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借地権の減損会計|判定フローから仕訳まで実務を解説

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事業環境の変化に伴い、保有する借地権の資産価値が低下し、会計上の評価に悩まされている経営者や経理担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。投資額の回収が見込めなくなった場合、財務諸表の信頼性を確保するために「減損会計」の適用を検討する必要があります。この記事では、借地権が減損会計の対象となるかの基本的な考え方から、具体的な判定フロー、仕訳例、監査対応のポイントまでを実務に沿って解説します。

借地権は減損会計の対象か?基本的な考え方

減損会計の対象資産としての借地権の位置づけ

減損会計とは、企業が保有する固定資産の収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に、帳簿価額を実態に合わせて引き下げる会計処理です。借地権は、建物の所有を目的として土地を借りる権利であり、会計上は無形固定資産として扱われます。したがって、建物や機械装置などの有形固定資産と同様に、減損会計の適用対象となります。

企業が権利金などを支払って取得した借地権は、その土地の利用を通じて得られる将来の収益によって投資額を回収することが前提です。しかし、事業環境の変化などにより当初の収益計画が達成できなくなった場合、その経済的価値を再評価し、帳簿価額が回収可能価額を上回っていれば減損損失を計上する必要があります。

土地(所有権)の減損と借地権の減損の主な相違点

土地の所有権と借地権は、ともに不動産に関する資産ですが、減損会計における評価の観点が異なります。土地の所有権が資産そのものの市場価格を重視するのに対し、借地権は土地を利用する権利としての価値を多角的に評価します。

項目 土地(所有権) 借地権
資産分類 有形固定資産(非償却資産) 無形固定資産
評価の主な要因 市場価格(地価)の変動 地価変動、地代水準、契約条件
価値の本質 資産そのものの交換価値(売却価値) 契約期間を通じた土地の利用価値
特有のリスク 地価の著しい下落 地代負担の増加、契約更新の不確実性など
土地(所有権)と借地権の減損評価における相違点

借地権の価値は、単なる地価だけでなく、周辺相場と比較して地代が割安であることによる経済的利益(いわゆる「借り得」)も含まれます。そのため、地価の下落や事業収益性の悪化によって地代負担が相対的に重くなった場合に、借地権特有の減損リスクが顕在化します。

借地契約の種類(普通・定期)が減損評価に与える影響

借地契約の種類は、減損損失を算定する際の将来キャッシュ・フローの見積期間に直接影響します。契約形態によって権利の存続期間が異なるため、評価の前提が変わります。

項目 普通借地権 定期借地権
契約の性質 借地人の希望により原則として更新され、半永久的な利用が可能 契約期間の満了とともに権利が消滅し、更新されない
将来CFの見積期間 実務上、主要な資産(建物など)の経済的残存使用年数を基に、おおむね最長20年程度で評価されることが多い 契約の残存期間に限定される
特有の留意点 長期的な視点での収益性評価が必要 期間満了時の原状回復費用(建物解体費など)も考慮する必要がある
借地契約の種類と減損評価への影響

普通借地権は長期的な利用が前提となる一方、定期借地権は定められた期間内に投資を回収できるかが厳密に問われるため、より慎重な収益性の評価が求められます。

借地権における減損判定の具体的なフロー

ステップ1:資産のグルーピング(借地権と建物を一体で評価)

減損判定の最初のステップは、対象となる資産を適切な単位にまとめる資産のグルーピングです。減損会計は、他の資産から概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行います。

借地権はそれ単独では収益を生まないため、その土地上の建物や設備などと一体となって初めてキャッシュ・フローを創出します。したがって、実務上は借地権を単独で評価するのではなく、その土地で事業を行う店舗や工場といった資産グループ全体で減損の判定を行います。これにより、事業全体の収益性と照らし合わせながら、投資の回収可能性を判断します。

ステップ2:減損の兆候の把握(地価下落・収益性低下の具体例)

次に、資産グループに減損が生じている可能性を示す事象である減損の兆候があるかどうかを確認します。以下に挙げるような兆候が認められた場合、次のステップに進みます。

主な減損の兆候の例
  • 資産グループから生じる営業損益やキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっている
  • 資産グループが使用されている土地の市場価格が、帳簿価額からおおむね50%程度以上下落した
  • 事業の廃止や再編、設備の陳腐化など、資産の使用方法に重大な変化が生じた、または生じる見込みである
  • 地代の大幅な値上げ要求や契約更新の困難化など、借地権の収益性を著しく低下させる事象が発生した

ステップ3:減損損失の認識判定(帳簿価額と割引前将来CFの比較)

減損の兆候が認められた場合、実際に減損損失を計上すべきかを判断する認識判定を行います。この段階では、資産グループの帳簿価額と、その資産グループから将来得られると見込まれる割引前の将来キャッシュ・フローの総額を比較します。

この比較の結果、将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に、投資額の回収が不可能であると判断し、減損損失を認識することが確定します。この時点ではキャッシュ・フローの時間価値を考慮しない(割引計算をしない)ことで、減損の存在が確実かどうかを客観的に判定します。

ステップ4:減損損失の測定(回収可能価額の算定)

減損損失を認識することが決まったら、最後に損失額を具体的に計算する測定のステップに移ります。減損損失の金額は、「帳簿価額」から「回収可能価額」を差し引いて算定します。

回収可能価額とは、「正味売却価額(資産を売却して得られる金額)」と「使用価値(資産を使い続けて得られる金額)」のいずれか高い方の金額を指します。正味売却価額は時価から処分費用を控除して算出し、使用価値は将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて算出します。算定された減損損失額は、資産グループを構成する各資産(借地権、建物など)の帳簿価額に応じて配分されます。

