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取締役の選任手続きを解説|株主総会の決議から役員変更登記までの流れ

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取締役の任期満了や増員に伴い、株主総会の準備を進めている経営者や法務・総務担当者の方も多いのではないでしょうか。取締役の選任は会社の根幹に関わる重要な手続きであり、そのプロセスには会社法上の厳格なルールが定められています。この記事では、会社法に基づいた取締役の選任手続きについて、株主総会の決議要件から登記申請、実務上の注意点までを網羅的に解説します。

目次

取締役選任に関する会社法の基本原則

株主総会の普通決議による選任(会社法第329条)

株式会社の取締役は、会社の所有者である株主で構成される株主総会の決議によって選任されます。これは、会社の所有と経営の分離を明確にするための重要な原則であり、会社法第329条第1項に定められています。ここでいう役員とは、取締役、会計参与、監査役を指します。

監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役を区別して選任しなければなりません。これは、監査等委員が他の取締役の職務執行を監査する立場にあるため、人事上の独立性を確保する必要があるからです。取締役の選任は原則として株主総会の普通決議によって行われますが、その重要性から、後述するように一般の普通決議とは異なる定足数の要件が定められています。

選任決議の要件と定款による変更の可否(会社法第341条)

取締役を選任する株主総会の決議は、通常の普通決議と比べて要件が厳格に定められています。会社法第341条では、原則として以下の要件を満たす必要があります。

選任決議の原則的な要件
  • 定足数: 議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席すること。
  • 決議要件: 出席した株主の議決権の過半数の賛成があること。

一般的な普通決議では定款で定足数を完全に排除できますが、役員選任決議では認められていません。定款によって定足数を緩和する場合でも、議決権の3分の1未満に引き下げることはできません。一方で、決議要件を法定の基準より厳しく加重することは定款で認められています。

取締役選任の基本的な手続きの流れ

ステップ1:取締役候補者の選定と取締役会での決議

取締役選任手続きの最初のステップは、候補者の選定です。取締役会設置会社では、取締役会で株主総会の招集を決定し、提出する取締役選任議案の内容を決議します。なお、指名委員会等設置会社の場合は、指名委員会が候補者を決定します。

候補者の選定にあたっては、会社の経営戦略に基づき、必要なスキルや経験を持つ人物をリストアップする「スキルマトリックス」などを活用することが有効です。既存の取締役を再任する場合でも、任期満了に伴う選任であれば、改めて候補者として決定する手続きが必要です。この段階で、候補者が会社法上の欠格事由に該当しないかも確認します。

ステップ2:株主総会の招集通知と議案の作成

取締役会での決議後、代表取締役は株主に対して株主総会の招集通知を発送します。発送期限は、公開会社の場合は株主総会開催日の2週間前まで、非公開会社の場合は原則として1週間前までです。

招集通知には、日時や場所に加え、会議の目的事項として「取締役選任の件」を明記します。議案には、株主が賛否を判断できるよう、候補者の氏名、略歴、現職などの情報を含めます。書面投票や電子投票を行う場合は、より詳細な情報を記載した株主総会参考書類の交付も必要です。招集手続きに不備があると、決議が取り消されるリスクがあるため、法定期間の遵守が極めて重要です。

ステップ3:株主総会での選任決議と議事録の作成

株主総会当日は、議長が取締役選任議案を上程し、候補者の紹介や選任理由の説明などを行います。質疑応答の後、採決を行い、会社法第341条に定める要件(または定款で加重された要件)を満たす賛成が得られれば、議案は可決されます。

決議が成立したら、その経過と結果を記録した株主総会議事録を作成しなければなりません。議事録には、開催日時、場所、出席株主数、議事の経過や結果などを記載し、議長及び出席した取締役が記名押印または署名します。この議事録は、後の登記申請で必要となるほか、会社本店に10年間備え置く義務がある法定書類です。

ステップ4:被選任者による就任の承諾と就任承諾書の準備

株主総会での選任決議だけでは、取締役就任の効力は生じません。会社と取締役の関係は法律上委任契約にあたるため、選任された本人が就任を承諾した時点で初めて取締役としての地位が確定します。

