法務

マッサージチェア特許訴訟の要点と損害賠償実務

経営リスクナビ編集部

マッサージチェア特許訴訟(椅子型マッサージ機の特許紛争)は、製品開発の回避設計や販売継続判断に直結し、経営層・事業部門も損害見積りを避けて通れません。大阪地方裁判所で合計約28億2,800万円の損害賠償や製造販売差止め・廃棄が命じられた事例のように、対応が後手に回ると在庫・販路・キャッシュフローへ実務上の不利益が波及し得ます。侵害・被侵害の双方で、特許法102条の損害算定(推定・覆滅・実施料の扱い)と、無効判断・均等論・寄与率がどこで効くかを押さえると、社内の意思決定材料を揃えやすくなります。以下では、特許訴訟リスクの判断材料として主要事件の経過と102条実務の要点を示します。

マッサージチェア特許訴訟の全体像

対象事件と当事者の位置づけ

マッサージチェア(椅子型マッサージ機)分野では、市場の主要プレイヤー同士が相互に訴え合う「攻守が入れ替わる」紛争構造になりやすく、製品開発・販売の意思決定(上市時期、回避設計、在庫、広告投下)に直結します。近時注目されたファミリーイナダ対フジ医療器の訴訟群では、ファミリーイナダ側が原告となる損害賠償請求訴訟が複数提起され、大阪地方裁判所で製造販売差止め・廃棄を含む判断が示されました。これと並行して、フジ医療器側が原告となる損害賠償請求訴訟も進行し、知的財産高等裁判所(特別部)で大合議判決が言い渡されています。

実務上は、差止め・廃棄に加えて、損害額算定(特に推定規定と覆滅、実施料の扱い)が経営インパクトを決めます。たとえば、ある別類型の紛争(売買契約のクレーム対応)でも、引渡しから1か月後に「使用できないので返金してほしい」との連絡が来たなど、製品トラブル起点で争いが先鋭化する例が示されています。この種の事実経過は、知財紛争でも「相手の主張が途中で変遷する」「証拠(検査結果、取扱説明書の禁止事項)で帰趨が分かれる」という点で共通し得るため、技術・販売・法務が同じ時間軸で動ける体制設計が重要です。

争点になった特許権と発明の類型

争点となりやすいのは、椅子型マッサージ機の「外観や基本動作」そのものよりも、肘掛部の腕施療、エアバッグ(膨縮袋)配置、同時施療の制御など、購買体験に効く部分機構・部分制御の発明です。知財高裁で侵害が認められた類型として本文で触れている腕部施療ユニット(前腕を挿入保持する空洞部と、その内部の膨縮袋で施療する構成)は、典型的に「製品全体の価値に対する寄与度」が損害算定へ波及します。

また、マッサージチェア領域では特許だけでなく、制度選択として実用新案(物品の形状、構造または組合せを保護対象とする制度)も実務上の選択肢になり得ます。構造または組合せに関するものを保護の対象」と整理されており、開発サイクルが短い周辺部材(アタッチメント形状、ユニット構造の改良)では、特許・意匠・実用新案のどれで守るかが、後日の差止め・損害の射程を左右します。

主要な特許訴訟の経過

イナダ対フジ訴訟の経過

ファミリーイナダがフジ医療器に対して提起した訴訟では、大阪地方裁判所が2022年に特許侵害を認め、合計約28億2,800万円の損害賠償に加え、製造販売差止め・製品廃棄を命じる判断が示されました。両社が控訴しなかったため、同年10月に確定したという経過は、実務上「確定判決としての拘束力・執行リスク(差止め・廃棄を含む)」を意識した危機対応が必要であることを示します。

他方、フジ医療器が提起した訴訟は、第一審で棄却後に控訴され、知財高裁特別部で2022年10月20日に大合議判決が言い渡され、約3億9,000万円の損害賠償と差止めが命じられました。ここで示された枠組みは、単に結論(勝敗)ではなく、特許法102条の推定・覆滅・実施料(重畳適用)の当てはめが、製品単価の高い耐久消費財で賠償額を跳ね上げ得る点にあります。

椅子式マッサージ機事件の要点

いわゆる椅子式マッサージ機事件は、基本特許をめぐる紛争として参照されやすく、損害算定の「減額ロジック」と「上乗せ否定」の両面で示唆があります。東京地裁が均等論により侵害を認め、損害として約15億4,000万円を認定した一方、その後の無効判断の影響で、知財高裁段階では損害賠償額が約1,100万円まで減額されたとされます。

