人事労務

リスカ社の労基法違反から学ぶ時間外労働の上限規制と企業の労務管理

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同業他社の労働基準法違反に関するニュースは、自社の労務管理体制を見直す重要な契機となります。特に、人気商品「うまい棒」の製造元であるリスカ株式会社が長時間労働で書類送検された事例は、人手不足が深刻化する現代において、決して他人事ではありません。この記事では、リスカ社の事件を題材に、労働基準法における時間外労働の上限規制、違反が企業に与える経営リスク、そして法令を遵守するための具体的な労務管理体制について詳しく解説します。

リスカ株式会社の労働基準法違反事件の概要

事件の経緯と書類送検に至った背景

人気スナック菓子「うまい棒」の製造元であるリスカ株式会社が、組織的な長時間労働を常態化させていたとして、労働基準法違反の疑いで書類送検された事件です。書類送検とは、身柄を拘束せず、捜査書類などを検察官に送致する手続きを指します。

この背景には、深刻な人手不足がありました。同社は従業員が集まらないことを理由に、既存の従業員へ過重な負担を強いており、以前から労働基準監督署による是正指導を繰り返し受けていました。しかし、十分な改善策が講じられなかったため、最終的に刑事事件として立件される事態に至りました。この事例は、採用難が企業の法令遵守を困難にし、経営基盤を揺るがすリスクとなり得ることを示しています。

違反内容の詳細:月120時間を超える時間外労働の実態

具体的な違反は、2021年1月から11月にかけて、工場の従業員9名に対して行われました。同社は時間外労働を可能にする36(サブロク)協定を締結していましたが、協定で定めた上限を大幅に超える労働が実態でした。

調査により、過労死ライン(脳・心臓疾患の発症リスクが急激に高まる目安)を大幅に上回る、極めて過酷な労働環境が明らかになりました。

確認された主な違反状況
  • 36協定で定めた延長時間を大幅に超過していた
  • 1ヶ月の時間外労働が100時間を超えるケースが確認された
  • 2ヶ月から6ヶ月の平均で、1ヶ月あたりの時間外労働が80時間を超過していた
  • 中には、単月の時間外労働が120時間を超える従業員もいた

長年、低価格を維持してきた商品の裏側で、製造コスト抑制のために従業員の安全配慮義務が軽視されていた可能性が指摘されています。企業の利益追求と法令遵守のバランスが、改めて問われる事件となりました。

労働基準法における時間外労働の上限規制とは

時間外労働の原則的な上限時間(36協定の基本)

労働基準法は、労働時間の上限を1日8時間・週40時間(法定労働時間)と定めています。これを超えて時間外労働(残業)や休日労働を命じるには、労働者の過半数を代表する者との間で書面による協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

ただし、36協定を結んでも無制限に残業をさせることはできず、法律で原則的な上限が定められています。

36協定における時間外労働の原則上限
  • 1ヶ月:45時間以内
  • 1年間:360時間以内

この上限は、労働者の健康を守るための最も基本的な基準であり、すべての企業が遵守しなければなりません。

上限を超えるための「特別条項付き36協定」の要件

通常予見できない業務量の大幅な増加など、臨時的で特別な事情がある場合に限り、労使の合意のもとで原則の上限時間を超えることが認められます。これを特別条項付き36協定といいます。

特別条項を適用するには、単に「業務の都合上」といった曖昧な理由ではなく、下記の要件を満たす必要があります。

特別条項付き36協定の主な要件
  • 突発的な仕様変更や大規模クレーム対応など、臨時的で具体的な事情があること
  • 協定届に限度時間を超えて労働させる具体的な理由を記載すること
  • 時間外労働を行う労働者に対する健康確保措置(医師の面接指導など)を定めること
  • 限度時間を超える際の手続き(上長への申請・承認など)を定めること
  • 原則を超える時間外労働に対する割増賃金率(25%超が望ましい)を協定に含めること

