事業用資産を売却した際の税金と仕訳を解説|譲渡所得の計算から確定申告まで
個人事業主や法人が事業用の土地や機械を売却した場合、その利益には税金がかかります。しかし、所得の区分や消費税の扱い、会計処理は複雑で、どのように計算・申告すればよいか迷う方も多いでしょう。この記事では、事業用資産を売却した際の譲渡所得の計算方法、具体的な仕訳例、確定申告の流れまでを、個人と法人の違いにも触れながら網羅的に解説します。
事業用資産売却における所得区分
事業用資産の売却益は「譲渡所得」に分類される
個人事業主が事業で使用していた資産を売却して得た利益は、原則として譲渡所得に区分されます。譲渡所得の対象となる資産は、土地や建物といった不動産から、機械、車両、ゴルフ会員権まで多岐にわたります。
事業の一環であっても、商品などの棚卸資産を除いた固定資産の売却益は、事業所得とは別に譲渡所得として計算するのが税務上のルールです。資産の種類により課税方法が異なり、正しく所得を区分して申告する必要があります。
| 資産の例 | 課税方式 | 特徴 |
|---|---|---|
| 土地、建物 | 分離課税 | 他の所得とは合算せず、独自の税率で税額を計算する |
| 車両、機械、ゴルフ会員権 | 総合課税 | 給与所得や事業所得など他の所得と合算して税額を計算する |
事業所得や不動産所得との違い
資産の売却による利益がどの所得に該当するかは、資産の性質や保有目的によって決まります。例えば、不動産業者が販売目的で保有する土地建物を売却した場合の利益は、事業所得となります。これは、その資産が「棚卸資産(商品)」にあたるためです。
また、山林を伐採または立木のまま譲渡した場合は山林所得、アパートや駐車場などの不動産を貸し付けて得た賃料は不動産所得となり、不動産そのものの売却益である譲渡所得とは区別されます。少額の減価償却資産として経費処理したものを売却した場合は、事業所得や雑所得として扱われることもあるため、個別の会計処理の確認が重要です。
譲渡所得の計算方法と流れ
譲渡所得の基本計算式(収入金額-取得費-譲渡費用)
譲渡所得の金額は、資産を売却して得た総収入金額から、その資産の取得費(購入代金など)と譲渡費用(売却のために直接かかった経費)を差し引いて計算します。適用できる特別控除がある場合は、さらにその額を差し引きます。
計算式:譲渡所得 = 総収入金額 – (取得費 + 譲渡費用) – 特別控除額
計算結果がプラスなら課税対象の譲渡益、マイナスなら譲渡損失となります。売買代金だけでなく、固定資産税の精算金なども収入金額に含まれる点に注意が必要です。
減価償却資産を売却した場合の取得費の計算方法
建物や車両、機械といった時の経過により価値が減少する「減価償却資産」を売却した場合、取得費は購入代金そのものではなく、そこから所有期間中の減価償却費の累計額を差し引いた金額となります。事業用資産の場合、確定申告で経費計上した減価償却費の合計額を控除します。
計算式:取得費 = 資産の購入代金など – 減価償却費累計額
一方、土地のように価値が減少しない非減価償却資産では、購入代金や購入手数料がそのまま取得費となります。取得費が不明な場合は、売却価格の5%相当額を概算取得費として計算することも認められています。
譲渡費用として認められる経費の具体例
譲渡費用とは、資産を売却するために直接必要となった費用を指します。資産の維持管理費や修繕費は含まれないため、どの費用が該当するかを正確に把握しておくことが重要です。
- 不動産会社に支払う仲介手数料
- 売買契約書に貼付する印紙税
- 土地を売るための測量費や建物の解体費用
- 借家人に支払う立退料
- 資産の維持管理にかかった修繕費
- 固定資産税
- 住宅ローンの抵当権抹消登記費用
所有期間で税率が変わる「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」
土地や建物を売却した際の譲渡所得に対する税率は、資産の所有期間によって大きく異なります。所有期間の判定は譲渡した年の1月1日時点で行われるため、実際の所有期間とはずれが生じることがあります。
| 区分 | 所有期間 | 税率(所得税・住民税合計) |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 約39% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 約20% |
車両などの総合課税の対象となる資産でも、所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得とされ、課税対象となる所得金額が2分の1に軽減されるという優遇措置があります。
適用できる可能性のある特別控除
