差押債権目録の書き方とは?給与・預貯金など種類別の記載例を解説
債務者からの支払いが滞り、強制執行による債権回収を検討されている状況でしょうか。ご自身で債権差押命令の申立てを進める中で、特に「差押債権目録」の作成は専門的な知識が求められるため、戸惑うことも多いかもしれません。この目録は、差し押さえる財産を正確に特定するための極めて重要な書類であり、わずかな記載ミスが手続きの失敗につながる可能性もあります。この記事では、差押債権目録の基本的な役割から、給与や預貯金といった対象ごとの具体的な記載例、作成時の注意点までを網羅的に解説します。
差押債権目録とは?基本的な役割と請求債権目録との違い
強制執行における差押債権目録の役割と目的
差押債権目録は、民事執行手続において、債権者が債務者の財産を差し押さえる際に、差し押さえる対象(債権)を具体的に特定するために裁判所へ提出する重要な書類です。債権差押命令申立書に添付され、裁判所が発令する「債権差押命令」の別紙として、債務者の財産を管理する第三者(第三債務者)へ送達されます。
この目録が第三債務者に届くことで、法的な効力が発生します。具体的には、第三債務者は債務者への支払いを禁止され、債権者は差し押さえた債権から自身の請求権を回収する手続きを進めることが可能になります。そのため、執行の対象を正確に特定することが、この目録の最も重要な役割です。
差押債権目録と請求債権目録の相違点
請求債権目録と差押債権目録は、強制執行手続きにおける役割が明確に異なります。請求債権目録が「誰が誰に対し、いくら請求する権利があるか」を示すのに対し、差押債権目録は「その請求権を回収するために、どの財産を差し押さえるか」を具体的に特定する文書です。
| 項目 | 請求債権目録 | 差押債権目録 |
|---|---|---|
| 目的 | 債権者が債務者に有する請求権(元金、利息等)を特定する | 請求権回収のために差し押さえる対象財産を特定する |
| 記載内容 | 債務名義(判決等)に基づく請求金額の内訳 | 債務者が第三債務者に有する具体的な債権(預金、給与等) |
| 役割 | 取り立てる権利の総額を明らかにする文書 | 回収の原資となる対象を特定する文書 |
| 根拠 | 判決や公正証書などの債務名義 | 差し押さえるべき債務者の財産 |
目録の基本的な構成要素と記載事項
差押債権目録には、誰が見ても差し押さえる対象が一つに定まるよう、正確な情報を記載する必要があります。基本的な構成要素は以下の通りです。
- 頭書金額: 請求債権の総額を記載し、この金額に満つるまで差し押さえる旨を明記します。
- 債務者: 財産を差し押さえられる人の氏名・住所を記載します。
- 第三債務者: 債務者にお金を支払う義務を負う法人(銀行や勤務先)や個人の情報を記載します。
- 差し押さえる債権の表示: 預金、給与、解約返戻金など、差し押さえる債権の種類を具体的に特定します。
- 順位付け: 複数の債権を差し押さえる場合、どの順序で差し押さえるかを指定します。
- 差押禁止範囲の考慮: 給与債権などの場合、法律で定められた差押禁止範囲を除外する旨の文言を含めます。
請求債権目録との整合性|金額や範囲の記載における注意点
差押債権目録を作成する際は、請求債権目録との整合性を保つことが重要です。特に金額や範囲の記載には注意が必要です。
- 頭書金額の一致: 差押債権目録の頭書金額は、原則として請求債権目録に記載された請求権の合計額(元金、利息、執行費用など)と一致させます。
- 複数の第三債務者がいる場合: 対象者ごとに請求額を割り振るか、各対象者に対し請求総額を限度に差し押さえる旨を記載します。
- 過剰差押えの禁止: 各目録に記載する差押え額の合計が、請求債権の総額を超えないように調整し、不当な差押えにならないよう注意します。
【債権種類別】差押債権目録の具体的な書き方と記載例
給与債権(給料・賞与など)を差し押さえる場合の記載例
給与債権を差し押さえる場合、債務者の勤務先(会社など)を第三債務者とします。基本給のほか、賞与や各種手当も対象となりますが、実費弁償的な性質を持つ通勤手当は除外するのが一般的です。
- 対象債権の明記: 給料、賞与、諸手当、退職金などを包括的に記載します。
- 差押可能額の計算式: 税金や社会保険料を控除した残額の原則4分の1を差し押さえる旨を記載します。
