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賞与の給与差し押さえ、会社はどう対応?差押可能額の計算と実務手順

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従業員の賞与(ボーナス)に対する差押命令が届いた際、差し押さえ額の正確な計算方法や実務対応について、企業の担当者は法的な義務を負い、対応を誤ると二重払いのリスクを招くため、月給とは異なる賞与特有のルールを理解しておくことが重要です。この記事では、賞与の差押可能額の具体的な計算方法から、会社が行うべき手続きのフロー、法務リスクを避けるための注意点までを詳しく解説します。

給与差し押さえの基本ルール

賞与(ボーナス)も差押えの対象

賞与(ボーナス)も、月々の給与と同様に差し押さえの対象となります。これは、民事執行法において、給料、賃金、賞与、その他これらに類する給与債権が差し押さえの対象として明確に規定されているためです。夏季賞与や冬季賞与といった名称にかかわらず、労働の対価として支払われる金銭はすべて含まれます。会社は第三債務者として、賞与を支払う際にも差押命令に従い、定められた金額を控除して債権者へ支払う(または供託する)法的な義務を負います。

法律で定められた差押禁止債権の範囲

法律は、債務者である従業員とその家族の最低限度の生活を保障するため、給与の全額を差し押さえることを禁止しています。民事執行法により、差し押さえが禁止される債権の範囲(差押禁止債権)が具体的に定められています。

差押禁止の原則
  • 従業員と家族の最低限度の生活を保障するための制度です。
  • 原則として、税金や社会保険料を控除した手取り額の4分の3に相当する部分は差し押さえが禁止されます。
  • ただし、手取り額が非常に高額な場合は、生活保障に十分な額を除いた超過分が差し押さえの対象となります。

このように、債権回収の必要性と債務者の生活保障のバランスを取るために、差し押さえが禁止される範囲は厳密に定められています。

差押可能額の上限を示す「4分の1ルール」

給与差し押さえの基本的な上限は、いわゆる「4分の1ルール」で定められています。原則として、差し押さえが可能なのは手取り額の4分の1までです。例えば、手取り額が20万円の従業員の場合、その4分の1である5万円が差し押さえの対象となります。しかし、債権の種類によってはこの上限が変更されるため、注意が必要です。

債権の種類 差押可能額の上限
一般債権(借金、ローンなど) 手取り額の4分の1
扶養義務等に係る債権(養育費など) 手取り額の2分の1
債権の種類による差押可能額の上限

養育費や婚姻費用といった扶養義務に関する債権は、権利者の生活保護の必要性が高いことから、より広く差し押さえが認められています。会社は、裁判所からの差押命令でどちらのルールが適用されるのかを正確に確認する必要があります。

【月給】差押可能額の計算方法

計算の基礎となる手取額の算出

差し押さえ額の計算は、「手取り額」を基準に行います。この手取り額とは、会社が支払う給与の総支給額(額面給与)から、法律で控除が義務付けられている「法定控除額」のみを差し引いた金額を指します。通勤手当は実費弁償的な性質を持つため、通常は計算の基礎となる総支給額から除外します。

手取り額計算における控除対象の分類
  • 控除するもの(法定控除): 所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など
  • 控除しないもの(私的控除): 財形貯蓄の積立金、社内貸付の返済金、労働組合費、親睦会費など

従業員との合意に基づき天引きしている私的控除は、法定控除には含まれません。したがって、給与明細上の「差引支給額」をそのまま使うのではなく、私的控除を行う前の金額を計算上の手取り額とする必要があります。

原則的な差押可能額の計算式

差押可能額は、算出した手取り額が月額44万円を基準に、適用される計算式が変わります。これは、民事執行法施行令により、標準的な世帯の生計費を勘案した33万円を保護しつつ、収入に応じて公平な差し押さえを実現するための基準が設けられているためです。

手取り月額 差押可能額
44万円以下 手取り額 × 1/4
44万円超 手取り額 − 33万円
手取り月額に応じた差押可能額の計算式

例えば、手取り額が30万円の場合は「30万円 × 1/4」で7万5千円が、手取り額が50万円の場合は「50万円 − 33万円」で17万円が差押可能額となります。毎月の給与変動に応じて、正しい計算式を選択することが重要です。

手取額に応じた計算の具体例

給与の手取り額は残業代などにより毎月変動するため、具体的な計算例を理解しておくことが実務上不可欠です。計算を誤ると、会社が損害賠償責任を負うリスクがあります。

計算具体例
  • ケース1(手取り32万円の場合): 44万円以下のため、「32万円 × 1/4 = 8万円」が差押可能額となります。
  • ケース2(手取り48万円の場合): 44万円超のため、「48万円 − 33万円 = 15万円」が差押可能額となります。

なお、財形貯蓄などの私的な天引きがある場合、それは差押額を控除した「後」の金額から行います。そのため、従業員が実際に受け取る現金はさらに少なくなる点にも留意が必要です。

