早期経営改善計画事前相談書の書き方|提出の流れと制度概要を解説
資金繰りの悪化や業績の伸び悩みに直面し、経営の立て直しを検討されている中小企業の経営者や担当者の方も多いのではないでしょうか。国の「早期経営改善計画策定支援事業」は、専門家と共に早期に経営を見直すための有効な手段ですが、その利用には所定の手続きが必要です。この記事では、制度利用の第一歩となる「早期経営改善計画事前相談書」に焦点を当て、その役割から具体的な書き方、提出後の流れまでを網羅的に解説します。
早期経営改善計画策定支援事業(ポスコロ)とは
事業の目的と概要
早期経営改善計画策定支援事業(通称:ポスコロ事業)は、新型コロナウイルス感染症の影響、物価高騰、人手不足といった厳しい経営環境に直面する中小企業・小規模事業者を支援する国の制度です。本事業の主な目的は、資金繰りの管理や自社の経営状況の客観的な把握といった、基本的な経営改善への取り組みを専門家と共に早期に着手することにあります。
具体的には、国が認定した専門家(認定経営革新等支援機関)の支援を受けながら、自社の収益構造や商流を可視化する「ビジネスモデル俯瞰図」や、将来の資金計画を立てる「資金繰り計画」、具体的な行動目標を定めた「アクションプラン」などを盛り込んだ経営改善計画を策定します。策定した計画は主要な取引金融機関にも提出し共有することで、金融機関との信頼関係を強化する狙いもあります。いわば「経営の健康診断」を早期に行い、手遅れになる前に課題を発見し、自律的な経営改善を促すための仕組みです。
支援の対象となる事業者と利用要件
本事業の支援対象は、資金繰り管理や採算管理など、基本的な経営改善に取り組む意欲のある中小企業および小規模事業者です。利用には、以下の主要な要件を満たす必要があります。
- 借入金の返済猶予(リスケジュール)など、本格的な金融支援を現時点では必要としていないこと。
- 原則として、過去に本事業(早期経営改善計画策定支援事業)を利用したことがないこと。
すでに返済条件の変更などが必要な場合は、本事業ではなく「経営改善計画策定支援事業(通称:405事業)」の対象となります。ただし、新型コロナやウクライナ情勢に起因する原材料費の高騰など、外部環境の急激な変化によって業況が悪化した場合は、特例として2回目の利用が認められることもあります。
なお、社会福祉法人、学校法人、特定非営利活動法人(NPO法人)、有限責任事業組合(LLP)などは対象外です。個人事業主は幅広く対象に含まれます。
具体的な支援内容と専門家費用の補助
支援は、国が認定した専門家(認定経営革新等支援機関)による伴走型のコンサルティングが中心となります。事業者は専門家から以下の3段階にわたる支援を受けることができ、その際に発生する専門家への報酬について国から補助が受けられます。
- 経営改善計画の策定支援: 過去の財務データや資金繰りの実績を分析し、資金繰り表、損益計画、行動計画(アクションプラン)などを策定します。
- 金融機関への提出と説明: 策定した計画を主要取引金融機関へ提出する際、専門家が同行して内容を説明し、金融機関の理解を促します。
- モニタリング支援: 計画策定から1年後の決算時に、計画の進捗状況を確認し、必要に応じて計画の見直しに関する助言を行います。
専門家への支払い費用のうち、国が3分の2を補助します。補助上限額は合計で最大25万円(税抜)で、計画策定支援に最大15万円、伴走支援(期中・決算期)にそれぞれ最大5万円という内訳が設定されています。
制度利用の第一歩「事前相談書」の役割と位置づけ
事前相談書とは?その目的と重要性
事前相談書は、本事業の利用を希望する事業者が、主要な取引金融機関に対して制度利用の意思を伝え、金融機関がそれを確認したことを証明するための書類です。この書類には、企業の基本情報、現在の経営課題、資金繰りの状況、改善目標の概要などを記載します。
最大の目的は、計画策定の初期段階から金融機関を巻き込み、事業者と金融機関の間の情報の非対称性を解消することです。事業者にとっては、経営改善への真摯な姿勢を示すことで信頼関係を構築し、将来の融資交渉などを円滑に進める効果が期待できます。事前相談書は単なる手続き書類ではなく、金融機関との対話を開始するための重要なコミュニケーションツールであり、本事業の費用補助を受けるための必須条件となります。
