商標登録異議申立てとは?手続きの流れ・費用・要件を解説
自社の事業に影響を及ぼす可能性のある他社の商標登録を発見し、その登録を阻止したいと考えることは少なくありません。そのような場合に有効な手段の一つが、特許庁に対して行う「商標登録異議申立て」です。この手続きは誰でも行うことができますが、期間が厳しく制限されているなど、事前に知っておくべき重要な点が多くあります。この記事では、商標登録異議申立ての制度概要、申立ての要件、手続きの流れ、費用、類似制度との違いまで、実務的な観点から網羅的に解説します。
商標登録異議申立て制度の概要
商標登録の瑕疵を是正する制度の目的と位置づけ
商標登録異議申立て制度は、特許庁の審査を経て登録された商標に対し、その登録処分に瑕疵がなかったかを第三者の視点から再審理する制度です。商標権は独占排他権という強力な効力を持つため、本来登録されるべきでない商標が誤って登録されると、公正な市場競争を阻害するおそれがあります。そこで本制度は、商標掲載公報の発行から一定期間、広く一般から登録に対する異議を受け付けることで、審査の適正さを担保し、商標登録の社会的信頼を維持することを目的としています。個人の権利救済という側面よりも、登録の公益的な妥当性を確保することに主眼が置かれています。
申立人の適格:誰でも申立てが可能
本制度の最大の特徴は、法律上の利害関係を問わず「何人も」異議を申し立てることができる点にあります。これは、請求人が利害関係人に限定されている無効審判とは大きく異なる点です。したがって、申立人が当該商標の使用者や競合他社である必要はありません。実務上は、取引関係への配慮や自社の戦略を伏せたい場合に、第三者を名義人とする、いわゆるダミー申立てが行われることもあります。これにより、自社の情報を開示することなく、不適切な商標登録の是正を求めることが可能です。
商標登録異議申立ての要件(期間・理由)
申立てができる期間:商標公報の発行日から2ヶ月以内
異議申立てが可能な期間は、商標掲載公報が発行された日の翌日から起算して2ヶ月以内に厳格に限定されています。この期間は不変期間とされ、いかなる理由があっても延長は認められません。そのため、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)などで定期的に商標公報を監視し、自社に影響のある商標が登録されていないかを確認する体制が重要です。なお、申立書を期間内に提出すれば、詳細な理由や証拠は、期間経過後30日以内に「手続補正書」または「補充書」で補充(追完)することが認められています。
申立ての主な理由となる登録取消事由
申立ての理由として主張できるのは、商標法で定められた特定の登録取消事由に限られます。これらは、本来であれば審査段階で拒絶されるべきであった「拒絶理由」に該当するという主張が中心となります。
- 先に出願・登録された他人の商標と同一または類似している(相対的拒絶理由)
- 他人の著名な商標を不正な目的で出願したものである(相対的拒絶理由)
- 商品の品質や産地などを直接的に示すだけで、識別力がない(絶対的拒絶理由)
- 公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある(絶対的拒絶理由)
異議申立てを検討する際の費用対効果と判断基準
異議申立てを行うか否かは、対象商標が自社事業の障害となるリスクと、手続きに要するコストや労力を比較して慎重に判断する必要があります。本制度は無効審判に比べて費用が安く手続きも比較的簡便ですが、統計上、取消決定が下される確率は1割程度と決して高くありません。そのため、明らかに登録要件を欠いている確証がある場合や、相手方への権利行使を牽制する戦略的な目的がある場合に活用するのが効果的です。単なる類似性の懸念程度であれば、事後の無効審判や交渉といった他の選択肢も検討すべきです。
商標登録異議申立ての手続きフローと審理期間
申立書の提出から登録維持・取消決定までの流れ
異議申立ての手続きは、申立書を特許庁に提出することから始まり、審判官による審理を経て、登録を維持するか取り消すかの決定が下されます。
- 特許庁長官宛てに「登録異議申立書」を提出します。
- 提出された申立書について、形式的な要件が満たされているか審査されます。
- 3名または5名の審判官からなる合議体が、申立ての理由について実体審理を開始します。
- 取消理由がないと判断された場合、「登録維持決定」が下され、手続きは終了します。
- 取消理由があると判断された場合、商標権者に対して「取消理由通知」が送付されます。
- 商標権者は、指定された期間内に意見書を提出して反論する機会が与えられます。
