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公営企業会計のキャッシュフロー計算書作成ガイド|精算表を使った手順と特有の勘定科目を解説

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地方公営企業の会計担当者にとって、一般企業とは異なるルールに基づいたキャッシュフロー計算書の作成は、実務上の重要な課題です。住民サービスを支える財政状況を正確に把握するため、資金の動きを正しく示すこの書類の役割は非常に大きいと言えます。この記事では、公営企業会計におけるキャッシュフロー計算書の基礎知識から、精算表(ワークシート)を用いた具体的な作成手順、特有の勘定科目の処理方法、実務上の注意点までを網羅的に解説します。

目次

公営企業会計におけるキャッシュフロー計算書とは

キャッシュフロー計算書の目的と公営企業会計における位置づけ

キャッシュフロー計算書とは、一会計期間における現金および現金同等物(以下「資金」)の流れを活動区分別に表示し、その増減要因を明らかにする財務諸表です。公営企業会計では、損益計算書が発生主義に基づいて期間損益を示すのに対し、キャッシュフロー計算書は実際の資金の動きを示します。この2つの間には、減価償却費のような現金の支出を伴わない費用などの影響で差異が生じます。

キャッシュフロー計算書は、帳簿上の利益と手元資金の動きとのズレを可視化する役割を担います。これにより、利益が出ていても資金が不足する「黒字倒産」のような事態を防ぐための資金管理ツールとして重要です。特に、住民サービスを安定的に提供する責務を負う公営企業にとって、設備の更新や負債の償還に必要な資金を確保できているか監視することは不可欠であり、決算において作成が義務付けられています。

計算書を構成する3つの活動区分(営業・投資・財務)

キャッシュフロー計算書は、資金の増減要因を分かりやすく示すため、企業の活動を以下の3つの区分に分類して表示します。

3つの活動区分
  • 営業活動によるキャッシュフロー: 水道料金収入や人件費・材料費の支払いなど、企業の主たる事業活動から生じる資金の増減です。事業がどれだけ資金を生み出す力を持っているかを示します。
  • 投資活動によるキャッシュフロー: 固定資産(浄水場、管路など)の取得や売却、基金の積立てや取崩しなど、将来のサービス維持や成長に向けた投資に関する資金の動きです。
  • 財務活動によるキャッシュフロー: 企業債の発行や償還、金融機関からの借入れや返済など、資金調達と返済に関する活動による資金の動きです。

キャッシュフロー計算書における「資金」の範囲

キャッシュフロー計算書でいう「資金」とは、現金および現金同等物を指します。その具体的な範囲は以下の通りです。

「資金」の範囲
  • 現金: 手許にある現金のほか、当座預金や普通預金といった、いつでも引き出し可能な要求払預金が含まれます。
  • 現金同等物: 容易に現金化でき、かつ価値の変動リスクがごくわずかな短期投資を指します。具体的には、取得日から満期日または償還日までの期間が3か月以内の定期預金や譲渡性預金などが該当します。

公営企業会計では、この資金の範囲を毎期継続して適用することが求められます。範囲を変更した場合は、その理由と影響額を注記として記載し、財務情報の利用者に誤解を与えないように説明する義務があります。

作成方法の選択:直接法と間接法の特徴

直接法の特徴と営業活動キャッシュフローの表示方法

直接法は、営業活動によるキャッシュフローを、主要な取引ごとに現金の収入と支出の総額で表示する方法です。この方法には、以下のような特徴があります。

直接法の特徴
  • 表示方法: 「料金収入による収入」「材料及び商品の購入による支出」「人件費の支出」といった項目別に、実際の現金の動きを集計して記載します。
  • メリット: 現金の出入りが項目別に明示されるため、資金の流れを直感的に把握しやすく、将来のキャッシュフロー予測にも有用です。
  • デメリット: 作成にあたり、会計帳簿から現金取引のデータを個別に抽出・集計する必要があり、実務上の手間やコストが大きくなる傾向があります。