制度利用の全体フローと事前相談書の提出タイミング
本事業の利用手続きは、定められた順序で進める必要があります。事前相談書は、制度利用の非常に早い段階で提出が求められます。
- 認定経営革新等支援機関の選定: 共に計画策定を進める税理士や中小企業診断士などの専門家を選び、相談を開始します。
- 金融機関への事前相談: 専門家と相談の上で「事前相談書」を作成し、主要取引金融機関に提出して内容を説明し、確認印をもらいます。
- 事務局への利用申請: 金融機関の確認印を得た事前相談書を含む申請書類一式を、事業者と認定支援機関の連名で事務局に提出します。
このように、事前相談書の提出は事務局への正式な利用申請の前に行う必要があります。このステップを省略すると申請が受理されず、費用補助も受けられなくなるため注意が必要です。
事前相談書の準備と提出先
書式の入手方法(中小企業庁の公式サイトについて)
事前相談書の書式は、中小企業庁の公式サイト内にある「早期経営改善計画策定支援事業」のページからダウンロードできます。Word形式やExcel形式で提供されており、パソコンで直接入力して作成することが可能です。
制度改定に伴い様式が更新されることがあるため、作成に着手する直前に必ず公式サイトで最新版の書式を入手してください。古い様式では申請が受理されない可能性があります。同ページには、経営改善計画のひな形や費用支払申請書など、関連する全ての書類が掲載されており、手続きの全体像を把握するのに役立ちます。
相談・提出先となる認定経営革新等支援機関とは
認定経営革新等支援機関(認定支援機関)は、中小企業の経営支援に関する専門的知識と実務経験が一定レベル以上あるとして、国が認定した専門家や組織のことです。具体的には、税理士、公認会計士、中小企業診断士、弁護士といった士業専門家のほか、商工会・商工会議所、一部の金融機関などが認定を受けています。
これらの専門家は、事業者の財務状況を客観的に分析し、経営課題を抽出する能力を持っています。事前相談書の作成にあたっては、認定支援機関と共に現状分析や課題整理を行い、金融機関に対して説得力のある内容に仕上げていくことが重要です。
認定支援機関の選び方と連携における注意点
優れた認定支援機関と連携することが、制度活用の成否を分けます。パートナーを選ぶ際は、以下の点に注意しましょう。
- 自社の業種への専門性: 製造業、小売業、建設業など、自社のビジネスモデルや業界特有の課題に精通しているかを確認する。
- 主体的な姿勢: 専門家に任せきりにせず、経営者自身が計画内容を深く理解し、自分の言葉で説明できるように主体的に関与する。
- 率直な対話: 専門家からの厳しい指摘も真摯に受け止め、自社の弱点と向き合う姿勢を持つ。
- 費用の確認: 補助金で賄われない自己負担額や報酬体系について事前に確認し、納得した上で業務委託契約を締結する。
- 密なコミュニケーション: 定期的な面談の機会を設け、情報共有を密に行い、信頼関係を構築する。
【項目別】早期経営改善計画事前相談書の書き方と記入例
相談者(企業)の基本情報
この欄には、相談者である企業の基本情報を正確に記入します。登記情報や決算書と相違がないよう注意してください。
- 商号または名称
- 代表者の氏名
- 本店の所在地
- 資本金の額、従業員数
- 法人番号
- 主な事業内容(どのような製品・サービスを、誰に提供しているかを簡潔に記載)
- 担当者連絡先
相談内容(現在の経営課題や資金繰りの状況)
事前相談書の中で最も重要な項目です。なぜ今、経営改善が必要なのかを客観的な事実に基づいて具体的に説明します。
| 項目 | 記載内容のポイント |
|---|---|
| 現在の経営課題 | 外部要因(例:原材料価格の高騰、市場縮小)と内部要因(例:不採算部門の存在、非効率な業務プロセス)の両面から分析して記述する。 |
| 資金繰りの状況 | 「厳しい」といった主観的な表現だけでなく、「売上総利益率が前期比〇%低下」「売掛金回収サイトが〇日長期化」など、具体的な数値を用いて説明する。 |
