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未払い賃金の請求方法と手続きの流れ|証拠集めから法的措置まで解説

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会社から本来支払われるべき給与や残業代が支払われず、経済的な不安や精神的なストレスを抱えている方も少なくないでしょう。法的な知識がなくても、正しい手順を踏めば未払い賃金を請求することは可能です。この記事では、未払い賃金を請求するための具体的な方法を、証拠集めから会社との交渉、法的手続きに至るまで、4つのステップに沿って詳しく解説します。

目次

未払い賃金の定義と法律上の根拠

未払い賃金に該当するもの(残業代・各種手当など)

未払い賃金とは、会社が労働者に対し、定められた支払日までに支払うべきでありながら、支払われなかった金銭の総称です。労働の対価として支払われるものであれば、基本給や残業代だけでなく、就業規則等で支給条件が定められている各種手当や賞与、退職金も含まれます。

未払い賃金に含まれる主な項目
  • 基本給:毎月支払われる賃金の基本部分です。
  • 各種手当:役職手当、家族手当、住宅手当、通勤手当などが該当します。
  • 割増賃金:時間外労働(残業)、休日労働、深夜労働に対して支払われるもので、一般的に残業代と呼ばれます。
  • 賞与(ボーナス):就業規則や労働契約で支給基準が明確に定められている場合に請求権が発生します。
  • 退職金:退職金規程があり、支給条件を満たしている場合に請求の対象となります。

賃金支払いを義務付ける労働基準法の原則

賃金の支払い方法については、労働基準法第24条で厳格なルールが定められており、これを「賃金支払いの5原則」と呼びます。これらは労働者を保護するための強行法規であり、たとえ個別の労働契約で異なる合意があっても、法律の原則が優先されます。

賃金支払いの5原則(労働基準法第24条)
  • 通貨払いの原則:賃金は、現金(日本円)で支払われなければならず、現物支給は原則として認められません。
  • 直接払いの原則:賃金は、労働者本人に直接支払う必要があり、代理人への支払いはできません。
  • 全額払いの原則:税金や社会保険料など、法令で定められたもの以外を一方的に天引きすることはできません。
  • 毎月1回以上払いの原則:賃金は、毎月少なくとも1回は支払われなければなりません。
  • 一定期日払いの原則:賃金は、「毎月25日」のように、特定の期日を定めて支払う必要があります。

また、労働基準法第23条では、労働者が退職した場合、権利者から請求があれば7日以内に賃金を支払い、積立金などを返還しなければならないと定めています。

未払い賃金を請求するための全体的な流れ

請求手続きの4つのステップ概要

未払い賃金を請求するには、感情的に行動するのではなく、段階的かつ計画的に手続きを進めることが重要です。一般的には、以下の4つのステップで進めていきます。

未払い賃金請求の4ステップ
  1. 準備:未払い額を正確に計算し、それを裏付ける客観的な証拠を収集します。
  2. 会社との直接交渉:内容証明郵便で請求書を送付し、話し合いによる解決を試みます。
  3. 労働基準監督署への相談・申告:行政機関に違法状態を申告し、会社への是正勧告を促します。
  4. 裁判所を通じた法的手続き:支払督促、労働審判、訴訟など、状況に応じた法的手続きで解決を図ります。

ステップ1:請求手続きの準備(有効な証拠の集め方)

未払い賃金の請求に有効な証拠の一覧

未払い賃金の請求において、客観的な証拠は何よりも重要です。証拠が不十分だと、会社側が支払いを拒否する口実を与えかねません。有効な証拠は、主に以下の3種類に大別されます。

証明する内容 具体的な証拠の例
労働条件 雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、給与規定など
労働時間 タイムカード、勤怠管理システムの記録、業務日報、PCのログイン・ログオフ記録、メール送信履歴、オフィスの入退館記録など
支給された賃金額 給与明細書、源泉徴収票、賃金の振込履歴がわかる預金通帳の写しなど
未払い賃金の請求に有効な証拠の分類

