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日本政策金融公庫の国民生活事業とは?融資制度の種類・条件・申込方法を解説

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中小企業の経営者やこれから事業を始める方にとって、事業資金の調達は重要な経営課題です。特に創業期や小規模な事業運営においては、民間金融機関からの融資が難しい場面も少なくありません。このような状況で頼りになるのが、政府系金融機関である日本政策金融公庫の公的融資制度です。この記事では、個人事業主や小規模事業者を主な対象とする「国民生活事業」に焦点を当て、その役割や主要な融資制度、利用条件から申し込みの流れまでを網羅的に解説します。

目次

日本政策金融公庫の国民生活事業とは

国民生活事業の役割と小規模事業者支援の目的

日本政策金融公庫は、政府が全株式を保有する政策金融機関であり、民間金融機関の取り組みを補完する役割を担っています。その中でも国民生活事業は、小規模事業者や創業者への支援を主軸としており、日本経済の基盤を支える重要な機能を果たしています。

国民生活事業の主な役割
  • 全国の小規模事業者や創業者への小口の事業資金融資
  • 経済環境の変化や災害時におけるセーフティネット機能の発揮
  • 商工会議所などと連携した経営改善支援や情報提供
  • 国民の生活向上に寄与する「国の教育ローン」の取り扱い

事業の将来性や経営者の資質を多角的に評価するため、実績の乏しい創業期でも相談しやすいのが特徴です。資金供給だけでなく、経営の成長を多面的に支援することで、創業の促進と事業の持続可能性を高め、日本経済全体の安定と発展に寄与することを目的としています。

融資の対象となる事業者(個人事業主・小規模企業など)

国民生活事業の融資対象は、主に個人事業主や小規模な法人です。事業者の規模は、常時使用する従業員数によって判断されます。

業種分類 常時使用する従業員数
商業(卸売業、小売業、飲食店など)、サービス業 5人以下
製造業、建設業、運輸業など 20人以下
宿泊業、娯楽業(サービス業の特例) 20人以下
従業員数による対象事業者の基準

この従業員数には、家族従業員や臨時のアルバイト、パートタイマーは含まれません。

その他、以下のような方も幅広く対象となります。

主な融資対象者の例
  • 個人事業主、フリーランス
  • 新たに事業を始める創業予定者
  • 事業を開始して間もないスタートアップ企業
  • 生活衛生関係の事業(飲食店、理容店、旅館など)を営む方

一部の非対象業種(金融業、投機的事業など)を除き、ほとんどの業種で利用可能です。全国に支店網があるため、地域に根ざした小規模事業者にとって最も身近な政策金融の相談窓口と言えます。

国民生活事業が提供する主要な融資制度

新規開業資金|創業前または事業開始後7年以内の方が対象

新規開業資金は、新たに事業を始める方や、事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした、創業支援の中心的制度です。2024年の制度改定で旧・新創業融資制度が統合され、内容が拡充されました。

新規開業資金の主な特徴
  • 従来求められた「総事業資金の10分の1以上」の自己資金要件が撤廃
  • 融資限度額は最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)と高額
  • 返済期間は設備資金で最長20年、運転資金で最長10年と長期設定が可能
  • 元金の返済を猶予できる据置期間を最長5年まで設定可能
  • 女性、35歳未満の若者、55歳以上のシニアなどは特別利率が適用される優遇措置あり
  • 原則として担保・保証人は不要(経営者保証を免除する特例も利用可能)

この制度は、優れた事業計画があれば自己資金が少なくても挑戦できる環境を整え、廃業歴のある方の再チャレンジも支援するなど、創業リスクを抑えながら意欲的な事業者を強力に後押しします。

マル経融資(小規模事業者経営改善資金)|商工会議所等の推薦が必要

マル経融資は、商工会議所や商工会などで経営指導を受けている小規模事業者を対象とした、無担保・無保証人の融資制度です。非常に低い利率で利用できるため、経営改善を目指す事業者にとって大きなメリットがあります。