この事件では、審決取消請求訴訟で東京高裁が「公知技術の組合せで容易想到」として5件中4件の基本特許を無効と判断したことが、損害・差止めの前提(有効な権利の存否)を大きく揺るがしました。また、損害推定の但書(権利者が販売できなかった事情)を広く適用して控除を認め、さらに控除部分に対して実施料相当額を重ねて請求することを否定する初判断が示された、という整理は、後述する102条の実務に直結します。

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侵害判断と無効判断の実務

構成要件と被告製品の対比

侵害判断は、請求項(特許請求の範囲)の構成要件と、被告製品の具体的構造・動作を、図面・仕様書・現物検証で対比する作業から始まります。知財高裁大合議で問題となった類型では、肘掛部の開口、空洞部の形成(外側・内側の立上り壁、底面部)、上面の手掛け部など、部材の位置関係・形状が争点化しました。

この対比実務は、知財訴訟に限らず「現物検査と使用状況の立証」が帰趨を決める点で共通します。原告が被告から返金要求を受けた後、現物検査により「破損形状から被告使用後に部品が破損したことが確認された(甲4)」こと、さらに電話確認で「取扱説明書で明確に禁止している方法で何度か使用した(甲5、甲6)」ことを押さえています。特許訴訟でも、被告製品の分解調査、ファーム更新履歴、サービスマニュアル、取説の記載は、充足性・非充足性の主張の基礎資料になります。

均等論とエアバッグ構造の評価

文言侵害(構成要件の充足)が微妙な場合でも、均等論により侵害が成立し得ます。椅子式マッサージ機事件の文脈では、ふくらはぎを挟み揉みする機構について、訴訟提起後に被告が空気袋の一方をウレタンチップ等に置き換えた設計変更が問題となり、裁判所が均等成立要件(本質的部分でないこと、同一作用効果、容易想到性など)を検討した上で、均等侵害を認めたと整理されています。

実務上のポイントは、エアバッグのように「柔らかい部材」で作用効果を実現する構造では、材料置換・形状微修正だけでは、作用効果が維持されやすく、均等論リスクが残りやすい点です。さらに、品質問題が発生した場合には、技術・法務対応が規制当局対応や信用不安と連動し得ます。2008年11月以降に日米欧でリコールが繰り返され、2015年11月には米国NHTSAとの同意指令でPSANインフレータの製造販売の段階的中止や、370百万米ドルの民事制裁金を分割支払い等が課されたとされています。マッサージチェアでも安全・品質起点の設計変更を行う場面があり得るため、「変更が均等侵害回避として十分か」と「変更が品質・規制対応として適切か」を切り分けて検討する必要があります。

設計変更で回避できる場合・均等侵害が残る場合の分かれ目

設計変更が「適法な回避設計」になるには、特許発明の本質的部分(課題解決の中核)から外れる必要があります。逆に、

均等侵害が残りやすい変更の典型
  • 同等機能の部材へ置換して作用効果が実質的に同じままの場合。
  • 配置や寸法を微修正しただけで、課題と解決手段が請求項と重なる場合。
  • 出願時に当業者が容易に想到できる範囲の変更にとどまる場合。

のようなケースでは、均等論の射程に入るリスクが残ります。

一方で、出願経過(補正・意見書)で権利者が意図的に除外した技術(禁反言に近い問題)がある場合や、課題設定自体を変えるような解決手段に切り替えた場合は、回避設計として主張しやすくなります。設計変更の検討では、図面・仕様だけでなく、販売資料(訴求点)や取説(使用態様)も含め、どこが需要者の価値認識の中核かを整理し、侵害判断・損害算定の双方で不利にならない設計意図の記録化が重要です。

特許法102条と損害額算定

大阪地裁の損害認定の要点

大阪地裁の判断が注目されたのは、侵害を認めた上で、損害賠償として合計約28億2,800万円という大きな認容額と、差止め・廃棄まで含めた点です。損害算定では、特許法102条(損害額推定等)に基づく整理が中核となり得ます。

損害額推定を使う場面では、被告側は「推定の覆滅事由」を主張立証して減額を狙いますが、裁判所がどの主張を覆滅として採用するかで結論が大きく変わります。実務的には、製造原価・販売費・広告宣伝費・輸出入関連資料など、会計・販売実績の一次資料の厚みが勝敗を分けます。

なお、損害賠償という概念自体は知財に限りません。被告に対し1135万388円の支払いが命じられたとの記載があり、別の整理として損害1,150万円、慰謝料50万円、弁護士費用120万円という内訳例も示されています。特許侵害でも、最終的な認容額は「算定基礎(売上・利益)×推定・覆滅×寄与(寄与率)+実施料」などの積み上げになり、証拠で裏付けられない要素は採用されにくい点は共通です。

