人事労務

会社の倒産で退職金が未払い?立替払制度の対象や申請方法

経営リスクナビ編集部

勤務先の倒産に際し、退職金が支払われないのではないかとご不安な方も多いでしょう。会社の経営状況が悪化した場合でも、国の「未払賃金立替払制度」を利用すれば、未払いの退職金の一部を受け取れる可能性があります。この制度は労働者の生活を守るための重要なセーフティーネットですが、利用するには会社側と労働者側の双方で定められた要件を満たさなければなりません。この記事では、退職金が立替払の対象となる条件、金額の計算方法、具体的な申請手続きの流れまでを分かりやすく解説します。

未払賃金立替払制度とは

制度の目的と仕組みの概要

未払賃金立替払制度とは、会社の倒産によって給料が支払われないまま退職した労働者を救済するための国の制度です。「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づき、独立行政法人労働者健康安全機構が運営しています。

この制度は、倒産した会社に代わって、機構が未払賃金の一部を立て替えて労働者に支払う仕組みです。会社の倒産時には資金が枯渇していることが多く、労働者が自力で未払賃金を回収するのは極めて困難です。そのため、本制度は労働者とその家族の生活の安定を守るセーフティーネットとして機能します。

具体的には、一定の要件を満たすことで、未払賃金の8割(上限あり)が機構から支払われます。立替払いが行われた後、機構は労働者に代わって、本来の支払義務者である事業主や破産管財人に対し、立て替えた分の返済を求めていきます。

退職金も立替払の対象になるか

退職金も、未払賃金立替払制度における立替払の対象に含まれます。労働協約や就業規則などで支払いが明確に定められている退職金は、定期賃金と同様に「賃金」とみなされるためです。

ただし、対象となるのは、退職日の6か月前の日から退職日までに支払期日が到来している未払いの退職手当です。また、制度を利用するには以下の点に注意が必要です。

退職金を請求する場合の注意点
  • 未払いの定期賃金と退職金を合わせた総額が2万円以上である必要があります。
  • 中小企業退職金共済(中退共)など、会社とは別に積み立てられる制度から退職金が支払われる場合、その金額を差し引いた差額分のみが立替払の対象となります。
  • 未払いの退職金が高額であっても、後述する年齢別の上限額の範囲内で計算されます。

制度を利用できる条件

会社側に求められる2つの要件

未払賃金立替払制度を利用するには、まず会社側が以下の2つの要件を両方満たしている必要があります。

会社側の要件
  • 1年以上事業活動を継続してきた、労災保険の適用事業所であること。
  • 法律上の倒産または事実上の倒産に該当すること。

労災保険の加入手続きを怠っていた場合でも、原則として適用事業所とみなされ、制度の対象となります。 倒産については、具体的に以下のいずれかの状態を指します。

倒産の定義
  • 法律上の倒産: 破産手続、特別清算、民事再生手続、会社更生手続のいずれかの開始決定・命令が裁判所から出された状態。
  • 事実上の倒産: 中小企業が事業活動を停止し、再開の見込みがなく賃金を支払えない状態にあることを、労働基準監督署長が認定した状態。

労働者側に求められる2つの要件

会社が要件を満たした上で、労働者側も以下の2つの要件を両方満たす必要があります。

労働者側の要件
  • 定められた期間内に退職していること。
  • 未払賃金額などについて公的な証明または確認を受けていること。

退職日は、倒産事実の発生日(法律上の倒産の場合は破産手続開始決定等の日、事実上の倒産の場合は労働基準監督署長が倒産の認定をした日)の6か月前の日から2年の間である必要があります。この期間内であれば、自己都合退職か会社都合退職かは問われません。

公的な証明は、倒産の形態によって証明者が異なります。

未払賃金の証明者
  • 法律上の倒産: 裁判所が選任した破産管財人など。
  • 事実上の倒産: 労働基準監督署長

これらの要件を満たした労働者は、独立行政法人労働者健康安全機構に対して立替払を請求できます。

立替払される金額の計算

対象となる未払賃金の範囲

立替払の対象となるのは、定期賃金退職手当です。具体的には、定期賃金については退職日の6か月前の日から退職日までに支払期日が到来したもの、退職手当については退職日までに支払期日が到来したものが対象となります。これらの未払総額が2万円未満の場合は、制度の対象外となります。

立替払の対象となる賃金
  • 定期賃金: 基本給、各種手当、時間外労働手当(残業代)など、毎月定期的に支払われる賃金。
  • 退職手当: 就業規則や退職金規程などに基づき支払われる退職金。

