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補助金・助成金の不正受給|発覚後のペナルティと具体的な対処法を解説

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公的な補助金や交付金は事業運営の大きな助けとなりますが、その手続きの複雑さから、意図せず要件を逸脱してしまうリスクも潜んでいます。自社の申請が不正受給に該当しないか、万が一発覚した場合にどのような事態を招くのか、不安に感じている経営者や担当者の方も少なくないでしょう。この記事では、補助金等適正化法を基に、不正受給の定義や具体的な行為類型、そして発覚した場合に科される刑事罰・行政処分・社会的制裁という3つの重大なペナルティについて詳しく解説します。

目次

交付金・補助金の不正受給とは

不正受給の定義と根拠法(補助金等適正化法)

交付金や補助金の不正受給とは、偽りの申請や不正な手段を用いて公的資金の交付を受ける行為、または交付された資金を本来の目的とは異なる用途に使用する行為を指します。これらの資金は国民の税金を原資としているため、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金等適正化法)」によって厳格なルールが定められています。

この法律は、国が交付する補助金等が公正かつ効率的に使われることを目的としており、不正な受給や目的外使用に対して重いペナルティを科しています。単なる事務的なミスとは異なり、意図的に受給要件を満たしていないにもかかわらず虚偽の申請を行ったり、事業実績を改ざんして過大な金額を受け取ったりする行為が典型例です。法令違反が認定されると、資金の返還だけでなく、刑事罰や行政処分といった深刻な事態に発展します。

不正受給に該当する具体的な行為の類型

不正受給には様々な手口があり、申請から事業完了後の報告まで、あらゆる段階で発生する可能性があります。

不正受給の典型的な手口
  • 経費の水増し請求: 取引先と共謀して架空の取引を計上したり、実際の支払額より高額な請求書を作成させたりして補助対象経費を過大に申告する。
  • 目的外使用: 補助事業のために購入した設備を、無関係な事業に流用したり、無断で売却して現金化したりする。
  • 実績の虚偽報告: 事業が完了していないにもかかわらず完了したと偽って報告したり、成果を過大に報告したりする。
  • 雇用関係の偽装: 雇用調整助成金などにおいて、実際には勤務している従業員を休業したように装ったり、架空の従業員を計上したりする。
  • 重複受給: 同一の事業内容や経費について、複数の異なる補助金・助成金を二重に申請して受け取る。

これらの行為は、会計検査院の実地検査や内部告発などをきっかけに発覚することが多く、書類上の辻褄を合わせても、実態との乖離が発覚すれば厳しく追及されます。

不正受給が発覚した場合の3つのペナルティ

刑事罰|詐欺罪などに問われる可能性と刑罰の内容

不正受給が悪質と判断された場合、刑事事件として立件される可能性があります。代表的な罪状として、刑法の詐欺罪補助金等適正化法違反が挙げられます。

罪状 根拠法 刑罰の内容
詐欺罪 刑法 第246条 10年以下の懲役(未遂も処罰対象)
虚偽申請等による交付 補助金等適正化法 第29条 5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方
目的外使用等 補助金等適正化法 第30条 3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、またはその両方
不正受給に関する主な刑事罰

また、法人の代表者や従業員が業務として不正行為を行った場合、行為者本人だけでなく、法人に対しても罰金刑が科される「両罰規定」が適用されることがあります。捜査機関による強制捜査が始まると、代表者の逮捕・勾留に至り、事業活動が完全に停止するリスクもあります。

行政処分|補助金の返還命令・加算金・交付停止措置

不正受給が認定されると、刑事罰とは別に、所管省庁から厳しい行政処分が下されます。これにより、企業の財政基盤や将来の事業展開に深刻な影響が及びます。

主な行政処分
  • 交付決定の取消しと補助金の返還: 不正に受給した補助金の全額について、一括での返還を命じられます。
  • 加算金及び延滞金の納付: 不正受給が認定された場合、返還を命じられた補助金に対し、違約加算金の納付が義務付けられるほか、補助金を受領した日から返還を完了した日までの日数に応じ、年利10.95%などの高率な延滞金の支払いが義務付けられます。
  • 交付停止措置: 一定期間、当該省庁が管轄するすべての補助金・交付金の申請資格が停止されます。この措置は他の省庁や地方自治体にも情報共有されることがあります。

