不当な損害賠償請求をされた際の対応法|初期対応から交渉・法的手続きまで
突然、顧客や取引先から根拠が不明瞭な、あるいは過大と思われる損害賠償を請求され、どう対応すべきか戸惑っていませんか。法的な知識が乏しい中で動揺し、安易に要求に応じたり、逆に無視を決め込んだりすると、本来負う必要のない責任を負わされるなど、事態をさらに悪化させる危険性があります。この記事では、不当な損害賠償請求を受けた際の具体的な初期対応から、請求の妥当性を判断する法的チェックポイント、交渉の進め方、そして専門家へ相談するタイミングまで、一連の対応フローを体系的に解説します。
損害賠償請求を受けたらまず行うべき初期対応
冷静に請求書面の内容を確認し、証拠として保管する
損害賠償請求の通知が届いた際は、まず感情的にならず、書面の内容を客観的に把握することが重要です。書面に記載されている以下の項目を一つずつ確認し、自社の認識と相違がないか精査します。
- 請求者の氏名・住所
- 請求の根拠となる事実関係
- 具体的な損害額とその内訳
- 支払いを求める期限
送られてきた封筒や書面一式は、今後の交渉や裁判において極めて重要な証拠となります。特に、封筒の消印は通知が発送された日付を証明する公的な記録であり、時効の計算などに影響を及ぼすため、必ず原本を保管してください。
書面が内容証明郵便で届いた場合、郵便局がその内容を公的に証明しているため、無視すると相手方の主張に対する反論の機会を失い、早期に訴訟へ発展するリスクが高まります。届いた資料はコピーを取った上で、原本は汚損しないよう厳重に保管しましょう。デジタルデータの場合も、受信日時がわかる形で保存し、サーバーから削除しないよう注意が必要です。初期段階での証拠保全が、後の法的手続きで自社の主張を守るための礎となります。
その場での安易な回答や支払いの約束は避ける
請求者やその代理人と接触した際、最も避けるべきはその場での安易な回答です。相手方は早期解決を迫り心理的な圧力をかけてくることがありますが、法的な根拠や事実関係が不明確な段階で、不用意な発言をしてはいけません。
- 根拠が不明確な段階での謝罪
- 支払いを約束する発言
- 非を認めるような言動
安易に非を認める発言は、法律上の「債務の承認」とみなされ、本来主張できたはずの反論の機会を失う恐れがあります。一度支払いを約束すると、法的に撤回することは非常に困難です。交渉の場では、「社内で事実関係を調査し、検討した上で後日回答します」と丁寧に伝え、回答を保留する姿勢を貫いてください。また、請求額の一部であっても支払いに応じることは、請求全体の正当性を認めたと解釈されかねないため、極めて慎重に行うべきです。冷静な対応が、自社の利益を守ることに直結します。
今後の連絡窓口を一本化し、やり取りを記録する
損害賠償請求への対応は、組織として一貫性を持たせることが不可欠です。複数の担当者が個別に相手方と接触すると、発言に食い違いが生じ、相手に交渉を有利に進める隙を与えてしまいます。これを防ぐため、法務部門や特定の責任者に連絡窓口を一本化し、他の従業員が直接対応しないよう徹底します。
また、相手方とのやり取りは、その形式を問わずすべて記録に残してください。後の紛争を避けるため、以下の対応を徹底します。
- 電話での会話:可能な限り録音する
- 対面での交渉:日時、場所、出席者、発言内容を詳細に記した議事録を作成する
- メールや書面:送受信の履歴を含め、すべて時系列で整理・保管する
これらの記録は、交渉の経緯を証明するだけでなく、万が一裁判に発展した際に、相手方の主張の矛盾を指摘する強力な武器となります。情報を一元管理し、正確な記録を積み重ねることが、不当な請求から会社を守るための第一歩です。
社内関係部署への報告と連携体制の構築
請求内容が特定の事業部門に関連する場合、その部署が持つ現場の情報を迅速に集約するため、社内の連携体制を構築することが重要です。担当部署の責任者は、当時の経緯や関連資料(業務日報、契約書、決済書類など)を速やかに法務部門へ共有しなければなりません。各部署が個別に対応するのではなく、事実を把握する現場と、法的な判断を下す管理部門が密に連携することで、事実に即した強固な防御態勢を築くことができます。