| 改善への意欲 | 本事業を通じて「資金繰りの見える化」「コスト構造の見直し」などを図り、どのような状態を目指すのかという前向きな姿勢を示す。 |
支援を希望する認定支援機関名
この欄には、計画策定を共に進める認定支援機関の正式名称と、可能であれば認定支援機関ID番号を記載します。金融機関は、どのような専門家が支援に入るのかを重視するため、正確に記入してください。実績のある専門家が関与することは、策定される計画の信頼性を高める要素となります。
主要取引金融機関の情報
本事業では、策定した計画を共有し、連携を図る主要な取引金融機関の情報を記載します。一般的には、融資残高が最も多いメインバンクの金融機関名、支店名、担当者名を記入します。この記載により、事業者と金融機関の間で、本事業の利用について一定のコミュニケーションが取れていることの証明となります。
記入時に押さえておくべき注意点
事前相談書を作成する際は、以下の点に留意してください。
- 数値の正確性: 記載する数値は決算書や試算表と整合性が取れていることを確認する。
- 事実に基づく記載: 都合の悪い情報も隠さず、ありのままの事実を誠実に記載する。
- 平易な表現: 専門用語の多用を避け、誰が読んでも理解できる論理的で分かりやすい文章を心がける。
- 現実的な目標: 改善の方向性として、実現不可能な高い目標ではなく、1年後に達成可能な現実的な目標を設定する。
- 作成日の更新: 金融機関へ相談に赴く日に近い日付を記載し、最新の情報であることを示す。
金融機関へ相談する際のポイントと事前準備
事前相談書を金融機関に持参する際は、周到な準備が円滑な合意形成につながります。相談を成功させるためのポイントは以下の通りです。
- 補助資料の持参: 直近の試算表や資金繰り表、事業内容がわかる資料などを持参し、説明の説得力を高める。
- 金融機関側のメリットを説明: 専門家によるモニタリングで経営の透明性が高まるなど、金融機関側のメリットも伝える。
- 専門家の同席: 認定支援機関の担当者に同席を依頼し、専門的な観点から補足説明を行ってもらう。
- 事前の日程調整: 事前に電話でアポイントを取り、担当者が十分な時間を確保できる日程で相談に臨む。
事前相談書提出後の手続きと支援開始までの流れ
提出から利用申請までの具体的なステップ
主要取引金融機関から確認印を得た事前相談書を準備できたら、事務局へ正式な利用申請を行います。
- 申請書類の準備: 利用申請書、事前相談書の写し、直近3期分の確定申告書、認定支援機関との業務委託契約書および見積書などを揃えます。
- 事務局へ申請: 事業者と認定支援機関が連名で、事務局に申請書類を提出します。
- 審査: 事務局が、事業の状況が制度の趣旨に合致しているか、支援内容や費用が妥当かなどを審査します。
- 支援決定通知: 審査を通過すると、事務局から「支援決定通知書」が発行され、正式に事業が開始できます。
支援決定通知を受ける前に専門家へ支払った費用は補助の対象外となるため、手続きの順序を厳守してください。
経営改善計画の策定と金融機関への提出
支援決定通知後、認定支援機関と共に本格的な経営改善計画の策定に着手します。事業の現状分析から、具体的な数値目標やアクションプランを盛り込んだ計画書を作成します。計画が完成したら、事前相談を行った金融機関に計画書を提出し、受領印をもらうことが極めて重要です。この金融機関による受領確認をもって、計画策定フェーズは完了とみなされ、費用補助の申請に進むことができます。
支援決定と専門家への費用支払いについて
計画策定が完了し、金融機関の受領印を得たら、事業者は事務局に対して費用支払いの申請を行います。申請時には、策定した計画書、金融機関の受取書、専門家に自己負担分(費用の3分の1)を支払った証明(振込明細など)を添付する必要があります。
書類審査後、補助金(費用の3分の2)は事務局から認定支援機関へ直接振り込まれます。これにより、事業者は最終的に費用の3分の1を負担する形となります。計画策定から実行、モニタリングまでの一連のプロセスを確実に実施するため、費用支払いの手続きも遅滞なく行うことが重要です。
早期経営改善計画策定支援に関するよくある質問
早期経営改善計画策定支援の利用に自己負担費用はありますか?