在職中・退職後に証拠を収集する具体的な方法

証拠を収集する方法は、在職中か退職後かによって大きく異なります。在職中の方が、社内資料にアクセスしやすいため有利です。

在職中の証拠収集方法
  • 勤怠データやメール履歴などを個人の記録媒体にバックアップする。
  • 就業規則や給与規定をコピーまたは撮影しておく。
  • タイムカードをスマートフォンなどで毎日撮影する。
  • 始業・終業時刻や業務内容を手帳やメモに毎日記録する。
退職後の証拠収集方法
  • 会社に対して賃金台帳などの開示を請求する。
  • 弁護士を通じて、弁護士会照会制度を利用して資料の開示を求める。
  • 交通系ICカードの利用履歴やスマートフォンの位置情報履歴などを参考資料とする。
  • 裁判所の証拠保全手続を利用し、証拠の隠滅を防ぎつつ資料を確保する。

ステップ2:会社との直接交渉による解決方法

内容証明郵便を用いた請求書の作成と送付手順

会社との直接交渉を始めるにあたり、まずは内容証明郵便で請求書を送付するのが有効です。これにより、請求の意思を明確に伝え、後日の裁判等で「請求した」という事実を証明できます。また、時効の完成を6か月間猶予させる「催告」としての法的効力も持ちます。

内容証明郵便に記載すべき主な項目
  • 差出人と受取人の氏名・住所
  • 未払い賃金の発生期間と具体的な請求金額
  • 請求金額の算出根拠(時間外労働時間など)
  • 支払いを求める期限
  • 振込先の金融機関口座情報
  • 「期限内に支払いがない場合は法的措置を講じる」という文言

作成した請求書は、同じものを合計3通(会社送付用、郵便局保管用、自分保管用)用意し、郵便局の窓口で手続きします。その際、相手が受け取った日時を証明する「配達証明」を付けることが重要です。

会社側と交渉を進める際のポイントと注意点

会社側との交渉では、感情的にならず、収集した証拠に基づいて冷静かつ論理的に主張することが不可欠です。交渉を有利に進めるためには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。

交渉時のポイントと注意点
  • 客観的な事実に基づき主張する:経営難などの理由は、法的な支払い拒否の理由にはなりません。
  • 交渉内容は記録に残す:ICレコーダーで録音する、議事録を作成するなどして「言った言わない」のトラブルを防ぎます。
  • 安易に妥協しない:譲歩する場合は、合意内容を明確にした合意書を作成し、清算条項などを盛り込みます。
  • 専門家を頼る:会社側が弁護士を立ててきた場合は、こちらも弁護士に相談し、対等な立場で交渉を進めます。

在職中か退職後かで異なる交渉戦略

交渉の進め方は、在職中か退職後かによって変わってきます。それぞれの状況に応じた戦略を立てることが大切です。特に退職後は、遅延損害金が発生するほか、悪質なケースでは労働基準法に基づく付加金(年14.6%)の支払いが命じられる可能性もあるため、交渉を有利に進めやすくなります。

状況 交渉戦略のポイント
在職中 今後の関係性を考慮し、まずは人事部などに「給与計算の誤り」として穏便に是正を求める方法が考えられます。
退職後 関係性を気にする必要がないため、より毅然とした態度で法的な権利を主張できます。遅延損害金が原則として法定利率(年3%)で発生するほか、裁判で悪質な未払いと判断された場合には、労働基準法に基づく付加金(年14.6%)の支払いが命じられる可能性があることも交渉材料となり得ます。
在職中と退職後の交渉戦略の違い

ステップ3:労働基準監督署への相談・申告でできること

労働基準監督署の役割と相談・申告の流れ

労働基準監督署(労基署)は、企業が労働基準法などの法令を守っているかを監督する厚生労働省の機関です。未払い賃金の問題について、無料で相談や申告ができます。申告とは、会社の違法行為を具体的に伝え、調査や是正を求める手続きです。

労働基準監督署への申告から是正勧告までの流れ
  1. 地域の労働基準監督署に、収集した証拠を持参して相談・申告を行う。
  2. 申告内容に基づき、労働基準監督官が必要性を判断し、会社への調査(臨検)を実施する。
  3. 調査の結果、法違反が確認された場合、会社に対して是正勧告が出される。
  4. 会社は是正勧告に従い、未払い賃金の支払いなどの対応を行う。

