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取締役会の出席義務とは?会社法の定足数・決議要件と欠席時の法的影響を解説

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企業の経営者や法務担当者として取締役会を運営する中で、特定の取締役の出席率が低い場合や、定足数を満たせるか不安になる場面は少なくありません。取締役の欠席は、単なる員数合わせの問題だけでなく、会社法上の義務違反やコーポレートガバナンス上の重大な課題につながる可能性があります。この記事では、会社法が定める取締役の取締役会への出席義務の根拠から、欠席がもたらす法的影響、定足数との関係、そして具体的な対応策までを網羅的に解説します。

目次

会社法における取締役の取締役会への出席義務

会社法が定める取締役の出席義務とその根拠

取締役会設置会社において、取締役会は会社の業務執行を決定し、取締役の職務執行を監督する重要な機関です。会社法には取締役の出席を直接命じる条文はありませんが、会社と取締役は委任関係(会社法330条)にあるため、取締役は自ら取締役会に出席し、議論に参加して意思決定に関与する義務を負うと解されています。これは、取締役会が多様な知見を持つ取締役による合議体として機能することが期待されているためです。正当な理由なく欠席を続けることは、取締役としての善管注意義務忠実義務に違反する可能性があります。

代理人による出席は認められるか

取締役会への代理人による出席は一切認められていません。取締役は、株主総会において個人の能力や資質、識見を信頼されて選任された立場であり、その職務は他人に代行させることができない一身専属的な性質を持つためです。会社法にも、取締役会の議決権行使を代理人に委ねることを認める規定は存在しません。したがって、病気や海外出張などやむを得ない事情があったとしても、代理人を出席させて議決権を行使させることはできず、仮にそのような方法で決議が行われた場合、その決議は無効となるリスクがあります。

出席義務違反と善管注意義務の関係

取締役が取締役会を欠席することは、会社に対する善管注意義務(善良な管理者の注意をもって職務を行う義務)の違反とみなされる可能性があります。取締役会への出席は、経営判断に関与し、他の取締役の業務執行を監督するという重要な職務の一部だからです。欠席したことで会社に損害が生じた場合、その取締役は任務懈怠として損害賠償責任を問われるおそれがあります。

責任が問われる可能性のあるケース
  • 欠席したことで、会社に不利益な決議がなされるのを防げなかった場合
  • 欠席したことで、他の取締役による不正行為や法令違反を見過ごしてしまった場合
  • 重要な経営課題に関する議論に参加せず、意思決定に必要な情報提供や意見表明を怠った場合

特に、決議事項に問題があることを認識しながら意図的に欠席したような場合には、責任を免れることは極めて困難です。

取締役会の定足数と決議要件の基本

取締役会の成立要件(定足数)とは

取締役会が法的に有効な会議として成立するためには、「定足数」を満たす必要があります。会社法第369条第1項は、定足数を「議決に加わることができる取締役の過半数」の出席と定めています。この定足数は、個々の決議を行う時点において満たされている必要があります。定款によって、この要件を「3分の2以上」のように厳しくすること(加重)は可能ですが、「3分の1以上」のように過半数を下回る割合に緩和することは認められていません

普通決議の決議要件

取締役会の決議は、原則として「出席した取締役の過半数」の賛成によって成立します。これを普通決議といいます。例えば、議決に加わることができる取締役が5名いる取締役会で、3名が出席した場合(定足数クリア)、その過半数である2名以上が賛成すれば決議は可決されます。この決議要件も、定款によって「出席取締役の3分の2以上の賛成」のように厳しくすることはできますが、過半数未満に緩和することはできません。

定足数・決議要件における「過半数」の計算方法

定足数および決議要件でいう「過半数」とは、半数をちょうど超える数を意味します。したがって、半数ちょうどでは要件を満たしません。また、決議に特別の利害関係を有する取締役は、その特定の決議について議決権を行使できないため、定足数および決議要件の計算から除外されます。

取締役の総数(議決参加可能者) 定足数(過半数) 出席者が3名の場合の決議要件(過半数) 出席者が4名の場合の決議要件(過半数)
4名 3名以上 2名以上 3名以上
5名 3名以上 2名以上 3名以上
6名 4名以上 2名以上 3名以上
「過半数」の計算例

賛成と反対が同数となった場合は、過半数の賛成がないため、議案は否決されます。

定足数を満たさずに決議した場合の法的効力

定足数を満たさない状態でなされた取締役会決議は、法令違反となり原則として無効です。定足数不足の決議に基づいて行われた契約や取引は、後日その効力が否定される可能性があり、会社に大きな法的紛争をもたらす原因となります。一部の取締役への招集通知漏れが原因で定足数を満たさなかった場合も同様です。このような瑕疵のある決議は、株主などから決議の不存在または無効を確認する訴えを提起されるリスクがあり、会社の経営を不安定にさせます。

取締役が取締役会を欠席した場合の法的影響

欠席した取締役が問われる可能性のある法的責任

正当な理由なく取締役会を欠席した取締役は、会社法上の任務懈怠責任(会社法423条)を問われる可能性があります。取締役には、取締役会を通じて他の取締役の職務執行を監督する義務があるためです。欠席が原因で会社に損害が生じた場合、その取締役は損害賠償責任を負うことがあります。この責任は、業務執行を担当しない社外取締役であっても免れることはできません