また、経営陣への早期報告も不可欠です。損害賠償請求は、企業の財務や信用に直結する重大なリスク事案です。経営トップが事態を正確に把握し、対応方針を承認することで、組織として一貫した行動を取ることが可能になります。
事業で加入している損害保険の適用可否を確認
事業活動における賠償責任に備え、多くの企業が損害保険に加入しています。損害賠償請求を受けたら、速やかに保険会社や代理店に連絡し、保険適用の可否を確認してください。施設賠償責任保険や専門職業賠償責任保険などが適用される場合、賠償金だけでなく、弁護士費用なども保険で賄えることがあります。
保険約款には、事故発生後の通知義務が定められているのが一般的です。報告が遅れると、保険金支払いが制限されたり、受け取れなくなったりするリスクがあるため、請求を受けたらすぐに相談することが極めて重要です。
請求の「不当性」を判断するための法的チェックポイント
請求に法的な根拠はあるか(契約違反・不法行為など)
損害賠償請求が法的に認められるには、明確な法的根拠が必要です。その根拠は、主に「債務不履行」と「不法行為」の二つに大別されます。
| 種類 | 概要 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 債務不履行 | 契約で定めた義務を正当な理由なく果たさないこと | 契約書の該当条項、契約上の義務の範囲 |
| 不法行為 | 故意または過失によって他人の権利や利益を違法に侵害すること | 行為の違法性、加害者の故意・過失の有無 |
請求の根拠とされる行為がこれらの要件を満たしているか、あるいは請求者が主張する事実自体が虚偽でないかを厳密に検討します。また、請求権が消滅時効にかかっていないかも重要なチェックポイントです。例えば、不法行為の場合は損害および加害者を知った時から3年(人の生命・身体の侵害は5年)、債務不履行の場合は権利を行使できると知った時から5年が一般的な時効期間となります。法的根拠が欠けている請求に対しては、その点を明確に指摘し、毅然と支払いを拒絶する必要があります。
自社の行為と相手方の損害に因果関係は認められるか
損害賠償責任が成立するためには、自社の行為と相手方の損害との間に「相当因果関係」が認められる必要があります。これは、社会通念上、その行為があれば通常その損害が発生するといえる関係を指し、単なる時間的な前後関係だけでは不十分です。
因果関係の有無を判断する際は、まず「もし自社の行為がなかったとしても、同じ損害は発生したのではないか」という視点で検討します。もしそうであれば、因果関係は否定されます。
また、損害の発生や拡大に相手方自身の落ち度(不注意など)が影響している場合、その割合に応じて賠償額を減額することができます。これを「過失相殺」と呼びます。不当な請求の中には、自社の些細なミスと、市場環境の変化や相手方自身の不手際による大きな損害とを無理に結びつけようとするものも少なくありません。損害発生の背景を多角的に分析し、自社の行為が決定的な原因ではないことを証拠に基づいて立証することが重要です。
請求されている損害額は客観的に見て妥当か
損害賠償は、実際に生じた損害を補填することが目的であり、不当に利益を得るための制度ではありません。請求された損害額の算定根拠が客観的かつ合理的であるかを精査する必要があります。
損害は、性質によって主に以下の3つに分類されます。それぞれの妥当性を慎重に検証します。
- 積極損害:治療費や修理費など、実際に支出した費用。領収書や見積書の内容が過剰でないかを確認する。
- 消極損害(逸失利益):本来得られたはずの利益。過去の実績など合理的な根拠に基づいているか、希望的観測でないかを確認する。
- 慰謝料:精神的苦痛に対する賠償。過去の裁判例から形成された相場を大きく逸脱していないかを確認する。
法人の場合、原則として慰謝料は認められにくい傾向にあります。相手方から提示された計算の内訳を一つずつ検証し、法的に認められる損害の範囲を超えた部分については、その根拠の提示を求め、毅然と反論することが不可欠です。
注意すべき不当な損害賠償請求の典型的なケース
顧客からの過剰なクレームに基づく請求
商品やサービスの些細な不備を理由に、社会通念を逸脱した要求を行うケースで、いわゆるカスタマーハラスメントに該当する場合があります。このような請求には、以下のような特徴が見られます。
