建設アスベスト給付金制度とは?対象者・金額・申請手続きをわかりやすく解説
建設業務におけるアスベスト(石綿)が原因で、ご自身やご家族が中皮腫や肺がんなどの健康被害に苦しんでおられる方も多いかと存じます。国による救済制度があると聞いても、具体的に誰が対象で、どのような手続きが必要なのか、分かりにくい点も多いでしょう。この記事では、訴訟を起こさなくても国から金銭的な救済を受けられる「建設アスベスト給付金制度」について、対象者の要件、給付額、申請方法、期限といった全体像を分かりやすく解説します。
建設アスベスト給付金制度の概要
制度設立の背景と目的
建設アスベスト給付金制度は、建設業務でアスベスト(石綿)にばく露し健康被害を受けた方やそのご遺族に対し、国が迅速に金銭を支給する制度です。これまで、被害者の方々は国や建材メーカーを相手に多くの訴訟を起こしてきました。最高裁判所で国の責任を認める判決が確定したことを受け、訴訟という大きな負担をかけることなく被害者を救済するため、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」に基づき本制度が設立されました。
この制度の目的は、個別に裁判を起こさなくても、法律で定められた要件を満たすことで、国から精神的苦痛などに対する賠償として給付金を受け取れるようにすることです。
国が被害者救済のために設けた給付金の仕組み
この制度は、厚生労働省が請求窓口となり、独立行政法人労働者健康安全機構が給付金の支払いを行う仕組みです。請求者から提出された書類は、専門家で構成される「特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会」で審査され、支給要件を満たすと認定されると給付金が支払われます。
この仕組みにより、被害者の方が個別に国を訴える必要がなくなり、行政手続きを通じて迅速な救済が図られます。すでに労災保険の支給決定を受けている場合は、その情報を活用して手続きを簡略化できる「労災支給決定等情報提供サービス」も用意されており、請求者の負担軽減が考慮されています。
給付金の支給対象となる方の要件
対象となる業務に従事した期間
給付金の対象となるには、国が規制権限を速やかに行使すべきだったとされる、以下の特定の期間にアスベストばく露のおそれがある建設業務に従事していたことが必要です。
- 昭和47年10月1日~昭和50年9月30日:この期間に、石綿の吹付け作業に従事していた方
- 昭和50年10月1日~平成16年9月30日:この期間に、一定の屋内作業場で建設業務に従事していた方
ご自身やご家族がこれらの期間内に該当する業務に従事していたかが、支給対象となるための重要な要件となります。
対象となる業務内容と具体的な職種
給付金の対象は、日本国内で行われたアスベストにばく露する建設業務です。これには、土木、建築その他工作物の建設、改造、修理、解体といった作業本体だけでなく、その準備作業や現場監督業務も含まれます。
特に、昭和50年10月以降については、屋根があり、側面の半分以上が壁などで囲まれた屋内作業場での業務が対象となります。対象となりうる職種の例は以下の通りですが、これらに限定されず、個別の作業実態に基づいて判断されます。
- 大工、左官、鉄骨工、溶接工、ブロック工
- 内装工、塗装工、吹付工、タイル工、軽天工
- はつり工、解体工
- 配管工、ダクト工、空調設備工、電気工
- 保温工、エレベーター設置工、自動ドア工
- 畳工、ガラス工、サッシ工、建具工
- 清掃、ハウスクリーニング
- 現場監督、機械工、防災設備工、築炉工
対象となる疾病(中皮腫・肺がんなど)
給付金の対象となるのは、アスベストの吸入によって発症したと医学的に認められている特定の疾病に限られます。潜伏期間が数十年と非常に長いことが特徴です。
- 中皮腫
- 肺がん
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚:呼吸機能の低下が一定の基準を満たすことが要件です。
- 石綿肺:じん肺管理区分が管理2、管理3、または管理4と決定されているものが対象です。
- 良性石綿胸水
一人親方・個人事業主・中小事業主の対象範囲
本制度は、会社に雇用されていた労働者だけでなく、より幅広い就労形態の方々を救済の対象としている点が特徴です。具体的には、以下の立場の方も対象に含まれます。
- 労働者:会社などに雇用され、賃金を得ていた方。
- 一人親方・個人事業主:労働者を使用せず、自身で事業を営んでいた方。
- 家族従事者:一人親方などの事業に家族として従事していた方。
- 中小事業主:常時使用する労働者数が一定数以下(例:建設業では300人以下)の事業主で、自身も現場で作業に従事していた方。