労基署による是正勧告の効力と限界

労働基準監督署からの是正勧告は、多くの企業にとって無視できない重みを持ちますが、その効力には限界もあります。

効力(メリット) 限界(デメリット)
行政指導として、会社に是正を促す強い心理的効果がある。 裁判所の判決のような法的な強制力はない。
多くの企業が是正勧告に従い、問題が解決することが多い。 会社が是正勧告を無視しても、直接賃金を回収することはできない。
費用がかからず、匿名での相談も可能。 残業代の有無など、複雑な事実認定が必要な事案には介入しにくい場合がある。
是正勧告の効力と限界

是正勧告は有効な手段ですが、会社が応じない場合に備え、弁護士への相談や次のステップである法的手続きも視野に入れておく必要があります。

ステップ4:裁判所を通じた法的手続きの種類と特徴

支払督促:書類審査のみで進められる迅速な手続き

支払督促は、簡易裁判所を通じて行われる手続きで、申立人の提出した書類のみを審査し、裁判所書記官が相手方に支払いを命じる制度です。審理のために裁判所へ出向く必要がなく、手数料も訴訟の半額で済むため、迅速かつ低コストで利用できます。相手方が2週間以内に異議を申し立てなければ、強制執行が可能になります。ただし、異議が出されると自動的に通常訴訟へ移行するため、争いのない事案に向いています。

労働審判:調停と審判による柔軟な解決を目指す手続き

労働審判は、労働問題に特化した、迅速な解決を目指す裁判所の手続きです。裁判官1名と労働関係の専門家2名で構成される労働審判委員会が、原則3回以内の期日で審理を進めます。まずは話し合いによる解決(調停)が試みられ、まとまらない場合は委員会が事案の実情に応じた判断(審判)を下します。迅速性と柔軟性を兼ね備えており、多くの事案で利用される有効な手段です。

少額訴訟・通常訴訟:判決による最終的な解決

請求額が60万円以下の場合は、原則1回の期日で判決が下される少額訴訟を利用できます。一方、請求額が高額な場合や事案が複雑な場合は、通常訴訟で最終的な解決を目指します。訴訟は解決までに時間がかかる可能性がありますが、勝訴判決を得れば、強制執行によって確実に権利を実現できます。また、悪質なケースでは、未払い額と同額までの付加金の支払いが命じられることもあります。

どの法的手続きを選ぶべきか?状況別の判断基準

どの手続きを選択すべきかは、事案の性質や相手方の対応によって異なります。専門家である弁護士に相談し、最適な戦略を立てることが重要です。

手続きの種類 特徴 適した状況
支払督促 迅速・低コスト・書類審査のみ 相手方が未払いの事実を認めており、争いがない場合。
労働審判 迅速(平均2~3か月)・柔軟な解決 スピーディーな解決を望む場合や、話し合いの余地がある場合。
少額訴訟 原則1回で終結 請求額が60万円以下で、争点が単純な場合。
通常訴訟 最終的な司法的判断 請求額が高額、事案が複雑で、徹底的に争う必要がある場合。
状況別に見る最適な法的手続きの選択

未払い賃金請求権の時効について

賃金請求権の時効期間は当面の間3年

未払い賃金を請求する権利には、消滅時効があり、一定期間が経過すると権利が消滅してしまいます。2020年4月1日の労働基準法改正により、時効期間が変更されました。時効のカウントは、それぞれの給料日の翌日から始まります。

権利の種類 時効期間 備考
賃金・残業代など 当面の間、3年 2020年4月1日以降に支払日が到来するものが対象。それ以前は2年。
退職金 5年 法改正前から変更なし。
主な賃金請求権の時効期間

古い未払い分から順に時効が完成していくため、請求を検討している場合は一日でも早く行動を起こすことが重要です。

時効の進行を止める「催告」と「時効の完成猶予・更新」

時効の完成が迫っていても、法的な手続きによってその進行を止めることができます。これを時効の完成猶予および時効の更新と呼びます。まず、内容証明郵便で請求書を送付する「催告」を行うと、時効の完成が6か月間猶予されます。そして、その猶予期間内に訴訟の提起や労働審判の申立てなどを行うことで、手続き中は時効の完成が猶予され続けます。最終的に判決が確定するなどして権利が認められると、時効はリセットされ、そこから新たに時効期間が10年となることになります(時効の更新)。