はい、あります。本事業では、専門家へ支払う費用のうち、3分の1が事業者の自己負担となります。例えば、専門家への報酬総額が30万円(税抜)の場合、国からの補助金が20万円、事業者の自己負担が10万円となります。なお、消費税は補助の対象外であり、全額自己負担となる点にご注意ください。自治体によっては、この自己負担分に対して独自の上乗せ補助制度を設けている場合もあります。
事前相談書を提出すれば、必ず支援を受けられるのでしょうか?
いいえ、必ず支援を受けられるとは限りません。事前相談書の提出後、事務局による審査があり、その結果、不採択となる場合もあります。
- 既に債務超過が深刻で、本事業の範囲を超える本格的な再生支援が必要だと判断された場合。
- 業績が極めて好調で、公的な支援の必要性が低いと判断された場合。
- 申請内容や専門家の支援計画に妥当性がないと判断された場合。
計画策定後のモニタリングとは具体的に何を行うのですか?
モニタリングは、策定した計画が「絵に描いた餅」で終わらないようにするための重要な工程です。計画策定から1年後の決算期などに認定支援機関が事業者を訪問し、以下のことを行います。
- 進捗確認: 計画に定めた売上高や利益などの数値目標と、アクションプランの達成状況を確認する。
- 差異分析: 計画と実績に乖離がある場合、その原因を事業者と共に分析する。
- 計画の見直し: 分析結果や経営環境の変化を踏まえ、次年度に向けた計画の修正や改善策について助言する。
モニタリング結果は金融機関にも報告され、継続的な支援を得るための信頼構築につながります。これは、事業者が自律的にPDCAサイクルを回すためのトレーニングの機会でもあります。
事前相談書が不要になるケースはありますか?
原則として事前相談書の提出は必須ですが、例外的に不要となるケースが一つだけあります。それは、支援を依頼する認定支援機関が、自社の主要取引金融機関そのものである場合です。例えば、メインバンクが認定支援機関の資格を持っており、その銀行が主体となって計画策定を支援する場合、改めて事前相談書を提出する必要はありません。利用申請書に金融機関が認定支援機関として連署することで、事前相談の要件を満たしたとみなされます。
まとめ:事前相談書を起点に、金融機関と連携した経営改善へ
本記事では、早期経営改善計画策定支援事業の利用に不可欠な「事前相談書」の役割と書き方、提出後の流れを解説しました。この書類は単なる申請手続きの一部ではなく、主要取引金融機関に対して経営改善への真摯な姿勢を示し、信頼関係を構築するための重要な第一歩です。作成にあたっては、認定支援機関と緊密に連携し、客観的な数値や事実に基づいて自社の課題と改善への意欲を具体的に示すことが求められます。事前相談書を適切に提出し、その後の計画策定、モニタリングへと進むことで、自律的な経営改善のサイクルを確立できます。まずは信頼できる認定支援機関に相談し、制度活用に向けた準備を始めることをお勧めします。