一方で、以下のものは立替払の対象にはなりません。

立替払の対象とならないもの(例)
  • 賞与(ボーナス)など、臨時に支払われる賃金
  • 解雇予告手当
  • 慰労金や祝い金
  • 出張費や交際費などの経費精算分

計算の基礎となる未払賃金総額は、所得税や社会保険料が控除される前の額面金額となります。

年齢別に定められた上限額

立替払される金額には、退職日時点の年齢に応じて上限が定められています。未払賃金総額が下記の限度額を超える場合、限度額に基づいて立替払額が計算されます。

退職日の年齢 未払賃金総額の限度額 立替払の上限額(8割)
45歳以上 370万円 296万円
30歳以上45歳未満 220万円 176万円
30歳未満 110万円 88万円
退職日時点の年齢別上限額

実際の未払賃金総額が上記の限度額より少ない場合は、その金額の8割が支払われます。

なぜ未払額の8割が支払われるのか

立替払される金額が未払賃金総額の8割に設定されているのには、いくつかの理由があります。

8割が支払われる理由
  • 制度の目的が、あくまで労働者の当面の生活を支える最低限の保障であるため。
  • 制度の原資が、他の事業主が納付した労働保険料であり、制度を持続させる必要があるため。

なお、立替払されなかった残りの2割分の賃金請求権が消滅するわけではありません。労働者は引き続き、倒産した会社に対して請求する権利を持ちますが、倒産手続きの中で実際に回収できる可能性は極めて低いのが実情です。

申請手続きの具体的な流れ

手順1:未払賃金額の証明を受ける

申請の第一歩は、未払賃金の額を公的に証明してもらうことです。手続きは倒産の形態によって異なります。

  • 法律上の倒産の場合: 裁判所から選任された破産管財人などに依頼し、「証明書」の交付を受けます。破産管財人が会社の帳簿などを調査し、未払額を確定させます。
  • 事実上の倒産の場合: まず、管轄の労働基準監督署を通じて事実上の倒産の「認定」を受けます。その後、同じく労働基準監督署長に未払賃金額の「確認」を申請し、「確認通知書」の交付を受けます。

手続きを円滑に進めるため、給与明細、タイムカード、預金通帳の振込記録など、未払額を裏付ける資料をできるだけ準備しておきましょう。

手順2:機構へ立替払請求を行う

「証明書」または「確認通知書」を受け取ったら、独立行政法人労働者健康安全機構に立替払を請求します。

証明書や確認通知書の用紙は、立替払請求書と一体になっています。必要事項を記入し、機構へ郵送などで提出します。

請求書には、立替金の振込先となる本人名義の金融機関口座を正確に記入します。また、立替金は税法上「退職所得」として扱われるため、用紙内の「退職所得の受給に関する申告書」欄への記入も忘れないようにしましょう。

手続きに必要となる主な書類

手続きに必要な書類は、倒産の形態や個別の状況によって異なりますが、主に以下のものが基本となります。

主な必要書類
  • 立替払請求書(証明書または確認通知書と一体になったもの)
  • 退職所得の受給に関する申告書(請求書に付属)

このほか、状況に応じて追加の書類が必要になる場合があります。

状況に応じて必要となる書類の例
  • 過去4年以内に別の退職金を受け取っている場合:以前の源泉徴収票の写しなど
  • 労働者が死亡し遺族が請求する場合:死亡の事実や相続関係を証明する公的書類(戸籍謄本など)

審査の過程で、機構から賃金台帳の写しなどの追加資料の提出を求められることもあります。

申請から支払いまでの期間の目安

請求書を機構に提出後、書類に不備がなければ、おおむね30日以内に支払いが行われます。

機構では、提出された書類の内容を審査し、支払い決定後に「未払賃金立替払決定支払通知書」を送付し、指定口座へ振り込みます。

ただし、請求書の記入漏れや添付書類の不足などがあると、修正や再提出が必要となり、支払いまでの期間が長引くことがあります。申請から1か月半以上経っても連絡がない場合は、機構の窓口に進捗状況を問い合わせてみましょう。

会社や破産管財人から証明が得られない場合の対処法

法律上の倒産で、会社の資料が失われているなどの理由で破産管財人から未払賃金の証明が得られないことがあります。

このような場合は、破産管財人から証明が得られない旨を記載した書類をもらった上で、労働基準監督署長に対して確認を申請するという代替手段があります。給与明細やタイムカードなど、手元にある資料を持参して管轄の労働基準監督署に相談してください。監督署の調査で未払いの事実が確認されれば、「確認通知書」が交付され、機構への請求が可能になります。

