技能実習生の雇用維持支援とは?要件と手続きを法務視点で解説
経営状況の変化など、やむを得ない事情で技能実習生の雇用維持にお悩みではありませんか。解雇は避けたいものの、どのような公的支援があるのか分からず、対応に苦慮しているケースは少なくありません。この制度を正しく理解すれば、実習生の雇用を守りながら、将来的に特定技能人材として活躍してもらう道筋も見えてきます。この記事では、企業の都合で実習が困難になった技能実習生を対象とする雇用維持支援制度について、在留資格「特定活動」への移行手続きや対象要件、注意点を解説します。
技能実習生向け雇用維持支援の概要
コロナ禍特例から続く現行制度
この雇用維持支援は、新型コロナウイルス感染症の影響で解雇等された技能実習生を救済する特例措置として始まりました。現在では、企業の経営悪化など自己の責めに帰すことのできない理由で実習の継続が困難になった技能実習生等を対象とする制度として運用されています。対象者には、当面の間の特例として最大1年間、日本で就労可能な在留資格「特定活動」が付与されます。これは、出入国在留管理庁が関係省庁と連携し、特定産業分野での再就職を支援することで、外国人の雇用維持と国内の人材不足解消を図るものです。
在留資格「特定活動」による支援内容
本制度による支援の中核は、就労が可能な在留資格「特定活動」の付与です。この在留資格により、技能実習生は新たな職場で働きながら、特定技能への移行準備を進めることができます。
- 在留期間: 最大1年間。帰国準備等が必要な場合は、さらに期間が与えられることがあります。
- 就労範囲: 特定技能制度で定められた特定産業分野に該当する業務に限定されます。
- 活動内容: 就労を通じて、特定技能に必要な技能や日本語能力を習得するための準備活動を行います。
本来の技能実習計画との関係
本来の技能実習制度は、開発途上国への技能移転による国際協力を目的とし、認定された技能実習計画に基づき、原則として同一の企業で技能を修得するものです。しかし、企業の倒産などやむを得ない事情で実習を続けられなくなった場合、本来の計画を完遂できない実習生への救済措置として、本支援制度が特例的に適用されます。これにより、実習生が不法滞在状態に陥ることを防ぎつつ、特定技能という新たな在留資格へスムーズに移行する道筋を提供し、国内の人材確保という政策目標にも貢献しています。
支援制度の対象要件
対象となる企業(実習実施者)の条件
技能実習生を新たに受け入れる企業には、外国人の適正な雇用と支援を行える体制が求められます。主な条件は以下の通りです。
- 出入国管理及び労働関係法令を遵守していること。
- 外国人の技能習得を指導・助言し、日常生活を支援する担当者がいること。
- 特定技能に必要な技能を習得させたいという意思を持って雇用すること。
対象となる技能実習生の条件
支援の対象となるのは、やむを得ない事情で実習を中断せざるを得なくなった技能実習生です。本人に求められる主な条件は以下の通りです。
- 企業の倒産や事業縮小など、自己の責めに帰すことのできない理由で解雇等され、実習の継続が困難であること。
- 特定技能外国人として働くために必要な技能等を身に付けたいという意思があること。
- 特定産業分野に係る技能試験や日本語能力試験の合格を目指していること。
- 新たな受入企業との間で、日本人が従事する場合と同等額以上の報酬を受ける内容の雇用契約を締結していること。
対象外となるケースの具体例
全てのケースで支援が受けられるわけではなく、以下のような場合は対象外となります。
- 自己の都合で退職した場合。
- 素行不良や法令違反など、本人の責めに帰すべき事由で解雇された場合。
- 新たな就労希望先が、特定技能制度で定められた特定産業分野に該当しない場合。
在留資格「特定活動」への移行手続き
在留資格変更の全体像と目的
この手続きは、技能実習の在留資格を「特定活動」に切り替えることで、合法的に日本での就労を継続するためのものです。その目的は、失職した外国人の生活基盤を守りながら、特定技能1号へのスムーズな移行を促すための準備期間を提供することにあります。この期間を利用して、外国人は新しい職場で働きながら、特定技能に必要な技能試験や日本語試験の準備を進めることができます。
申請手続きの基本的な流れ
在留資格の変更申請は、技能実習生本人と新たな受入企業が協力して進めます。基本的な流れは以下の通りです。
- 新たな受入企業との間で雇用契約を締結する。
- 受入企業と以前の監理団体が協力し、申請に必要な書類一式を準備する。
- 外国人本人の住居地を管轄する地方出入国在留管理局に、在留資格変更許可申請を行う。
- 審査(通常1か月から3か月程度)を待つ。申請中に在留期限が過ぎても、特例期間により適法に滞在可能。
- 許可が下りたら、新しい在留カードが交付される。
- 新しい在留カード受領後、受入企業での就労を開始する。
なお、在留資格変更の許可が下りるまでは、新しい受入企業で就労することはできないため注意が必要です。
申請時に提出する主な書類
申請時には、申請人本人に関する書類と、受入企業側が準備する書類の両方が必要です。主要な書類は以下の通りで、様式は出入国在留管理庁のウェブサイトで入手できます。
| 提出する側 | 主な書類名 |
|---|---|
| 申請人(元技能実習生) | 在留資格変更許可申請書、証明写真、パスポート及び在留カードの提示 |
| 新たな受入企業 | 解雇等により実習継続が困難となった者を受け入れることについての説明書、雇用契約書・雇用条件書の写し、賃金の支払に関する書面 |
| 以前の監理団体など | 技能実習生の現況に関する説明書 |
| 申請人または受入企業 | 特定技能への移行準備に関する活動計画書(該当する場合)、または技能試験や日本語試験の受験申込書など |