実務では、この承諾の意思を証明するために、被選任者から就任承諾書を取得します。就任承諾書には、就任を承諾する旨、日付、住所、氏名を記載し、本人が押印します。取締役会を設置していない会社など、登記申請時に印鑑証明書の添付が必要なケースでは、実印で押印します。なお、株主総会の場で本人が就任を承諾し、その旨が議事録に記載されていれば、別途就任承諾書を用意せず議事録を援用することも可能です。

ステップ5:法務局への役員変更登記の申請(期限と必要書類)

取締役が就任したら、就任日から2週間以内に、会社の本店所在地を管轄する法務局へ役員変更登記を申請する必要があります。申請書には、登録免許税として収入印紙(資本金1億円以下の会社は1万円、それを超える会社は3万円)を貼付します。

登記申請の際の主な添付書類は以下の通りです。

主な添付書類
  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 就任承諾書
  • 本人確認証明書(新任の代表取締役の場合など)
  • 印鑑証明書(就任承諾書に実印を押印した場合など)

任期満了に伴う再任(重任)の場合も登記は必要ですが、添付書類が一部簡略化されることがあります。申請期限を過ぎると過料の対象となるため、迅速な手続きが不可欠です。

取締役選任における主な注意点

取締役の員数に関する規定(法定の員数と定款の定め)

会社法で定められた取締役の最低員数は、会社の機関設計によって異なります。

会社の機関設計 法定員数
取締役会設置会社 3名以上
取締役会非設置会社 1名以上
取締役の法定員数

定款で法定の員数以上の人数(例:「当会社の取締役は5名以上とする」)を定めている場合は、その定めに従う必要があります。辞任や任期満了により取締役の数が法定または定款の員数を下回った場合、退任した取締役は、後任者が就任するまで権利義務を引き継ぎます。こうした事態を避けるため、補欠取締役を選任しておくなどの対策が有効です。

取締役の任期に関する規定(原則と伸長・短縮)

取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時までとされています。ただし、この任期は会社の状況に応じて定款で変更できます。

区分 原則的な任期 定款による変更
原則(公開会社など) 選任後2年内の最終事業年度に関する定時株主総会の終結時まで 短縮は可能(例:1年)
非公開会社 同上 最長10年まで伸長可能
取締役の任期に関する規定の比較

任期を伸長すれば登記コストなどを削減できますが、経営状況の変化に対応しにくくなるデメリットもあります。逆に任期を1年に短縮し、毎年株主の信任を問う経営体制にすることも可能です。なお、監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員を除く)の任期は原則1年と定められています。

取締役の欠格事由(会社法第331条の確認)

会社法第331条では、取締役に就任できない者の条件として「欠格事由」を定めています。候補者を選定する際は、これらの事由に該当しないか必ず確認しなければなりません。

主な欠格事由
  • 法人
  • 会社法などの特定の法律に違反して刑に処せられ、その執行が終わってから2年を経過しない者
  • 上記以外の罪で禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者

法改正により、以前は欠格事由とされていた成年被後見人や被保佐人についても、一定の手続きを経れば就任が可能となっています。

コンプライアンス遵守のための反社チェックと表明確約書

企業のコンプライアンス(法令遵守)において、反社会的勢力との関係遮断は極めて重要です。取締役が反社会的勢力と関わりを持つことは、企業の信用を失墜させ、取引停止や上場廃止といった深刻な事態を招きかねません。

そのため、取締役候補者に対しては、専門の調査会社やデータベースを利用した反社チェックを実施することが不可欠です。さらに、就任時には、自らが反社会的勢力でないことを誓約する「表明確約書」を提出させることが、実務上の標準的な対応となっています。

登記完了後に行うべき社内外への通知・届出

役員変更登記が完了した後も、様々な手続きが必要です。これらを怠ると行政手続きや取引に支障が出る可能性があるため、速やかに行いましょう。

登記完了後の主な手続き
  • 行政機関への届出: 税務署、都道府県税事務所、市町村役場への異動届出書や、年金事務所への届出など。
  • 金融機関への届出: 取引銀行への代表者変更や届出印の変更手続きなど。
  • 社内外への通知: 取引先への挨拶状の送付、自社ウェブサイトの役員情報の更新、会社案内の修正など。