会社が倒産した場合の未払賃金立替払制度

未払賃金立替払制度の概要と利用できる条件

勤務先の会社が倒産し、賃金が支払われないまま退職した労働者を救済するため、国が事業主に代わって未払い賃金の一部を支払う「未払賃金立替払制度」があります。この制度を利用するには、会社側と労働者側の双方で一定の条件を満たす必要があります。

未払賃金立替払制度の主な利用条件
  • 会社側の条件:労災保険の適用事業主で、1年以上事業活動を行っていた会社が法律上または事実上倒産したこと。
  • 労働者側の条件:倒産申立ての日(または事実上の倒産認定申請日)の6か月前の日から2年の間に退職した者であること。

立替払の対象は、未払いの定期賃金と退職金です(賞与は対象外)。支給額は未払い総額の80%ですが、退職時の年齢に応じて上限額が定められています。

立替払制度の申請手続きと注意すべき点

立替払制度の申請は、会社の倒産が「法律上の倒産(破産など)」か「事実上の倒産」かによって窓口や手順が異なります。法律上の倒産の場合は破産管財人等を通じて、事実上の倒産の場合は労働基準監督署を通じて手続きを進めます。

立替払制度利用時の注意点
  • 申請期限:会社の破産手続開始決定日などの翌日から2年以内に請求する必要があります。
  • 対象外のケース:未払い賃金の総額が2万円未満の場合は対象となりません。
  • 税務処理:立替払金は税法上「退職所得」として扱われるため、確定申告が必要になる場合があります。

会社が倒産しても諦めず、速やかに労働基準監督署や弁護士に相談することが重要です。

未払い賃金請求に関するよくある質問

証拠が全くない場合でも請求は可能ですか?

タイムカードなどの直接的な証拠がなくても、請求を諦める必要はありません。PCのログ履歴やメール、家族への連絡履歴といった間接的な証拠を組み合わせることで、労働時間を合理的に立証できる場合があります。また、弁護士を通じて会社に資料の開示を求めたり、裁判所の文書提出命令などの手続きを利用したりすることで、会社側が保有する証拠を入手できる可能性もあります。

退職した後でも未払い賃金を請求できますか?

はい、時効期間内(当面3年)であれば、退職後でも全く問題なく請求できます。在職中のしがらみがないため、むしろ退職後に請求を開始するケースが多数です。また、退職後に請求する場合、原則として法定利率(年3%)による遅延損害金が発生します。さらに、裁判で悪質な未払いと判断された場合には、労働基準法に基づく付加金(年14.6%)の支払いが命じられる可能性があるため、交渉を有利に進めやすくなる場合があります。

遅延損害金も合わせて請求することはできますか?

はい、請求できます。未払い賃金本体に加えて、本来の支払日の翌日から支払いを受ける日までの期間に応じた遅延損害金を請求する権利があります。利率は、原則として法定利率(年3%)が適用されます。これとは別に、裁判で請求が認められた場合、悪質なケースでは未払い額と同額までの付加金(年14.6%)の支払いが命じられることもあります。

弁護士に依頼する場合の費用相場はどのくらいですか?

弁護士費用は、相談時に支払う「着手金」と、経済的利益が得られた場合に支払う「成功報酬」で構成されるのが一般的です。未払い賃金請求の場合、着手金を無料または低額に設定し、回収できた金額の中から報酬を支払う完全成功報酬制を採用している法律事務所も多くあります。成功報酬の相場は、回収額の20%~30%程度が目安です。まずは無料相談などを利用し、費用体系や回収の見込みについて確認することをお勧めします。

まとめ:未払い賃金請求を成功させるための要点と次の行動

未払い賃金の請求は、まず客観的な証拠を集め、正確な未払い額を算出することから始まります。次に内容証明郵便で会社に請求し、交渉がまとまらなければ労働基準監督署や労働審判、訴訟といった公的機関を利用する流れが一般的です。請求権には時効(当面の間3年)があるため、問題に気づいたら速やかに行動を起こすことが重要です。会社が倒産した場合でも、国の未払賃金立替払制度という救済措置があります。ご自身の状況でどの手段が最適か判断に迷う場合や、会社が誠実に対応しない場合は、弁護士への相談が有効な解決への近道となるでしょう。

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