有限責任監査法人トーマツとは?サービス内容やBIG4での特徴を解説
企業の経営者や財務担当者にとって、会計監査を依頼する監査法人の選定は、企業の信頼性を左右する重要な経営判断です。特に、日本の4大監査法人の一角である有限責任監査法人トーマツは、多くの企業にとって主要な選択肢の一つとなるでしょう。この記事では、有限責任監査法人トーマツの概要から、提供サービス、他の大手法人との比較、そして監査契約のプロセスに至るまで、その全体像を網羅的に解説します。
有限責任監査法人トーマツの概要
デロイト トーマツ グループにおける位置づけ
有限責任監査法人トーマツは、世界最大級のプロフェッショナルネットワーク「デロイト トウシュ トーマツ リミテッド」のメンバーファームです。日本国内のデロイト トーマツ グループにおいては、その中核として監査・保証業務を専門に担っています。
グループ内には、コンサルティング、税務、ファイナンシャルアドバイザリーなど、各分野の専門家集団が存在します。これらの法人と緊密に連携することで、クライアントが抱える複雑な経営課題に対し、多角的な視点から一貫したサービスを提供できる体制を構築しています。
組織形態としては、パートナーと呼ばれる社員(公認会計士)が所属する有限責任監査法人です。社員の責任は原則として出資額に限定されます。資本市場の番人としての独立性を維持しつつ、グループが持つグローバルな知見や最新テクノロジーを監査業務に活用できるのが大きな強みです。これにより、高品質な監査を通じて、経済社会の健全な発展に貢献しています。
日本の4大監査法人(BIG4)の一角としての特徴
日本の資本市場は、通称「BIG4」と呼ばれる4つの大手監査法人によって支えられており、トーマツはその筆頭格とされています。長年にわたり、国内監査法人の業務収入において首位を維持しています。トーマツの主な特徴は以下の通りです。
- 圧倒的な組織力: 国内約30都市に拠点を構え、8,000人を超える専門家が所属。全国どこでも均質なサービスを提供可能です。
- 国内企業への深い理解: 日本初の全国規模の監査法人を源流としており、日本企業の文化や商慣習に精通しています。
- グローバルな監査手法: デロイトの国際的な監査手法や知見を、日本の実情に合わせて融合させています。
- 品質最優先の文化: 厳格な品質管理体制を敷き、監査の品質を最重要視する組織文化が浸透しています。
- デジタル監査への先行投資: AIやデータ分析などの先端技術を積極的に導入し、監査の効率性と精度を高めています。
これらの強みを活かし、大規模な多国籍企業から成長著しいスタートアップまで、幅広いクライアントのニーズに応えています。
トーマツが提供する主要サービス
会計監査・保証業務(法定監査・任意監査)
トーマツの中核サービスは、企業の財務情報が適正であるかを独立した第三者の立場から検証し、その信頼性を保証する会計監査です。監査の結果は「監査報告書」として公表され、投資家や金融機関などの利害関係者が適切な意思決定を行うための基盤となります。
主な監査・保証業務は以下の通りです。
- 法定監査: 金融商品取引法や会社法に基づき、上場企業や一定規模以上の株式会社に義務付けられている監査です。
- 任意監査: 法律上の義務はないものの、経営管理の高度化や社会的信用の向上のために、企業が任意で受ける監査です。
- その他の保証業務: 財務情報だけでなく、企業の環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に関するESG情報の信頼性を保証する業務にも注力しています。
トーマツは、財務・非財務の両面から企業の信頼性を支え、経済活動の基盤を構築する役割を担っています。
IPO(株式新規上場)支援サービス
株式新規上場(IPO)は、企業が飛躍的な成長を遂げるための重要なステップです。トーマツは、このIPO支援において国内トップクラスの実績を誇り、創業初期のスタートアップから上場達成までを一貫してサポートする体制を整えています。
IPOを実現するには、上場を申請する直前の2期間について、公認会計士による監査証明が不可欠です。トーマツは監査業務に加え、豊富な知見を活かして企業の成長を支援する指導的機能も発揮します。IPO支援の具体的なプロセスは以下の通りです。