特に代表取締役の変更は影響が大きいため、主要な取引先には個別に連絡を取り、丁寧な引き継ぎを行うことが望ましいです。

特殊なケースにおける取締役の選任方法

累積投票による取締役の選任

累積投票とは、2名以上の取締役を選任する際に、少数株主の意見を反映しやすくするための制度です。株主は、「1株につき、選任する取締役の数と同数の議決権」を与えられ、その票を1人の候補者に集中して投じることも、複数の候補者に分散して投じることもできます。

株主から請求があった場合、会社は原則として累積投票を行わなければなりません。しかし、多くの会社では、混乱を避けるためにあらかじめ定款で累積投票制度を排除する規定を設けています。

種類株主総会による取締役の選任

会社が「役員選任権付種類株式」を発行している場合、その種類の株式を持つ株主だけで構成される種類株主総会で取締役を選任できます。この制度は、特定の出資者(例:ベンチャーキャピタル)に経営への関与を認める場合や、事業承継の場面で活用されます。

この方法で選任された取締役は、通常の株主総会ではなく、同じ種類株主総会の決議によってのみ解任されるのが原則です。そのため、選任された取締役の地位は比較的安定したものとなります。

補欠取締役の予選

取締役が任期途中で辞任したり死亡したりして、法定または定款で定める員数を下回ってしまうリスクに備え、あらかじめ株主総会で補欠の取締役を選任しておくことができます。これを「補欠取締役の予選」と呼びます。

決議では、補欠であることや、誰の補欠かを特定して選任します。この決議の効力は、原則として次回の定時株主総会の終結時までです。実際に欠員が発生して補欠取締役が就任する際には、改めて本人からの就任承諾と法務局への登記申請が必要となります。この制度により、急な欠員が生じた際に臨時株主総会を開く手間を省くことができます。

取締役の選任に関するよくある質問

Q. 役員変更登記を期限内に行わなかった場合の罰則はありますか?

はい、あります。会社法では、役員変更の事実が発生した日から2週間以内に登記申請を行うことが義務付けられています。この期限を過ぎて申請した場合、代表取締役個人に対して100万円以下の「過料(かりょう)」が科される可能性があります。過料の額は遅延期間に応じて裁判所が決定し、会社の経費にはできず、代表者個人が負担しなければなりません。また、長期間登記を放置すると「休眠会社」とみなされ、解散させられるリスクもあります。

Q. 取締役の就任承諾書に決まった書式はありますか?

法律で定められた厳格な書式はありません。ただし、登記手続きのために、以下の事項を記載する必要があります。

就任承諾書の必須記載事項
  • 就任を承諾する旨の文言
  • 就任年月日
  • 就任する役職名(例:取締役)
  • 住所
  • 氏名(記名押印または署名)

取締役会を設置していない会社の取締役や、代表取締役が就任する場合は、市区町村に登録した実印で押印し、印鑑証明書を添付するのが一般的です。

Q. 社外取締役を選任する場合、特別な要件はありますか?

はい、あります。社外取締役には、経営の独立性を確保するため、会社法で厳格な「社外性」の要件が定められています。主な要件は以下の通りです。

社外取締役の主な要件
  • 現在および過去10年間、その会社や子会社の業務執行取締役や従業員でないこと。
  • その会社の親会社や兄弟会社の業務執行者でないこと。
  • その会社の経営陣の配偶者や二親等以内の親族でないこと。

特に上場企業においては、会社法の要件に加えて、証券取引所が定めるさらに厳しい「独立役員」の要件も満たすことが求められます。

まとめ:正確な取締役選任手続きで、健全な経営体制を構築する

本記事では、取締役の選任に関する会社法上のルールと実務的な手続きの流れを解説しました。取締役の選任は、株主総会の特別要件を満たした普通決議が基本となり、候補者の選定から招集通知、決議、就任承諾、そして就任後2週間以内の変更登記まで、一連の手続きを正確に進めることが求められます。特に、取締役の員数や任期、欠格事由の確認、コンプライアンス遵守といった点は、企業のガバナンスを維持する上で極めて重要です。これらの法的要件を遵守し、適切な手続きを踏むことが、将来的な経営リスクを回避し、安定した会社運営の基盤となります。本記事で解説したポイントを参考に、自社の定款と照らし合わせながら、株主総会に向けた準備を滞りなく進めていきましょう。

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