一部の不正であっても交付決定の全額が取り消されることが多く、返還金と加算金の支払いは企業のキャッシュフローを著しく悪化させ、倒産の引き金となることも少なくありません。

社会的制裁|事業者名の公表による信用の失墜と取引への影響

刑事罰や行政処分に加えて、事業者名を公表されることによる「社会的制裁」は、企業の存続に致命的なダメージを与える可能性があります。所管省庁は、不正受給を行った事業者の名称、不正内容、処分内容などをウェブサイトで公表します。

事業者名公表による社会的信用の失墜がもたらす影響
  • 信用の失墜: インターネット上に不正の事実が「デジタルタトゥー」として残り、企業イメージが著しく悪化する。
  • 取引関係の悪化: 既存の取引先から契約を解除されたり、新規取引を拒絶されたりする。
  • 金融機関からの締め付け: 銀行からの融資が停止されたり、既存の借入金の一括返済を求められたりする。
  • 人材の流出と採用難: 従業員の士気が低下して離職が相次ぎ、新たな人材の採用も極めて困難になる。

特に金融機関はコンプライアンス違反に厳しく、不正受給が発覚した企業との取引を即座に停止する可能性が高いため、事業継続が困難になるケースが後を絶ちません。

不正受給が発覚する主な経緯

会計検査院や事業所管省庁による実地検査

不正受給が発覚する最も一般的な経緯は、会計検査院や事業を所管する省庁による実地検査です。会計検査院は、国の予算が適正に執行されているかを調査する憲法上の機関であり、補助金事業に対して非常に厳しい検査を行います。検査官は申請書類と会計帳簿、請求書、納品書、銀行の送金記録などを徹底的に照合し、少しでも不審な点があれば実態を深く調査します。書類上は完璧に見えても、現地調査で申請した設備が存在しない、稼働実態がないといった事実が判明し、不正が露見します。

内部告発や取引先からの情報提供

近年、不正の発覚経路として増加しているのが、企業の内部関係者や取引先からの情報提供です。不正な処理を指示された従業員が、退職後や在職中に公益通報者保護制度を利用して行政機関に通報するケースが典型例です。また、水増し請求への協力を強要された取引先が、自社へのリスクを回避するために情報提供に踏み切ることもあります。多くの行政機関は匿名の通報を受け付ける窓口を設けており、経営陣が知らないところで調査が開始されることも少なくありません。

税務調査など他の行政調査との連携による発覚

税務調査がきっかけで補助金の不正受給が発覚するケースも頻繁にあります。税務署は、税務申告の内容を精査する過程で、補助金の経理処理も確認します。例えば、補助金申請では経費として計上されているにもかかわらず、税務申告では損金として計上されていないなどの矛盾点が見つかると、不正の疑いが浮上します。税務署、労働局、補助金の所管省庁などの行政機関は相互に情報を連携させており、一つの調査で発覚した不正が他の不正の端緒となることがあります。

不正受給が疑われる・発覚した場合の対処法

事実関係の迅速な調査と証拠の保全

不正受給の疑いが生じたら、まず客観的な事実関係の調査を迅速に開始することが不可欠です。経営陣は直ちに関係者に対し、関連する書類や電子データ、メール履歴などを破棄・改ざんしないよう厳命しなければなりません。この段階で証拠を隠滅する行為は、後の刑事手続きで「証拠隠滅の罪」に問われるだけでなく、行政庁や捜査機関の心証を著しく悪化させ、より重い処分を招く原因となります。正確な事実把握が、その後の適切な対応の基礎となります。

社内調査を進める際の具体的な手順と注意点

社内調査は、客観性と透明性を担保した方法で進める必要があります。その具体的な手順は以下の通りです。

社内調査の手順
  1. 調査チームの組成: 不正に関与した疑いのある人物を外し、利害関係のないメンバーで調査チームを立ち上げます。
  2. 証拠保全の徹底: 調査対象となる書類や電子データを保全し、改ざんや破棄がなされないよう管理します。
  3. 関連資料の精査: 補助金の申請書類、実績報告書、会計帳簿、契約書、請求書などを突き合わせ、矛盾点や異常な取引を洗い出します。
  4. 関係者へのヒアリング: 口裏合わせを防ぐため、関係者から個別に事情を聴取し、正確な供述を記録します。
  5. 調査報告書の作成: 調査で判明した事実、不正の原因、問題点を詳細にまとめた報告書を作成します。