特別条項はあくまで例外的な措置であり、恒常的な長時間労働の温床とならないよう、厳格な運用が求められます。

特別条項でも超えられない絶対的な上限と遵守事項

働き方改革関連法の施行により、特別条項付き36協定を締結した場合でも、罰則付きで超えられない絶対的な上限が設けられました。企業は以下のすべての基準を遵守する義務があります。

特別条項でも遵守すべき絶対的な上限規制
  • 時間外労働は年720時間以内でなければならない
  • 時間外労働と休日労働の合計は、単月で100時間未満でなければならない
  • 時間外労働と休日労働の合計は、2~6ヶ月のいずれの平均をとっても月80時間以内でなければならない
  • 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6回まででなければならない

これらの規制は、中小企業を含め、原則としてすべての事業者に適用されています。企業は従業員一人ひとりの労働時間を正確に把握し、これらの上限に抵触しないよう、厳格な管理体制を構築することが不可欠です。

労働基準法違反が企業に与える経営上のリスク

企業および責任者に科される刑事罰(罰金・懲役)

時間外労働の上限規制に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性があります。リスカ社の事件では、法人と社長個人にそれぞれ罰金10万円の略式命令が下されました。

労働基準法違反による刑事罰には、以下のようなリスクが伴います。

労働基準法違反による刑事罰のリスク
  • 両罰規定により、違反行為者だけでなく法人も処罰の対象となる
  • 略式命令であっても、刑事罰として前科が記録される
  • 罰金刑であっても、企業の信用情報に影響を及ぼす可能性がある
  • 役員の欠格事由に該当し、取締役などに就任できなくなる場合がある

金銭的な負担以上に、刑事事件として扱われることの経営上のダメージは計り知れません。

企業名公表による社会的信用の失墜とレピュテーションリスク

悪質な法令違反が認められた場合、厚生労働省や各都道府県労働局のウェブサイトで企業名が公表されることがあります。一度公表されると、情報はインターネット上で拡散され、「ブラック企業」というネガティブな評判(レピュテーション)が定着してしまいます。

これにより、企業は様々な経営上の不利益を被ります。

企業名公表がもたらす経営上のダメージ
  • 「ブラック企業」としてのブランドイメージ低下
  • 顧客や取引先からの信用失墜、契約解除や新規受注機会の損失
  • 優秀な人材の採用が極めて困難になる
  • 既存従業員のモチベーション低下や不信感による離職率の増加

失われた社会的信用を回復するには多大な時間とコストを要し、企業の存続そのものを危うくする重大なリスクとなります。

万が一是正勧告を受けた場合の初期対応と社内連携

労働基準監督署から是正勧告を受けた場合、迅速かつ誠実な対応が極めて重要です。是正勧告は行政指導であり、直ちに罰則はありませんが、無視したり虚偽の報告をしたりすると、送検されるリスクが格段に高まります。

是正勧告を受けた際は、以下のフローで対応を進める必要があります。

是正勧告を受けた際の対応フロー
  1. 勧告内容を正確に把握し、経営層や現場の管理職と情報を共有する。
  2. 指摘された違反事項に関する事実関係を迅速に調査する。
  3. なぜ違反が発生したのか根本原因を分析し、具体的な是正計画と再発防止策を策定する。
  4. 指定された期日までに、労働基準監督署へ是正報告書を提出する。
  5. 必要に応じて、弁護士や社会保険労務士などの外部専門家と連携して対応する。

真摯な対応姿勢は、監督署との信頼関係を維持し、司法処分を回避するための鍵となります。

長時間労働を防ぎ、法令を遵守するための労務管理体制

客観的な記録に基づく正確な労働時間管理の徹底

長時間労働を防ぐ第一歩は、従業員の労働時間を客観的な記録に基づいて正確に把握することです。自己申告制は、過少申告や改ざんのリスクがあり、実態と乖離しやすいため注意が必要です。

厚生労働省のガイドラインでも、客観的な方法による始業・終業時刻の確認と記録が求められています。

労働時間管理における客観的な記録方法の例
  • 使用者による現認(直接確認して記録する)
  • タイムカード
  • ICカードやIDカードによる入退室記録
  • パソコンの使用時間(ログイン・ログオフ記録)