- ショートレビュー(予備調査): 企業の現状を分析し、上場基準とのギャップや内在する課題を早期に洗い出します。
- 課題解決と体制構築支援: 抽出された課題に基づき、上場企業に求められる内部管理体制やガバナンス体制の構築を支援します。
- 会計監査の実施: 上場審査の基準を満たす厳格な会計監査を実施し、財務情報の信頼性を確保します。
- 上場申請書類の作成支援: 監査で得られた知見をもとに、証券取引所や財務局へ提出する申請書類の作成をサポートします。
近年では、スタートアップ企業の増加に対応するため、2024年にIPO監査の専門部署を再設置し、受嘱体制を一層強化しています。
監査以外の非監査業務(アドバイザリーサービス)
トーマツは、監査業務で培った高度な専門知識やノウハウを活かし、監査以外の非監査業務(アドバイザリーサービス)も幅広く提供しています。これらのサービスは、クライアントが直面する経営課題の解決を直接的に支援するものです。
ただし、監査先企業に対して特定のアドバイザリー業務を同時に提供することは、監査人の独立性を損なう可能性があるため、法律で厳しく制限されています。そのため、グループ内のコンサルティング法人などと適切に連携し、厳格な独立性チェックを経た上でサービスを提供しています。
- リスクアドバイザリー: サイバーセキュリティ対策や内部統制の高度化、不正リスク管理体制の構築などを支援します。
- IFRS導入支援: 国際財務報告基準(IFRS)への移行を計画から導入、定着までサポートします。
- M&A関連業務: 企業の合併・買収(M&A)に際して、対象企業の財務状況を調査するデューデリジェンスや企業価値評価を行います。
- データアナリティクス: ビッグデータやAIを活用して潜在的なリスクを可視化し、業務効率化につながるインサイトを提供します。
監査の過程で得られる経営改善へのフィードバック
会計監査の重要な副次的価値として、監査の過程で発見された経営上の課題を経営者へフィードバックすることが挙げられます。監査人は、企業の内部資料を網羅的に調査し、現場担当者へヒアリングを行うため、経営層が日常業務では気づきにくい組織の課題を客観的に把握できます。
これらの発見事項は、マネジメントレター(経営改善提案書)として文書にまとめられ、経営者に直接提出されます。単に問題点を指摘するだけでなく、他社の成功事例などを踏まえた具体的な改善策を提案することで、企業の持続的な成長を支援します。これには、属人的な業務プロセスの見直しや、内部牽制の強化などが含まれます。このフィードバックは、企業のガバナンス強化や収益力向上に大きく貢献します。
他の大手監査法人(BIG4)との比較
クライアントの規模や業種の傾向
日本のBIG4監査法人は、それぞれに異なるクライアント基盤や強みを持っています。トーマツは、業種や規模のバランスが取れた多様なクライアントを有しているのが特徴です。
| 監査法人 | 主なクライアントの傾向・特徴 |
|---|---|
| 有限責任監査法人トーマツ | 総合商社、製造、金融、ITなど、幅広い業種の大手企業をバランス良く担当。クライアントの多様性が強み。 |
| PwC Japan有限責任監査法人 | トヨタ自動車やソニーグループなど、日本を代表する超巨大企業や大手金融機関に豊富な実績を持つ。 |
| EY新日本有限責任監査法人 | 国内最多の被監査会社数を誇り、特に製造業や小売業の中堅・大手上場企業に強い基盤を持つ。 |
| 有限責任 あずさ監査法人 | メガバンクをはじめとする金融機関や、化学・製薬業界に豊富な実績を持つ。 |
グローバルネットワークと海外展開支援の違い
日本企業のグローバル化が進む中、監査法人が持つ国際的なネットワークの質は、法人選定における重要な要素となります。BIG4はいずれも強力なグローバルネットワークを持っていますが、その運営方針や強みには違いがあります。
| 監査法人(所属ネットワーク) | グローバルネットワークの特徴 |
|---|---|
| トーマツ(デロイト) | 世界最大規模(150カ国以上)。主要都市に日本人専門家を配置し、日本企業のニーズに合わせたきめ細かな支援が可能。 |
| PwC Japan(PwC) | 品質の均一性を重視。グローバルで統一された監査手法やツールを強みとし、中央集権的なアプローチを採る。 |