会社経営に与えるガバナンス上の影響

特定の取締役の欠席が常態化すると、会社のコーポレートガバナンス(企業統治)が著しく低下するおそれがあります。取締役会における健全な議論や相互牽制が機能しなくなり、経営の質が劣化するからです。

ガバナンス上の主な影響
  • 多様な視点からの議論が失われ、意思決定の質が低下する。
  • 経営陣に対する監督機能が形骸化し、不正や独断的な経営判断のリスクが高まる。
  • 株主や投資家、取引先などのステークホルダーからの信頼が失われ、企業価値が毀損する。

取締役の欠席が他の決議の効力に与える影響

ある取締役の欠席は、その会議で行われた決議全体の効力に影響を及ぼすことがあります。主なケースは以下の通りです。

決議の効力に影響を及ぼすケース
  • 定足数不足:取締役が欠席した結果、会議の定足数を満たさなくなった場合、その会議で行われた全ての決議が無効となります。
  • 招集手続の瑕疵:取締役会への招集通知が適切に行われなかったために取締役が欠席した場合、招集手続に重大な瑕疵があるとして決議が無効になることがあります。

ただし、判例上、欠席した取締役が出席していても決議の結果に影響がなかったと認められる特段の事情がある場合に限り、決議が有効とされることもありますが、これは例外的な扱いです。

欠席が続く取締役への具体的な対応策

まずは欠席理由の確認と出席の要請から

取締役の欠席が続く場合、まずは段階的な対応が必要です。以下の手順で進めるのが一般的です。

対応のステップ
  1. 本人に対して、まずは欠席の理由を丁寧に確認します。
  2. 招集通知が適切に届いているかを確認し、意図的な欠席でないかを把握します。
  3. 取締役としての職責を改めて伝え、取締役会への出席を強く要請します。
  4. 遠隔地在住や多忙などが理由であれば、オンライン会議の活用や日程調整など、出席しやすい環境整備を検討します。

役員報酬の減額措置の可否と注意点

職務を果たしていないことを理由に役員報酬を減額するには、慎重な検討が必要です。役員報酬は株主総会決議などで総額が定められているため、会社が一方的に減額することは原則としてできません。本人の同意なく減額すれば、契約違反として法的な紛争に発展するリスクがあります。また、期中に報酬額を変更すると、税務上の「定期同額給与」の要件から外れ、その役員報酬が会社の経費(損金)として認められなくなる可能性もあるため注意が必要です。

最終手段としての解任手続きとその要件

出席要請に応じず、取締役としての職務執行に著しい支障が出ている場合、最終手段として解任を検討します。取締役の解任は、株主総会の普通決議によっていつでも行うことが可能です。ただし、解任に「正当な理由」がない場合、解任された取締役から残りの任期分の役員報酬などを損害賠償として請求されるリスクがあります。継続的な取締役会欠席が「正当な理由」にあたるかはケースバイケースですが、その事実を証明するための客観的な証拠が重要となります。

欠席理由の正当性の判断と記録の重要性

将来の法的措置に備え、取締役の欠席に関する客観的な記録を確実に残しておくことが極めて重要です。これらの記録は、任務懈怠責任の追及や、解任の「正当な理由」を立証する際の重要な証拠となります。

残しておくべき記録の例
  • 取締役会議事録への出席者および欠席者の氏名の明記
  • 招集通知を発送した事実がわかる記録(メールの送信履歴など)
  • 本人への出席要請のやり取り(メール、面談記録など)
  • 本人から聴取した欠席理由の記録

監査役の取締役会への出席義務と権限

監査役にも取締役会への出席義務がある

監査役には、取締役会に出席する義務があります。会社法第383条第1項は、「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない」と定めています。これは、監査役が取締役の職務執行を適法かつ適正に行われているか監督する重要な役割を担っており、取締役会の意思決定プロセスを直接監視する必要があるためです。ただし、定款で監査の範囲を会計に関するものに限定されている監査役には、この出席義務はありません(任意での出席は可能です)。

監査役の役割:意見陳述権と監視機能

監査役は、取締役会において違法または著しく不当な事実があると認める場合、意見を述べる義務(意見陳述義務)を負っています。これは単なる権利ではなく、監査役の重要な職務です。この監視機能を実効的にするため、監査役には以下のような強い権限が与えられています。

監査役の主な権限
  • 取締役の不正行為等を取締役会へ報告する義務
  • 必要に応じて取締役会の招集を請求する権限
  • 取締役の違法行為をやめさせるための差止請求権

監査役の欠席が決議の効力に与える影響

監査役は取締役会の議決権を持たないため、監査役が欠席しても定足数や決議要件には影響しません。したがって、監査役が欠席したまま行われた取締役会決議が、そのこと自体を理由に無効になることはありません。しかし、監査役への招集通知を怠った状態で取締役会が開催された場合、その決議は招集手続の重大な瑕疵として無効となる可能性があります。また、監査役が正当な理由なく欠席し、監視義務を怠った結果として会社に損害が生じた場合、その監査役自身が任務懈怠責任を問われることになります。