- 審判官合議体は、商標権者の意見書の内容も踏まえ、最終的に「登録維持決定」または「取消決定」を下します。
審理に要する期間の目安
標準的な審理期間は、申立てから最終的な決定まで概ね6ヶ月から9ヶ月程度です。ただし、事案が複雑な場合、当事者から多くの証拠が提出される場合、商標権者が登録内容の訂正を求める場合、または複数の異議申立てが併合して審理される場合などは、審理が長期化する傾向にあります。
主張を裏付ける有効な証拠の準備と提出方法
異議申立てを成功させるには、単に「似ている」といった主観的な主張だけでなく、主張を裏付ける客観的な証拠を提出することが極めて重要です。証拠は申立書と同時に提出するのが原則ですが、準備が間に合わない場合は、所定期間内に補充書として提出することも可能です。
- 自社商標の周知性を示す資料(カタログ、広告宣伝物、売上実績、メディア掲載記事など)
- 登録商標との間で需要者に混同が生じるおそれを示す証拠(実際の誤認事例、消費者アンケートの結果など)
- 登録商標が記述的で識別力がないことを示す資料(業界での使用実態、辞書の抜粋など)
商標登録異議申立てにかかる費用
特許庁へ納付する印紙代
特許庁に納付する手数料(印紙代)は、異議を申し立てる商標の区分の数によって決まります。計算式は「基本手数料3,000円 +(区分数 × 8,000円)」です。例えば、1区分の商標に対する申立ての場合は11,000円、2区分の場合は19,000円となります。この費用は、無効審判の請求手数料に比べて低額に設定されています。
弁理士へ依頼する場合の代理人費用
異議申立ての手続きを弁理士に依頼する場合、特許庁への印紙代とは別に代理人費用が発生します。費用体系は法律事務所によって異なりますが、一般的な目安としては、申立書の作成と提出にかかる着手金として10万円から20万円程度、そして取消決定を得られた場合の成功報酬として同程度の金額が設定されることが多いです。事案の複雑さに応じて、追加の費用が発生する場合もあります。
類似制度との違い:無効審判との比較
申立人(請求人)と申立期間(請求期間)の違い
登録異議申立ては何人でも申し立てることが可能で、期間も商標公報の発行日から2ヶ月と短期間に限定されています。一方、商標登録無効審判は、その商標登録について法律上の利害関係を有する者に限り請求でき、請求期間に原則として制限はありません。したがって、2ヶ月の申立期間を過ぎてしまった場合でも、利害関係人であれば無効審判で争う道が残されています。
申立理由(無効理由)の範囲の違い
異議申立ての理由は、主に公益的な観点から登録の適否を見直すための不登録事由(識別力がない、先行登録商標と類似するなど)に限定されます。これに対し、無効審判ではこれらの事由に加え、正当な権利者でない者による冒認出願など、より広範な理由に基づいて登録の効力を争うことができます。
審理方式と決定の効力の違い
異議申立ては、特許庁の審判官が職権で審理を進める査定系の手続きで、主に書面審理で行われます。申立人は、登録維持の決定に対して不服を申し立てることはできません。一方、無効審判は、請求人と被請求人(商標権者)が対立当事者として主張・立証を尽くす当事者系の手続きで、口頭審理が開かれることもあります。審決に対しては、当事者双方が裁判所へ訴訟を提起して争うことが可能です。
| 比較項目 | 登録異議申立て | 商標登録無効審判 |
|---|---|---|
| 申立人・請求人 | 何人も可能 | 利害関係人に限定 |
| 申立・請求期間 | 商標公報発行日から2ヶ月以内 | 原則として期間制限なし(一部除斥期間あり) |
| 審理方式 | 書面審理が中心(査定系) | 口頭審理も可能(当事者系) |
| 理由の範囲 | 公益的な不登録事由が中心 | 不登録事由に加え、冒認出願など当事者間の利害に関する事由も対象 |
| 決定への不服申立て | 申立人は不服申立て不可 | 当事者双方が審決取消訴訟を提起可能 |
申立期間(2ヶ月)を過ぎてしまった場合の対応
代替手段としての商標登録無効審判
商標掲載公報の発行から2ヶ月の異議申立期間が過ぎてしまった場合でも、その商標登録によって自社の業務に支障が生じるなどの利害関係があれば、代替手段として商標登録無効審判を請求することができます。一部の無効理由は登録から5年が経過すると請求できなくなりますが、不正競争の目的で登録された場合や公序良俗に反する場合など、重大な瑕疵がある場合は期間の制限なく請求が可能です。異議申立てより費用や労力はかかりますが、より詳細な主張・立証ができる有効な手段です。
商標登録異議申立てに関するよくある質問
商標登録の異議申立てが認められる可能性(成功率)はどのくらいですか?