| EY新日本(EY) | 拠点間の緊密な連携に定評。国境を越えるクロスボーダー案件のプロジェクト管理能力が高い。 |
| あずさ(KPMG) | 各地域の専門性を重視。現地の法規制や商慣習に対する深い知見を活かしたサービスが特徴。 |
トーマツは、デロイトが持つ世界最大のネットワークを活用し、日本企業の海外展開を強力にサポートしています。
近年の業績や人員規模の比較
近年の業績において、トーマツは業務収入で国内首位の座を維持しています。人員規模も監査法人単体で8,000名を超え、グループ全体では2万名に迫るなど、他法人をリードしています。特に、AIを活用した監査ツールへの積極的な投資が、生産性の向上と業績の安定に貢献しています。
他法人では、PwC Japanが2023年に法人統合を行い規模を拡大したほか、あずさ監査法人は高い利益率で安定した経営を続けています。EY新日本は依然として国内最多のクライアント数を維持しています。トーマツは、業界のリーダーとしてその規模を活かし、デジタル化などの先行投資によって新たなサービス領域を開拓し続けています。
監査契約のプロセスと費用の目安
監査契約を締結するまでの基本的な流れ
監査法人との契約は、企業の内部管理体制などを確認する予備調査から始まります。監査法人が監査を引き受けることが可能と判断した場合、会社法に定められた手続きを経て正式に契約が締結されます。
- 予備調査(ショートレビュー)の実施: 監査法人が企業の事業内容や管理体制、会計処理の妥当性などを調査します。
- 監査法人の受嘱判断: 予備調査の結果に基づき、監査リスクを評価し、監査を引き受けるかどうかの内部承認を得ます。
- 監査役会の同意: 監査役会(または監査等委員会)が、会計監査人の候補者として選任することに同意します。
- 取締役会の決議: 取締役会が、会計監査人の選任議案を株主総会に提出することを決議します。
- 株主総会での選任: 株主総会の普通決議によって、会計監査人が正式に選任されます。
- 監査契約の締結: 選任後、会社と監査法人の間で監査報酬や監査計画について合意し、監査契約書を交わします。
監査報酬の決定要因と相場観
監査報酬は、主に監査に要する工数(時間)に、会計士の時間単価を乗じて計算されます。この工数は、企業の状況によって大きく変動します。
- 企業規模: 売上高や資産規模、従業員数など。
- 事業の複雑性: 子会社の数、海外拠点の有無、取引の複雑さなど。
- 内部統制の整備状況: 内部統制が有効に機能している場合、監査工数は減少し、報酬は低くなる傾向があります。
- 監査上のリスク: 新規上場や特殊な会計処理の有無など。
上場企業の監査報酬は年間数千万円から数億円以上と幅広く、企業の規模やリスクに応じて決まります。近年、監査の厳格化や会計士の人材不足を背景に、監査報酬は全体的に上昇傾向にあります。
初回監査で指摘を受けやすい論点と事前準備
企業が初めて監査法人による監査を受ける際には、特定の会計処理や管理体制について指摘を受けることが多くあります。事前に準備を進めることで、監査を円滑に進めることができます。
- 収益認識の適切性: 売上を計上するタイミングや方法が、会計基準に準拠しているか。
- 資産の実在性と評価: 在庫(棚卸資産)が実在し、評価額が適切に算定されているか。
- 内部統制の不備: 職務分掌や承認プロセスなど、不正や誤りを防ぐための仕組みが構築・運用されているか。
- IT全般統制: 会計システムへのアクセス管理やデータ変更履歴の管理が適切に行われているか。
これらの論点に対応するため、取締役会議事録や社内規程、重要な契約書などの関連資料を整理・保管しておくことが重要です。
トーマツの強みと信頼性
幅広い業種に対応する専門性と実績
トーマツの最大の強みは、あらゆる産業を網羅する深いインダストリー知見です。法人内には業種ごとの専門部会が組織されており、各業界特有のビジネスモデルや会計上の論点に精通した専門家が多数在籍しています。これにより、クライアントの事業環境に即した質の高い監査を提供することが可能です。
また、上場企業だけでなく、地方自治体や独立行政法人、学校法人といったパブリックセクターに対するサービス提供の実績も豊富です。全国に広がる拠点網を活かし、地域経済を支える多様な組織の信頼性向上に貢献しています。この幅広い実績が、新たなビジネスモデルにも迅速に対応できる柔軟性の基盤となっています。
