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不正アクセスによる企業の被害とは?具体的な事例と二次的影響を解説

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現代の企業経営において、不正アクセスは事業の根幹を揺るがしかねない重大なリスクです。その被害は、ランサムウェアによる金銭的損害や情報漏洩といった直接的なものだけでなく、社会的信用の失墜やサプライチェーンへの影響など、多岐にわたります。この記事では、不正アクセスが企業に与える被害の全体像を、具体的な種類や国内事例、そして取るべき初期対応に至るまで網羅的に解説します。セキュリティ対策の必要性を検討・判断するための基礎情報としてご活用ください。

目次

不正アクセスによって引き起こされる直接的な被害

種類1:個人情報・機密情報の漏洩

不正アクセスが引き起こす最も代表的な被害は、企業が保有する重要情報の漏洩です。これには、個人を特定できる情報や、企業の競争力の源泉である機密情報が含まれます。窃取された情報はダークウェブ等で売買され、なりすましや詐欺といった二次被害に悪用されるケースが後を絶ちません。

情報漏洩は、個人情報保護法に基づく個人情報保護委員会への報告義務の対象となる可能性があり、対応を怠れば法的なペナルティが科される場合もあります。また、漏洩の事実が公になることで、企業の管理体制への信頼が揺らぎ、取引先からの契約解除や新規顧客の獲得機会喪失など、深刻な経営上の不利益につながります。

漏洩対象となる情報の例
  • 個人情報: 氏名、住所、生年月日、電話番号、クレジットカード番号、銀行口座情報など
  • 機密情報: 独自の技術データ、設計図面、未公開の経営戦略、顧客リストなど

種類2:ランサムウェアや不正送金による金銭的損害

近年、不正アクセスによる金銭的被害で特に深刻なのが、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)による攻撃です。攻撃者は企業のシステムに侵入し、データを暗号化して使用不能にした上で、復元と引き換えに高額な身代金を暗号資産で要求します。最近では、身代金を支払わなければ窃取した情報を公開すると脅す「二重脅迫」の手口も一般的に見られるようになっています。

金銭的損害は身代金だけにとどまらず、多岐にわたります。システムの復旧や原因調査には専門家への依頼が必要となり、高額な費用が発生します。また、攻撃者が企業の銀行口座から不正に送金を行うケースもあり、一度の攻撃で財務基盤が大きく揺らぐ可能性があります。

金銭的損害の主な内訳
  • 身代金: データの復号や情報公開の停止と引き換えに要求される金銭
  • 調査費用: デジタルフォレンジックなど外部専門家による原因究明・被害範囲特定費用
  • 復旧費用: システムの再構築やバックアップからのデータ復元にかかる人件費・設備投資
  • 不正送金: 窃取された認証情報を用いて法人口座などから不正に送金された金額
  • 逸失利益: システム停止期間中に事業が継続できず失われた売上

種類3:システム停止やWebサイト改ざんによる事業継続への影響

不正アクセスは、企業の基幹システムやWebサイトを停止させ、事業の継続そのものを困難にする場合があります。Webサイトが改ざんされると、虚偽情報が掲載されたり、閲覧者がマルウェアに感染したりする二次被害が発生する恐れがあります。これを防ぐためサイトを一時閉鎖せざるを得ず、特にECサイトなどを主力事業とする企業にとっては、機会損失に直結する深刻な打撃となります。

製造業では、生産管理システムへの侵入が生産ラインの全面停止を招き、莫大な損失を生む事例も報告されています。システムが一度停止すると、原因究明、復旧、セキュリティ対策の再構築に長期間を要し、その間の業務停滞は避けられません。結果として、取引先への納期遅延などを引き起こし、サプライチェーン全体に影響を及ぼす「加害者」としての責任を問われるリスクも生じます。

種類4:データの暗号化・破壊による業務資産の喪失

不正アクセスによるデータの暗号化や破壊は、企業が蓄積してきた顧客情報、技術データ、財務情報といったデジタル資産の喪失という、回復困難な事態につながるおそれがあります。ランサムウェアによって業務データが暗号化されると、バックアップがなければ復元は極めて困難です。

近年では、金銭を目的とせず、システムの破壊のみを狙う「破壊型マルウェア」も確認されており、この場合、データの復元は極めて困難となるか、期待できません。業務データの喪失は、過去の取引履歴や会計記録の消失、研究開発データや知的財産の喪失など、事業の根幹を揺るがす多岐にわたる機能不全を招きます。デジタル化された現代において、データの喪失は、工場や設備が消失するのと同等の重大な経営被害と言えます。

