民事再生における抵当権の扱いとは?資産維持のための3つの法的手段を解説
民事再生による事業再建を目指す上で、抵当権が設定された不動産の扱いは避けて通れない課題です。事業の根幹をなす工場や店舗、あるいは生活の基盤である自宅が競売によって失われれば、再建そのものが頓挫しかねません。この記事では、民事再生手続における抵当権の法的な位置づけ(別除権)を整理し、担保権の実行を回避して資産を維持するための具体的な3つの手段や、住宅ローン特則の要件について詳しく解説します。
民事再生における抵当権の原則的な扱い(別除権)
民事再生手続における抵当権の基本的な位置づけ(別除権とは)
民事再生手続が開始されても、抵当権などの担保権は原則として別除権として扱われます(民事再生法第53条)。別除権とは、民事再生や破産といった倒産手続の枠外で、担保となっている特定の財産から、他の一般債権者に優先して弁済を受けられる強力な権利です。
別除権を持つ債権者(別除権者)は、再生手続による弁済禁止などの制約を受けず、原則として自由に担保権を実行(競売申立てなど)できます。対象となる担保権は以下の通りです。
- 抵当権、質権
- 特別の先取特権
- 商事留置権
- 所有権留保、譲渡担保権(実務上の扱い)
ただし、別除権を行使しても債権全額を回収できない場合、その不足額についてのみ、再生債権者として再生手続に参加することになります(不足額責任主義)。
事業や資産の維持を目的とする民事再生と清算を目的とする破産の違い
民事再生と破産は、どちらも裁判所を介した法的な倒産手続ですが、その目的が根本的に異なります。民事再生は事業の再建を、破産は会社の清算を目指す手続きです。
| 項目 | 民事再生(再建型) | 破産(清算型) |
|---|---|---|
| 目的 | 事業や生活の再建・継続 | 全財産を換価し、債権者に公平に分配して法人格を消滅させる |
| 経営陣の処遇 | 原則として経営を継続する | 経営権を失い、破産管財人が財産を管理・処分する |
| 法人格 | 維持される | 消滅する |
| 担保権の扱い | 原則は別除権として自由だが、事業継続のため実行を回避する特則がある | 別除権として手続外で自由に実行される |
抵当権はどちらの手続でも別除権として扱われますが、民事再生では事業継続に必要な資産を守るため、その実行を一時的に回避する特別な法的手段が用意されている点が大きな違いです。
抵当権の実行を回避し資産を維持するための3つの法的手段
方法1:担保権実行手続の中止命令の申立て
民事再生手続では、担保権の実行(競売)を一時的に停止させる担保権実行手続の中止命令を裁判所に申し立てることができます。事業継続に不可欠な工場や店舗などが競売で失われると、再生そのものが困難になるためです。
この命令は、担保権者との交渉や他の法的手段を講じるための時間的猶予を確保することを主な目的としています。中止命令が発令されるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 担保権の実行により、事業の再生に著しい支障が生じること(再生債権者一般の利益に適合すること)。
- 担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがないこと。
裁判所は命令を出す際に競売申立人の意見を聴くことが義務付けられており、あくまで一時的な措置であるため、中止期間中に恒久的な解決策を見つける必要があります。
方法2:別除権協定の締結による任意での弁済継続
別除権協定とは、再生債務者と担保権者との間で、担保権の実行を回避するために締結する任意の合意です。事業に必要な資産を守るための、最も現実的で広く用いられる手段です。
この協定では、再生債務者は担保目的物の評価額(処分価格が基準となることが多い)を分割で弁済し、担保権者はその支払いが続く限り担保権を実行しないことを約束します。これにより、再生債務者は主要資産を維持でき、担保権者も競売より有利な条件で債権を回収できる可能性があります。
被担保債権額のうち、この協定で定める評価額を超える部分(不足額)は再生債権となり、再生計画に従って減額された上で弁済を受けることになります。この協定を締結するには、裁判所の許可、または監督委員の同意が必要です。
方法3:担保権消滅請求制度による抵当権の消滅
担保権消滅請求は、事業の継続に不可欠な財産について、その財産の価額に相当する金銭を裁判所に一括で納付することで、設定されている担保権を強制的に消滅させる制度です(民事再生法第148条)。
債務全額を弁済しなくても担保権を消滅させられる強力な手段ですが、利用するには以下の手続きが必要です。
- 再生債務者などが、財産の価額(申出額)を定めて裁判所に担保権消滅許可を申し立てる。
- 裁判所が許可決定を出し、担保権者に通知する。
- 担保権者は、申出額に不服があれば価額決定の請求ができる。
- 最終的に決定された価額を再生債務者が裁判所に一括で納付する。
- 納付が完了すると、対象財産の担保権がすべて消滅する。
この制度は、価額相当額を一括で納付する資金力が必要となるため、スポンサー支援が得られる場合など、利用できる場面は限定的です。
3つの法的手段の使い分けと実務的な検討順序
抵当権の実行を回避するための3つの手段は、状況に応じて段階的に検討・実行するのが一般的です。実務上の検討順序は以下の通りです。