取締役会出席率の開示とコーポレートガバナンス

取締役会出席率の開示は法的な義務か

上場会社などにおいては、社外取締役および社外監査役の取締役会への出席状況を、事業報告の中で開示することが会社法で義務付けられています。具体的には、事業年度中の取締役会開催回数と、各社外役員の出席回数を記載する必要があります。これは、独立した立場である社外役員が、その監督機能を適切に果たしているかを株主が判断するための重要な情報となります。なお、社内取締役については法的な開示義務はありませんが、任意で開示する企業も増えています。

コーポレートガバナンス・コードと出席率の関係

機関投資家や議決権行使助言会社は、投資先企業のコーポレートガバナンスを評価する上で、役員の取締役会出席率を重要な指標としています。例えば、一部の議決権行使助言会社は、取締役会への出席率が一定基準(例:75%)を下回る取締役候補者について、株主総会での再任議案に反対を推奨する基準を設けています。出席率の低さは、取締役としての責務を十分に果たしていない証左と見なされるためです。

出席率の低さが示すコーポレートガバナンス上の課題

取締役の出席率の低さは、個人の資質の問題だけでなく、企業全体のガバナンス体制に課題があることを示唆しています。低い出席率が放置されている企業は、以下のような問題を抱えている可能性があります。

出席率の低さが示唆するガバナンス上の課題
  • 取締役会が実質的な議論の場として機能しておらず、形骸化している。
  • 代表取締役など経営陣に対する監督機能が十分に働いていない。
  • 出席しやすい日程調整や資料提供など、取締役会事務局のサポート体制が不十分である。

企業は、取締役が出席しやすい環境を整え、実質的な議論を活性化させることで、ガバナンスの実効性を高める努力が求められます。

取締役会の出席に関するよくある質問

特別利害関係を有する取締役は定足数の計算に含まれますか?

含まれません。特定の議案について特別の利害関係を有する取締役は、その議案の採決において議決権を行使できません。それに伴い、その議案を審議する際の定足数を計算する基礎となる取締役の数からも除外されます。例えば、取締役が5名で、うち1名が特別利害関係人の場合、残りの4名を母数として、その過半数である3名以上の出席が定足数となります。

オンライン(リモート)での取締役会出席は会社法上認められますか?

はい、認められています。電話会議やWeb会議システムを利用した出席も可能です。ただし、映像と音声が全出席者に即時に伝わり、双方向で意見交換ができる環境が確保されていることが要件です。議事録には、オンラインで参加した取締役がいることや、その出席方法について記載することが望ましいとされています。

取締役会を欠席した場合、議事録への署名(記名押印)は必要ですか?

いいえ、必要ありません。会社法で取締役会議事録への署名または記名押印が義務付けられているのは、その取締役会に「出席した」取締役および監査役です。したがって、欠席した取締役には署名等の義務はありません。ただし、欠席した場合でも、後日議事録の内容を確認し、決議事項を把握することは善管注意義務の一環として求められます。

取締役会決議で賛否同数になった場合はどうなりますか?

否決されます。会社法の決議要件は「出席した取締役の過半数」の賛成であり、賛否同数では過半数に達しないためです。なお、「可否同数の場合は議長が決する」といった旨を定款で定めることは、議長に実質的に2票分の権限を与えることになり、取締役平等の原則に反するため無効と解されています。

取締役が会議の途中で退席・参加した場合、定足数や決議への参加はどう扱われますか?

取締役会の定足数は、個々の決議を行う時点で満たされている必要があります。会議の途中で退席した取締役は、退席後に行われる決議の定足数および議決権数の計算からは除外されます。退席によって定足数を割った場合、それ以降の決議は無効となります。逆に、途中から参加した取締役は、参加した時点以降の決議から定足数および議決権数に算入されます。議事録には、誰がどの議案の審議中に退席・参加したかを明確に記録しておくべきです。

まとめ:取締役の出席は健全な企業統治の礎

本記事では、取締役の取締役会への出席義務とその法的根拠、欠席がもたらす影響について多角的に解説しました。取締役の出席は、単なる会議の成立要件を満たすだけでなく、多様な知見に基づく議論を通じて会社の意思決定の質を高め、経営陣を監督するというコーポレートガバナンスの根幹をなす重要な責務です。正当な理由なく欠席を続けることは、取締役個人の善管注意義務違反や任務懈怠責任に問われるだけでなく、定足数不足による決議の無効など、会社全体に深刻な法的リスクをもたらします。もし自社で欠席が続く取締役がいる場合は、まずその理由を確認し、オンライン会議の活用など出席しやすい環境を整えることから始めましょう。同時に、取締役会議事録や出席要請の記録を正確に残すことが、将来の法的紛争に備える上で極めて重要です。健全な取締役会の運営は、企業価値の維持・向上に不可欠であることを改めて認識し、自社のガバナンス体制を見直すきっかけとしてください。

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