102条1項の逸失利益と但書

特許法102条1項(特許法第102条)は、侵害者の譲渡数量に、権利者の単位当たり利益を乗じて逸失利益を算定する枠組みで、但書により「販売することができない事情」がある部分は控除されます。実務上は、非侵害の競合品、権利者の販売網、価格帯・機能差、仕向国の市場性などが争点になります。

椅子式マッサージ機事件の整理として、但書を広く適用して大幅控除を認め、さらに控除部分へ実施料を重ねることを否定した点が重要です。したがって、権利者側は販売能力(供給能力)だけでなく、当該市場での販売実績・販路・代替品状況を示す必要があります。

また、用語の補足として、逸失利益は「後遺障害や死亡により得られなくなった利益」と説明され、算定では「傷病発生前の収入、労働能力低下、就労可能年数」等を考慮するとされています。特許法102条1項の逸失利益も、対象は労働収入ではなく製品販売利益ですが、「失われた利益を、一定の基準で推定・調整する」という構造は似ています。

102条2項の利益推定と覆滅事由

特許法102条2項(特許法第102条)は、侵害者が得た利益を権利者損害と推定する規定で、侵害者利益は一般に限界利益(売上−追加的経費)で把握されます。ここでは、固定費の扱い、製品別の原価配賦、販管費のうち「追加的」に該当するかが争点化します。

知財高裁大合議の文脈では、覆滅事由として多面的な事情(部分実施、競合品、市場の非同一、ブランド・広告、デザイン等)が主張され、裁判所が認める範囲を限定したことがポイントです。本文のとおり、特許発明が腕ユニットという限定部分に実施されていることや、権利者が輸出していない市場の存在が覆滅として認められ、購買動機への寄与割合を1割とする整理が示されています。

この点、覆滅の立証は「言い分」では足りず、会計帳簿・市場データ・製品比較資料が必要になります。訴訟物の価額が「金〇〇〇万円」、貼用印紙代が「〇〇〇〇円」といった訴訟実務の要素が断片的に出ていますが、実務ではこうしたコスト見積りも含め、早期に証拠収集の優先順位を決めないと、覆滅主張自体が空洞化します。

輸出品・国内品・旧製品で算定式が変わる場面と必要資料

輸出品・国内品・旧製品で争点が変わるのは、(1)市場の同一性、(2)権利者の販売能力、(3)侵害者利益の把握可能性、(4)実施料相当額の合理性です。特に輸出関連では、仕向国での権利設定状況や権利者の販売実績が「但書」や覆滅に直結します。

実務で準備しておきたい一次資料
  • 仕向国別の売上台数・売上高、輸出入の通関関連資料。
  • 製品別の製造原価報告書(部材費・外注費・加工費などの内訳)。
  • 販売に直接関連する追加的経費の根拠(販売手数料、運賃、販売促進費など)。
  • 仕様確定版の図面・BOM・ファーム更新履歴、取扱説明書の該当箇所。

品質問題が絡む場合は、対外対応のタイムラインも損害・因果の評価に影響します。2008年11月以降のリコール拡大や、2015年11月のNHTSA同意指令といった時系列が信用収縮・資金繰り悪化の要因として整理されています。マッサージチェアでも、重大品質問題が起きると販売中止・回収・在庫処理が生じ、損害論(販売できたか、利益があったか)の前提が揺れるため、知財・品質・法務の記録を同じフォーマットで残す運用が有用です。

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損害賠償の広がりと実施料実務

102条3項と重畳適用の位置づけ

特許法102条3項(特許法第102条)は、実施料相当額(ロイヤルティ)を最低限度の損害として請求できる規定です。争点となるのは、1項または2項で推定が覆滅された部分について、3項を「上乗せ」できるか(重畳適用)です。

本文で触れているとおり、椅子式マッサージ機事件の控訴審では、控除部分について実施料の重畳を否定する方向が示された整理がありました。他方、法改正を契機に議論が進み、2022年の知財高裁大合議は、2項の推定が覆滅された部分でも、権利者が実施許諾できた事情があれば3項を併用し得るという枠組みを示しています。

企業実務の観点では、重畳適用の射程が広がるほど、侵害側の損害見積りは上振れしやすくなります。つまり「寄与率で大きく減るはず」という見通しだけに依拠すると、覆滅後もロイヤルティが積み上がる可能性があり、和解レンジの設計を誤りやすくなります。

他事件比較でみる損害賠償の潮流

近時の損害賠償実務では、権利者保護の強化と損害算定の精緻化が進み、製品単価が高い分野では賠償額が事業継続に影響し得ます。マッサージチェア訴訟では、確定したと整理される大阪地裁の約28億2,800万円という認容額が象徴的です。

