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取締役会議事録の書き方|会社法の必須項目から押印・保管まで実務解説

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取締役会議事録の作成は、会社法で定められた重要な義務ですが、いざ作成するとなると具体的な書き方や必須記載事項に迷う担当者の方も多いでしょう。法定の要件を満たさない議事録は、会社の意思決定の証明力を失い、後々の登記申請や訴訟の際に思わぬリスクを招く可能性もあります。この記事では、会社法が定める取締役会議事録の作成義務から、必須記載事項、具体的な記載例、さらには署名・押印や保管といった実務ルールまでを網羅的に解説します。

目次

取締役会議事録の作成義務と目的

作成義務の法的根拠(会社法第369条)

取締役会議事録の作成は、会社法第369条によって明確に義務付けられています。この規定は、株式会社が取締役会を開催した際に、その議事の経過と結果を記録した文書(議事録)を作成しなければならないと定めています。この法的義務の背景には、企業経営の中核をなす意思決定プロセスを透明化し、その内容を法的に証明できるようにする目的があります。

具体的には、審議内容を書面または電磁的記録(電子データ)として残し、出席した取締役および監査役がその内容を確認の上で署名または記名押印することが求められます。これにより、取締役会議事録は単なる社内メモではなく、法的にその真正性が担保された公式記録として位置づけられます。

議事内容の証明と意思決定の明確化

取締役会議事録を作成する重要な目的の一つが、議事内容を客観的に証明し、会社の意思決定を明確化することです。重要な経営判断がどのような経緯でなされたかを正確に文書化しておくことで、後日関係者間での認識の齟齬や紛争が生じるのを防ぎます。

例えば、多額の資金調達や新規事業への投資といった決議において、どのような議論、質疑応答、懸念事項の指摘を経て承認に至ったのかを記録しておけば、その意思決定の合理性を事後的に検証することが可能です。これにより、俗に言う「水掛け論」を避け、円滑な会社運営を支える基盤となります。

登記申請や訴訟における証拠としての役割

取締役会議事録は、法務局での商業登記の申請手続きや、裁判所における訴訟において、極めて重要な証拠としての役割を果たします。会社の公式な意思決定を第三者に対して証明するための、客観的かつ法的な資料となるからです。

具体的な例として、代表取締役の選定や本店の移転など、登記事項に変更があった際の登記申請では、その事実を証明する添付書類として取締役会議事録の提出が求められます。また、株主から取締役の責任を問う訴訟が提起された場合、議事録の記載内容が、取締役の善管注意義務(善良な管理者として払うべき注意義務)違反の有無を判断する上で決定的な証拠となることがあります。

取締役会議事録の必須記載事項

会社法が定める9つの必須項目

会社法施行規則では、取締役会議事録に記載すべき必須項目が具体的に定められています。これらの法定記載事項を一つでも欠くと、議事録の法的な有効性が問われる可能性があるため、漏れなく記載することが重要です。

会社法施行規則が定める主な記載事項
  • 開催日時および場所
  • 取締役会が特別取締役によって開催された場合はその旨
  • 議事の経過の要領およびその結果
  • 決議事項について特別の利害関係を有する取締役の氏名
  • 監査役、会計参与、会計監査人、執行役などが述べた意見または発言の概要
  • 取締役会に出席した執行役、会計監査人、株主などの氏名または名称
  • 議長の氏名
  • 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
  • その他、法務省令で定める事項

開催日時・場所(Web会議の場合も)

開催日時と場所は、取締役会が特定の時間と空間で実際に開催されたことを証明するための基本的な情報です。日時は、会議の開始時刻と終了時刻を分単位で正確に記載します。場所は、本社の会議室など、具体的な所在地を記します。

近年増加しているWeb会議システムを利用して開催した場合(リモート開催)は、その開催方法を明確に記載する必要があります。議事録上の「場所」は議長の所在地を記載し、他の出席者がどこから、どのような方法で参加したかを付記するのが一般的です。これにより、物理的に一堂に会していなくても、適時的確な意見交換が可能な環境であったことを証明します。