間接法の特徴と営業活動キャッシュフローの表示方法

間接法は、損益計算書の税引前当期純利益を起点とし、それに非資金項目や営業活動に関わる資産・負債の増減額を調整することで、キャッシュフローを算出する方法です。

間接法の特徴
  • 表示方法: 税引前当期純利益に、減価償却費(加算)や売上債権の増減額(増加は減算)などを調整する形で表示します。
  • メリット: 損益計算書と貸借対照表のデータから作成できるため実務的な負担が少なく、多くの公営企業で採用されています。利益とキャッシュフローの差異要因を分析しやすい利点もあります。
  • デメリット: 具体的な現金の収入・支出の総額が直接的には表示されないため、資金の流れの内訳を詳細に把握するには不向きです。

精算表(ワークシート)を用いたキャッシュフロー計算書の作成手順

手順1:比較貸借対照表と損益計算書を準備する

キャッシュフロー計算書を作成するための最初のステップは、基礎資料となる財務諸表を準備することです。具体的には、当年度と前年度の貸借対照表、および当年度の損益計算書が必要となります。これらの書類から、資産・負債・資本の期首残高と期末残高、そして当期の損益に関する情報を精算表(ワークシート)に正確に転記します。この段階での数値の誤りは後続のすべての計算に影響するため、各数値が元の財務諸表と完全に一致しているかを確認することが重要です。

手順2:貸借対照表の増減額を分析し精算表に転記する

次に、比較貸借対照表を基に、各勘定科目の期末残高と期首残高の差額(増減額)を計算します。この増減額が、キャッシュフローにどのように影響するかを分析し、精算表の各活動区分に振り分けていきます。原則的な考え方は以下の通りです。

資産・負債・資本の増減とキャッシュフローの関係
  • 資産の増加: 資金の減少(支出)として扱います。
  • 資産の減少: 資金の増加(収入)として扱います。
  • 負債・資本の増加: 資金の増加(収入)として扱います。
  • 負債・資本の減少: 資金の減少(支出)として扱います。

例えば、未収金(資産)の増加は営業活動における資金のマイナス、固定資産(資産)の取得による増加は投資活動における資金のマイナス、企業債(負債)の償還による減少は財務活動における資金のマイナスとして整理します。

手順3:損益計算書の項目と非資金取引を調整する

間接法で作成する場合、損益計算書の税引前当期純利益を営業活動の出発点とします。次に、貸借対照表の増減だけでは捉えきれない項目を調整します。具体的には、減価償却費や引当金繰入額のように、費用として計上されていても現金の支出を伴わない項目(非資金費用)を利益に加算します。また、固定資産売却益や受取利息など、本来は投資活動や財務活動に属する収益・費用が純利益に含まれている場合は、それらを営業活動の区分から除外し、本来の活動区分へ振り替える調整を行います。これにより、営業活動が生み出した純粋なキャッシュフローを算出できます。

手順4:各活動区分のキャッシュフローを算定・集計する

精算表への転記と調整がすべて完了したら、営業活動、投資活動、財務活動の各列を縦に集計し、それぞれの活動によるキャッシュフローの金額を確定します。算出した3つのキャッシュフローを合計し、当年度の「資金の増減額」を求めます。この増減額に「期首の資金残高」を加えた金額が、貸借対照表上の「期末の資金残高」と一致するかを必ず確認します。一致しない場合は、転記ミスや調整漏れなどの誤りがあるため、各手順を遡って原因を特定し修正する必要があります。この最終検算によって、計算書の正確性が担保されます。

