頼せず対応できますか?
法律上、当事者本人が訴訟を進める「本人訴訟」は可能です。しかし、訴訟手続は複雑な法律知識と専門的な実務経験を要するため、法的に重要な事実を整理し、適切な証拠を提出することは非常に困難です。結果として不利な判決を受けるリスクが高まるため、専門家である弁護士に依頼することが強く推奨されます。
Q. 和解には応じるべきですか?
和解に応じるべきかは、訴訟の見通し、解決までにかかる時間や費用、自社の経営判断などを総合的に考慮して慎重に決定すべきです。和解には、敗訴リスクを回避できる、紛争を早期に解決できるといった利点があります。裁判所から和解案が提示された場合は、その内容が自社にとって合理的か否かを弁護士と十分に協議し、柔軟に対応することが望ましい解決に繋がります。
Q. 敗訴したら相手の弁護士費用も負担?
日本の民事訴訟では、敗訴した当事者が相手方の弁護士費用まで負担する義務を負うことは原則としてありません。訴訟費用は敗訴者が負担しますが、ここに弁護士費用は含まれません。ただし、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟など、一部の例外的なケースでは、損害の一部として相手方の弁護士費用の一部負担が命じられることがあります。
まとめ:民事訴訟の被告になったら、訴状受領後の初期対応が重要
民事訴訟で被告になった場合、訴状の内容を正確に把握し、指定された期限内に答弁書を提出することが最初の重要なステップです。訴状を無視して期日を欠席すると、相手方の主張がそのまま認められ、敗訴するリスクが極めて高くなります。訴訟手続きは専門性が高く複雑なため、まずは冷静に訴状の「請求の趣旨」と「請求の原因」を確認し、速やかに弁護士へ相談することが不可欠です。弁護士と協力し、証拠を保全しながら、和解や反訴といった選択肢も視野に入れて対応方針を決定していくことになります。この記事で解説した内容はあくまで一般的な流れですので、個別の事案については必ず法律の専門家にご相談ください。