疾病ごとに定められた給付金の支給額
アスベスト関連疾病別の給付金額一覧
給付金の額は、罹患した疾病の種類や、合併症の有無、生死によって法律で定められています。支給額は550万円から1,300万円の範囲で設定されています。
| 疾病・病状 | 給付金額(本人が請求) | 給付金額(遺族が請求) |
|---|---|---|
| 中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺(管理4)、良性石綿胸水 | 1,150万円 | 1,300万円 |
| 石綿肺(管理2・3)で合併症がある場合 | 700万円~950万円 | 1,300万円 |
| 石綿肺(管理2・3)で合併症がない場合 | 550万円~800万円 | 1,200万円 |
弁護士費用相当額(4%)の上乗せについて
建設アスベスト給付金制度は、訴訟を経ずに迅速な救済を図る行政手続きです。そのため、裁判で損害賠償を請求する際に認められることがある弁護士費用相当額の上乗せはありません。提示されている給付金額(550万円~1,300万円)は法律で定められた固定額であり、その金額がそのまま支払われます。
弁護士に手続きを依頼した場合の費用は、この給付金の中からご自身で支払うことになります。
喫煙歴がある場合の給付金の減額(肺がんの場合)
肺がんに罹患した方については、喫煙歴の有無が給付額に影響する場合があります。これは、肺がんの発症に喫煙も寄与したと考えられるためです。
- 喫煙の習慣があった場合:給付額から10%が減額されます。
- アスベストばく露期間が短い場合(短期ばく露):給付額から10%が減額されます。
両方の要件に該当する場合、それぞれ減額が適用され、合計で約19%の減額となります。
給付金の請求手続きの流れと必要書類
相談から給付金受け取りまでの基本的な流れ
給付金を受け取るには、厚生労働省に認定請求を行う必要があります。手続きの基本的な流れは以下の通りです。
- 請求書や証明資料など、必要な書類を準備します。
- 書類一式を厚生労働省の担当窓口へ郵送で提出します。
- 「特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会」で審査が行われます。
- 審査の結果、要件を満たすと認定されると、厚生労働大臣から認定通知書が届きます。
- 「独立行政法人労働者健康安全機構」から指定の口座に給付金が振り込まれます。
請求に必要な書類の種類と準備のポイント
給付金の請求には、請求書に加えて、業務内容や疾病を証明するための複数の書類が必要です。労災認定を受けているかどうかで、準備する書類の負担が大きく異なります。
- 給付金等請求書:厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。
- 疾病を証明する書類:医師が作成した診断書や意見書など。疾病ごとに所定の様式があります。
- 就業歴等申告書:従事した業務内容や期間を申告する書類です。
- 就業歴を裏付ける資料:年金記録や雇用保険の記録、同僚の証明など。
- 戸籍謄本など:ご遺族が請求する場合に、被災者との関係を証明するために必要です。
準備のポイントは、まず労災認定の有無を確認することです。認定済みであれば「労災支給決定等情報提供サービス」を利用でき、一部書類の提出を省略できます。
就労歴や疾病を証明する資料の集め方
就労歴や疾病の証明は、請求手続きにおける重要なポイントです。客観的な資料をできる限り集める必要があります。
- 就労歴を証明する資料:年金事務所で取得できる「被保険者記録照会回答票」、ハローワークで確認できる「雇用保険被保険者記録」、一人親方だった場合は「確定申告書の控え」や「工事の請負契約書」、当時の同僚による証明書などが有効です。
- 疾病を証明する資料:治療を受けた医療機関に依頼し、診断書やCT画像などの医学的資料を提供してもらいます。中皮腫の場合は病理診断報告書などが重要になります。
資料の収集が難しい場合は、厚生労働省の相談窓口や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
請求書の提出先(請求窓口)と提出方法
作成した請求書と添付書類は、以下の宛先に郵送で提出します。窓口での直接受付は行っていません。
- 提出先:〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2 厚生労働省労働基準局労災管理課 建設アスベスト給付金担当
- 提出方法:簡易書留やレターパックなど、配達記録が残る方法で郵送してください。