特許庁の公表する統計によれば、異議申立てによって登録が取り消される割合は、全体の約1割程度です。これは、一度審査官が適法と判断した登録を覆す必要があるため、ハードルが非常に高いことを意味します。申立てを成功させるには、審査段階では考慮されなかった強力な証拠や、審査官の判断の誤りを明確に指摘できる論理的な主張が不可欠です。
異議申立ての手続きは自分で行えますか?弁理士への依頼は必要ですか?
制度上、個人や法人が自身で手続きを行うことは可能です。しかし、申立書には法的根拠に基づいた理由の記述や、商標の類否判断、識別力の有無といった専門的な知識と経験が求められます。主張や証拠が不十分な場合、申立てが認められないリスクが高まるため、確実な成果を期するのであれば、商標実務に精通した弁理士に依頼することを強く推奨します。
異議申立てで登録が取り消されなかった場合、さらに争う方法はありますか?
異議申立ての結果として登録維持の決定が下された場合、申立人はその決定自体に不服を申し立てることはできません。ただし、これにより商標権が確定的に有効となるわけではありません。申立人がその商標登録についての利害関係人である場合は、別途、商標登録無効審判を請求し、改めて登録の有効性を争うことが可能です。
情報提供制度と異議申立ての違いは何ですか?
情報提供制度は、商標が登録される前の審査段階で、匿名かつ無料で審査官に登録を阻止するための情報(証拠)を提供するものです。審査官がその情報を参考にするかは裁量に委ねられ、提供者に結果は通知されません。一方、異議申立ては登録後の商標を取り消すための正式な手続きであり、費用はかかりますが、必ず審理され、申立人にも決定が通知されます。
自社の商標に異議を申し立てられた場合はどう対応すればよいですか?
自社の商標に異議を申し立てられても、直ちに登録が取り消されるわけではありません。まずは特許庁からの通知を待ち、冷静に対応することが重要です。
- 申立書の副本が届いたら、まずは内容を詳細に確認し、今後の対応を検討します。
- 特許庁の審理の結果、取消理由があると判断された場合にのみ「取消理由通知」が届きます。
- 「取消理由通知」が届いたら、指定された期間内に意見書を提出して反論します。
- 反論とあわせて、問題となっている指定商品・役務を削除するなどの補正も検討します。
- いずれの段階においても、通知を受け取った時点で速やかに弁理士に相談し、専門的な助言を得ることが最善です。
まとめ:商標登録異議申立てを検討する際の重要ポイント
本記事では、商標登録異議申立て制度について、その目的から具体的な手続き、費用、類似制度との違いまでを解説しました。この制度は、利害関係を問わず誰でも申立てが可能である一方、申立期間が「商標公報発行日から2ヶ月以内」と極めて短く、厳格に定められている点が最大の注意点です。取消決定が認められる確率は約1割と決して高くないため、申立てを行う際は、客観的な証拠に基づいた専門的な主張が不可欠となります。自社事業への影響度と成功の可能性、そして費用対効果を総合的に勘案し、実行するかどうかを慎重に判断しましょう。もし期間を過ぎてしまった場合でも、利害関係人であれば無効審判という別の手段も残されていますので、まずは専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