自社雇用が困難な場合の再就職支援
再就職支援(マッチング支援)の仕組み
自力での再就職が難しい技能実習生のために、国が関係機関と連携してマッチング支援を行っています。出入国在留管理庁が対象者の情報を一元管理し、本人の希望する特定産業分野の関係団体や職業紹介機関へ提供します。これにより、人材を求める企業と職を探す外国人とを効率的に結びつけ、再就職を後押しします。また、外国人在留総合インフォメーションセンターなどを通じて、多言語での相談にも対応しています。
マッチング支援の利用手順
マッチング支援の利用を希望する場合、技能実習生本人が所定の手続きを行う必要があります。
- 技能実習生本人が、出入国在留管理庁に対し「個人情報の取扱いに関する同意書」を提出する。
- 同意書に基づき、本人の情報が関係省庁や職業紹介機関に提供される。
- 職業紹介機関が、本人の希望分野や条件に合う企業とのマッチングを行う。
- 企業と本人の間で条件が合意に至れば、雇用契約を締結し、再就職が決定する。
新たな受入企業に求められる要件
マッチング支援を通じて技能実習生を受け入れる企業には、支援制度の対象要件と同様の適正な受け入れ体制が求められます。
- 特定産業分野に該当する事業を営んでいること。
- 日本人が従事する場合と同等額以上の報酬を支払うなど、適正な労働条件を確保すること。
- 外国人の技能習得や日常生活を適切に支援する体制が整っていること。
制度利用における法務上の注意点
雇用条件(賃金等)の維持義務
雇用条件に関しては、労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令を遵守することが大前提です。特に、報酬額は日本人が従事する場合と同等額以上であることが絶対条件であり、国籍を理由とする不合理な待遇差は認められません。また、家賃などを給与から控除する場合は、労使協定の締結と本人の同意を得た上で、実費の範囲内で行う必要があります。
監理団体との連携のポイント
実習の継続が困難になった場合、受入企業は速やかに監理団体へ通知する義務があります。通知を受けた監理団体は、外国人技能実習機構への届出など、法に基づいた手続きを進めなければなりません。また、在留資格変更申請に必要な「技能実習生の現況に関する説明書」は以前の監理団体が作成するため、円滑な手続きのためにも緊密な連携が不可欠です。
支援期間満了後の取り扱い
「特定活動」の在留期間は最大1年であり、恒久的な滞在を保証するものではありません。この期間内に特定技能に必要な試験に合格し、「特定技能1号」への在留資格変更許可申請を完了させる必要があります。要件を満たせず、他の在留資格への変更も認められない場合は、在留期間の満了をもって母国へ帰国しなければなりません。
「特定活動」期間中の業務範囲と制限
在留資格「特定活動」の期間中は、許可された受入企業において、特定技能への移行準備に必要な業務にのみ従事できます。指定された特定産業分野以外の業務や、他の企業で働くことは資格外活動となり、入管法違反に問われます。企業側も、許可外の活動をさせた場合、不法就労助長罪として罰せられるリスクがあるため、業務範囲を厳格に管理する必要があります。
実習生本人への説明責任と同意形成の重要性
労務トラブルを未然に防ぐため、企業は実習生本人への説明責任を果たさなければなりません。在留資格の変更や新たな雇用契約の内容について、本人が理解できる言語で丁寧に説明し、書面で明確な同意を得ることが極めて重要ですます。特に、特定技能へ移行するための要件や試験については事前に共通認識を持ち、安定した雇用関係を築くことが求められます。
よくある質問
Q. コロナ禍の特例措置は現在も利用できますか?
新型コロナウイルス感染症を理由とした広範な特例措置は、国際的な往来の回復に伴い、運用が見直されています。現在は、帰国困難であることに個別の合理的な事情がある場合に限り、厳格な審査を経て「特定活動」への変更が許可されることがあります。制度の詳細は随時更新されるため、必ず出入国在留管理庁の最新情報を確認してください。
Q. 支援期間中の給与水準は変更可能ですか?
労働基準法などの範囲内であれば給与水準の変更は可能ですが、「日本人が従事する場合と同等額以上」という基準を下回るような、本人に不利益な変更は認められません。経営状況の悪化などを理由に賃金を引き下げる場合でも、法的に有効な手続きと労働者本人の真摯な同意が不可欠です。不当な減給は、後の特定技能への資格変更審査で不許可の原因となる可能性があります。
Q. 再就職先が見つからない場合どうなりますか?
国のマッチング支援などを利用しても期間内に新たな就職先が見つからない場合、日本で就労を続けることはできません。その場合は、帰国の準備を行うための「特定活動(就労不可)」などへ在留資格を変更し、定められた期間内に日本から出国する必要があります。手続きをせず在留期間を超えて滞在すると不法残留となり、強制退去の対象となるため、速やかな対応が求められます。
まとめ:技能実習生の雇用維持支援を正しく活用し、適切な手続きを進めるために
本記事では、企業の都合で実習が継続できなくなった技能実習生の雇用を維持するための支援制度について解説しました。この制度の核心は、最大1年間就労可能な在留資格「特定活動」へ移行し、その期間に特定技能への移行準備を進める点にあります。制度を利用する上で、受入企業は「日本人が従事する場合と同等額以上の報酬」といった労働関係法令の遵守が絶対条件です。実習継続が困難になった場合は、まず速やかに監理団体へ報告し、連携して在留資格変更の手続きを進める必要があります。自社での雇用が難しい場合でも、国のマッチング支援を活用する道があります。本制度は特例的な救済措置であるため、手続きや要件の詳細は必ず出入国在留管理庁の最新情報を確認し、不明点は専門家へ相談するようにしてください。