【賞与】差押可能額の計算方法

賞与における差押可能額の考え方

賞与の差し押さえに関する基本的な考え方は、月給の場合とまったく同じです。賞与も労働の対価である給与の一種として、民事執行法による差し押さえ禁止の保護対象となります。計算の基礎となる「賞与の手取り額」は、賞与の総支給額から所得税や社会保険料といった法定控除額のみを差し引いて算出します。月給と同様に、社内融資の返済金などの私的な控除は、手取り額の計算上は差し引きません。

月給とは異なる計算式と具体例

賞与の差し押さえ計算にも、月給と同じく「44万円の境界」と「33万円の保護基準」が適用されます。ただし、賞与は一度に支払われる金額が大きいため、手取り額が44万円を超えるケースが多く、結果として「手取り額 − 33万円」の計算式が適用されやすくなります。

賞与の計算具体例
  • ケース1(賞与の手取り額が50万円の場合): 44万円超のため、「50万円 − 33万円 = 17万円」が差押可能額です。
  • ケース2(賞与の手取り額が80万円の場合): 44万円超のため、「80万円 − 33万円 = 47万円」が差押可能額です。

賞与はローンのボーナス払いなどに充てられることも多く、多額の差し押さえは従業員の生活に大きな影響を与えます。そのため、計算には一層の正確性が求められます。

月給と賞与が同時期に支払われる場合

月給と賞与が同じ月に支払われる場合、実務上はこれらを合算せず、それぞれ独立して差押可能額を計算するのが一般的です。給与と賞与は性質が異なり、合算して計算すると債務者(従業員)の生活保障に不利益が生じる可能性があるためです。例えば、月給の手取りが30万円、賞与の手取りが50万円の場合、以下のように別々に計算します。

  • 月給の差押額: 30万円 × 1/4 = 7万5千円
  • 賞与の差押額: 50万円 − 33万円 = 17万円
  • 合計差押額: 7万5千円 + 17万円 = 24万5千円

ただし、税金の滞納処分による差し押さえの場合は、国税徴収法に基づき給与と賞与を合算して計算する規定があるため、差押命令の根拠となる法令を確認することが重要です。

会社が行うべき実務対応フロー

差押命令正本の受領と内容確認

裁判所から「債権差押命令正本」が会社に送達されたら、それは法的な効力を持つ公的文書です。会社は第三債務者として、直ちに対応を開始しなければなりません。初動の対応は以下の通りです。

差押命令受領後の初動対応
  1. 差押命令正本の内容(債権者、債務者、請求額など)を精査します。
  2. 対象となる従業員を正確に特定し、請求内容を確認します。
  3. 命令が会社に届いた送達日を記録し、次回の給与計算から控除処理を行えるよう準備します。
  4. 書類に不備や不明な点があれば、速やかに管轄の裁判所に問い合わせます。

初動の確認を怠ると後の手続きに影響が出るため、迅速かつ正確な内容把握が不可欠です。

債務者(従業員)への事実通知

会社には従業員へ通知する法的な義務はありませんが、後のトラブルを避けるため、速やかに事実を伝えることが推奨されます。通知の際は、プライバシーに最大限配慮し、個室で面談するなどの対応が必要です。

従業員への通知で伝えるべき内容
  • 裁判所から差押命令が届いたという客観的な事実
  • 次回の給与から一定額が控除されること
  • これが会社の法的義務であり、会社の判断で変更や停止はできないこと

従業員の生活不安に対しては共感を示しつつも、会社として法的手続きに従わざるを得ないことを丁寧に説明し、理解を求める姿勢が重要です。

陳述書の作成と裁判所への提出

差押命令には「陳述書」という書類が同封されています。これは、会社が差し押さえ対象となる給与債権の有無などを裁判所に報告するための公的な文書であり、定められた期限内(通常は送達日から2週間以内)に提出する義務があります。虚偽の記載をしたり提出を怠ったりすると、会社が損害賠償責任を問われる可能性があります。

陳述書の主な記載事項
  • 対象従業員の雇用状況
  • 給与の支払状況
  • 差押可能額の計算結果
  • 他の債権者からの差押えが競合していないか

記載内容を関係部署でダブルチェックし、正確な情報を期限内に裁判所へ提出することが、第三債務者としての会社の責任を果たす上で不可欠です。

差押額の供託または債権者への支払い

給与から控除した差押額は、会社の判断で従業員に支払うことはできず、状況に応じて「債権者への直接支払い」か「法務局への供託」のいずれかの方法で処理します。

ケース 対応方法 備考
差押えが1件のみ(競合なし) 債権者に直接支払う 差押命令が債務者(従業員)に送達されてから1週間が経過し、取立権が発生した後に支払います。
複数の差押えが競合している 法務局へ供託する 会社は支払先を独自に判断できないため、供託により法的な配当手続きに委ねる必要があります。
差押額の処理方法

