いじめの慰謝料相場と請求方法|金額を左右する要因と裁判例を解説
お子様が受けたいじめにより心身ともに深く傷つけられ、加害者側への責任追及を真剣に検討されていることでしょう。慰謝料を請求するにあたり、一体いくら請求できるのか、その金額相場は最も知りたい点だと思います。この記事では、過去の裁判例に基づく慰謝料の相場から、請求の法的根拠、具体的な手順、そして請求相手ごとの注意点まで、実務的な情報を網羅的に解説します。
いじめ慰謝料の金額相場と算定根拠
いじめで慰謝料請求が認められる法的根拠(不法行為責任)
いじめによって精神的な苦痛を受けた場合、被害者は加害者に対し、民法第709条の「不法行為」に基づいて損害賠償を請求できます。不法行為とは、故意または過失によって他人の権利や法的に保護される利益を侵害する行為です。暴力による身体への危害や、悪口・無視による人格権の侵害は、典型的な不法行為に該当します。
慰謝料請求が法的に認められるには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 加害者に故意(わざと)または過失(うっかり)があること
- 被害者の権利や利益が侵害されたこと
- 被害者に具体的な損害(精神的苦痛など)が発生したこと
- 加害行為と損害の間に相当因果関係があること
- 加害者に責任能力があること
責任能力とは、自身の行為が法的な責任を伴うと理解できる判断能力を指し、一般的に12歳前後で備わるとされています。加害者が低年齢で責任能力がない場合、本人への請求は困難ですが、代わりに親などの監督義務者に対して責任を追及することが可能です。
【被害の深刻度別】いじめ慰謝料の金額相場
いじめの慰謝料額は、被害の深刻さや内容によって大きく変動します。過去の裁判例などから、被害の程度に応じたおおよその相場が存在します。
| 被害の程度 | 慰謝料の相場 | 具体的な状況の例 |
|---|---|---|
| 軽度 | 数万円~30万円程度 | 単発的な暴言や、短期間の仲間外れなど |
| 中程度 | 30万円~100万円程度 | 執拗な嫌がらせ、いじめが原因の短期的な不登校など |
| 重度 | 100万円~300万円程度 | 長期間の不登校、転校を余儀なくされた場合、PTSDの発症など |
| 極めて深刻 | 数千万円以上 | いじめが原因で被害者が自殺に至った場合(逸失利益などを含む) |
これらはあくまで目安であり、個別の事情によって金額は増減します。
慰謝料額を左右する具体的な増減要因(悪質性・期間・後遺症など)
慰謝料の最終的な金額は、個別の事情を総合的に考慮して決定されます。特に、いじめの悪質性や期間、被害の結果などが重視されます。
- いじめが集団で行われた、または執拗かつ継続的であった
- 暴行や恐喝など、行為態様が悪質である
- 被害者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神疾患を発症した
- いじめが原因で被害者が不登校や転校を余儀なくされた
- 学校や加害者側に反省の態度が見られない
一方で、以下のような事情は慰謝料が減額される方向に働く可能性があります。
- 加害者側が真摯に謝罪し、謝罪の意思を示している
- 加害者側からすでに一部の賠償金が支払われている
- 被害者側にも紛争を拡大させた一定の落ち度があると判断された(過失相殺)
慰謝料以外に請求可能な損害賠償の内訳(治療費・転校費用など)
いじめの被害者は、精神的苦痛に対する慰謝料のほか、実際に生じた金銭的な損害についても賠償を請求できます。これらは「積極損害」や「逸失利益」と呼ばれます。
- 治療費:ケガの治療代、カウンセリング費用、通院交通費など
- 転校・転居費用:いじめから逃れるための引っ越し代、新しい学校の入学金や制服代など
- 逸失利益:後遺症により将来得られるはずだった収入の減少分
- 弁護士費用:裁判で勝訴した場合に、損害額の1割程度を上限として請求が認められることがある
これらの費用を請求するには、いじめとの因果関係を証明する領収書や診断書などの客観的な証拠が必要です。
慰謝料の請求相手とそれぞれの法的責任
加害者本人に対する不法行為責任に基づく請求
慰謝料請求の第一の相手は、いじめを直接行った加害者本人です。未成年者であっても、自分の行為の善悪を判断できる「責任能力」(通常は中学生以上)があれば、法的な賠償責任を負います。
