東京弁護士会倒産法部会とは?活動内容・組織構成・入会方法を解説
企業の倒産や事業再生という困難な状況では、高度な専門性を持つ弁護士の選択が極めて重要です。その際、弁護士の専門性を測る指標の一つとして「東京弁護士会倒産法部会」への所属が挙げられますが、具体的にどのような組織なのかご存じない方も多いのではないでしょうか。この記事では、日本最大級の倒産法専門家集団である東京弁護士会倒産法部会について、その目的や役割、具体的な活動内容から、企業が弁護士を選ぶ際の指標としての価値までを詳しく解説します。
東京弁護士会倒産法部会の概要
設立の目的と倒産・事業再生分野における役割
東京弁護士会倒産法部会は、1982年(昭和57年)1月17日に設立された法律研究部です。部会は、所属弁護士会員の知識および技能を高め、弁護士業務の改善進歩を図ることを目的としています。設立当初から倒産法や事業再生の実務に携わる弁護士が集い、自己研鑽と共同研究を通じて専門性を高めてきました。現在では部員数が約600名に達し、東京弁護士会内で最大規模の研究部の一つとなっています。
本部会は、倒産および事業再生に関する法制度や実務運用について、実務家の視点から調査・研究を行い、改善に向けた提言を行うという重要な役割を担っています。経済情勢の変化に応じて倒産法制が改正されてきた歴史の中で、部会は法改正の議論に積極的に関与し、実務に即した制度設計に貢献してきました。具体的には、民事再生法、会社更生法、破産法といった一連の法改正において、部会員が法制審議会に参加するなどして重要な役割を果たしました。
また、倒産・事業再生案件における本質的な実務ノウハウを世代から世代へと継承していくことも、部会の重要な機能です。これらの案件では、債権者、債務者、株主、従業員など多様な利害関係者の調整が不可欠ですが、そのための知見や経験が部会活動を通じて共有されています。
部会が担う主な役割は、以下の通りです。
- 倒産・事業再生に関する法制度や運用の調査・研究・提言
- 実務家の視点からの法改正への貢献(民事再生法、会社更生法、破産法など)
- 多様な利害関係者の調整に必要な知見や経験の共有と継承
- 最新動向や研究成果の社会への発信(講演、シンポジウム、出版物など)
所属弁護士の専門性と部会が目指すもの
東京弁護士会倒産法部会には、倒産・事業再生実務の最前線で活躍する弁護士が、新人からベテランまで約600名が所属しています。創設以来、倒産実務界を牽引する多くの弁護士が在籍し、その豊富な経験と高度な専門知識が部会の活動基盤となっています。所属弁護士は、破産管財人や申立代理人としての業務に加え、民事再生、会社更生といった法的整理から、私的整理や事業再生ADRなど裁判外の手続まで、幅広い案件を手掛けています。
倒産法分野では、法律知識だけでなく、金融実務、会計・税務などの周辺知識や、関係者との交渉能力といった多面的なスキルが要求されます。そのため、部会では定例の研究会などを通じて、所属弁護士の専門性を深化させ、実務能力を向上させることを第一の目標としています。
さらに、部会は世代を超えた交流と研鑽の場を提供し、組織全体の専門性を高めることも重視しています。若手弁護士は経験豊富な先輩から実践的な指導を受けることができ、ベテラン弁護士も若手の視点から新たな気づきを得ることができます。部会が目指すものは、主に以下の点に集約されます。
- 所属弁護士の専門性の深化と、変化する倒産実務に対応できる実務能力の向上
- 世代を超えた交流と研鑽の場を提供し、組織全体の専門性を高めること
- 倒産法分野における法的サービスの質の向上への貢献
- 研究活動で得られた知見の外部発信(書籍出版、対外提言など)による法制度発展への寄与
裁判所実務との連携と倒産手続への影響力
倒産法部会は、東京地方裁判所の倒産事件を担当する民事第20部などと密接に連携しており、その活動は裁判所の実務運用にも大きな影響を与えています。部会は、講演会や勉強会に裁判官や書記官を講師として招き、最新の運用方針や実務上の留意点について直接学ぶ機会を設けています。これにより、弁護士は裁判所の考えを正確に理解し、手続を円滑に進めることが可能となります。
また、裁判所との協議会を通じて実務上の課題について意見交換を行い、弁護士側からの提案が裁判所の運用改善につながることもあります。特に新しい法制度が導入された際には、裁判所と弁護士会が協力して実務の定着を図っており、倒産法部会はその中核を担っています。
さらに、東京地裁では、新たに破産管財人候補者となる弁護士を選任する際、倒産法部会が実施する「寺子屋」などの研修への継続的な参加状況を考慮事情の一つとしています。このように、部会での研鑽活動は、裁判所からの信頼を得て、倒産処理制度の担い手としての質を担保する上で重要な役割を果たしているのです。