- 注意点:提出前には、厚生労働省が提供するチェックリストを使い、書類に不備がないか最終確認することが推奨されます。
不明な点があれば、労災保険相談ダイヤル(0570-006031)に問い合わせることができます。
労災認定を受けている場合の請求手続き上のメリット
過去にアスベスト関連疾病で労災保険の認定を受けている方は、手続きの負担が大幅に軽減されます。「労災支給決定等情報提供サービス」を利用することで、国が保有している労災認定時の情報を給付金の審査に活用できるためです。
これにより、請求書への記載事項が簡略化されるほか、疾病や就業歴を証明するための診断書や資料の提出を一部省略することが可能になります。
給付金の請求期限と申請時の注意点
法律で定められた請求期限
建設アスベスト給付金の請求には、法律で定められた期限があります。この期限を過ぎると請求権が消滅してしまうため、注意が必要です。
原則として、請求期限は以下の日から20年以内です。
- 石綿関連疾病にかかったと医師から診断された日
- 石綿肺について、じん肺管理区分の決定があった日
- 被災者が亡くなられた場合は、その死亡日
対象となる可能性がある方は、ご自身の診断日やご家族の死亡日などを確認し、期限内に請求手続きを進めることが重要です。
申請にあたり留意すべきその他のポイント
申請にあたっては、以下の点にもご留意ください。
- 権利の保護:給付金を受け取る権利は、他人に譲り渡したり、担保にしたり、差し押さえたりすることはできません。
- 非課税:支給される給付金に所得税などの税金はかかりません。
- 不正受給:偽りその他不正な手段で給付金を受け取った場合は、全額を返還しなければなりません。
- 損害賠償金との調整:すでに国に対する訴訟などで損害賠償金を受け取っている場合、その金額が給付金から差し引かれます。
- 請求者の死亡:請求手続き中に請求者が亡くなった場合、そのご遺族(相続人)が手続きを引き継ぐことができます。
国や建材メーカーへの訴訟による賠償請求との関係
給付金制度と国家賠償請求訴訟の違い
給付金制度と、裁判所に国を訴える国家賠償請求訴訟は、目的や手続きが異なる別の制度です。
| 項目 | 建設アスベスト給付金 | 国家賠償請求訴訟 |
|---|---|---|
| 手続きの種類 | 厚生労働省への請求(行政手続き) | 裁判所への提訴(司法手続き) |
| 賠償額(給付額) | 法律で定められた定額 | 個別の損害に応じて算定される |
| 解決までの期間 | 比較的短期間(数ヶ月~) | 長期間(数年単位)になることが多い |
| 特徴 | 要件を満たせば確実に支給される | 弁護士費用や遅延損害金も請求できる可能性がある |
給付金を受け取ると、その金額の範囲内で国に対する損害賠償請求権は消滅したとみなされます。
建材メーカーに対する損害賠償請求訴訟について
建設アスベスト給付金制度は、国に対する請求手続きであり、アスベスト建材を製造・販売していた建材メーカーの責任を問うものではありません。
したがって、国の給付金を受け取った後でも、建材メーカーに対して損害賠償を求める訴訟を起こすことは可能です。最高裁判決では一部の建材メーカーの責任も認められています。メーカーへの訴訟を検討する場合は、給付金制度とは別の手続きとなるため、弁護士などの専門家への相談が不可欠です。
弁護士など専門家への相談を検討すべきケース
給付金の請求手続きはご自身でも可能ですが、以下のようなケースでは弁護士などの専門家に相談することを検討するとよいでしょう。
- ご自身の業務内容が給付金の対象要件に当てはまるか判断が難しい場合
- 過去の就労歴や疾病を証明する資料の収集が困難な場合
- 建材メーカーに対する損害賠償請求訴訟も視野に入れている場合
- ご高齢であったり、体調が優れなかったりして、ご自身で手続きを進めるのが負担な場合
給付金請求と訴訟、どちらを先に進めるべきかの判断基準
多くの場合、まず建設アスベスト給付金の請求を優先することが合理的です。給付金制度は「迅速な救済」を目的としており、訴訟に比べて短期間でまとまった補償を受け取れる可能性が高いからです。
まず給付金で当面の経済的な安定を確保し、その上で、建材メーカーへの訴訟や、給付金ではカバーされない損害(弁護士費用など)について国への訴訟を検討するという進め方が一般的です。ただし、個別の事情によって最適な進め方は異なるため、判断に迷う場合は両方の手続きに詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
建設アスベスト給付金に関するよくある質問
給付金の請求は本人以外(遺族など)でも可能ですか?