ただし、加害者が未成年者の場合、本人に支払い能力がないことがほとんどです。そのため、裁判で勝訴してもすぐに賠償金を回収するのは難しい場合があります。しかし、判決で確定した権利は10年間有効であり、加害者が将来就職した際に給料を差し押さえるなどの方法で回収することが可能です。本人に責任を自覚させるという点でも、加害者自身への請求は重要な意味を持ちます。
加害者の親に対する監督義務者としての責任追及
加害者に支払い能力がない場合や、責任能力がない低年齢の場合には、その親に対して責任を追及します。親の責任は、主に以下の2つの法的根拠に基づきます。
- 監督義務者責任(民法714条):加害者に責任能力がない場合、監督義務者である親が代わりに賠償責任を負います。親は、監督義務を怠らなかったことを自ら証明できない限り、責任を免れません。
- 一般不法行為責任(民法709条):加害者に責任能力がある場合でも、親自身の監督不足がいじめの原因になったといえる特別な事情(例:子の非行を知りながら放置した)があれば、親個人の責任として賠償を請求できます。
多くの場合、資力のある親に請求することで、被害者の実質的な救済が図られます。
学校に対する安全配慮義務違反・使用者責任に基づく請求
学校内でいじめが発生した場合、学校も法的責任を問われることがあります。学校(教師)は、生徒が安全な学校生活を送れるよう配慮する「安全配慮義務」を負っています。
学校の責任が認められるかは、主に以下の点がポイントとなります。
- 予見可能性:学校がいじめの発生を予見できたか(生徒からの相談、アンケートの記載など)
- 結果回避可能性:学校が適切な対応(加害者への指導、クラス分けの配慮など)をしていれば、被害の発生や拡大を防げたか
これらの義務を怠ったと判断されれば、学校設置者(自治体や学校法人)に損害賠償を請求できます。また、私立学校の教師がいじめを助長した場合などには、学校法人に対して「使用者責任(民法715条)」を追及することも可能です。
【公立・私立別】学校への請求における法的構成の違い
学校に責任を追及する場合、その学校が公立か私立かによって、適用される法律や訴える相手が異なります。
| 項目 | 公立学校 | 私立学校 |
|---|---|---|
| 適用される法律 | 国家賠償法 | 民法 |
| 責任の根拠 | 安全配慮義務違反 | 安全配慮義務違反(債務不履行)、使用者責任など |
| 請求の相手方 | 学校を設置する地方自治体(市や県など) | 学校を運営する学校法人および教師個人 |
| 特徴 | 教師個人への請求はできないが、自治体が相手なので支払い能力は確実 | 教師個人と法人の両方に請求できる場合がある |
どちらのケースでも、学校側の義務違反を具体的に主張・立証する必要があります。
学校側との交渉を円滑に進めるためのポイント
学校側と話し合いを行う際は、感情的にならず、冷静かつ戦略的に進めることが重要です。
- 事実関係を整理して伝える:いつ、どこで、誰が、何をしたかを時系列でまとめ、客観的な情報として提供する。
- すべてのやり取りを記録する:面談内容は議事録を作成し、重要な要請は書面(内容証明郵便など)で行う。
- 一方的に非難しない:責任追及だけでなく、再発防止に向けた協力的な姿勢で具体的な対応策を求める。
- 感情的な対立を避ける:過度な要求や威圧的な態度は、かえって相手を頑なにし、交渉を停滞させる原因になる。
- 必要に応じて専門家を代理人にする:弁護士が介入することで、学校側も法的な問題として真摯に対応する可能性が高まる。
いじめの慰謝料を請求するための具体的な手順
手順1:請求の根幹となる証拠の収集と整理方法
慰謝料請求を成功させるためには、いじめの事実を客観的に証明する証拠が不可欠です。感情的な訴えだけでは、相手に責任を認めさせることは困難です。
以下のような証拠を、できる限り多く集めて時系列に整理しておくことが重要です。
- 本人が書いた日記やメモ:日付、場所、加害者、行為内容、心境などを具体的に記録したもの
- 電子的な記録:SNSやLINEでの暴言・仲間外れのスクリーンショット、脅迫的なメールなど
- 音声・動画データ:暴言などを録音した音声データや、いじめの様子を撮影した動画
- 物的証拠:破られた教科書、落書きされた持ち物などの写真