議事の経過要領とその結果

「議事の経過要領とその結果」は、取締役会議事録の最も核心的な部分です。単に決議の結果だけを記載するのではなく、どのような議論を経てその結論に至ったかというプロセスを示すことが、コーポレート・ガバナンスの観点から強く求められます。

「経過要領」には、議案に関する説明の概要、主な質疑応答、出された意見や反対意見の要点などを記録します。「結果」には、議案が承認されたか否決されたか、また「全員一致で可決」「賛成多数で可決」といった具体的な決議の状況を明記します。この両方を適切に記載することで、経営判断の合理性を事後的に証明できます。

特別利害関係を有する取締役の氏名

特定の決議事項に対して、個人的な利害が会社の利益と相反する可能性のある「特別利害関係を有する取締役」がいる場合、その氏名を議事録に必ず記載しなければなりません。これは、当該取締役を当該議案の議決から排除することで、意思決定の公正性を確保するためのルールです。

例えば、会社とその取締役が直接取引を行う場合(利益相反取引)などが該当します。特別利害関係を有する取締役は、当該議案の審議において議決に加わることができません。議事録には、その取締役が特別利害関係人である旨、氏名、そして議決に参加しなかった事実を明確に記録することで、手続きの適法性を担保します。

【項目別】具体的な記載例

取締役会議事録を作成する際は、項目ごとに記載すべき内容を定型化しておくと、作成効率が向上し、記載漏れを防ぐことができます。

項目 記載例
開催日時 令和○年○月○日(○) 午前○時○分から午前○時○分まで
開催場所 東京都千代田区丸の内○丁目○番○号 当社本店 会議室
出席者 取締役総数○名中○名出席(出席取締役の氏名:○○、△△、……)
決議の結果 議長が議案を上程し、慎重に審議した結果、出席取締役の全員一致をもって原案どおり承認可決した。
発言の概要 ○○取締役より「△△の点について懸念はないか」との質問があり、担当の□□取締役より「その点については調査済みであり、問題ない」との説明があった。
主な項目の記載例

「議事の経過の要領」はどこまで具体的に記載すべきか

「議事の経過の要領」は、発言を一字一句記録する逐語録である必要はありません。むしろ、議論の要点を的確にまとめた要約であることが求められます。詳細すぎる記録は、かえって論点を不明瞭にし、事後的な検証を困難にする可能性があるためです。

記載すべきなのは、経営判断の合理性や取締役の監視機能が適切に働いていることを示す情報です。具体的には、提案に対する懸念点、社外取締役からの指摘、代替案の検討状況、そしてそれらに対する経営陣の応答などが中心となります。第三者が読んだときに、なぜその結論に至ったのかという意思決定のプロセスを合理的に理解できる程度の具体性が、実務上の目安となります。

署名・押印・保管の実務ルール

出席役員の署名または記名押印の要否

書面で作成された取締役会議事録には、出席した取締役および監査役の全員が署名または記名押印しなければなりません。この手続きにより、議事録に記載された内容が正確であること、そして出席者がその内容に同意したことを法的に証明します。

「署名」は自筆で氏名を記すこと、「記名押印」は氏名が印字またはゴム印などで記された箇所に押印することを指します。実務上は記名押印が広く用いられています。印鑑は認印で構いませんが、代表取締役を選定する議事録を登記申請に用いる場合など、登記実務においては、代表取締役となる者の印鑑につき、市区町村に登録された実印の押印とその印鑑証明書の添付が求められることがあります。

議事録の保管期間と本店備置義務

完成した取締役会議事録は、取締役会の日から10年間、会社の本店に備え置くことが会社法で義務付けられています。長期間の保管を義務付けることで、将来の紛争解決や経営検証、M&Aの際のデューデリジェンス(企業調査)などに必要な証拠資料を保全する目的があります。

株主総会議事録とは異なり、支店での備置義務はありませんが、本店において適切に管理し、閲覧権限を持つ者がいつでも確認できる状態にしておく必要があります。この保管・備置義務を怠ると、過料の制裁対象となる可能性があります。

株主等からの閲覧・謄写請求への対応

株主や会社の債権者から、正当な目的のもと取締役会議事録の閲覧や謄写(コピー)の請求があった場合、会社は原則としてこれに応じなければなりません。これは、株主による経営監視機能を実効的なものとし、また債権者の利益を保護するための制度です。