譲渡所得には、特定の条件を満たすことで税負担を軽減できる特別控除制度が設けられています。これらの特例を適用するには、税額がゼロになる場合でも確定申告が必要です。
- マイホームを売却した場合:最高3,000万円
- 公共事業などのために土地建物を売却した場合:最高5,000万円
- 総合課税の譲渡所得(短期・長期合算):最高50万円
事業用資産売却における消費税の取り扱い
消費税の課税対象となる資産とならない資産(土地など)
事業者が事業として行う資産の譲渡は、原則として消費税の課税対象となります。ただし、土地のように一部非課税とされている取引があるため注意が必要です。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 課税対象 | 建物、機械装置、車両運搬具、器具備品など |
| 非課税対象 | 土地、借地権など土地の上に存する権利 |
土地と建物を一括で売却する際は、売買代金を土地部分と建物部分に合理的に分け、建物部分の代金に対してのみ消費税を計算します。
消費税額の計算方法(原則課税の場合)
原則課税方式の事業者は、売上にかかる消費税額から、仕入れにかかる消費税額を差し引いて納付税額を計算します。固定資産の売却で受け取った消費税は「売上にかかる消費税額」に、売却のために支払った仲介手数料などに含まれる消費税は「仕入れにかかる消費税額」として控除できます。
計算式:納付消費税額 = 課税売上にかかる消費税額 – 課税仕入れなどにかかる消費税額
土地の売却は非課税売上のため消費税は預かりませんが、仕入税額控除額の計算(課税売上割合)に影響を与える場合があります。
簡易課税制度を適用している場合の注意点
簡易課税制度を選択している事業者は、売上にかかる消費税額にみなし仕入率を掛けて納付税額を計算します。固定資産の売却は、本業の内容にかかわらず第四種事業に分類され、みなし仕入率は60%となります。
例えば本業が卸売業(第一種事業:みなし仕入率90%)であっても、事業用の建物を売却した分の消費税計算には60%のみなし仕入率を適用する必要があり、事業区分を分けて計算しなければなりません。
売買契約書で消費税額を明記しておく重要性
事業用資産の売買契約書では、売買代金と消費税額を明確に区分して記載することが非常に重要です。特に土地と建物を一括で売却する際に総額しか記載がないと、税務上のトラブルに発展する可能性があります。
- 売主側:消費税の計算根拠が明確になり、適正な申告が可能になる。
- 買主側:仕入税額控除を適用するために、支払った消費税額の証明が必要になる。
後々の問題を避けるためにも、契約書には土地代金、建物代金、消費税額をそれぞれ明記することが推奨されます。
会計処理と具体的な仕訳例
固定資産売却時の基本的な仕訳の流れ
固定資産を売却した際は、対象資産の帳簿価額を帳簿から消去し、売却代金を受け入れ、その差額を売却損益として計上します。税抜経理方式を採用している場合は、消費税も適切に処理する必要があります。
- 期首から売却日までの減価償却費を計上する。
- 資産の帳簿価額を貸方に計上し、帳簿から減額する。
- 売却代金を借方に計上する(未回収の場合は未収入金)。
- 売却代金に含まれる消費税を「仮受消費税等」として貸方に計上する。
- 借方と貸方の差額を「固定資産売却益」(貸方)または「固定資産売却損」(借方)として計上する。
売却益(固定資産売却益)が発生した場合の仕訳例
帳簿価額100万円の車両を200万円(税抜)で売却し、代金220万円(消費税20万円)は後日受け取る場合の仕訳は以下のようになります。
(借方)未収入金 2,200,000円 / (貸方)車両運搬具 1,000,000円 (貸方)仮受消費税等 200,000円 (貸方)固定資産売却益 1,000,000円
売却損(固定資産売却損)が発生した場合の仕訳例
帳簿価額220万円の車両を200万円(税抜)で売却し、代金220万円(消費税20万円)を現金で受け取った場合の仕訳は以下のようになります。売却損が出た場合でも、売却代金に対する消費税は発生します。
(借方)現金 2,200,000円 / (貸方)車両運搬具 2,200,000円 (借方)固定資産売却損 200,000円 / (貸方)仮受消費税等 200,000円
資産の引き渡し日と代金回収日のどちらで仕訳を計上すべきか
会計処理の原則(発生主義)に基づき、固定資産の売却損益は資産の引き渡しが完了した日に計上します。代金の回収が後日になったとしても、引き渡し時点で取引が成立したとみなし、未収入金勘定を用いて仕訳を行う必要があります。代金を受け取ったタイミングで収益を認識する現金主義とは異なるため注意が必要です。
個人事業主と法人における税務上の違い