他方で、無効判断や但書適用が絡むと損害が大きく減額され得ることも、椅子式マッサージ機事件の「約15億4,000万円→約1,100万円」の振れ幅が示しています。したがって、経営層・事業部門としては、(1)侵害主張を受けたら損害論だけでなく有効性(無効理由)の見立てを並走させる、(2)自社が権利行使する側でも、無効リスクを織り込んで請求設計する、という二面の設計が必要です。

なお、損害が巨額化すると、訴訟外の信用・資金繰りにも波及し得ます。リコール費用負担が「信用収縮および資金繰り悪化の要因」とされ、さらにNHTSA同意指令で370百万米ドルの民事制裁金が課されたと整理されています。特許紛争そのものは行政制裁とは別物ですが、差止め・廃棄・販売停止が与えるキャッシュフロー影響は似た形で表れ得ます。

寄与率の主張で失敗しやすい証拠不足の典型例

寄与率(製品全体に対する特許発明の貢献度)は、102条2項の覆滅や、和解交渉のレンジ形成で中核になりますが、企業側の主張が「感覚論」に寄ると採用されにくいのが実情です。

寄与率で失敗しやすい証拠不足の典型
  • 「ブランド力がある」「広告した」などの主張に、販売データ・広告効果の裏付けがない場合。
  • 需要者の選択要因(腕ユニット、エアバッグ配置、コース制御など)を示す調査設計がなく、定性的説明にとどまる場合。
  • 代替技術の入手可能性やコストを示す客観資料(部材相場、工数差、BOM比較)がない場合。
  • 製品別の限界利益を算定できる管理会計がなく、追加的経費の抽出ができない場合。

証拠の「型」を早期にそろえることが重要です。検査結果(甲4)や取説違反の確認(甲5、甲6)といった形で、主張を支える証拠が明示されていました。特許紛争でも、同様に「どの主張を、どの一次資料で支えるか」を部門横断で定義しておくと、寄与率・覆滅の主張が実務的に組み立てやすくなります。

特許訴訟リスクへの備え

開発と販売で行う侵害予防策

侵害予防は、開発初期から販売開始後まで、段階ごとにやるべきことが異なります。

開発〜販売での侵害予防の基本ステップ
  1. 開発初期に関連特許・実用新案を調査し、請求項ベースでリスクの高い構成を洗い出します。
  2. リスクが見つかったら、文言侵害だけでなく均等論も念頭に、課題設定から外す回避設計を検討します。
  3. 仕様確定時に、最終BOM・図面・制御仕様・取説記載が請求項とどう対応するかを対比表で固定します。
  4. 販売前に第三者の視点(弁理士等)で非侵害・有効性の評価を取り、社内意思決定資料として保存します。

また、品質起点の変更が起きる場合には、変更理由・時期・影響範囲を「設計変更管理」として残すべきです。2008年11月以降にリコールが拡大し、2015年11月にNHTSA同意指令に至ったという時系列が示されています。マッサージチェアでも、不具合対応の設計変更が後日の均等論・故意過失・損害期間の争点化につながり得るため、技術判断のログは知財・品質の双方の証拠になります。

特許ポートフォリオと訴訟対応フロー

攻め(権利化・牽制)と守り(被疑侵害対応)を両立させるには、ポートフォリオ設計と初動フローの定型化が必要です。権利化は件数ではなく「差止め・損害算定で効く請求項」を意識し、腕ユニット、エアバッグ配置、姿勢検知、コース制御といった競争軸に沿って層を作ります。

警告書受領時は、定義済みフローを起動し、(1)対象特許の有効性、(2)構成要件対比、(3)回避設計の可否、(4)販売差止めの事業影響、(5)損害見積り(102条の当てはめ)を同時並行で検討します。必要に応じて無効審判請求を早期に検討する、という攻守一体の判断が重要です。

なお、他領域の訴訟実務の参照として、株主代表訴訟では監査役に60日以内の考慮期間が設けられ、その間に請求書面の審査、関係者からの報告収集、専門家意見の取得、資料の整備・保管までを行う運用が示されています(会社法第847条の考慮期間の説明として実務書に記載)。特許紛争でも、厳密な法定期間は別として、初動を「いつまでに何をそろえるか」で運用設計しておくと、後追いでの証拠欠落を防げます。

経営・法務・開発・営業がいつ何を持ち寄るか:初動30日の社内分担

初動30日で必要なのは、侵害論(構成要件対比・均等)、有効性(無効理由)、損害論(102条、寄与率、覆滅)、差止めリスク(供給停止・廃棄・在庫)を、同じ前提事実で揃えることです。