デロイトのグローバルネットワークを活かした国際性
トーマツが属するデロイトのネットワークは、世界150以上の国と地域を網羅し、世界最大の規模を誇ります。このネットワークの強みは、単なる提携関係ではなく、世界共通の監査手法(メソドロジー)と品質基準に基づいている点です。
特に、海外進出する日本企業を支援するため、世界の主要都市には日本語対応が可能な専門家チームが配置されています。これにより、クライアントは日本にいながら、現地の最新の規制情報や市場動向をタイムリーに入手できます。国境を越えたM&AやIFRS(国際財務報告基準)対応など、複雑な国際案件において、このグローバルな一体性が大きな力を発揮します。
過去の事例から見る現在の品質管理体制
監査業界では過去にいくつかの会計不祥事が発生し、監査法人の品質管理体制の重要性が改めて問われました。トーマツはこれらの事例を教訓とし、監査品質を最優先事項と位置づけ、厳格な品質管理体制を構築・運用しています。
現在の体制では、監査チームから独立した審査部門が、監査上の重要な判断を客観的にレビューする仕組みが徹底されています。また、経営トップが品質向上への強いコミットメントを示す「トーン・アット・ザ・トップ」を重視し、組織全体で品質を追求する文化を醸成しています。
さらに、AIを活用した異常取引の検知システムを導入するなど、デジタル技術を駆使して人為的な判断ミスを減らし、監査の客観性と網羅性を高める取り組みも積極的に進めています。
トーマツに関するよくある質問
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社との違いは何ですか?
両者は同じ「デロイト トーマツ グループ」に属しますが、役割が明確に異なります。
| 組織名 | 主な役割 |
|---|---|
| 有限責任監査法人トーマツ | 監査と保証の専門家集団。公認会計士法に基づき、企業の財務情報の信頼性を保証する独立した第三者機関です。 |
| デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 | 経営課題解決のパートナー。企業の経営戦略立案、業務改革、DX推進などを支援し、企業価値向上に貢献します。 |
監査法人は、その独立性を保つため、監査先企業に対して提供できるコンサルティングサービスに法律上の制限があります。
中小企業やスタートアップでも監査を依頼できますか?
はい、可能です。トーマツには、IPOを目指すスタートアップや成長企業を専門に支援するチームがあります。企業の成長ステージに応じた監査やアドバイスを提供しており、特に社会的な課題解決に貢献する技術やビジネスモデルを持つ企業への支援に力を入れています。
監査法人を変更する場合、どのような手続きが必要ですか?
監査法人の変更(交代)には、会社法で定められた手続きが必要です。主な流れは以下の通りです。
- 後任監査法人の内定: 新たに契約したい監査法人に予備調査を依頼し、監査の受嘱に関する内諾を得ます。
- 監査役会の同意: 監査役会(または監査等委員会)が、会計監査人の交代および後任候補者の選任に同意します。
- 取締役会・株主総会の決議: 取締役会で株主総会の議案とすることを決議し、株主総会で選任議案が承認されると正式に交代が決定します。
- 新旧監査法人の引き継ぎ: 前任の監査法人から後任の監査法人へ、必要な情報や監査資料の引き継ぎが行われます。
まとめ:トーマツを監査法人候補として検討するための要点整理
有限責任監査法人トーマツは、国内最大級の組織力とデロイトのグローバルネットワークを背景に、多様な業種・規模の企業に対して高品質な監査・保証業務を提供しています。中核となる会計監査に加え、IPO支援やリスクアドバイザリーなど、企業の成長ステージに応じた幅広いサービスラインナップが特徴です。他のBIG4と比較した場合、クライアントの業種バランスの良さと、日本企業の文化に精通しつつ国際的な監査手法を導入している点に強みがあります。監査法人の選定にあたっては、報酬だけでなく、自社の事業内容や将来の海外展開、IPO計画との相性を多角的に評価することが不可欠です。本記事で解説したトーマツの全体像が、貴社の最適なパートナー選定における一助となれば幸いです。