- 商品代金を超える法外な金額の慰謝料を要求する
- 担当者の解雇や土下座といった人格を否定する謝罪を強要する
- 暴力的な言動や威圧的な態度で長時間にわたり担当者を拘束する
たとえ自社に非があったとしても、その解決手段として常軌を逸した要求が行われる場合、その請求は不当要求とみなされます。一度でも安易に応じると、さらなる要求を招く悪循環に陥る危険があるため、社内で対応マニュアルを整備し、一定のラインを超えた要求には組織として毅然と対応を打ち切る体制を整えておくことが重要です。
取引先からの契約範囲を超えた一方的な請求
ビジネス上の力関係を利用し、契約書に定めのない義務を一方的に押し付けてくるケースです。例えば、自社の業績不振を取引先のせいにして、直接関係のない営業損失まで賠償させようとしたり、口頭での仕様変更指示に伴う追加コストを認めずに、逆に納期遅延のペナルティを課してきたりする事例が典型です。これらの請求に対しては、まず締結済みの契約書に立ち返り、合意した責任の範囲を明確に主張することが基本となります。契約の解釈を自社に都合よく歪めるような要求は、優越的地位の濫用として独占禁止法などに抵触する可能性もあります。取引関係を維持しつつも、法的な一線を越えた要求には書面で論理的に反論することが不可欠です。
具体的な証拠が不十分なまま行われる請求
損害が発生したと主張するものの、それを客観的に裏付ける証拠が提示されない、あるいは極めて不十分な請求には注意が必要です。損害賠償請求の原則では、損害の発生、損害額、そして自社の行為との因果関係を立証する責任は請求側にあります。証拠の提示がない、または提示された資料が主張を裏付けるに足りない場合、こちらから安易に事実関係を認める必要はありません。まずは相手方に対し、請求の根拠となる具体的な証拠を開示するよう求めることが、不当な言いがかりを退けるための有効な第一歩となります。
請求に対する具体的な反論・交渉の進め方
交渉の前に事実関係と証拠を整理する
反論や交渉を始める前の準備が、その後の成否を大きく左右します。以下の手順で、自社の主張の土台を固めます。
- 関係者へのヒアリング:事案に関与した従業員から、当時の状況や対応について多角的に聴取し、事実関係を時系列で整理します。
- 関連証拠の収集:契約書やメールはもちろん、社内システムのログや業務日報など、関連するあらゆる証拠を網羅的に収集します。
- 証拠の分析と整理:収集した証拠を分析し、相手方の主張を覆す証拠と、自社に不利な事実を客観的に整理・分類します。
自社にとって不都合な事実も隠さず洗い出すことで、リスクを正確に把握し、より現実的な交渉戦略を立てることができます。この準備を徹底することが、冷静かつ力強い交渉の基盤となります。
回答書を作成し、こちらの見解を明確に伝える
準備が整ったら、相手方に対して回答書を送付し、自社の見解を正式に伝えます。回答書は、感情的な反論ではなく、整理した事実と法的根拠に基づく論理的な構成で作成する必要があります。
- 相手方の主張する事実関係のうち、認める点と認めない点を明確に区別する
- 事実と異なる部分については、証拠を引用しつつ具体的に反論する
- 法的な見解として、賠償義務が発生しない根拠(因果関係の不存在など)を説明する
- 消滅時効の完成や過失相殺など、自社に有利な法的抗弁を主張する
回答書は、後に重要な証拠となるため、弁護士などの専門家に事前に内容を確認してもらうことが推奨されます。毅然とした態度で自社の正当性を伝えることで、相手方に安易な要求が通用しないことを示し、交渉の主導権を握ることが目的です。
内容証明郵便を利用して反論する際のポイントと注意点
反論の意思をより強く、かつ公的に示すためには内容証明郵便の利用が有効です。これは、いつ、どのような内容の文書を誰から誰へ送ったかを郵便局が証明する制度で、送付した事実と内容が法的な証拠として残ります。
- メリット:相手方に心理的なプレッシャーを与え、本気で争う姿勢を示すことができる。通知が確実に相手方に届いたことを証明できる。
- 注意点:記載内容がそのまま証拠として残るため、自社に不利な事実を認めるような表現は絶対に使わない。形式(字数・行数)に厳格なルールがある。相手を過度に刺激し、交渉の余地をなくしてしまうリスクもある。