- 部会主催の講演会・勉強会に裁判官や書記官を講師として招聘
- 協議会などを通じた実務上の課題や改善点に関する意見交換
- 法改正時の実務定着に向けた協力体制の構築
- 部会研修への参加実績が破産管財人候補者の選任で考慮される仕組み
倒産法部会の主な活動内容
実務能力の向上を目指す定例研究会と判例研究
倒産法部会の中心的な活動は、部員の実務能力向上を目的とした定例の研究会や勉強会です。主要な活動として、部員全員を対象とする「全体会」と、若手育成を主眼とする「寺子屋」があります。「全体会」は年5回程度開催され、倒産実務に関する最新かつ重要なテーマについて、実務家、学者、裁判官などが講演します。「寺子屋」は、破産管財実務の基礎から応用までを体系的に学ぶ連続講座で、中堅弁護士が講師を務め、ベテラン弁護士が「ご意見番」として補足する形式で実践的なノウハウを伝えています。
その他にも、私的整理に特化した勉強会や、次世代の倒産弁護士を育成するための合宿、最新の重要判例を分析・検討する判例研究会なども精力的に行われています。これらの多層的な研究活動を通じて、部員は日々の業務に直結する知識やスキルを磨き続けています。
- 全体会: 部員全員を対象に年5回程度開催。最新テーマについて実務家、学者、裁判官が講演。
- 寺子屋: 若手弁護士向けに破産管財実務を体系的に学ぶ連続講座。中堅・ベテラン弁護士や裁判官も参加。
- 私的整理特別部会: 事業再生ADRなど裁判外手続に特化した勉強会。
- 判例研究: 最新の重要判例を分析し、実務への影響を検討する会合。
- その他: 次世代育成のための合宿など、多様な企画を実施。
外部講師を招いた講演会やシンポジウムの開催
倒産法部会は、部内の弁護士だけでなく、外部から多様な専門家を講師として招き、講演会やシンポジウムを積極的に開催しています。これにより、法律論にとどまらない、経済的・実務的な背景を含めた幅広い視点から倒産・事業再生を学ぶことができます。
- 倒産事件を担当する裁判官・書記官
- 倒産法を専門とする大学教授・研究者
- 金融機関の事業再生担当者
- 中小企業再生支援協議会の担当者
- 他の弁護士会の弁護士
特に重要な活動として、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会、大阪弁護士会の各倒産法部会と連携して毎年開催する「四会シンポジウム」があります。これは全国の倒産実務家が一堂に会する大規模なイベントで、倒産・事業再生分野における最先端のテーマについて基調講演やパネルディスカッションが行われます。過去には「倒産手続のコロナ禍における展開とポストコロナへの展望」や「事業再生における清算価値保障原則に関する諸問題」といったテーマが取り上げられ、その内容は法律専門誌に掲載されるなど、倒産法実務全体の発展に大きく貢献しています。
倒産法部会が監修・発行する主要書籍
実務の指針となる代表的な書籍の概要
東京弁護士会倒産法部会は、豊富な研究活動と実務経験の蓄積を基に、倒産実務の指針となる数多くの専門書籍を監修・編集しています。これらの書籍は、部会員が実務で直面した問題や裁判所との協議で得た知見が反映されており、実務家にとって非常に有用なツールとなっています。
- 『破産申立マニュアル』: 個人・法人の破産申立て実務を網羅した手引書。法改正や実務運用に合わせて改訂。
- 『倒産法改正展望』: 倒産法の改正議論や背景を部会の研究成果に基づき分析・解説。
- 『民事再生申立ての実務 モデル事例から学ぶ実践対応』: モデル事例を用いて民事再生手続の流れを具体的に解説。
- 『担保法と倒産・金融の実務と理論』: 担保法制の見直しなど、倒産法の周辺分野に関する研究成果。
各書籍の対象読者と具体的な活用場面
倒産法部会が監修する書籍は、主に弁護士、裁判官、書記官、金融機関の担当者といった実務家を対象としています。各書籍は、それぞれの特性に応じて多様な場面で活用されており、日々の実務における疑問の解消から、高度な法的判断が求められる場面での指針まで、幅広いニーズに応える実務の羅針盤としての役割を果たしています。
| 書籍の種類 | 主な対象読者 | 具体的な活用場面 |
|---|---|---|
| 実務マニュアル(例:『破産申立マニュアル』) | 倒産実務に携わる弁護士(特に若手) | 申立書作成、手続進行の確認、書式例やチェックリストの利用 |
| 理論・改正解説書(例:『倒産法改正展望』) | 専門家、研究者、経験豊富な実務家 | 法改正の趣旨理解、訴訟活動や意見書作成の基礎資料 |
| 事例解説書(例:『民事再生申立ての実務』) | 再生案件担当の弁護士、金融機関担当者 | 案件処理のリスク予測、対応策の立案、研修教材としての利用 |