利用するには、以下の要件を満たした上で、商工会議所会頭などからの推薦が必要です。

マル経融資の主な利用要件
  • 原則として6か月以上、商工会議所・商工会などの経営指導を受けている
  • 最近1年以上、同一地区内で事業を行っている
  • 所得税、法人税、事業税、都道府県民税などを完納している

推薦機関による審査を経て推薦されると、公庫での手続きが迅速に進みます。

マル経融資の制度概要
  • 融資限度額は2,000万円
  • 返済期間は運転資金・設備資金ともに10年以内
  • 据置期間は運転資金・設備資金ともに2年以内
  • 利率は国の政策に基づいた特に低い水準(特別利率F)が適用される
  • 信用保証協会の保証が不要なため、保証料の負担もない

資金使途は、仕入れや諸経費の支払いといった運転資金から、店舗改装などの設備資金まで、経営改善に必要な幅広い目的に活用できます。

一般貸付|事業運営に必要な幅広い資金ニーズに対応

一般貸付は、国民生活事業の中で最も汎用性が高く、ほとんどの業種の事業者が利用できる基本的な融資制度です。特定の制度要件に当てはまらない、事業運営に必要なさまざまな資金ニーズに柔軟に対応します。

一般貸付の制度概要
  • 融資限度額は4,800万円(特定設備資金の場合は最大7,200万円)
  • 返済期間は運転資金で原則5年以内(最長7年)、設備資金で10年以内
  • 利率は公庫所定の基準利率が適用されるが、担保の有無などで変動する
  • 他の特別貸付やセーフティネット貸付の要件に該当しない場合でも利用可能

担保や保証人については、申込者の希望や信用力に応じて相談の上で決定されます。近年は経営者保証を不要とする取り組みも進んでいます。事業規模の拡大や一時的な資金需要など、多様な経営場面で活用される、小規模事業者の資金調達の基盤となる制度です。

自社の状況に合わせた融資制度の選び方のポイント

最適な融資制度を選ぶには、まず自社の事業ステージと資金の使い道を明確にすることが重要です。

事業ステージ別の制度選びのポイント
  • 創業期(創業前〜開業後7年以内): 無担保・無保証人で金利優遇も手厚い「新規開業資金」が第一候補です。
  • 事業継続中(経営改善を目指す): 商工会議所などと連携があるなら、超低金利の「マル経融資」が最も有利です。
  • 一般的な資金需要: 他の特別制度に該当しない場合は、汎用性の高い「一般貸付」で相談します。
  • 緊急時(売上減少など): 業況が悪化した場合は、セーフティネット貸付など、経営安定化を目的とした制度を検討します。

どの制度が最適か迷う場合でも、公庫の担当者に資金が必要な背景や目的を正確に伝えれば、最も適した制度を提案してもらえます。最初から一つの制度に絞らず、幅広く相談することが重要です。

【比較】国民生活事業と中小企業事業の違い

対象となる企業の規模と従業員数の違い

日本政策金融公庫内の国民生活事業と中小企業事業は、支援対象となる企業の規模に最も大きな違いがあります。

項目 国民生活事業 中小企業事業
主な対象 個人事業主、小規模事業者 中小企業、中堅企業
従業員規模 約9割が従業員9人以下の事業者 数十人〜数百人規模の企業が中心
役割 地域密着型の小口融資、創業支援 日本の産業基盤を支える中核企業への大口融資、成長支援
国民生活事業と中小企業事業の対象企業規模の違い

国民生活事業が個人やマイクロビジネスを支えるのに対し、中小企業事業はより規模の大きい中核的な企業群を支えるという明確な役割分担がなされています。

融資限度額と平均的な融資額の比較

融資の金額規模においても、両事業には顕著な差があります。国民生活事業は小口融資が中心ですが、中小企業事業は大規模な事業に対応する大口融資を担います。

項目 国民生活事業 中小企業事業
平均融資残高 おおむね800万円 おおむね1億3,000万円超
融資限度額(目安) 数千万円台が中心(最大7,200万円程度) 数億円単位の大口融資に対応
返済期間 比較的短期〜中期(設備資金で最長20年) 長期(20年以上も可能)
国民生活事業と中小企業事業の融資額の比較