どちらの対応が必要かを正確に見極め、適切に処理することが会社の義務となります。

従業員への通知におけるプライバシー保護と伝え方の注意点

給与の差し押さえは、従業員の経済状況に関する極めて機微な個人情報です。通知にあたっては、プライバシー保護を最優先に考え、慎重な対応が求められます。

通知時の注意点
  • 差押えの事実は機微な個人情報として厳重に取り扱い、情報共有は必要最小限の範囲に限定します。
  • 面談では、従業員の借金問題に対して叱責や批判をせず、法的手続きを客観的に説明する姿勢を貫きます。
  • 従業員の人格を尊重し、冷静かつ事務的に対応することで、ハラスメントなどのリスクを回避します。

企業コンプライアンスの観点からも、従業員の尊厳を守る配慮が不可欠です。

差押命令への対応における注意点

複数の差押命令が競合した場合の優先順位

複数の債権者から差押命令が届いた場合、その種類によって優先順位が異なります。会社の対応も変わるため、債権の種類を正確に見極める必要があります。

競合する債権の種類 優先順位 会社の対応
一般債権 vs 一般債権 優劣なし(同順位) 差押可能額を法務局に供託します。
税金滞納処分 vs 一般債権 税金滞納処分が優先 税金を支払った後の残額を、一般債権の支払いや供託に充てます。
差押えが競合した場合の優先順位と対応

一般の金融機関や貸金業者からの差押えは一般債権であり、優劣はありません。この場合は必ず供託手続きを行い、裁判所の配当に委ねることで、会社のリスクを回避できます。

対象従業員が退職した際の対応

給与差し押さえの対象となっている従業員が退職した場合、雇用契約が終了するため、将来の給与に対する差押えの効力は自動的に消滅します。ただし、退職時に支払われる給与や退職金は差し押さえの対象となるため、会社は以下の対応が必要です。

従業員退職時の対応フロー
  1. 最終給与および退職金に対して、それぞれ差押可能額を計算し、控除します。
  2. 控除した合計額を、債権者に支払うか、または法務局に供託します。
  3. 債権者または裁判所に対し、従業員が退職したため今後の給与支払いがない旨を通知します。

この手続きを確実に行うことで、退職後のトラブルを防ぐことができます。

差押命令を無視した場合の法的リスク

裁判所からの差押命令を無視して、従業員に給与を全額支払ってしまうと、会社は極めて重大な法的リスクを負います。差押命令に反した支払いは、債権者との関係では無効とみなされるため、債権者は会社に対して直接、差し押さえた金額の支払いを求める「取立訴訟」を起こすことができます。この訴訟で会社が敗訴すると、従業員に支払った給与とは別に、会社自身の資産から債権者へ支払いを行う「二重払い」の義務を負うことになります。差押命令は、いかなる事情があっても無視してはなりません。

従業員からの「会社に迷惑をかけず直接払いたい」という申し出への対応

従業員から「自分で債権者に支払うので、給与は全額振り込んでほしい」という申し出があっても、絶対に応じてはいけません。差押命令の効力が続いている限り、会社(第三債務者)が給与の一部支払いを免除されることはないからです。従業員の約束が守られなかった場合、債権者は変わらず会社に支払いを求めてくるため、最終的に会社が二重払いのリスクを負うことになります。裁判所から正式な「差押命令取下通知書」が届かない限り、会社は法的手続きを粛々と継続する義務があります。

給与差し押さえに関するよくある質問

Q. 通勤手当や役職手当も差押対象ですか?

各種手当が差押対象になるかは、その性質によって異なります。

  • 役職手当: 労働の対価としての給与とみなされるため、差押対象に含まれます
  • 通勤手当: 通勤にかかる交通費などの実費を補填する性質(実費弁償的)が強いため、原則として差押対象から除外されます

差押可能額を計算する際、基礎となる総支給額からあらかじめ通勤手当を除外して計算する必要があります。

Q. 従業員から生活困窮を相談されたら?

会社が独自の判断で差し押さえ額を減額することは法律上できません。しかし、従業員の生活破綻は離職にもつながりかねないため、会社としてできる限りの情報提供を行うことが望まれます。

従業員が取りうる法的救済手段
  • 裁判所に対して「差押禁止債権の範囲変更の申立て」を行い、生活状況に応じて差押額を減らしてもらう制度の利用を促す。
  • 弁護士や司法書士といった専門家に相談し、自己破産や個人再生などの債務整理を検討するようアドバイスする。

会社は、専門家への相談を勧めるなど、従業員が自ら生活を再建するための客観的な情報提供に徹することが、適切な対応と言えます。

まとめ:賞与の差し押さえ計算と会社の法的義務を理解する

本記事では、賞与が差し押さえの対象となる場合の計算方法と、会社が取るべき実務対応を解説しました。賞与の差押可能額は、手取り額を基準に法律で定められた計算式を用いて算出する必要があり、月給とは別に計算するのが基本です。差押命令は法的義務であり、会社の裁量で対応を変更することはできず、無視した場合は二重払いのリスクを負います。命令書が届いたら、まずは内容を精査し、陳述書の提出や供託といった法的手続きを確実に行うことが重要です。対応に迷う場合は、自己判断せず弁護士などの専門家に相談し、適切な手順を踏むようにしてください。

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