公営企業会計に特有な勘定科目の処理方法

営業活動における補助金・負担金・他会計繰入金の取り扱い

公営企業では、国や都道府県からの補助金、一般会計などからの繰入金が重要な財源となります。これらの取り扱いは、その交付目的に応じて判断する必要があります。

営業活動における補助金等の取り扱い
  • 原則(営業活動): 経常的な経費の補填などを目的として収益的収入として受け入れた補助金や他会計繰入金は、事業運営に直結する資金とみなされ、営業活動によるキャッシュフローに区分されます。
  • 例外(投資・財務活動): 施設の建設・改良といった特定の投資的経費に充当されることが明確な補助金等は、後述する投資活動財務活動に区分される場合があります。

投資活動における国庫補助金や工事負担金等の処理

施設の建設や管路の敷設など、固定資産の取得を目的として交付される国庫補助金や工事負担金は、投資活動によるキャッシュフローに区分します。これらは将来にわたってサービスを提供するための資産形成に使われる財源であり、投資活動の一環と捉えられるためです。具体的な処理としては、固定資産の取得による支出を投資活動のマイナスとして計上する一方、その財源となった補助金等の収入を投資活動のプラスとして計上します。精算表上では、損益計算書に含まれる長期前受金戻入などの非資金項目を営業活動から調整し、実際に受け入れた補助金額を投資活動の収入として表示します。

財務活動における企業債や他会計借入金の表示

大規模な施設整備などの財源を確保するために発行する企業債や、他会計からの長期借入金に関する資金の動きは、財務活動によるキャッシュフローに区分されます。企業債の発行による収入はプラス、元金の償還による支出はマイナスとして表示します。処理にあたっては以下の点に注意が必要です。

財務活動における留意点
  • 元本と利息の区分: 企業債の元本の償還は財務活動ですが、支払利息は営業活動によるキャッシュフローとして処理するのが一般的であり、両者を明確に区別する必要があります。
  • 資金調達の種類: 企業債の発行や長期借入金の増減は財務活動に区分します。一時借入金のような短期的な資金調達も、その性質に応じて財務活動に含めます。

作成時における主要な留意点とよくある誤り

減価償却費や引当金増減額など非資金損益項目の調整

間接法で作成する際、非資金損益項目の調整は基本的ですが、誤りが生じやすいポイントです。特にプラス・マイナスの判断には注意が必要です。

非資金損益項目の調整(間接法)
  • 減価償却費: 現金の支出を伴わない費用のため、税引前当期純利益に加算(プラス)します。
  • 引当金の増加額: 将来の支出に備えるもので、当期の現金支出ではないため、税引前当期純利益に加算(プラス)します。
  • 引当金の減少額: 過去に計上した引当金を取り崩して支出した場合などを示すため、税引前当期純利益から減算(マイナス)します。

固定資産の取得と売却に関わるキャッシュフローの総額表示

固定資産の取得と売却があった場合、貸借対照表の差額だけを見て処理すると、資金の動きを正しく反映できません。以下の原則を遵守する必要があります。

固定資産関連の処理
  • 総額表示の原則: 固定資産の取得による支出と、売却による収入は、相殺せずにそれぞれ総額で投資活動のキャッシュフローに表示します。
  • 関連損益の調整: 固定資産の売却損益が損益計算書に計上されている場合、これらは営業活動の計算から除外(売却益は減算、売却損は加算)し、実際に得た売却代金の全額を投資活動の収入として計上します。

精算表作成における他部署との連携と情報収集のポイント

正確なキャッシュフロー計算書を作成するには、経理情報だけでは不十分な場合があり、事業担当部署や資産管理部署との連携が不可欠です。特に、以下のような情報は決算書の数値だけでは判断が難しいため、事前に収集しておくことが重要です。

他部署から収集すべき情報例
  • 補助金や工事負担金の具体的な交付目的、使途、および入金時期
  • 固定資産の取得、売却、除却に関する詳細(取得価額、売却代金など)
  • 未払金や未収金の中に、建設改良費など投資活動に関連するものが含まれていないか

キャッシュフロー計算書作成に関するよくある質問

直接法と間接法、実務上はどちらで作成すべきですか?