身内をかばうような調査は、外部からの信頼をさらに失う結果となります。不都合な事実であっても隠さず、すべてを明らかにすることが重要です。

弁護士など外部専門家への相談と対応方針の決定

不正受給は法的なリスクが極めて高いため、問題が発覚した初期段階で、企業法務や危機管理に詳しい弁護士に相談することが不可欠です。弁護士は、調査された事実が法的にどのように評価されるのか、想定されるペナルティは何かについて専門的な助言を提供します。その上で、行政庁への報告のタイミングや内容、捜査機関への対応、マスコミ対応など、企業が受けるダメージを最小限に抑えるための全体戦略を立案します。経営陣の独断ではなく、専門家の客観的な視点を取り入れることが、企業の存続に向けた最善の道を選択することにつながります。

関係行政庁への報告と自主的な返還・申告

社内調査によって不正の事実が明らかになった場合、隠蔽しようとせず、速やかに関係行政庁へ自主的に報告し、不正に受給した補助金を返還する意思を示すことが重要です。行政調査や強制捜査が開始される前に自ら不正を申告することで、処分が軽減されたり、刑事告発が見送られたりする可能性があります。報告の際は、詳細な調査報告書とともに、不正が発生した原因と具体的な再発防止策を提示し、誠実な対応姿勢を示すことが求められます。

取引先・金融機関への説明責任と信頼回復に向けた対応

不正受給が公になれば、取引先や金融機関との関係も悪化は避けられません。情報が公表される前、または公表と同時に、主要な取引先や金融機関に対して事情を直接説明する機会を設けるべきです。説明の場では、不正の事実、原因、再発防止策、そして今後の事業計画について誠実に伝え、理解と協力を求めます。特に金融機関に対しては、返還金の支払いが経営に与える影響を正直に伝え、支援の継続を要請することが重要です。失った信頼の回復には時間がかかりますが、初期対応の誠実さがその後の関係を左右します。

不正受給を未然に防ぐための社内対策

申請内容のダブルチェック・トリプルチェック体制の構築

不正の多くは、特定の担当者に権限が集中し、チェック機能が働いていない環境で発生します。これを防ぐには、申請書類の作成者、確認者、承認者をそれぞれ別にし、多段階のチェック体制を構築することが有効です。例えば、担当者が作成した書類を上長が確認し、さらに経理部門や法務部門が数字の整合性や法令適合性を検証するプロセスを定めます。単なる押印リレーではなく、請求書や領収書の原本と照合するなど、実質的なチェックが機能する仕組み作りが求められます。

交付決定後の目的外使用を防ぐ管理体制の整備

補助金は交付を受けた後も、事業完了まで適正な管理が求められます。特に、補助金で購入した資産が目的外に使用されることを防ぐための管理体制が重要です。

目的外使用を防ぐ管理体制の例
  • 管理台帳の作成: 補助金で購入した設備や備品を台帳に登録し、管理ラベルを貼付して現物を明確にする。
  • 区分経理の徹底: 補助事業にかかる経費と他の事業経費を会計上明確に分け、専用の銀行口座で資金を管理する。
  • 定期的な現物確認: 定期的に棚卸しを実施し、資産が申請通りの場所で、申請通りの目的に使用されているかを確認する。
  • 社内ルールの周知: 補助対象資産を無断で移動、転用、売却、廃棄することを禁止するルールを定め、全従業員に周知徹底する。

関与した役員・従業員が負う個人的責任の範囲

不正受給に関与した場合、法人としての責任だけでなく、関わった役員や従業員個人も厳しい責任を問われる可能性があります。そのリスクを社内で共有し、不正への抑止力とすることが重要です。

関与者が負う個人的責任
  • 役員の損害賠償責任: 不正を主導または黙認した取締役は、会社に与えた損害について、株主代表訴訟などで個人として賠償責任を追及される可能性があります。
  • 従業員の損害賠償責任: 不正の実行行為を担った従業員も、会社に対する不法行為として損害賠償を請求されることがあります。
  • 個人としての刑事責任: 「会社の指示だった」という弁解は通用せず、詐欺罪などの実行犯として個人が逮捕・起訴され、刑事罰を受けるリスクがあります。