- 担保権実行手続の中止命令の申立て:まず競売の進行を止め、交渉や次の対策を講じるための時間を確保します(一時的な措置)。
- 別除権協定の締結:次に、担保権者と個別に交渉し、分割弁済による任意での和解を目指します(最も現実的な解決策)。
- 担保権消滅請求制度の利用:交渉が不調に終わり、かつスポンサー支援などで一括納付の資金調達が可能な場合の最終手段として検討します。
自宅不動産を維持するための住宅資金特別条項(住宅ローン特則)
住宅資金特別条項の制度概要と利用するメリット
住宅資金特別条項(通称:住宅ローン特則)は、個人の民事再生(個人再生)において、住宅ローンを抱える債務者が自宅を手放すことなく債務整理を行えるようにする特別な制度です。債務者の生活基盤である住宅を維持し、経済的更生を支援することを目的としています。
本来、個人再生ではすべての債権者を平等に扱わなければなりませんが、この特則を使うことで住宅ローンだけを特別扱いし、従来通り支払いを続けることが認められます。その代わりに、住宅ローンの抵当権実行(競売)を回避できます。
- 生活の基盤である自宅を維持したまま、他の借金(カードローンなど)を大幅に減額できる。
- 滞納していた住宅ローンについても、再生計画の中で返済スケジュールの見直し(リスケジュール)が認められる場合がある。
- 住宅ローンの保証人に一括請求がいく事態を防げる。
住宅資金特別条項を利用するための主な適用要件
住宅ローン特則を利用するには、法律で定められた厳格な要件をすべて満たす必要があります。
- 対象が債務者自身が所有し、居住している住宅であること(店舗兼住宅の場合は居住部分が床面積の2分の1以上)。
- 対象のローンが住宅の購入や建築、改築のための「住宅資金貸付債権」であること。
- 対象の住宅に、住宅資金貸付債権を被担保債権とするもの以外の抵当権等が設定されていないこと。
- 保証会社による代位弁済が行われた場合、その日から6か月以内に再生手続開始の申立てを行うこと(「巻戻し」)。
抵当権者(金融機関)との交渉を進める上でのポイント
申立て前の事前相談と再生計画における弁済の合理性
民事再生を円滑に進めるには、抵当権者である金融機関との交渉が不可欠であり、申立て前の早い段階から着手することが重要です。交渉の最大の目的は、別除権協定を締結し、事業に必要な資産を維持することです。
交渉を成功させるポイントは、弁済の合理性を示すことです。つまり、競売で回収するよりも、再生債務者から分割弁済を受ける方が担保権者にとって経済的に有利であることを、客観的なデータに基づいて説明する必要があります。そのためには、担保目的物の適正な評価額を算定し、その金額を確実に弁済できる、実現可能性の高い再生計画案を提示することが不可欠です。
保証人や共同担保不動産が関係する場合の注意点
住宅ローン特則を利用する個人再生では、保証人や共同担保不動産の存在が手続きに影響を与えることがあります。
- 共同担保不動産:自宅以外の不動産にも住宅ローンの共同担保が設定されており、その不動産に後順位の抵当権者がいる場合、住宅ローン特則は利用できません。
- 連帯保証人:住宅ローン特則を利用した再生計画が認可されると、連帯保証人は変更後の返済計画に従って支払えばよくなります。金融機関から保証人へ一括請求されるのを防ぐ効果があります。
民事再生と抵当権に関するよくある質問
別除権協定の交渉が不調に終わった場合、資産はどうなりますか?
別除権協定の交渉がまとまらなかった場合、担保権者は民事再生手続とは関係なく、いつでも担保権を実行して競売を申し立てることができます。これを防ぐためには、担保権消滅請求制度を利用するなど、他の法的手段を検討する必要があります。
民事再生手続を開始すると、根抵当権の元本は確定するのでしょうか?
民事再生手続の開始決定があったこと自体は、根抵当権の元本が確定する直接の事由とはなりません。しかし、根抵当権者が競売を申し立てた場合や、法律に定められた他の確定事由(例:根抵当権者による元本確定請求)が発生した場合には元本が確定します。
再生計画が認可されない場合、抵当権付き資産は競売されますか?
再生計画が不認可になると、民事再生手続は廃止されます。これにより、担保権実行手続の中止命令などの法的効力はすべて失われます。その結果、担保権者は自由に競売手続を再開または開始できるようになり、抵当権付き資産が競売されるリスクが非常に高くなります。
まとめ:抵当権付き資産を守り、民事再生を成功させるために
本記事で解説した通り、民事再生手続において抵当権は別除権として強力に保護されますが、事業や生活の再建を目的とする民事再生法には、その実行を回避し資産を維持するための複数の法的手段が用意されています。競売を一時的に停止する「中止命令」で時間を確保し、金融機関と「別除権協定」の締結を目指すのが最も現実的な対応です。交渉が不調に終わった場合の最終手段として「担保権消滅請求」があり、個人の場合は「住宅ローン特則」の活用が自宅を守る鍵となります。これらの手段を適切に選択・実行するには、担保目的物の正確な価額評価と、実現可能性の高い再生計画の策定が不可欠です。どの手段が最適かは個別の状況によって大きく異なるため、手遅れになる前に、倒産法務に精通した弁護士へ早期に相談し、抵当権者との交渉戦略を立てることが、再生を成功させるための第一歩となるでしょう。