内容証明郵便は強力な手段ですが、使い方を誤ると自らを不利にする諸刃の剣にもなります。送付するタイミングや文面については、法務部門や弁護士と慎重に検討することが不可欠です。
請求に一部正当性がある場合の減額交渉の進め方
調査の結果、自社に一定の責任があり、賠償義務自体を否定することが困難な場合は、支払額を適正な範囲に抑えるための減額交渉に焦点を移します。交渉の際は、感情論を排し、以下の点を軸に論理的に進めます。
- 相手方に損害額の算定根拠を詳細に開示させ、客観性に欠ける部分を指摘する
- 損害の発生・拡大に相手方の落ち度もある場合、「過失相殺」を主張して減額を求める
- 逸失利益の計算が過大であるなど、法的に認められない損害項目を特定し、除外を求める
- 支払い方法について、分割払いや将来の取引条件での調整など、柔軟な解決策を提案する
自社の非を認める範囲を明確にした上で、誠実に解決を目指す姿勢を示すことが、相手方の譲歩を引き出す鍵となります。目標は、法的な相場に照らして不当な支払いを回避し、事業へのダメージを最小限に食い止めることです。
損害賠償請求を無視した場合に起こりうるリスク
支払督促の申立てと仮執行宣言のリスク
請求を無視し続けると、相手方は裁判所を通じて支払督促という簡易な手続きを申し立ててくる可能性があります。これは書類審査のみで裁判所が支払いを命じるもので、この通知を受け取ってから2週間以内に異議を申し立てないと、相手方の請求が全面的に認められ、財産を差し押さえることが可能になる「仮執行宣言」が付されてしまいます。請求に身に覚えがなくても、裁判所からの通知を無視することは、自ら反論の機会を放棄する行為に等しく、極めて危険です。
民事訴訟を提起され、裁判に出廷する必要が生じる
相手方が支払督促ではなく、最初から民事訴訟(裁判)を提起してくることもあります。裁判所から訴状が届いたにもかかわらず、指定された期日に出廷せず、反論を記した「答弁書」も提出しない場合、相手方の主張をすべて認めたとみなされ、敗訴判決(欠席判決)が下されます。一度確定した判決を覆すことは非常に困難です。訴訟対応には時間と労力がかかりますが、放置することは最悪の選択であり、必ず法廷で適切に反論しなければなりません。
敗訴判決による強制執行(財産の差押えなど)
裁判で敗訴が確定したり、支払督促に異議を申し立てなかったりすると、相手方は判決などを基に強制執行を申し立て、合法的に財産を差し押さえることができます。
- 銀行の預金口座
- 取引先に対する売掛金
- 本社ビルや工場などの不動産
- 社用車や什器備品などの動産
特に売掛金が差し押さえられると、取引先に自社のトラブルが知れ渡り、信用が失墜する致命的な事態に陥ります。請求を無視した結果、事業の存続そのものを脅かすほどの甚大なダメージを受けることになるため、強制執行に至る前に必ず対応しなければなりません。
弁護士への相談・依頼を検討すべきタイミングとメリット
弁護士に相談すべき具体的なタイミングとは
損害賠償トラブルは、初期対応の巧拙が結果を大きく左右します。専門家である弁護士への相談は、早ければ早いほど有効です。具体的には、以下のようなタイミングで相談を検討すべきです。
- 相手方から法的措置を匂わす連絡があった時点
- 内容証明郵便で請求書が届いた時点
- 請求額が高額である、または算定根拠が不明瞭な時点
- 交渉が平行線で進展が見られない時点
- 相手方が弁護士を立ててきた時点
- 裁判所から訴状や支払督促が届いた時点
問題がこじれてからでは打てる手が限られてしまいます。トラブルの芽が小さいうちに専門家のアドバイスを受けることが、結果的に時間とコストを最小限に抑える最善策となります。
代理人として交渉を任せることのメリット
弁護士を代理人に立てることで、企業は多くのメリットを得られます。最大の利点は、相手方との直接交渉から解放されることです。執拗な電話や来訪といった精神的・時間的な負担がなくなり、全ての窓口を弁護士に集約できます。
また、弁護士が代理人となることで、相手方に対して「法的に争うことを辞さない」という毅然とした姿勢を示すことができ、不当な要求を牽制する効果が期待できます。当事者同士では感情的になりがちな交渉も、法的な論点に沿った冷静な議論に移行させることが可能です。最終的に和解する際の示談書作成も、将来の紛争再発を防ぐ条項を盛り込むなど、法的に万全を期すことができます。