実務上、多くの公営企業では間接法が採用されています。これは、既存の損益計算書と貸借対照表を基に作成でき、実務的負担が少ないためです。一方で、直接法は資金の流れをより具体的に示すことができるという利点があります。どちらを選択すべきかは、それぞれの特徴を理解した上で判断します。

項目 直接法 間接法
表示内容 主要取引ごとの現金の収入・支出(総額) 純利益から非資金項目等を調整した結果
メリット 資金の流れが直感的で分かりやすい 既存の財務諸表から作成でき、負担が少ない
デメリット 作成に手間とコストがかかる 具体的な現金の出入りの内訳が分かりにくい
実務上の採用 少数派 多数派(会計システムも標準対応が多い)
直接法と間接法の比較

水道事業のキャッシュフロー計算書で特に注意すべき点は何ですか?

水道事業は、管路や浄水場など巨額の設備投資を必要とする装置産業であり、キャッシュフロー計算書にもその特性が現れます。特に注意すべき点は以下の通りです。

水道事業における特有の注意点
  • 巨額の減価償却費: 多額の減価償却費が計上されるため、間接法では営業活動によるキャッシュフローが見かけ上大きくプラスになりがちです。これは資金が潤沢にあることを意味するのではなく、将来の施設更新に多額の資金が必要であることを示唆しています。
  • 資本的収入の重要性: 国庫補助金や工事負担金といった資本的収入が多いため、これらが投資活動区分に正しく計上されているか、また将来の更新財源として適切に内部留保されているかの確認が重要です。

総務省が公表している作成マニュアルや様式はどこで確認できますか?

総務省は、地方公営企業の会計実務に関する手引きや通知をウェブサイトで公表しています。キャッシュフロー計算書の作成にあたっては、これらの公式資料が最も信頼できる情報源となります。

総務省のウェブサイト内にある「地方公営企業」や「地方公営企業会計の制度」といった関連ページから、「地方公営企業会計制度研究会報告書」や各種マニュアル、実務担当者向けのQ&A集などを閲覧できます。地方公営企業法施行規則で定められている財務諸表の様式(別記第15号様式:キャッシュ・フロー計算書)もここで確認できます。

作成後のキャッシュフロー計算書はどのように分析・活用しますか?

キャッシュフロー計算書は、作成するだけでなく、経営状況の分析や将来計画の策定に活用することが重要です。主な分析の視点は以下の通りです。

キャッシュフロー計算書の分析・活用ポイント
  • フリーキャッシュフローの確認: 「営業活動CF」から「投資活動CF(うち事業維持に必要な投資額)」を差し引いたもので、企業が自由に使える資金の余力を示します。これがプラスであれば、借入金の返済や新たな投資に充てる余力があると判断できます。
  • 各活動区分のバランス分析: 3つのキャッシュフローの符号(プラスかマイナスか)の組み合わせから、企業の経営ステージや財務状態を診断します。
  • 健全性の評価: 一般的に「営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナス」というパターンは、本業で稼いだ資金で将来への投資を行い、かつ借入金も返済している健全な状態と評価されます。

まとめ:正確な作成と経営分析への活用が鍵

本記事では、公営企業会計におけるキャッシュフロー計算書の作成方法について、その目的から具体的な手順、特有の論点までを網羅的に解説しました。キャッシュフロー計算書は、営業・投資・財務の3つの活動区分で資金の流れを可視化し、企業の財政状態を正確に把握するための重要な書類です。作成にあたっては、損益計算書を起点とする間接法を用い、減価償却費などの非資金項目や、補助金・企業債といった特有の勘定科目を正しく調整することが求められます。完成した計算書は、フリーキャッシュフローの分析などを通じて事業の健全性を評価し、将来の設備更新計画に活かすことが重要です。総務省のマニュアル等も参考に、基準に準拠した正確な書類作成と経営分析への活用を目指しましょう。

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