- 第三者の証言:いじめを目撃した友人の証言や、相談を受けた人の記録
- 公的な記録:病院の診断書(ケガや精神疾患)、学校の欠席記録など
手順2:内容証明郵便による請求通知と示談交渉の進め方
証拠が揃ったら、加害者側(本人および親)に対して、内容証明郵便で慰謝料を請求する通知書を送付します。これにより、こちらの本気度を伝え、交渉のテーブルに着かせることができます。
相手が交渉に応じた場合、裁判外での話し合い(示談交渉)が始まります。その際の基本的な流れは以下の通りです。
- 内容証明郵便の送付:請求の根拠となるいじめの事実、請求額、回答期限を明記して送付する。
- 示談交渉の開始:相手方と面会または電話で、事実関係の確認、謝罪の要求、賠償額や支払い方法について協議する。
- 示談書の作成・締結:合意した内容(賠償金額、支払期日、今後の接触禁止など)を盛り込んだ示談書を作成し、双方が署名・捺印する。
示談が成立した場合は、後々のトラブルを防ぐため、合意内容を公正証書として残しておくことが望ましいです。
手順3:示談不成立時の民事調停・訴訟への移行
当事者間の話し合いで解決できない場合は、裁判所を利用した法的手続きに移行します。
- 民事調停:裁判官と調停委員が仲介役となり、当事者間の合意形成を目指す話し合いの手続きです。非公開で行われ、訴訟よりも柔軟な解決が期待できますが、相手が合意しなければ不成立となります。
- 民事訴訟:裁判官が双方の主張と証拠に基づき、法的な判断(判決)を下す最終的な紛争解決手続きです。解決までに長期間を要しますが、勝訴すれば相手の意思にかかわらず、法的な強制力をもって賠償金の支払いなどを実現できます。
慰謝料請求が子供の学校生活に与える影響と注意点
慰謝料請求という法的措置は、子供の学校生活に影響を及ぼす可能性があります。行動を起こす前に、そのメリットとデメリットを慎重に考慮する必要があります。
請求を進める際は、以下の点に注意し、子供の心身のケアを最優先に考えましょう。
- 二次被害のリスクを考慮する:請求が原因で、加害者やその周囲から新たな嫌がらせを受ける可能性がないか見極める。
- 子供の意思を尊重する:子供が「事を荒立てたくない」と感じている場合、無理に手続きを進めると精神的な負担を増大させるおそれがある。
- 安全な環境を確保する:必要であれば、請求手続きと並行して転校やフリースクールの利用を検討し、子供の居場所を確保する。
- 専門家と連携する:弁護士やカウンセラーと協力し、法的手続きと精神的なサポートを両立させる。
泣き寝入りせずに正当な権利を主張することは、子供の自尊心の回復につながる場合もあります。子供の状況をよく見ながら、最適な対応を選択することが重要です。
いじめの慰謝料に関する主要な裁判例
加害者・親の責任が中心となった裁判例
長期間にわたる集団での暴行や金銭の恐喝など、悪質ないじめにより被害者が重い精神的後遺症を負った事案があります。この種の裁判では、直接の加害者である生徒たちに共同不法行為が成立するとして、全員に連帯して賠償金を支払うよう命じられるケースが多く見られます。
さらに、加害生徒の親に対しても、子の非行を知りながら放置するなど、監督義務を著しく怠ったとして、親自身の不法行為責任を認めることがあります。子が責任能力を有する年齢であっても、家庭での指導が不十分であったことがいじめの原因の一つと評価されれば、親も賠償義務を負うと判断されるのです。これにより、加害者本人に資力がなくても、親への請求を通じて実質的な被害回復が図られる道が開かれます。
学校の安全配慮義務違反が問われた裁判例
生徒や保護者からいじめの相談が繰り返しあったにもかかわらず、学校側が「生徒間のトラブル」として軽視し、具体的な調査や指導を行わなかった結果、被害が深刻化した事案があります。このようなケースでは、学校の安全配慮義務違反が厳しく問われます。
裁判所は、学校がいじめの発生を予見できたこと、そして加害者への指導やクラス替えなどの措置を講じていれば被害の拡大を回避できたことを認定し、学校設置者(自治体や学校法人)に高額の損害賠償を命じています。これらの判例は、学校がいじめ問題に対して組織として真摯に対応する法的責任を負うことを明確にしており、現在の「いじめ防止対策推進法」の運用の基礎にもなっています。
いじめの慰謝料請求に関するよくある質問
いじめの証拠が十分でなくても慰謝料請求はできますか?