データ喪失が引き起こす業務上の問題
  • 会計・経理業務の混乱: 過去の取引履歴や請求データが失われ、決算業務が不可能になる
  • 研究開発の遅延: 蓄積された実験データや設計図が失われ、プロジェクトが停滞する
  • 顧客対応の不能: 顧客リストや対応履歴が失われ、サポートや営業活動が困難になる
  • 法的義務の不履行: 法律で保管が義務付けられている帳票類が失われる

不正アクセスがもたらす二次的・間接的な被害

社会的信用の失墜とブランドイメージの毀損

不正アクセス被害が公になると、企業は社会的信用の失墜という深刻な間接被害を受けます。顧客や取引先は、企業が適切なセキュリティ対策を講じていることを信頼していますが、インシデントの発生はその信頼を根底から覆します。特に個人情報の漏洩は、管理体制の杜撰さを露呈するものとして厳しく批判され、既存顧客の離反や新規取引の停止を招きます。

一度損なわれたブランドイメージを回復するには、多大な時間とコスト、そして経営陣による真摯な対応が不可欠です。SNSの普及によりネガティブな情報は瞬時に拡散されるため、対応を誤れば回復は一層困難になります。信用の低下は、採用活動における人材獲得の困難化や、従業員の士気低下による離職者の増加といった、組織内部の崩壊につながる恐れもあります。

顧客・取引先に対する損害賠償責任の発生

不正アクセスによって顧客や取引先に損害を与えた場合、企業は民法上の損害賠償責任を負うことになります。これは、契約上の義務を果たせなかった「債務不履行責任」や、過失によって他者に損害を与えた「不法行為責任」として追及されます。

例えば、個人情報漏洩では被害者一人ひとりへの慰謝料支払いが、システム停止では取引先の逸失利益の補填が必要になることがあります。漏洩件数や影響範囲が大規模になれば、賠償総額は経営を圧迫するほどの巨額に達する可能性も否定できません。また、損害賠償を巡る訴訟に発展すれば、弁護士費用や裁判にかかる時間など、経営資源が本来の事業以外に割かれることになります。適切なセキュリティ対策を怠ったと判断されれば、取締役の善管注意義務違反として、経営陣個人の責任が問われるリスクもあります。

事業機会の損失や株価下落といった財務的影響

不正アクセスの被害は、直接的な金銭的損失だけでなく、将来得られるはずだった利益の機会を奪い、企業の財務状況を悪化させます。上場企業の場合、インシデントの公表は投資家の信頼を損ない、株価の急落を招くことが少なくありません。株価の下落は時価総額の減少を意味し、資金調達コストの上昇や、株主からの厳しい追及につながります。

主な財務的影響
  • 事業機会の損失: 新規案件の失注や既存顧客の流出による中長期的な売上減少
  • 株価の下落: インシデント公表による投資家の信頼低下と、それに伴う時価総額の減少
  • 資金調達コストの増大: 信用格付けの低下による融資条件の悪化や金利の上昇
  • 財務状況の悪化: インシデント対応費用の発生による自己資本の減少

サプライチェーン攻撃で「加害者」となった場合の契約上のリスク

自社のセキュリティ不備が原因で不正アクセスの「踏み台」にされ、取引先や顧客企業に被害が及んだ場合、企業はサプライチェーン攻撃の「加害者」として重大な責任を問われます。多くの業務委託契約にはセキュリティ遵守に関する条項が含まれており、これを怠って他社に損害を与えれば、契約違反として損害賠償を請求される可能性があります。特に大手企業との取引では、インシデント発生時の報告義務や賠償に関する厳しい規定が設けられていることが多く、違反した場合は取引停止や市場からの退場を余儀なくされるような、深刻な経営リスクに直面する可能性もあります。

国内企業における近年の不正アクセス被害事例

【製造業】ランサムウェア感染による工場生産ラインの停止事例

国内の製造業では、工場の生産管理システムがランサムウェアに感染し、生産ラインが停止する被害が相次いでいます。ある大手自動車メーカーでは、取引先である部品メーカーがランサムウェア攻撃を受けた影響で、国内全工場の稼働が停止し、大規模な生産遅延が生じました。この事例は、子会社の古いリモート接続機器の脆弱性が起点となり、グループ全体に被害が拡大したサプライチェーン攻撃の典型例です。生産ラインの停止は莫大な逸失利益を生むため、製造業は身代金を支払いやすいターゲットとして狙われる傾向にあります。