事業用資産を売却した際の税務上の取り扱いは、個人事業主と法人で大きく異なります。
個人事業主:譲渡所得として所得税を申告
個人事業主の場合、事業用資産の売却益は事業所得に含めず、譲渡所得として分離して確定申告を行います。会計帳簿上では、売却益を「事業主借」、売却損を「事業主貸」として処理し、事業の損益計算からは除外します。これにより、事業所得とは異なる税率や計算方法が適用される譲渡所得として、所得税が課税されます。
法人:固定資産売却損益として法人税を申告
法人の場合、固定資産の売却によって生じた損益は、他の事業活動による損益と合算され、法人全体の所得として法人税の課税対象となります。会計上、「固定資産売却益」は特別利益、「固定資産売却損」は特別損失などとして計上され、最終的に法人税額の計算に含まれます。個人事業主のような譲渡所得という特別な区分はありません。
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 所得区分 | 譲渡所得(事業所得とは別) | 法人の所得(益金または損金) |
| 会計処理科目 | 事業主借(益) / 事業主貸(損) | 固定資産売却益 / 固定資産売却損 |
| 課税される税金 | 所得税、住民税 | 法人税、法人住民税、法人事業税 |
譲渡所得に関する確定申告の進め方
確定申告が必要なケースと申告期限
事業用資産を売却して譲渡所得(利益)が発生した場合は、確定申告が必要です。特に、特別控除などの特例を適用して結果的に税額がゼロになる場合でも、特例適用のためには申告が必須となります。申告期限は、資産を売却した年の翌年2月16日から3月15日までです。期限後の申告にはペナルティが課される場合があるため、注意が必要です。
申告書の作成と添付が必要な書類
譲渡所得の確定申告では、通常の申告書に加えて、譲渡所得専用の書類や取引内容を証明する書類の添付が求められます。
- 確定申告書(第一表、第二表、第三表(分離課税用)など)
- 譲渡所得の内訳書(収入金額や取得費、譲渡費用の明細を記載)
- 売買契約書の写し
- 取得費や譲渡費用の根拠となる領収書などの写し
- (特例適用の場合)各特例の要件を満たすことを証明する書類
売却代金の入金と納税のタイミングが資金繰りに与える影響
資産売却では、代金の入金から納税までに時間的なずれが生じます。売却で得た資金をすぐに他の支払いに充ててしまうと、納税時期に資金が不足するリスクがあります。
- 所得税:売却した年の翌年3月15日まで
- 消費税:課税期間終了日の翌日から2ヶ月以内(個人事業主は翌年3月31日まで)
- 住民税:売却した年の翌年6月以降(年4回に分けて納付)
納税資金をあらかじめ計画的に確保しておくことが、健全な資金繰りを維持する上で不可欠です。
事業用資産の売却に関するよくある質問
譲渡損失は他の所得と損益通算できますか?
譲渡損失の損益通算(他の所得の黒字と相殺すること)の可否は、売却した資産の種類によって異なります。
| 資産の種類(課税方式) | 損益通算 | 備考 |
|---|---|---|
| 土地・建物など(分離課税) | 原則不可 | マイホームの買換え特例など、一部の例外規定でのみ可能 |
| 車両・機械など(総合課税) | 可能 | 給与所得や事業所得など、他の総合課税の所得と通算できる |
事業用の自動車を売却する際の注意点は何ですか?
個人事業主が事業用自動車を売却する際は、いくつかの税務上のポイントがあります。
- 売却益は譲渡所得(総合課税)として申告する(事業所得ではない)。
- 総合課税の譲渡所得には年間最大50万円の特別控除が適用できる。
- 消費税の課税事業者である場合、売却代金は消費税の課税売上となる。
売却代金が分割払いの場合、いつ収益を計上すべきですか?
譲渡所得の収益計上時期は、原則として資産を引き渡した日です。売買代金が分割払いで、まだ全額を回収していなくても、引き渡しが完了した年に売却代金の総額を収入金額として計上し、確定申告を行う必要があります。かつて認められていた分割入金に合わせて収益を計上する「延払基準」は廃止されており、納税資金の準備には特に注意が必要です。
まとめ:事業用資産売却の税務・会計処理は正確な理解が鍵
事業用資産を売却した際は、まずその利益がどの所得区分に該当するかを正しく判断することが第一歩です。譲渡所得の計算では、減価償却を考慮した取得費や譲渡費用を正確に算出し、適用できる特別控除を漏れなく適用しましょう。消費税の課税・非課税の区別や、個人事業主と法人での税務上の根本的な違いを理解することも不可欠です。会計処理から確定申告までの一連の流れを把握し、計画的に納税資金を準備することが、健全な資金繰りに繋がります。複雑な場合は、税理士などの専門家に相談することも有効な選択肢です。