借地権の減損における会計処理と仕訳例

減損損失の計上と貸借対照表への影響

測定された減損損失は、発生した期の特別損失として損益計算書に計上します。これは、減損が経常的な事業活動から生じる費用ではなく、資産の収益性が著しく低下したことによる臨時的な損失と位置づけられるためです。

貸借対照表では、減損損失の金額だけ、借地権の帳簿価額を直接減額する直接控除方式が一般的です。この処理により、資産の評価額が将来の回収見込額を反映した適正な水準に修正され、財務諸表の信頼性が確保されます。また、減損処理後の帳簿価額を基に翌期以降の償却計算が行われるため、将来の費用負担が軽減される効果もあります。

【具体例】借地権の減損損失を計上する際の仕訳

例えば、帳簿価額が5,000万円の借地権について、回収可能価額が3,000万円と算定された場合、差額の2,000万円を減損損失として計上します。会計処理には、資産を直接減額する方法(直接控除方式)と、評価勘定を用いる方法(間接控除方式)があります。

直接控除方式の場合、仕訳は以下のようになります。 借方には費用勘定である「減損損失」、貸方には資産勘定である「借地権」を記載し、資産の帳簿価額を直接引き下げます。

借方 金額 貸方 金額
減損損失 20,000,000円 借地権 20,000,000円
減損損失の仕訳例(直接控除方式)

この仕訳により、借地権の帳簿価額は実態に即した3,000万円に修正されます。

減損処理後の監査対応と準備すべき資料のポイント

減損処理を行った場合、会計監査ではその判断の合理性や算定根拠の妥当性が厳しく検証されます。特に、見積り要素が強い減損会計においては、客観的な証拠資料を準備することが極めて重要です。

監査で準備すべき主な資料
  • 外部の不動産鑑定士による鑑定評価書や、その算定根拠
  • 地価公示、路線価、固定資産税評価額など、市場価格の根拠となる客観的データ
  • 将来キャッシュ・フローの見積りの基礎となった中期経営計画や事業計画書
  • 減損の認識や測定に関する意思決定プロセスを示す取締役会議事録などの記録

【補足】日本基準とIFRSにおける借地権の扱いの違い

日本基準における借地権(有形固定資産)の減損処理

日本の会計基準では、減損処理の適用にあたり慎重な判断を促す仕組みが採用されています。また、一度行った減損処理は覆さないという保守的な立場を取っている点が特徴です。

日本基準における減損処理の特徴
  • 減損の判定は「兆候の把握」と「認識判定」の二段階方式を採用する
  • 安易な減損計上を抑制し、客観的な事実に基づいた慎重な判断を促す仕組みとなっている
  • 一度計上した減損損失は、将来資産価値が回復しても戻し入れを一切認めない
  • 会計処理の保守性を重視し、財務諸表の安定性を確保する考え方に基づいている

IFRSにおける使用権資産としての減損の考え方

IFRS(国際財務報告基準)では、借地権を含むリース契約は資産を使用する権利である使用権資産として計上されます。減損の考え方も、日本基準とは大きく異なります。

IFRSにおける減損処理の特徴
  • 減損の判定は、帳簿価額と回収可能価額を直接比較する一段階方式である
  • 減損の兆候があれば直ちに減損テストを行うため、日本基準よりも早期に減損が認識される傾向がある
  • 資産の収益性が回復したことを示す兆候がある場合、のれん等の一部を除き、減損損失の戻し入れが認められる
  • 資産価値の変動をよりタイムリーに財務諸表へ反映させることを重視している

借地権の減損会計に関するよくある質問

借地権の更新料や権利金は、減損の計算にどう影響しますか?

借地契約の締結時に支払う権利金や、契約更新時に支払う更新料は、借地権の取得価額を構成する要素として資産計上されます。これらは減損判定の基準となる帳簿価額に含まれます。

したがって、高額な権利金や更新料を支払っている場合、その分だけ帳簿価額が高くなり、回収すべき投資額のハードルが上がります。事業の収益性が低下した際には、これらの投資額を将来のキャッシュ・フローで回収できるかどうかが厳しく問われるため、減損損失が発生しやすくなる要因となります。

一度計上した減損損失は、将来地価が回復した場合に戻し入れできますか?

減損損失の戻し入れの可否は、適用する会計基準によって結論が異なります。

会計基準 戻し入れの可否 理由・考え方
日本基準 不可 会計処理の保守性と安定性を重視するため。減損後の価額が新たな取得原価となる。
IFRS 可能(のれん等を除く) 資産価値の回復を財務諸表に反映させ、より実態に近い情報を提供するため。
減損損失の戻し入れに関する会計基準の違い

このように、日本基準では一度切り下げた資産価値を元に戻すことはできませんが、IFRSでは資産価値の回復を財務諸表に反映させることが求められます。自社が採用している会計基準を正しく理解しておくことが重要です。

まとめ:借地権の減損は実態に合わせた適切な評価が不可欠

本記事では、借地権の減損会計に関する基本的な考え方から具体的な判定フロー、会計処理までを網羅的に解説しました。借地権は無形固定資産として減損の対象となり、単体ではなく土地上の建物などと一体の「資産グループ」として収益性を評価するのが実務の基本です。地価の著しい下落や事業収益の悪化といった「減損の兆候」を客観的に把握し、段階的なフローを経て損失額を算定します。

この会計処理は、資産の経済的な実態を財務諸表に正しく反映させ、企業の財政状態を適正に報告するために不可欠な手続きです。まずは自社の資産グループが減損の兆候に該当しないかを確認し、必要であれば不動産鑑定士などの専門家の助言も得ながら、慎重に検討を進めることが重要です。

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