国民生活事業は迅速な小口資金を、中小企業事業は企業の成長戦略に伴う重厚な長期資金を供給するという、金額面での棲み分けがされています。

取り扱う主な融資制度と相談窓口の違い

提供する融資制度や相談体制にも、それぞれの役割に応じた違いがあります。

項目 国民生活事業 中小企業事業
主な制度 新規開業資金、マル経融資、一般貸付など 新事業育成資金、事業再生資金など
全国窓口数 約150か所 約90か所
相談スタイル 支店窓口での相談が中心(オンライン申込も可) 専門担当者が企業を訪問するコンサルティング型
国民生活事業と中小企業事業の制度・窓口の比較

国民生活事業は、全国の身近な窓口で個々の事業者を直接支援するスタイルが特徴です。一方、中小企業事業は、より専門性の高い課題に対し、企業の経営戦略に踏み込んだコンサルティング的なアプローチで支援を行います。

融資を受けるための基本的な条件と審査のポイント

申し込みにあたっての基本的な要件(事業経験・自己資金など)

融資を申し込むには、事業を遂行できる経営基盤が整っていることを示す必要があります。特に重視されるのが事業経験と自己資金です。

申し込みの基本要件
  • 事業経験: 申し込む事業と同じ業種での勤務経験(5〜10年程度が目安)があると、計画の実現性が高いと評価されます。
  • 自己資金: 融資希望額の3割程度が準備できていると、審査上有利に働きます。金額だけでなく、計画的に準備してきた過程(預金通帳など)も重要視されます。

2024年の制度改定で自己資金の数値要件は撤廃されましたが、事業への本気度やリスク対応力を示す上で、依然として重要な審査項目です。

審査で重視される項目(事業計画書・資金使途・返済能力)

審査では、提出された事業計画書をもとに、事業の持続可能性が多角的に評価されます。

審査の三大重要項目
  • 事業計画書: 創業動機、事業内容、市場分析、競合との差別化などを論理的に記載し、事業の強みと将来性をアピールします。
  • 資金使途の明確性: 借りたお金を「何に」「いくら」使うのかを、見積書などを添えて具体的に示す必要があります。
  • 返済能力: 客観的なデータに基づいた収支計画を立て、税金や生活費を支払った後でも十分に返済が可能であることを証明します。

特に、楽観的すぎる売上予測や杜撰な資金計画は、審査で厳しく評価されるため注意が必要です。

担保・保証人の要否と無担保・無保証人制度について

国民生活事業では、原則として担保・保証人を不要とする融資制度が充実しています。特に新規開業資金やマル経融資は、無担保・無保証人で申し込めるのが大きな特徴です。

法人申込時に論点となる代表者個人の連帯保証(経営者保証)についても、近年は経営者保証免除特例制度が拡充されています。法人と個人の資産が明確に分離されているなどの要件を満たせば、代表者の個人保証なしで融資を受けられる可能性があります。

ただし、担保や保証人が不要な分、事業計画の審査はより慎重に行われます。また、担保を提供しない場合は金利が若干上乗せされることがあるため、不動産などを保有している場合は担保提供を検討するのも選択肢の一つです。

申し込み前に確認したい、審査における注意点とよくある誤解

申し込み前には、いくつか注意すべき点があります。特に経営者個人の信用情報は必ず確認されます。

審査における注意点
  • 個人の信用情報: クレジットカードやローンの支払遅延、携帯電話料金の滞納などがあると、審査に悪影響を及ぼします。
  • 税金・公共料金の支払い: 税金や公共料金、家賃などの支払状況も通帳などで確認されるため、滞納は解消しておくべきです。
  • 過大な借入希望額: 事業規模に見合わない高額な融資を希望すると、計画性に乏しいと判断されるため、必要最低限の金額を合理的に申請します。

「公庫は赤字でも貸してくれる」「自己資金ゼロでも大丈夫」といった話は誤解です。公的機関だからこそ返済の確実性が厳しく問われ、審査通過率は5〜6割程度と言われています。十分な準備がなければ融資を受けるのは難しいと認識しておく必要があります。