法的主張の妥当性を高め、交渉を有利に進められる
損害賠償の交渉では、主張の法的な正当性が決定的に重要です。弁護士は、過去の裁判例や法律の専門知識に基づき、自社の法的ポジションを客観的に分析します。
- 相手方の請求に法的な根拠が欠けている点を的確に指摘できる
- 請求額が裁判例の相場から逸脱していることを具体的に示し、減額を迫れる
- 過失相殺など、専門知識がなければ見落としがちな反論の切り口を構築できる
法的な裏付けのある一貫した主張は、相手方の反論を困難にし、交渉を有利に進めるための強力な武器となります。これにより、自社の責任を法的に妥当な範囲に限定し、理不尽な請求から企業を守ることが可能になります。
精神的負担の軽減と本来業務への集中が可能になる
損害賠償請求への対応は、担当者にとって多大な精神的ストレスとなるだけでなく、多くの時間と労力を奪います。これにより、本来注力すべき業務が滞り、企業全体の生産性が低下するという間接的な損害は計り知れません。
弁護士に依頼することは、この紛争対応という非生産的な業務を専門家にアウトソーシングすることを意味します。担当者は心理的な重圧から解放され、組織全体としても本来の事業活動に経営資源を集中させることができます。弁護士費用は、紛争対応による機会損失や組織の疲弊を防ぐための、合理的な危機管理コストと捉えることができます。
裁判所を通じた法的な解決手続き
話し合いによる解決を目指す「民事調停」
民事調停は、裁判官と民間の調停委員が仲介役となり、当事者間の話し合いによる円満解決を目指す裁判所の手続きです。訴訟のように勝ち負けを決めるのではなく、実情に合った柔軟な解決を図ることに重きが置かれています。
- 手続きが非公開のため、プライバシーや企業秘密が守られる
- 訴訟に比べて手続きが簡便で、費用が安く、解決までの期間が短い
- 相手と直接対決するのではなく、調停委員を介して冷静に話し合える
調停で合意した内容は「調停調書」に記載され、これは確定判決と同じ法的効力を持ちます。もし相手方が合意内容を守らない場合は、この調書に基づいて強制執行が可能です。ただし、相手方が話し合いに応じない場合は不成立となり、訴訟などの別の手続きを検討する必要があります。
支払い義務がないことの確認を求める「債務不存在確認訴訟」
相手方からの不当な請求が執拗に続き、交渉による解決が見込めない場合、こちらから能動的に債務不存在確認訴訟を提起するという選択肢があります。これは、請求されている支払い義務(債務)が存在しないことを、裁判所に公的に確認してもらうための訴訟です。
この訴訟を起こすことで、いつ訴えられるかわからないという不安定な立場から脱却し、紛争に終止符を打つことができます。相手方の不当な要求に対して、司法のお墨付きを得て毅然と対応できるようになるため、事業活動の障害となっている状況を打開する上で非常に有効な手段です。ただし、自ら訴訟を起こすため、そのための準備と費用が必要となります。
訴訟を提起された場合の応訴と具体的な対応
相手方から訴訟を提起された場合、裁判所から「訴状」が届きます。これに対応する(応訴する)には、法的な手順を踏む必要があります。
- 訴状の精査:まず、訴状に書かれた請求内容と、その根拠となる事実を詳細に分析します。
- 答弁書の提出:指定された期日までに、相手方の主張に対する認否や反論を記載した「答弁書」を裁判所に提出します。これを怠ると、相手方の主張をすべて認めたものとみなされ敗訴します。
- 準備書面の提出:その後は、「準備書面」という書面を通じて、証拠と共に具体的な反論を繰り返し展開していきます。
- 口頭弁論・尋問:必要に応じて、裁判所で当事者や証人への尋問が行われます。
- 判決または和解:最終的に裁判所が判決を下すか、途中で裁判官の勧告により和解が成立して終了します。
訴訟対応は高度な専門知識を要するため、弁護士に代理人を依頼するのが一般的です。弁護士に依頼することで、法的な手続きを適切に進め、自社の正当性を効果的に主張することができます。
損害賠償請求に関するよくある質問
弁護士に依頼する場合の費用はどの程度かかりますか?