従業員へのコンプライアンス研修の実施と規範意識の向上

不正受給を未然に防ぐための最も根本的な対策は、組織全体のコンプライアンス意識を高めることです。定期的な研修を通じて、補助金等適正化法の内容や不正受給がもたらす深刻なリスクを全従業員に教育します。「少しくらいならバレない」「会社のためだから許される」といった安易な考えが、会社と自分自身の未来を破壊する行為であることを具体的に伝え、高い規範意識を醸成することが不可欠です。また、不正の兆候を発見した従業員が安心して相談できる内部通報窓口を整備し、その利用を促進することも有効です。

交付金・補助金の不正受給に関するよくある質問

意図せず申請内容を間違えてしまった場合も不正受給になりますか?

単純な計算ミスや記載漏れなど、意図的でない誤りであれば、直ちに詐欺罪などの「不正受給」として扱われる可能性は低いです。しかし、誤って過大な金額を受け取った場合、その差額分についての返還義務は生じます。ミスに気づいた時点で速やかに所管官庁へ自主的に報告し、指示に従って訂正や返還の手続きを行うことが重要です。報告を怠ったり、指摘されても修正に応じなかったりすると、悪質と判断されるリスクがあります。

自主的に返還・申告すれば、ペナルティは軽くなりますか?

はい、軽くなる可能性が高いです。行政庁の調査が入る前に不正の事実を自主的に申告し、全額を返還する意思を示した場合、加算金が減免されたり、事業者名の公表が見送られたりするなど、処分が軽減されることがあります。ただし、これはあくまで行政庁の裁量であり、不正の内容が極めて悪質であったり、組織的な隠蔽工作が行われたりした場合には、自主申告であっても厳格な処分が下される可能性があります。

不正受給による返還義務に時効はありますか?

はい、あります。補助金等適正化法に基づく国の返還請求権は、会計法により原則として5年で時効によって消滅します。ただし、これはあくまで原則であり、行政庁が返還通知(納入告知)を行うと時効の進行が中断(更新)されるなど、個別の事情によって時効が成立しないケースもあります。また、刑事罰である詐欺罪の公訴時効は7年です。時効の成立を安易に期待するのは危険であり、専門家への相談が必要です。

悪質なコンサルタントにそそのかされた場合でも、責任を問われますか?

はい、事業者の責任は免れません。「コンサルタントに任せていたので知らなかった」という主張は、原則として通用しません。申請の主体はあくまで事業者自身であるため、申請内容が虚偽であった場合、返還命令や行政処分は事業者が受けることになります。ただし、コンサルタントの指示が悪質であった証拠があれば、そのコンサルタントに対して損害賠償を請求したり、詐欺罪の共犯として刑事責任を追及したりすることは可能です。

不正受給に関与した場合、従業員個人も責任を問われますか?

はい、個人も責任を問われます。会社の業務として行った不正行為であっても、実際に虚偽の書類を作成するなどの実行行為に関わった従業員は、詐欺罪の実行犯として刑事罰の対象となる可能性があります。また、会社に損害を与えたとして懲戒解雇されたり、会社から損害賠償を請求されたりすることもあります。上司からの違法な指示には従わず、社内のコンプライアンス窓口などに相談することが、自身の身を守るために必要です。

まとめ:不正受給のペナルティを理解し、早期の専門家相談で事業存続の道を探る

本記事では、交付金や補助金の不正受給がどのような行為を指すのか、そして発覚した場合に企業が直面するペナルティについて解説しました。不正受給は、補助金の全額返還と高率な延滞金、違約加算金という行政処分だけでなく、詐欺罪としての刑事罰や事業者名公表による社会的信用の失墜を招き、企業の存続そのものを脅かす極めて重大なコンプライアンス違反です。会計検査院の検査や内部告発など、発覚の経緯は多岐にわたります。もし自社の申請に少しでも不正の疑いがある場合は、決して問題を軽視したり隠蔽したりせず、速やかに弁護士などの外部専門家に相談し、客観的な事実調査を行うことが不可欠です。早期の自主的な報告と誠実な対応が、最終的なダメージを最小限に抑え、事業再生の可能性を残すための唯一の道筋となります。

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