- 差押範囲の例外規定: 控除後の手取額が月額44万円を超える場合、33万円を超える部分全額を差し押さえられる旨を追記します。
- 扶養義務等に係る債権の場合: 養育費などの請求権に基づく場合は、差押可能範囲が2分の1に拡大されるため、その旨を明記します。
預貯金債権を差し押さえる場合の記載例
預貯金債権を差し押さえる場合、金融機関を第三債務者とします。債務者が保有する可能性のある預金種類を網羅的に記載し、取りっぱぐれを防ぐことが重要です。
- 預金種類の網羅: 普通預金、定期預金、当座預金など、想定される預金種別を幅広く列挙します。
- 差押えの順位付け: 複数の預金種別がある場合、どの順序で差し押さえるか(例:定期預金より普通預金を優先)を明記します。
- 外貨預金への対応: 外貨建て預金も対象に含め、送達時のレートで円貨に換算する旨の条項を加えることが実務上有効です。
- 口座の特定: 同一の預金種目に複数口座がある場合に備え、口座番号の若い順など、客観的な基準で順位を定めます。
預貯金債権における銀行・支店の特定と記載のポイント
預貯金債権の差押えを成功させるには、原則として取扱支店の特定が必要です。これは、金融機関が膨大な数の口座を管理しており、支店が不明だと対象口座の特定が困難で、第三債務者に過大な負担をかけることになるためです。
- 原則: 申立書には「株式会社〇〇銀行 △△支店」のように、具体的な店舗名を記載します。
- 例外: インターネット専業銀行など、物理的な支店の概念がない場合は本店や事務センターを記載します。
- 口座番号の要否: 差押えの申立て時点で、口座番号までの特定は必須ではありません。
ゆうちょ銀行の貯金債権を差し押さえる際の特有の記載方法
ゆうちょ銀行の貯金は、一般の銀行とは異なる管理体制のため、差押債権目録の記載方法にも特有のルールがあります。
- 取扱店の指定: 個別の郵便局名ではなく、債務者の住所地を管轄する「貯金事務センター」を記載します。
- 貯金種類の列挙: 通常貯金、定額貯金、定期貯金などを網羅的に記載し、差押えの順位を指定します。
- 民営化前後の貯金への対応: 旧郵便貯金法の定額郵便貯金なども対象に含められるよう、包括的な表現を用いることが推奨されます。
生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえる場合の記載例
生命保険契約も、解約返戻金請求権として差し押さえることが可能です。この場合、保険会社が第三債務者となります。
- 対象債権の範囲: 解約返戻金請求権のほか、配当金請求権や満期保険金請求権なども併せて記載します。
- 契約の特定: 証券番号を記載するのが最も確実ですが、不明な場合は保険の種類や契約日などで可能な限り特定します。
- 複数の契約への対応: 複数の契約がある可能性を考慮し、「契約日が古い順」などの順位付け条項を設けます。
第三債務者が複数いる場合の記載方法
債務者の勤務先と取引銀行など、第三債務者が複数いる場合は、それぞれに対して差押えの手続きを行います。
- 目録の作成: 原則として、第三債務者ごとに個別の差押債権目録を作成します。
- 差押金額の記載: 各目録の頭書金額は、請求債権の総額を記載します。これにより、いずれかの第三債務者から全額回収できれば、他の執行を取り下げることができます。
- 裁判所への提出: 複数の目録をまとめて一つの申立書で提出することが可能です。
差押債権目録の作成で押さえるべき共通の注意点
差し押さえる債権の範囲を明確に特定する
差押債権目録で最も重要なことは、第三債務者が差し押さえの対象を客観的かつ一義的に識別できる程度に、債権を特定することです。記載が曖昧で特定できない場合、差押命令が無効になったり、第三債務者から「該当なし」と回答されたりして、強制執行が失敗に終わる恐れがあります。特定が不十分な場合、裁判所から補正を命じられることもありますので、事前の調査に基づき正確な情報を記載することが不可欠です。
第三債務者の法人名・代表者・住所を正確に記載する
第三債務者が法人の場合、その情報は商業登記簿(登記事項証明書)に基づいて正確に記載する必要があります。特に以下の点に注意してください。
- 正確な商号・本店: 会社の名称や本店所在地は、登記事項証明書の記載通りに記述します。
- 最新情報の確認: 申立ての直前に最新の登記事項証明書を取得し、商号変更や本店移転がないかを確認します。