はい、可能です。被災者ご本人が亡くなられている場合、ご遺族が請求できます。請求できる遺族には法律で順位が定められており、配偶者(事実婚含む)が最優先です。配偶者がいない場合は、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順となります。労災保険と異なり、生計を同一にしていたという要件はありません。
申請手続きは自分で行えますか?弁護士への依頼は必須ですか?
手続きはご自身で行うことが可能で、弁護士への依頼は必須ではありません。厚生労働省が公開している「請求の手引き」などを参考に進めることができます。ただし、証明資料の収集が難しい場合や、手続き自体が大きな負担となる場合は、弁護士に依頼することでスムーズに進められるというメリットがあります。
給付金の対象外となるのはどのような場合ですか?
主に以下のようなケースでは、給付金の対象外となります。
- 対象となる就労期間(昭和47年10月~平成16年9月)外の業務であった場合
- 業務内容が、石綿の吹付け作業や屋内作業といった要件を満たさない場合(屋外作業のみなど)
- 対象となる5つの石綿関連疾病(中皮腫、肺がん等)に罹患していない場合
- 診断日や死亡日から20年の請求期限を過ぎている場合
- 大規模事業主など、対象となる就労形態に該当しない場合
請求してから給付金が支払われるまで、どのくらいの期間がかかりますか?
国は標準的な処理期間を公表していませんが、請求書類の提出後、認定審査会での審査が行われるため、数ヶ月程度の期間を要するのが一般的です。書類に不備があった場合や、事実確認に時間がかかる場合は、さらに期間が長くなることもあります。労災認定済みで情報提供サービスを利用するケースは、比較的スムーズに進む傾向にあります。
すでに労災保険の給付を受けていても、この給付金を受け取ることはできますか?
はい、受け取ることができます。労災保険給付と建設アスベスト給付金は異なる制度であるため、両方を受け取っても調整(減額)されることはありません。労災保険は業務上の災害に対する補償、本給付金は国の責任に対する賠償という性質の違いがあるため、併給が認められています。
過去の就労を証明する資料が手元にない場合、どうすればよいですか?
手元に直接的な資料がなくても、公的な記録から証明の糸口が見つかる場合があります。例えば、年金事務所で「被保険者記録照会回答票」を取得すれば過去の勤務先を確認できます。また、ハローワークで雇用保険の加入履歴を調べることも有効です。それでも証明が難しい場合は、当時の同僚による証明書などが認められることもありますので、諦めずに厚生労働省の相談窓口や専門家にご相談ください。
まとめ:建設アスベスト給付金制度を正しく理解し、迅速な請求へ
本記事では、建設アスベスト給付金制度の全体像を解説しました。この制度は、建設業務でアスベスト被害を受けた労働者や一人親方などを、訴訟という負担なく迅速に救済するための重要な仕組みです。給付を受けるには、定められた期間の就労歴、対象となる疾病、就労形態といった要件を満たす必要があります。給付額は疾病に応じて550万円から1,300万円と明確に定められており、請求には診断日などから20年という期限がある点に注意が必要です。まずはご自身の状況が支給要件に該当するか、この記事で解説した項目に沿って確認してみてください。もし証明資料の収集が困難な場合や、国だけでなく建材メーカーへの責任追及も検討する場合には、弁護士などの専門家へ相談することが、適切な救済への第一歩となります。

