後継者不足が深刻な業種とは?原因とM&A等の解決策をデータで解説
後継者不足は、多くの日本企業が直面する喫緊の課題であり、その動向は業界の将来性やM&A戦略にも大きな影響を与えます。自社の持続的成長や新たな投資機会を探る上で、どの業種が特に深刻な状況にあるのかをデータに基づいて理解することは、的確な経営判断の第一歩と言えるでしょう。本記事では、後継者不在率の業種別ランキングやその背景、そして有効と考えられる対策について詳しく解説します。
後継者不足が深刻な業種ランキング
帝国データバンクの調査に見る「後継者不在率」の最新動向
帝国データバンクが全国約27万社を対象に実施した2023年版の調査によると、日本企業の後継者不在率は57.2%でした。この数値は調査開始以来、過去最低となり、7年連続で改善傾向にあります。
- 官民による相談窓口の周知や、各種支援策の拡充
- 地域金融機関による事業承継への取り組み強化
- 事業承継に対する経営者の意識変化
一方で、改善ペースは鈍化しており、様々な格差も浮き彫りになっています。特に企業規模による差は大きく、経営資源が限られる小規模企業では依然として後継者対策が難航しています。また、代表者の年齢別に見ると、創業間もない若手経営者の企業では後継者選定の緊急性が低い一方、80代以上の経営者でも約2割が未定であり、事業継続のリスクが懸念されます。
地域差も顕著で、三重県の不在率が33.9%と全国で最も低い一方、秋田県は73.7%と唯一70%を超える深刻な状況です。地方では若年層の都市部流出が経営人材の不足に拍車をかけており、今後は後継者の決定だけでなく、具体的な経営の引き継ぎを完遂させるための支援が重要と考えられます。
後継者不在率が高い主な業種とそれぞれの状況
業種別の後継者不在率を見ると、建設業が最も高く、サービス業がそれに続きます。一方で、製造業や金融・保険業は比較的低い水準にありますが、すべての業種で不在率が60%を下回ったのは調査開始以来初めてのことです。これは事業承継が進んだことに加え、後継者が見つからず廃業を選択した企業が増加した影響も考えられ、引き続き業種ごとの特性に応じた支援が求められます。
| 業種 | 後継者不在率 | 主な状況・課題 |
|---|---|---|
| 建設業 | 57.3% | 職人の高齢化や若手の入職者不足が構造的な課題となっている。 |
| サービス業 | 56.8% | 経営者個人のスキルや資格への依存度が高く、同等の能力を持つ後継者を見つけることが困難。 |
| 小売業 | 54.0% | 経営環境の変化や人手不足が深刻で、次世代へのバトンタッチが難航している。 |
| 製造業 | 42.4% | サプライチェーンへの影響を懸念した重点的な支援が奏功し、不在率は比較的低い。 |
| 金融・保険業 | 31.4% | 全業種の中で不在率が低く、承継に関する問題は比較的少ない。 |
業界を問わず後継者不足が起こる共通の背景
少子高齢化による担い手世代の絶対数の減少
日本の中小企業経営者の平均年齢は60歳を超え、高齢化が着実に進んでいます。その一方で、少子化の影響により、事業の担い手となる若年層の人口は減少を続けています。生産年齢人口は1995年をピークに右肩下がりであり、この人口動態の変化が、親族内だけでなく社内においても後継者候補の母集団を縮小させる決定的な要因となっています。
特に地方では都市部への人材流出が重なり、地域経済を支える企業の存続が危ぶまれています。経営者が70代を超えても後継者が決まっていない企業は3割近くにのぼり、準備期間を考えると事業承継が間に合わないリスクが高まっています。担い手世代の絶対数が不足する現状では、身内から後継者を探すという従来の方法には限界があり、より広い視野での人材確保が不可欠と考えられます。
働き方やキャリアに対する価値観の変化
若年層を中心に、仕事やキャリアに対する価値観が大きく変化していることも、後継者不足の背景にあります。家業を継ぐという選択肢が、個人の生き方や目標と必ずしも一致しなくなっています。
- 終身雇用や年功序列といった従来の雇用慣行の崩壊
- 一つの会社に縛られず、自身の専門性やスキルを重視するキャリア観の浸透
- 家業の承継よりも個人のライフスタイルや目標を優先する傾向
- ワークライフバランスを重視し、責任が重く長時間労働になりがちな経営職を敬遠する風潮
このような価値観の多様化を前提とし、後継者候補に対して企業の魅力や将来性を具体的に示せなければ、事業承継への合意を得ることはますます困難になると考えられます。
個人保証や負債の引き継ぎに対する心理的・経済的負担