初動30日に持ち寄る資料の分担例
  1. 法務・知財は、相手特許の公報・審査経過、請求項チャート、無効理由候補の一次資料(公知例)を整理します。
  2. 開発は、対象製品の現物、図面、制御仕様、BOM、設計変更履歴、試験成績、取扱説明書の該当箇所を提出します。
  3. 営業・事業は、製品別の販売数量・売上、主要チャネル、顧客の選択理由に関するデータ、競合比較資料を提出します。
  4. 財務は、製品別損益(限界利益の算定根拠)、追加的経費の内訳、在庫・返品・引当の状況、資金繰り影響を試算します。

相手の主張が「修繕不要」から「契約解除・返金+損害賠償」へと変遷することもあり得ます。具体的には、いったん「修繕は不要」と回答した後に前言を翻し「引渡し直後から使用できなかった」として返金と損害賠償を請求した、という経過が示されています。特許紛争でも、警告段階・仮処分・本訴で請求が変わることがあるため、初動で事実と証拠を固定する運用が重要です。

よくある質問

賠償額はどの程度の規模でしたか?

近時のマッサージチェア訴訟では、大阪地裁で合計約28億2,800万円の損害賠償が認められ、差止め・廃棄を含む判断が確定したと整理されています。別訴で知財高裁(特別部)の大合議判決により、ファミリーイナダに対して約3億9,000万円の賠償と差止めが命じられた点も、同一業界内で「双方が高額賠償リスクを負う」現実を示します。

参考として、損害賠償として1135万388円の支払いを命じた例が記載されています。特許侵害は損害の基礎(売上・利益)が大きくなりやすいため、同じ「損害賠償」でも金額規模が跳ねやすい点に注意が必要です。

侵害者が得た利益はどう算定しますか?

特許法102条2項(特許法第102条)の場面では、侵害者利益は一般に限界利益として把握され、売上高から製造・販売に直接追加的に要した経費を控除して算定します。固定費は原則として追加的経費に当たらないため、控除対象に入れるかは争点になります。

大合議判決の文脈では、製品によっては限界利益がゼロと評価され、2項推定が機能しない局面があり得る、という点が実務上重要です。したがって、製品別の管理会計、原価計算の前提、販売費の内訳(どこまでが追加的か)を、訴訟を想定して説明できる形で整えておく必要があります。

基本特許が無効でも請求できますか?

損害賠償や差止めの前提として、権利行使できる有効な特許権が必要です。椅子式マッサージ機事件の整理では、審決取消請求訴訟で東京高裁が「容易想到」として5件中4件の基本特許を無効と判断し、その後の損害額が大きく減額されたとされています。

このように、無効理由がある場合には、侵害論(充足・均等)だけでなく、有効性(無効化可能性)の見立ても同時に行い、請求設計や防御方針に反映することが実務上不可欠です。

開発段階で最低限の調査は何ですか?

最低限必要なのは、関連技術分野の他社権利(特許・実用新案)の把握と、請求項ベースでの構成要件対比です。特に、腕ユニット、エアバッグ配置、同時施療制御などは、部分特許であっても損害算定上の争点になり得ます。

実用新案は「物品の形状、構造または組合せ」が保護対象と整理されています。したがって、製品全体のアーキテクチャだけでなく、部材形状・ユニット構造の改良についても、特許だけでなく実用新案の公報まで含めた調査範囲を設計し、基本設計が固まる前に回避設計の余地を確保することが重要です。

まとめ:マッサージチェア特許訴訟で押さえるべき要点

マッサージチェア特許訴訟は、差止め・廃棄のリスクに加え、特許法102条の推定・覆滅・実施料(重畳適用)の当てはめが賠償額を左右し、経営判断に直結します。大阪地裁で合計約28億2,800万円の認容額が示された一方、椅子式マッサージ機事件のように無効判断や但書適用で損害が大きく変動するため、侵害論と並行して有効性の見立ても同じ時間軸で進めることが判断の軸になります。寄与率や覆滅事由は感覚論では通りにくく、図面・BOM・取説、販売実績、原価・追加的経費といった一次資料で組み立てる前提を本文で確認しました。次のアクションとしては、警告書の有無にかかわらず、開発・営業・財務・法務が初動30日で持ち寄る資料を定義し、請求項対比と損害見積りが同じ前提事実で回る運用を整えることが有用です。個別案件の侵害判断や損害算定は事実関係と証拠で結論が変わるため、具体的な対応は弁理士・弁護士等の専門家に相談して進めるのが安全です。



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