制度利用時の注意点

請求できる期間には期限がある

立替払の請求には厳格な期限があり、1日でも過ぎると請求する権利を失います。必ず期限内に手続きを行ってください。

立替払の請求期限
  • 法律上の倒産: 裁判所による破産手続開始決定日などの翌日から起算して2年以内
  • 事実上の倒産: 労働基準監督署長による認定日の翌日から起算して2年以内

倒産後は生活再建などで多忙になりますが、期限を念頭に置き、速やかに手続きを進めることが重要です。

受け取った立替金の税務上の扱い

この制度で受け取る立替金は、全額が税法上の「退職所得」として扱われます。退職所得には、大きな退職所得控除が適用されるため、税負担が軽くなるというメリットがあります。

この控除を受けるためには、請求書と一体になっている「退職所得の受給に関する申告書」を必ず提出してください。提出しない場合、立替金の約20%が所得税として源泉徴収されてしまいます。その場合、後から確定申告をすれば還付を受けられますが、手間と時間がかかります。

残りの2割の請求はどうなるか

立替払制度で支払われるのは未払賃金総額の8割のため、残りの2割は未払いのままとなります。この2割分の賃金請求権は消滅するわけではなく、労働者は引き続き倒産した会社に請求する権利を持っています。

法律上の倒産手続きでは、この権利を「破産債権」などとして裁判所に届け出ることで、会社の財産から配当を受けられる可能性があります。しかし、実際には会社に配当できるほどの財産が残っていないことが多く、残りの2割を回収できる可能性は極めて低いのが実情です。

中小企業退職金共済(中退共)に加入している場合

会社が中小企業退職金共済(中退共)に加入していた場合、労働者は会社の倒産とは関係なく、中退共から直接退職金を受け取ることができます。

この場合、未払賃金立替払制度の対象となる未払退職金額は、本来の退職金額から中退共から支払われる額を差し引いた差額分のみです。中退共からの給付で本来の退職金額が満たされる場合は、立替払制度における未払退職金はないものとして扱われます。

よくある質問

ボーナスや解雇予告手当は対象ですか?

いいえ、対象にはなりません。ボーナス(賞与)のような臨時に支払われる賃金や、解雇予告手当は、制度の対象である「定期賃金」「退職手当」には含まれないためです。

アルバイトやパートでも利用できますか?

はい、利用できます。この制度は労働基準法上の労働者を保護するものであり、正社員、アルバイト、パートといった雇用形態は問いません。ただし、未払賃金の総額が2万円未満の場合は対象外となります。

会社が手続きに協力的でない場合は?

会社の協力が得られない場合でも、労働者自身で手続きを進めることが可能です。事業主が行方不明であるなどの理由で事実上の倒産の証明が得られない場合は、労働者が直接、労働基準監督署に相談し、倒産の認定を申請することができます。

すでに会社を退職していても申請可能ですか?

はい、申請可能です。ただし、退職した日が「倒産事実の発生日(法律上の倒産の場合は破産手続開始決定等の日、事実上の倒産の場合は労働基準監督署長が倒産の認定をした日)の6か月前の日から2年の間」という要件を満たす必要があります。倒産前に自己都合で退職した場合でも、この期間内であれば対象となります。

取締役や役員でも制度の対象になりますか?

原則として、代表取締役などの役員は労働者ではないため、対象にはなりません。ただし、役員という肩書があっても、実態として上司の指揮命令下で働き、労働の対価として賃金を得ていた「使用人兼務役員」などの場合は、その労働者部分の未払賃金について対象となる可能性があります。

まとめ:未払賃金立替払制度で退職金を受け取るための要点

本記事では、会社の倒産時に未払いの退職金を受け取るための未払賃金立替払制度について解説しました。この制度は、国の機関が未払賃金総額の8割(年齢別上限あり)を立て替えて支払う、労働者のための重要なセーフティーネットです。制度を利用するには、会社の倒産状況や労働者の退職時期など、法律で定められた複数の要件をすべて満たす必要があります。まずはご自身の状況が要件に該当するかを確認し、破産管財人や労働基準監督署といった証明者に相談することが手続きの第一歩となります。請求には決定日などの翌日から2年以内という厳格な期限があるため、迅速に行動することが肝心です。個別の具体的な判断については、弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。

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