ただし、株主が閲覧請求を行うには「権利の行使のために必要があるとき」という要件があり、監査役設置会社などの場合は、事前に裁判所の許可を得る必要があります。会社側は、請求の目的が不当な場合(権利の濫用)には閲覧を拒否できますが、その立証責任は会社側にあります。企業秘密の保護と情報開示のバランスを考慮した、慎重な対応が求められます。

作成後の議事録回覧と押印を円滑に進める実務ポイント

取締役会の終了後、議事録を作成し、多忙な役員全員から押印を得る作業は、時間がかかりがちです。手続きを円滑に進めるためには、事前の準備と工夫が重要です。

押印を円滑に進めるためのポイント
  • 議事録の草案を事前にメール等で共有し、記載内容について内諾を得ておくことで、押印時の手戻りを防ぐ。
  • 押印の順番に法的な決まりはないため、在社している役員から順次押印をもらうなど、柔軟に対応する。
  • 電子署名を活用し、物理的な書類の回覧を不要にする(電子化のセクションで詳述)。

議事録の電子化と電子署名

電磁的記録による作成・保存の要件

取締役会議事録は、従来の紙媒体だけでなく、電磁的記録(電子データ)として作成・保存することが認められています。これにより、ペーパーレス化の推進、リモートワークへの対応、業務効率の向上が期待できます。

電子データで議事録を作成・保存する場合、以下の要件を満たす必要があります。

電磁的記録による作成・保存の主な要件
  • 書面の議事録と同様に、法定記載事項をすべて満たしていること。
  • 作成されたデータが改ざんされることを防ぐための措置(電子署名など)が講じられていること。
  • 法定の保管期間(10年間)、データを明瞭な状態で表示・印刷できること。

電子署名の有効性と実務上の注意点

電子データで作成した議事録には、書面の記名押印に代わる措置として電子署名を付与する必要があります。法務省の見解により、当事者本人が署名するタイプだけでなく、クラウドサービス事業者が介在する「立会人型」と呼ばれる電子署名サービスも、会社法上の要件を満たすものとして認められています。

ただし、電子署名を導入する際には、以下の点に注意が必要です。

電子署名導入時の注意点
  • 商業登記のオンライン申請などで議事録を提出する場合、法務局が指定する特定の電子証明書が必要になることがあるため、利用目的とサービス仕様の確認が不可欠です。
  • 社内の規程で書面への押印が義務付けられている場合は、電子署名の導入に先立ち、規程を改定しておく必要があります。

作成・備置義務違反のリスク

過料(罰金)の制裁対象となるケース

取締役会議事録の作成や備置に関する義務を怠った場合、その会社の取締役、監査役などに対して100万円以下の過料という行政罰が科される可能性があります。これは刑事罰である罰金とは異なりますが、企業の信用に関わる重大な問題です。

過料の対象となる主なケース
  • 正当な理由なく、取締役会議事録を作成しなかった場合。
  • 議事録に法定の記載事項を記載しなかった場合。
  • 作成した議事録を、法定期間(10年間)本店に備え置かなかった場合。
  • 正当な理由なく、株主や債権者からの閲覧・謄写請求を拒んだ場合。

取締役会決議の有効性を巡る紛争

議事録に不備がある場合、その取締役会で行われた決議自体の有効性が争われるという、より深刻なリスクが生じます。手続きに重大な瑕疵(欠陥)があると裁判所に判断された場合、決議が無効または不存在とされ、その決議に基づいて行われた契約などの法律行為も効力を失う恐れがあります。

例えば、特別利害関係人が議決に参加していた、あるいは定足数を満たしていなかったにもかかわらず決議が成立した、といった事実が後から判明した場合、決議の無効を主張する訴訟が提起される可能性があります。適法な手続きを証明する議事録の正確な作成は、こうした紛争リスクに対する最大の防御策となります。

取締役個人の責任を左右する「異議」の記載

会社法では、取締役会の決議に参加した取締役が、その議事録に異議をとどめた旨の記載をしない限り、その決議に賛成したものと推定されると定められています(会社法第369条第5項)。

もし、違法または会社に損害を与える不当な決議に反対したにもかかわらず、その事実が議事録に残されていなければ、後日、任務懈怠責任を追及された際に、自身が反対したことを証明するのが困難になります。したがって、自らの意見と異なる決議がなされた場合には、議事録に反対した旨を明確に記載してもらうことが、自己の身を守るために不可欠です。

よくある質問

書面決議(みなし決議)の場合、議事録は必要ですか?