弁護士費用は事案の複雑さや請求額によって変動しますが、一般的には以下の要素で構成されます。
| 費用の種類 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 相談料 | 法律相談の対価として支払う費用 | 30分5,000円~1万円程度(初回無料の事務所も多い) |
| 着手金 | 事件を依頼する際に最初に支払う費用。結果にかかわらず返金されない | 請求額に応じ10万円~数十万円程度 |
| 報酬金 | 事件が成功した場合に、その成功の度合いに応じて支払う費用 | 確保した経済的利益(減額分など)の10%~20%程度 |
| 実費 | 裁判所に納める印紙代、郵便切手代、交通費など | 数千円~数万円程度 |
正式に依頼する前に、必ず見積書を提示してもらい、費用体系について十分に説明を受けることが重要です。
請求された金額を支払えない場合、どうなりますか?
支払うべき賠償金であっても資金的に支払えない場合は、まず相手方に誠実に事情を説明し、分割払いや支払猶予の交渉を試みることが第一です。交渉がまとまらず、判決などが確定してしまうと、相手方は強制執行により、預金や売掛金、不動産などの財産を差し押さえることができます。そうなると事業継続が困難になるため、放置は絶対に避けるべきです。状況によっては、民事再生や破産といった債務整理手続きも視野に入れ、早期に専門家へ相談する必要があります。
内容証明郵便で請求が届きましたが、返信は義務ですか?
内容証明郵便に返信する法的な義務はありません。しかし、無視を続けることは「交渉による解決の意思がない」とみなされ、相手方がためらわずに訴訟を提起する原因となり得ます。また、後の裁判で、誠実な対応を怠ったとして不利な心証を裁判官に与える可能性も否定できません。たとえ請求を全面的に拒否する場合でも、その旨を記載した回答書を送付し、こちらの見解を記録に残しておくことが、無用な紛争の拡大を防ぐ上で賢明な対応といえます。
損害賠償請求権には時効がありますか?
はい、損害賠償請求権には法律で定められた消滅時効があります。時効期間が経過した後に、自社が「時効の利益を援用する」と相手方に意思表示をすれば、支払い義務は消滅します。主な時効期間は以下の通りです。
| 請求の根拠 | 時効の起算点 | 時効期間 |
|---|---|---|
| 不法行為 | 損害および加害者を知った時から | 3年(生命・身体の侵害は5年) |
| 債務不履行 | 権利を行使できることを知った時から | 5年 |
ただし、相手方が訴訟を提起したり、自社が債務の存在を認めたりすると時効は中断(更新)されるため注意が必要です。請求を受けたら、まず時効が成立していないかを確認することが重要です。
まとめ:不当な損害賠償請求には、冷静な初期対応と法的知識が不可欠です
不当な損害賠償請求を受けた際は、まず動揺せず、請求書面の内容を客観的に精査し、証拠を保全することが最初のステップです。その場で安易な謝罪や支払いの約束をすることは、自社の立場を著しく不利にするため絶対に避けなければなりません。次に、請求の法的根拠、自社の行為との因果関係、損害額の妥当性を冷静に検証し、相手の主張に論理的に反論する準備を進めます。請求を無視すれば、支払督促や訴訟に発展し、最悪の場合は財産を差し押さえられるリスクがあるため、必ず誠実に対応する必要があります。自社での対応が困難だと感じた場合は、問題が深刻化する前に速やかに弁護士へ相談し、専門的な助言を仰ぐことが、自社の正当な利益を守るための最善の策となります。