事業承継における大きな障壁の一つが、経営者が会社の借入金に対して負う個人保証の問題です。後継者候補が承継をためらう理由の多くが、この個人保証の引き継ぎに関連しているとされています。事業を引き継ぐことは、現経営者が抱える多額の負債や責任を一身に背負うことを意味し、後継者にとって過大な心理的・経済的ストレスとなります。
事業に失敗すれば個人の資産まで失うリスクは、後継者の挑戦意欲を削ぎ、大胆な経営改革を躊躇させる原因にもなります。国は「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、保証なしでの融資を促進していますが、金融機関の現場での運用にはまだ課題が残っています。負債の整理や保証の解除といった具体的な道筋を事前に示さなければ、意欲ある後継者の確保は困難な状況が続くでしょう。
「後継者不在」が金融機関や取引先の評価に与える影響
後継者が決まっていないという事実は、金融機関や取引先からの信用評価を低下させる可能性があります。経営者の高齢化に伴い事業の継続性に懸念が生じると、融資や取引に悪影響が及ぶリスクがあります。
- 金融機関: 将来の事業継続性に不安が生じ、中長期的な融資に慎重になることで資金繰りが悪化する恐れがある。
- 取引先: サプライチェーンの断絶をリスクと捉え、取引の縮小や代替先の検討につながる可能性がある。
後継者を早期に確定させ、承継計画を社内外に示すことは、企業の持続可能性をアピールし、ステークホルダーからの信頼を維持するための重要な手段と考えられます。
【業種別】後継者不足を招く特有の原因と課題
建設業:職人の高齢化と若年層の入職者不足
建設業では、現場を支える職人の高齢化が極めて深刻です。全就業者のうち55歳以上が3割以上を占める一方、29歳以下の若手は1割強に過ぎず、世代交代が追いついていません。これは、長年の業界イメージや労働環境が若者に敬遠されてきたことが主な原因です。
- 「きつい、汚い、危険」という3Kのイメージが根強く、若年層に敬遠されがちである。
- 不安定な給与体系や長時間労働といった労働環境の改善が遅れている。
- 建設業法の許可要件(経営経験など)を満たす後継者の確保が困難である。
- 人材派遣が原則禁止されており、自社での人材育成が追いつかない。
熟練技能者の引退が進むことで、地域インフラの維持そのものが危うくなる恐れも指摘されています。
製造業:高度な技術承継の難しさと設備投資の負担
製造業では、特定の職人に依存した属人化された技術の承継が大きな課題です。マニュアル化が難しい「暗黙知」も多く、後継者が習得するには長い年月を要します。若者の製造業離れにより、技術を継承する人材が育たないままベテランが退職し、日本のものづくりを支えてきた現場力が失われる危機に瀕しています。
また、高度成長期に導入された生産設備の老朽化も承継を阻む一因です。事業継続には巨額の設備投資が必要ですが、その負担の重さから後継者が事業の将来性を見出せず、承継を断念するケースが少なくありません。原材料価格の高騰などが収益を圧迫し、成長戦略を描きにくいことも承継意欲を削いでいます。
宿泊・飲食業:労働集約型ビジネスと収益性の課題
宿泊業や飲食業は、慢性的な人手不足と低い利益率が常態化している労働集約型ビジネスです。特に地方の旅館などでは、経営者の高齢化と後継者不在が地域観光の衰退に直結しかねません。
- 人手不足が深刻で、需要が回復しても供給能力が追いつかない。
- 食材費や光熱費の高騰を価格に転嫁できず、収益性が低い。
- 脆弱な経営体力のまま多額の負債を引き継ぐことへの後継者の抵抗感が強い。
- 恒常的な長時間労働など、過酷な労働環境が現代の価値観と合わない。
運輸業:長時間労働の常態化と「2024年問題」の影響
運輸業では、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に上限が設けられた「2024年問題」により、輸送能力の不足が懸念されています。ドライバーの労働環境改善が目的である一方、売上や収入の減少というジレンマを抱えています。
この業界は、他産業に比べて労働時間が長く所得が低いという厳しい労働条件が続いており、若手の参入を阻んできました。ドライバーの高齢化が進む中、人手不足による供給制約は日本経済全体のリスクとなります。荷待ち時間の短縮や運賃の適正化といった商慣行の抜本的な改善が進まなければ、次世代の担い手を確保することは困難となるでしょう。
医療・福祉:開業医の高齢化と地域医療の担い手不足