クラウド型の勤怠管理システムなどを導入し、勤務実態をリアルタイムで可視化することが、適切な労務管理の基盤となります。また、労働関係の重要書類は5年間(当面は3年間)の保存義務があることも忘れてはなりません。

自社の36協定の内容と実態の乖離がないかの再点検

36協定は、一度届け出れば終わりではありません。協定の内容と、現場の労働実態が乖離していないかを定期的に点検する必要があります。協定で定めた上限を超えていれば、リスカ社の事例のように法律違反となります。

形骸化を防ぐため、以下の点を定期的にチェックすることが重要です。

36協定の定期的なチェックポイント
  • 協定で定めた上限時間を超える労働が常態化していないか
  • 労働者の過半数代表者の選出プロセスは民主的かつ適正に行われているか
  • 特別条項に記載された「臨時的な事情」が、恒常的な業務になっていないか
  • 協定の内容が、管理職や従業員に正しく周知・理解されているか

毎月の残業実績をモニタリングし、上限に近づいている従業員にアラートを出す仕組みの構築も有効です。

長時間労働の是正に向けた業務プロセスの見直し

労働時間を削減するには、単に残業を禁止するだけでなく、限られた時間で成果を出せるよう業務プロセスを効率化することが不可欠です。長時間労働が常態化している部署では、根本的な原因に目を向ける必要があります。

具体的な施策としては、以下のようなものが考えられます。

長時間労働是正のための具体的な施策例
  • 不要な会議の削減や社内書類の電子化・ペーパーレス化
  • RPA(Robotic Process Automation)などを活用した定型業務の自動化
  • 業務の属人化を防ぎ、複数担当者で対応できる体制(多能工化)の推進
  • 残業の事前許可制を導入し、上長が必要性を厳格に管理する
  • ノー残業デーの設定や、退勤から翌日の出勤まで一定の休息時間を確保する勤務間インターバル制度の導入

生産性の向上と労働時間の短縮を両輪で進めることが、企業の競争力維持と法令遵守を両立させる鍵となります。

「黙示の指示」による意図せぬ時間外労働の発生を防ぐには

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。これには、上司からの明確な残業命令だけでなく、残業せざるを得ない状況を作り出す「黙示の指示」による時間も含まれます。

意図せず違法な時間外労働を発生させないためにも、どのような状況が「黙示の指示」とみなされるか理解しておくことが重要です。

「黙示の指示」と判断されうる状況の例
  • 定時内に到底処理できない量の業務を指示する
  • 従業員が打刻後にサービス残業をしていることを知りながら放置(黙認)する
  • 業務に関する資料の作成や学習を、時間外に行うことを義務付けたり、推奨したりする
  • 上司が率先して長時間残業を行い、部下が帰りづらい雰囲気を作る

管理職は、部下の業務進捗を適切に把握し、定時内に終えられるよう業務量を調整するマネジメントが求められます。組織として、サービス残業を許さない文化を醸成し、労働時間と私的時間の境界を明確にすることが不可欠です。

まとめ:リスカ社の事例から学ぶ、長時間労働リスクと実践的な労務管理

リスカ株式会社の事例は、36協定で定めた上限を超える違法な長時間労働が、刑事罰や企業名公表といった深刻な経営リスクに直結することを明確に示しました。労働基準法には、特別条項付き36協定を締結しても超えられない罰則付きの絶対的な上限が定められており、その遵守は全企業の責務です。法令違反を防ぐためには、勤怠管理システム等による客観的な労働時間の把握を徹底し、36協定が形骸化していないか定期的に点検することが不可欠となります。さらに、業務プロセスの効率化や「黙示の指示」の防止など、長時間労働の根本原因に踏み込んだ対策を講じることが求められます。この事例を対岸の火事と捉えず、自社の労務管理体制を再点検し、従業員の健康と企業の持続的成長を守るための仕組みを再構築する機会とすることが重要です。

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