融資申し込みから実行までの基本的な流れ

ステップ1:事業所の所在地を管轄する支店への相談

融資手続きの第一歩は、事業所の所在地を管轄する公庫支店への相談です。公式サイトの店舗案内で管轄支店を確認し、電話または窓口で相談予約をすることが推奨されます。この段階で、自社の状況に適した融資制度や必要書類についてアドバイスを受けられます。

ステップ2:申込時に必要となる主な書類の準備と提出

相談を経て申込を決めたら、必要書類を準備して提出します。インターネット経由でのオンライン申込も可能です。

主な必要書類の例
  • 共通: 借入申込書、創業計画書(または企業概要書)
  • 個人事業主: 確定申告書・決算書の写し(2期分)
  • 法人: 決算書・科目明細の写し(2期分)、履歴事項全部証明書
  • その他: 設備の見積書、本人確認資料、許認可証の写しなど

書類に不備があると審査が遅れるため、提出前に十分な確認が必要です。

ステップ3:担当者との面談と事業内容の説明

書類提出後、担当者との面談が行われます。面談では、提出書類に基づいて事業計画の具体性、実現可能性、経営者の資質などが確認されます。

面談での主な確認事項
  • 創業の動機や事業経験
  • 提供する商品・サービスの強みや市場分析
  • 売上や利益計画の根拠
  • 資金使途の詳細と返済計画

自身の言葉で事業内容を論理的に説明し、担当者の質問に誠実に回答することが信頼を得る鍵です。場合によっては、店舗予定地などの実地確認も行われます。

ステップ4:審査、契約手続き、融資の実行

面談後、公庫内で最終審査が行われ、通常1〜2週間で結果が通知されます。審査に通過すると契約書類が送付されるので、必要事項を記入・捺印して返送します。近年は電子契約も利用可能です。契約手続き完了後、数営業日で指定口座に融資金が振り込まれ、翌月から返済が開始されます。融資金は、申請した使途に沿って正しく使用する必要があります。

国民生活事業に関するよくある質問

相談窓口や問い合わせ先はどこで確認できますか?

相談窓口や問い合わせ先は、公式サイトや専用ダイヤルで確認できます。

主な相談窓口・問い合わせ先
  • 公式サイトの店舗案内: 事業所の所在地から管轄支店を検索できます。
  • 事業資金相談ダイヤル(0120-154-505): 制度概要や申込方法について電話で相談できます。

まずは事業資金相談ダイヤルで基本的な情報を集め、その後、管轄支店に具体的な相談を予約するのがスムーズです。

申し込みから融資実行までの期間はどのくらいですか?

申し込みから融資実行までの期間は、平均して1か月から1か月半程度です。書類提出から面談までが約1〜2週間、面談後の審査に約1〜2週間、契約手続きから実行までに約1週間が目安となります。ただし、書類の不備や審査状況、繁忙期などによって期間は変動するため、資金が必要な時期から逆算し、余裕を持ったスケジュールで申し込むことが重要です。

旧「国民生活金融公庫」との関係性を教えてください。

現在の日本政策金融公庫 国民生活事業は、2008年10月に廃止された旧「国民生活金融公庫」(通称:国金)の業務を全面的に引き継いだ組織です。中小企業金融公庫など他の政府系金融機関と統合され、日本政策金融公庫の一事業部門となりましたが、小規模事業者や創業者を支援するという中心的な役割や機能は変わらずに継承されています。

まとめ:自社に最適な公庫融資を見極め、事業成長に繋げるために

日本政策金融公庫の国民生活事業は、個人事業主や小規模事業者、創業者にとって最も身近な公的融資の窓口です。創業期の「新規開業資金」、経営改善を目指す際の「マル経融資」、そして汎用性の高い「一般貸付」など、事業のステージや目的に応じて多様な制度が用意されています。融資を受けるためには、事業計画の実現性や返済能力を客観的な資料で示すことが不可欠です。より規模の大きい中小企業事業とは対象や融資額が明確に異なるため、自社の規模に合った事業部を選ぶことが重要となります。この記事で解説した内容を参考に、まずは自社の状況と資金ニーズを整理し、管轄の支店へ相談することから始めてみてはいかがでしょうか。

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