医療分野では、特に地域医療を担う診療所の医師の高齢化が進んでいます。医師の平均年齢は60歳を超え、後継者が見つからずに閉院するクリニックが増加しています。かつては親族が跡を継ぐケースが一般的でしたが、近年は病院勤務を志向する若手医師が増え、個人経営のクリニックを承継する意欲が低下しています。
- 診療報酬改定への対応やスタッフ採用など、経営の複雑化
- 高度な医療機器の導入に伴う多額の設備投資
- 建物の老朽化に伴う改修費用の負担
地域における医療機関の閉院は、住民の生活に直結する重大な問題であり、第三者承継などを通じた地域医療の維持が急務と考えられます。
小売業:ECサイトとの競合激化と商店街の衰退
小売業は、ECサイト(電子商取引)の急速な普及により市場構造が大きく変化しました。特に地域密着型の小規模店舗は、価格競争や品揃えの面で大手やネット通販に苦戦を強いられています。商店街の衰退も深刻で、街全体の集客力が失われるという負のスパイラルに陥っています。
収益性の低さや将来への展望の欠如から、自身の代で廃業を選ぶ小規模な商店主は少なくありません。生き残りのためには、コミュニティ拠点としての機能を持たせるなどの付加価値創造が求められますが、デジタル化への対応の遅れが致命的な障壁となっています。ネット販売やSNS活用といった新しい手法を導入し、地域独自の価値を再定義できなければ、次世代の担い手を惹きつけることは困難となるでしょう。
農林水産業:従事者の高齢化と不安定な収入構造
農林水産業は、全産業の中で最も高齢化が深刻な分野の一つです。基幹的農業従事者の平均年齢は68.7歳に達し、70歳以上が過半数を占める一方、若手は1割程度に過ぎません。このままでは日本の食料自給率の維持自体が困難になる可能性があります。
後継者不足の主な原因は、労働の過酷さに見合わない不安定な収入構造です。天候に左右されやすく、初期投資も大きいことから、若者の新規参入を阻んでいます。生産性向上のためには、法人の参入促進や農地の大規模化、スマート農業の導入などが不可欠です。6次産業化などを通じて収益構造を改善し、魅力ある産業へと転換することが、担い手確保の鍵となるでしょう。
後継者不足問題に対する主な解決策
親族内承継:従来の事業承継モデルの現状と課題
親族内承継は、経営者の子どもなどが事業を引き継ぐ伝統的な手法です。経営理念や企業文化が自然に継承され、従業員や取引先にも安心感を与えやすいという利点があります。
しかし、価値観の多様化により、後継者候補が承継を辞退するケースが増加しています。また、相続税や贈与税の負担も大きな課題です。特に優良企業の自社株は評価額が高く、後継者が納税資金を準備できずに承継が頓挫するリスクがあります。事業承継税制などの公的制度を活用した長期的な計画策定と、後継者の意欲を引き出すための丁寧なコミュニケーションが不可欠と考えられます。
従業員承継(EBO/MBO):内部人材による事業の継続
親族内に適任者がいない場合、長年会社を支えてきた役員や従業員に事業を託す社内承継が有効な選択肢となります。経営陣が株式を取得するMBO(マネジメント・バイアウト)や、従業員が取得するEBO(エンプロイー・バイアウト)といった手法があります。
社内事情に精通した人材が後を継ぐため、経営の連続性を保ちやすく、組織の混乱を最小限に抑えられる点がメリットです。しかし、最大の課題は後継者の資金調達です。株式を買い取るための資金を個人で用意できるケースは稀なため、金融機関からの融資やファンドの支援が必要となるでしょう。現経営者の個人保証の引き継ぎも心理的な障壁となるため、公的な保証制度などを活用し、負担を軽減する対策が求められるでしょう。
M&Aによる第三者承継:外部の資本・人材の活用
親族や社内に後継者が見つからない場合、他社への売却や統合を行うM&A(合併・買収)による第三者承継が有力な解決策となります。M&Aは、企業の存続と成長を目指すための積極的な経営戦略として広く認知されています。
買い手企業の資本力や販路、技術などを活用することで、事業の成長が期待できるだけでなく、創業者利益を確保して引退することも可能となるでしょう。成功の鍵は、自社の強みを客観的に評価し、相乗効果(シナジー)を生み出せる相手を選ぶことが重要と考えられます。ただし、統合後に企業文化が合わず、従業員の離職などを招くリスクもあるため、事前の丁寧なすり合わせと、従業員の雇用維持などに関する明確な合意が重要です。
事業承継マッチングプラットフォームの活用と選び方
近年、インターネット上で譲渡希望企業と譲受希望者を結びつけるマッチングプラットフォームが普及しています。地理的な制約なく、全国から最適な承継先を効率的に探せる点が大きなメリットです。
- 登録されている案件の質と数が豊富か
- 専門アドバイザーによるサポート体制が充実しているか