はい、必要です。取締役全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたことで、取締役会の決議があったものとみなす「書面決議(みなし決議)」の場合でも、議事録の作成は法律で義務付けられています。実際に会議は開催されませんが、法的には会社の意思決定が行われているため、その記録が求められます。

書面決議の議事録には、通常の議事録とは異なる、以下の事項を記載する必要があります。なお、この場合、物理的に出席した役員はいないため、出席取締役および監査役の署名・記名押印は不要です。

書面決議における議事録の主な記載事項
  • 取締役会の決議があったものとみなされた事項の内容
  • 上記事項の提案をした取締役の氏名
  • 取締役会の決議があったものとみなされた日
  • 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

議事録の作成担当者は誰が適任ですか?

議事録の作成担当者について会社法に特段の定めはありません。しかし、議事録は法的な証拠書類であるため、会社法の知識と、議論の要点を正確に把握し文書化する能力が求められます。

実務上は、法務部門や総務部門の担当者、あるいは取締役会事務局のスタッフが作成することが多いです。会社の規模や体制によりますが、作成された草案を法務責任者や顧問弁護士がレビューし、最終的に議長が内容を確定させるという運用が、法的リスクを低減する上で望ましいでしょう。

完成後の議事録に誤りが見つかった場合の修正方法は?

一度完成し、署名・記名押印まで済んだ議事録は、法的な効力を持つ公式文書です。そのため、誤りが見つかっても安易に修正液で消したり、データを書き換えたりすることは文書偽造とみなされるリスクがあり、絶対に行ってはいけません。

修正方法については、誤りの程度に応じて適切な手続きを踏む必要があります。

誤りの程度 修正方法の例
軽微な誤字脱字 訂正箇所に二重線を引き、正しい記述を追記した上で、署名・押印した役員全員の訂正印を押す。
決議内容や発言の趣旨など、重大な誤り 修正の経緯を明らかにするため、取締役会の承認を得て訂正の議事録を別途作成するか、元の議事録を再作成して改めて全員の署名・記名押印を得るのが最も安全な方法です。
議事録の修正方法

リモート開催(Web会議)の場合の特有の注意点は?

Web会議システムを利用して取締役会を開催する場合、対面での開催と同等の環境が確保されていたことを議事録上で証明する必要があります。つまり、参加者全員の映像と音声が常に良好で、即時かつ双方向の意思疎通が可能な状態であったことが重要です。

この点を証明するため、リモート開催の議事録には、以下の特有の事項を記載することが推奨されます。

リモート開催時の議事録記載の注意点
  • Web会議システムを利用して取締役会を開催した旨を明記する。
  • 議長が会議の開始時に、全出席者の通信状況が良好であることを確認した旨を記載する。
  • 各出席者の参加場所(例:「本社」「サテライトオフィス」「自宅」など)と参加方法を記載する。
  • もし会議中に通信トラブル等で役員が一時的に離脱した場合は、その時間と、定足数に影響がなかったことを記録する。

まとめ:取締役会議事録の法的リスクを避ける作成・管理の要点

取締役会議事録は、会社法で作成・保管が義務付けられた、会社の意思決定を証明する重要な法的文書です。開催日時や議事の経過、決議結果といった必須記載事項を漏れなく記載することが、その有効性を担保する第一歩となります。特に「議事の経過の要領」は、単なる結果報告ではなく、議論のプロセスを示すことで経営判断の合理性を証明する重要な役割を担います。また、決議に反対した取締役は、後の責任問題を回避するためにも、議事録に異議をとどめた旨を明記してもらうことが不可欠です。議事録の作成や管理に不安がある場合は、まず自社の運用が法的な要件を満たしているかを確認し、必要に応じて専門家へ相談することをお勧めします。本記事で解説した内容は一般的な指針であり、個別の事案については専門家の判断を仰いでください。

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