倒産法部会の組織構成と入会案内
部長・副部長など役員の構成と役割
倒産法部会は、部長、複数の副部長、事務局長、複数の事務局次長といった役員からなる執行部体制を敷き、円滑な組織運営を行っています。歴代の部長には倒産法実務界を代表する弁護士が名を連ね、そのリーダーシップの下で部会の伝統が維持されてきました。
執行部の役割は、単に会議を進行するだけでなく、部会の活動方針の策定から具体的な企画の立案・実行まで多岐にわたります。近年では、Web会議システムを活用したオンライン開催の導入など、社会情勢の変化に応じた運営改善にも積極的に取り組んでいます。多くの部員が運営に関与することで、組織の活性化と次世代リーダーの育成が図られています。
- 部会の年間活動方針の策定
- 全体会や寺子屋など定例研究会の企画・運営
- 他会との共催シンポジウムや合宿、懇親会などの企画・調整
- 記念誌や実務書籍の編集・発行
- Web会議の導入など、環境変化に応じた運営方法の改善
入会資格の要件と手続きの流れ
東京弁護士会倒産法部会には、原則として東京弁護士会に所属する弁護士であれば、キャリアや経験年数を問わず誰でも入会できます。他会の弁護士も、現部員の紹介があれば入会が認められる場合があります。入会手続きはオンラインで簡単に行うことができ、所定の年会費(5,000円)を納付することで、部会が主催する各種行事への参加や、有益な情報を受け取ることが可能になります。
入会までの主な流れは以下の通りです。
- 東京弁護士会の会員サイト等から専用の入会申込フォームにアクセスする。
- 所定の事項を入力・送信して申込みを完了する。
- 所定の年会費を納付する。
- 部会員として登録され、各種活動への参加や情報提供が開始される。
部会所属で得られるメリット(専門知識の習得と人脈形成)
倒産法部会に所属することで得られるメリットは、専門知識の習得と人脈形成・キャリア形成の二つに大別されます。
まず、専門知識の習得に関しては、実務の最前線にいる講師陣から、書籍には書かれていない実践的な知見やノウハウを学ぶことができます。
- 定例研究会等を通じた最新の法令・判例・実務運用の継続的な学習
- 書籍だけでは得られない、実務の最前線で培われたノウハウや知見の獲得
- 「寺子屋」などの体系的な研修による、基礎から応用までの実務能力の向上
次に、人脈形成の面では、多様な世代の弁護士や関係者とネットワークを築くことができます。これは、困難な案件の相談や大規模事件での協業、さらには裁判所からの評価など、キャリアを形成する上で大きな財産となります。
- 世代や経験の異なる多数の倒産実務家とのネットワーク構築
- 困難案件における先輩弁護士への相談や、大規模案件での協業機会の創出
- 部会での研修実績が裁判所からの評価(例:破産管財人選任)につながる可能性
- 部会内での信頼獲得による事件紹介や共同受任への発展
企業が弁護士を選ぶ際の指標としての価値
企業が倒産や事業再生といった危機的状況に直面した際、弁護士の専門性を見極めることは極めて重要です。その弁護士が東京弁護士会倒産法部会に所属し、積極的に活動していることは、専門性の高さを判断するための有力な指標となります。
部会に所属する弁護士は、継続的な研鑽を通じて高度な専門知識を維持・向上させていることが期待できます。企業が倒産法部会に所属する弁護士に依頼することは、質の高いリーガルサービスを受け、事業の再生や円滑な清算を実現する可能性を高めることにつながります。
- 専門性の担保: 継続的な研修参加により、倒産・事業再生分野の高度な専門知識と最新情報を有している可能性が高い。
- 実務への精通: 裁判所の運用方針や金融実務など、現場の動向を深く理解していることが期待できる。
- 問題解決能力: 体系的な研修プログラムを修了していることは、一定水準以上の実務能力を持つ証左となる。
- ネットワーク活用: 大規模・複雑な案件でも、部会の広範なネットワークを通じて適切なチーム組成や専門的助言を得ることが可能。
まとめ:倒産・事業再生の専門家集団としての倒産法部会の実態と重要性
本記事では、東京弁護士会倒産法部会の概要から具体的な活動内容、そして企業が弁護士を選ぶ際の指標としての価値までを解説しました。本部会は、所属弁護士の専門性向上を使命とし、定例研究会や裁判所との連携、専門書籍の監修などを通じて、日本の倒産・事業再生実務を支える中核的な役割を担っています。企業の経営者や担当者にとって、弁護士がこの部会に所属し積極的に活動している事実は、その専門性や実務能力を客観的に評価する上で信頼性の高い指標となります。倒産や事業再生という重要な局面で弁護士を選定する際には、候補者が倒産法部会での研鑽を積んでいるかどうかも一つの判断材料として確認することをお勧めします。