- 企業価値の簡易診断など、実務に役立つ機能があるか
- 情報の秘匿性やセキュリティ対策が十分に講じられているか
- 手数料体系が自社の予算や希望するサポート範囲と合っているか
公的な相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」と連携しているサービスもあり、複数の手段を組み合わせて活用することが成約率を高める鍵となるでしょう。
M&Aによる承継で陥りやすい失敗と回避策
第三者承継を成功させるためには、典型的な失敗パターンとその回避策を理解しておくことが重要です。
| 失敗例 | 回避策 |
|---|---|
| 簿外債務や訴訟リスクなど、事前の調査で把握できなかった問題が買収後に発覚する。 | デューデリジェンス(詳細な事前調査)を徹底し、法務・財務・税務などの潜在的リスクを洗い出す。 |
| 現経営者が譲渡価格に固執し、適正な市場価格から乖離したため交渉が決裂する。 | 専門家による客観的な企業価値評価を受け入れ、柔軟な姿勢で交渉に臨む。 |
| 従業員への説明不足や情報漏洩により、社内に不信感が広がり主要人材が離職する。 | 適切なタイミングで段階的に情報開示を行い、従業員と誠実な対話を重ねて安心を確保する。 |
国や自治体による事業承継支援の取り組み
事業承継・引継ぎ補助金制度の概要と対象
事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業の事業承継やM&Aを支援するための国の制度です。承継後の新たな取り組みにかかる費用や、M&Aの専門家への報酬、廃業にかかる費用など、幅広い経費が補助対象となります。
この制度は、後継者が前向きに新たなスタートを切れる環境を整えることを目的としています。対象となるのは、一定の要件を満たす法人および個人事業主で、親族内承継だけでなく第三者承継も含まれます。審査では事業計画の実現可能性が重視されるため、専門家と相談しながら計画を練り上げることが重要ですす。公募期間が限られているため、早期の準備が求められます。
事業承継・引継ぎ支援センターの役割と相談内容
事業承継・引継ぎ支援センターは、国が全国47都道府県に設置している公的な相談窓口です。後継者不在に悩む中小企業の経営者などに対し、専門家が中立的な立場で無料の相談に応じています。
- 事業承継に関する初期的な相談対応
- 親族内承継や社内承継に向けた課題整理と計画策定の支援
- 独自のネットワークを活用した第三者へのマッチング支援(後継者人材バンク)
- M&Aの手続きに関するアドバイスや専門家の紹介
公的機関であるため秘密が厳守され、安心して相談できる最初の窓口として多くの経営者に利用されています。
税負担を軽減する事業承継税制の活用
事業承継税制は、後継者が会社の株式などを取得した際にかかる贈与税や相続税の納税を猶予または免除する制度です。特に、期間限定の「特例措置」を活用すれば、税負担を実質的にゼロにすることも可能で、円滑な事業承継を強力に後押しします。
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 対象株式数 | 発行済み株式総数の3分の2まで | 全株式 |
| 納税猶予割合 | 贈与: 100%、相続: 80% | 贈与・相続ともに100% |
| 後継者の人数 | 1人のみ | 最大3人まで |
| 雇用確保要件 | 承継後5年間、平均8割の雇用維持が必須 | 8割未達でも理由報告書提出で猶予継続が可能 |
| 事前の計画策定 | 不要 | 「特例承継計画」の提出が必要 |
| 適用期限 | なし | 令和9年(2027年)12月31日までの承継が対象 |
制度の適用には、都道府県への計画提出や承継後の雇用維持など、複数の要件を満たす必要があります。制度が複雑なため、税理士などの専門家と連携し、計画的に手続きを進めることが成功の鍵となるでしょう。
まとめ:後継者不足の現状をデータで理解し、最適な承継戦略を描く
後継者不足の現状を、業種別ランキングやその背景、具体的な解決策を通して解説しました。帝国データバンクの調査では全体的な不在率は改善しつつも、建設業やサービス業では依然として高く、企業規模や地域による格差も浮き彫りになっています。この問題の根底には、人口動態の変化や価値観の多様化、個人保証といった複合的な要因が存在します。自社や関連業界の将来を見据える上で、M&Aや事業承継プラットフォーム、国の補助金といった多様な選択肢を理解し、専門家と連携しながら早めに対策を講じることが、持続的な成長への鍵となるでしょう。