- 代表者の記載: 第三債務者が法人の場合、代表者個人の氏名まで記載することは原則として不要です。ただし、裁判所の運用によっては記載を求められる場合もあります。
- 送達場所の指定: 書類を送付する場所として支店を指定する場合は、その所在地を「送達場所」として明確に区分して記載します。
裁判所が指定する様式・書式に従って作成する
差押債権目録は、裁判所が定める書式や記載例に従って作成することが強く推奨されます。これにより、手続きがスムーズに進み、記載漏れなどのミスを防ぐことができます。
- 裁判所のひな形利用: 多くの裁判所がウェブサイトで債権種類別の書式(ひな形)を公開しているため、これを活用します。
- 用紙・余白の指定: 用紙はA4サイズ縦書きで作成し、左側に綴じ代の余白(約3cm)を設けるのが一般的です。
- 形式の遵守: 独自の書式を用いる場合でも、裁判所の運用に適合しているか、必要な記載事項が網羅されているかを十分に確認する必要があります。
記載内容を特定するための事前調査と情報収集のポイント
正確な差押債権目録を作成するには、申立て前の事前調査が極めて重要です。不正確な情報に基づく申立ては、時間と費用を無駄にするだけでなく、債務者に財産隠しの機会を与えてしまうリスクもあります。
- 過去の取引記録の確認: 債務者との契約書や請求書、過去の振込履歴などから勤務先や取引銀行の情報を収集します。
- 弁護士会照会(23条照会): 弁護士を通じて、官公庁や企業に必要な情報の照会を依頼します。
- 第三者からの情報取得手続: 民事執行法に基づき、裁判所を通じて金融機関や市町村などから債務者の財産情報を取得する制度です。
- 興信所・調査会社の利用: 債務者の勤務先や資産状況について、専門の調査会社に依頼して調査します。
差押債権目録に関するよくある質問
債務者の預金口座の支店名が不明な場合でも差し押さえは可能ですか?
原則として、預金口座の支店名が不明なまま差押えを申し立てることはできません。最高裁判所の判例でも支店の特定は必要とされており、支店を特定しない申立ては第三債務者である金融機関に過度な負担を強いるため、不適法とされるのが一般的です。
支店名がどうしても不明な場合は、まず民事執行法が定める「第三者からの情報取得手続」を利用して、金融機関から支店名を含む口座情報の開示を受けることを検討してください。この手続きによって支店名を特定した上で、差押えを申し立てるのが確実な方法です。
差押債権目録の書式はどこで入手できますか?
差押債権目録の書式(ひな形)は、いくつかの方法で入手できます。
- 各地方裁判所のウェブサイト: 東京地方裁判所など主要な裁判所のサイトでは、WordやPDF形式で各種書式が公開されています。
- 裁判所の民事執行担当窓口: 裁判所の窓口で直接書式を入手することも可能です。
- 法律実務に関する書籍: 民事執行手続に関する専門書には、書式集が付属している場合があります。
- 弁護士会などが提供する書式: 地域の弁護士会が会員向けに提供している書式を参考にすることもできます。
作成した差押債権目録の記載に誤りがあった場合はどうなりますか?
提出した差押債権目録の記載内容に誤りがあった場合、その内容によって影響が異なります。軽微な誤記であれば、裁判所から補正命令が出され、訂正申立書を提出することで対応できます。
しかし、差し押さえる債権の特定に関わる重大な誤り(例:存在しない支店名を記載、第三債務者の法人名を間違えたなど)がある場合、第三債務者が「該当する債権はない」と判断し、差押えが空振りに終わる可能性があります。その場合、申立てにかかった費用が無駄になるだけでなく、債務者に執行の動きを察知され、財産を隠匿されるリスクも生じます。提出前の入念な確認が非常に重要です。
まとめ:正確な差押債権目録の作成が強制執行成功の鍵
本記事では、差押債権目録の役割や種類別の記載例、作成上の注意点を解説しました。差押債権目録は、差し押さえる対象を第三債務者が一義的に特定できるよう、正確に記載することが強制執行を成功させるための絶対条件です。特に、給与や預貯金、生命保険など、対象債権に応じた適切な書式を用い、第三債務者の法人名や代表者、銀行の支店名といった情報は、登記事項証明書の確認や事前調査に基づき、誤りなく記載しなければなりません。裁判所が提供するひな形を参考にしつつ、もし記載内容の特定や事前調査に不安がある場合は、手続きを確実にするために弁護士などの専門家へ相談することも検討しましょう。