請求自体は可能です。完璧な証拠がなくても、日記、メールの断片、第三者の間接的な証言など、複数の情報を組み合わせることで、いじめの事実を立証できる場合があります。特に、裁判前の示談交渉の段階では、相手が訴訟を避けたいという心理から、証拠が不十分でも話し合いに応じる可能性があります。諦める前に、まずは弁護士などの専門家に相談し、手持ちの証拠でどのような主張が可能か検討することが重要です。
慰謝料請求の権利には時効がありますか?
はい、慰謝料請求権には消滅時効があります。期間を過ぎると権利が消滅し、請求できなくなるため注意が必要です。
- 原則:被害者が損害および加害者を知った時から3年
- 人の生命・身体を害する場合の特例:上記を知った時から5年
- 除斥期間:不法行為の時から20年
時効の進行を止めるには、内容証明郵便の送付(6か月間停止)や、裁判上の請求(訴訟提起など)が必要です。期間が迫っている場合は、早急に行動を起こす必要があります。
弁護士に依頼せず自分で請求手続きを進めることは可能ですか?
はい、可能です。本人で示談交渉を行ったり、簡易裁判所で民事調停や少額訴訟を申し立てたりすることができます。しかし、いじめ問題は法的な争点が多く、感情的な対立も激しくなりがちです。相手方が弁護士を立ててきた場合、法知識の差から不利な状況に陥るリスクもあります。精神的な負担を軽減し、適切な賠償額を得るためには、弁護士に依頼するメリットが大きいといえます。
- メリット:弁護士費用がかからない。当事者同士で円満に解決できる場合は迅速に進む。
- デメリット:法的主張や証拠の整理が難しい。相手方との直接交渉による精神的負担が大きい。得られる賠償額が低くなる可能性がある。
加害者が慰謝料の支払いに応じない場合はどうすればよいですか?
示談や判決で支払い義務が確定したにもかかわらず相手が支払わない場合は、法的な強制執行手続きをとることができます。
- 財産の差し押さえ:裁判所に申し立て、相手方の給料や預金口座などを差し押さえて強制的に回収する。
- 親への請求:判決などで親の責任が認められている場合は、親の財産を差し押さえる。
強制執行を行うには、判決書や公正証書(強制執行認諾文言付)などの「債務名義」が必要です。これらの手続きにより、相手の意思に関わらず、法に基づいて権利を実現することが可能です。
まとめ:慰謝料請求は証拠収集と冷静な判断が成功の鍵
いじめに対する慰謝料は、被害の深刻さに応じて数万円から数百万円、場合によってはそれ以上と大きな幅があります。金額は、いじめの期間や悪質性、後遺症の有無といった個別事情を考慮して算定されます。請求相手は加害者本人だけでなく、監督責任を問える親や、安全配慮義務を負う学校も対象となり得ます。いずれの相手に請求するにせよ、いじめの事実を客観的に証明する日記や診断書などの証拠収集が最も重要です。慰謝料請求は被害回復のための正当な権利ですが、お子様への影響や精神的な負担も大きいため、まずは弁護士に相談し、冷静に準備を進めることをお勧めします。