【医療機関】電子カルテシステムへの侵入と診療停止に至った事例

医療機関への不正アクセスは、患者の生命に直結する極めて深刻な事態を引き起こします。国内のある公立病院では、VPN機器の脆弱性を突かれてランサムウェアに感染し、電子カルテを含む全システムが停止しました。これにより、過去の診療記録が参照できなくなり、通常診療や救急患者の受け入れが不可能になるなど、地域医療に甚大な影響を及ぼしました。システムの復旧には数億円の費用と数ヶ月の期間を要しました。医療機関は人命を預かるため身代金の支払いに応じやすいと見なされやすく、古い医療機器の脆弱性も相まって、攻撃の標的となりやすい構造的課題を抱えています。

【ECサイト】ペイメントシステムの改ざんによるクレジットカード情報流出事例

ECサイトでは、決済画面を改ざんし、顧客が入力したクレジットカード情報をリアルタイムで窃取する「Webスキミング(フォームジャッキング)」と呼ばれる攻撃が多発しています。ある専門書販売サイトでは、システムの脆弱性を悪用され、決済ページに不正なコードが埋め込まれた結果、1万件を超えるカード情報が流出しました。この手口は、事業者がカード情報を自社サーバーに保存しない「非保持化」対策を講じていても防ぐことが難しく、情報漏洩が発覚すれば、サイト閉鎖、高額な調査費用、ブランドイメージの低下などの深刻な事態につながるおそれがあります。

【ITサービス】委託先への攻撃を踏み台にしたサプライチェーン被害事例

ITサービスやクラウドサービスを提供する企業が攻撃を受けると、そのサービスを利用する多数の顧客に被害が連鎖する、大規模なサプライチェーン被害に発展します。海外のネットワーク管理ソフト開発企業が攻撃を受け、正規のアップデートファイルにマルウェアが仕込まれた結果、世界中の政府機関や大企業に感染が拡大した事例は、ソフトウェアサプライチェーン攻撃の脅威を象徴しています。ITサービス事業者は社会インフラとしての側面も持ち合わせており、自社だけでなく、委託先や利用するソフトウェアの供給元まで含めた、サプライチェーン全体のセキュリティ管理が求められます。

不正アクセスの被害を検知・確認する方法と初期対応

自社が被害を受けていないか確認するためのチェックポイント

不正アクセスを早期に発見するには、日常的にシステムの挙動を監視し、異常のサインを見逃さないことが重要です。被害の有無を確認するためには、以下のような点を定期的にチェックする体制を構築することが求められます。

被害確認のための主なチェックポイント
  • アクセスログの確認: 業務時間外や海外IPアドレスからの不審なログイン、ログイン失敗の多発がないか
  • Webサイトの監視: 身に覚えのないファイルの設置やページの改ざん、不審なスクリプトの挿入がないか
  • システムパフォーマンスの監視: 端末やサーバーの急激な速度低下、意図しない再起動、設定の不正な変更がないか
  • セキュリティアラートの確認: ウイルス対策ソフトや不正侵入検知システム(IDS/IPS)の警告を放置していないか
  • 管理者権限の棚卸し: 不審な管理者アカウントが不正に作成されていないか

被害が疑われる場合に実施すべき初動対応のフロー

不正アクセスの兆候を発見した場合、被害の拡大を防ぐためには、パニックにならず、定められた手順に従って冷静かつ迅速に行動することが極めて重要です。具体的な初動対応は以下のフローで行います。

被害発覚時の初動対応フロー
  1. 被害端末のネットワークからの隔離: 感染が疑われるPCやサーバーのLANケーブルを抜くなど、物理的にネットワークから遮断する。(※証拠保全のため、電源は落とさない)
  2. 関係者への報告と対策本部の設置: 経営層や情報システム部門、法務部門などに速やかに報告し、対応の指揮系統を一本化する。
  3. 全パスワードの強制変更: 被害の拡大を防ぐため、全従業員のアカウントやシステムのパスワードを強制的に変更・リセットする。
  4. 証拠の保全: サーバーのアクセスログや不正なファイルなど、調査に必要なデータを保全する。
  5. 被害範囲の特定と専門家への相談: 自社での対応が困難な場合は、速やかにデジタルフォレンジック等の専門調査機関に連絡し、客観的な調査を依頼する。

被害の公表判断における法的義務とレピュテーション管理

個人情報の漏洩が発生した場合、企業は個人情報保護法に基づき、個人情報保護委員会への報告および本人への通知が義務付けられています。報告を怠ったり、事実を隠蔽したりすれば、法的ペナルティに加えて社会からの信頼を完全に失うことになります。レピュテーション(評判)管理の観点からも、不確実な情報があったとしても、まずは被害の事実を速やかに公表し、調査の進捗に応じて透明性のある情報開示を続けることが、信頼回復に向けた第一歩となります。

不正アクセスによる被害に関するよくある質問

不正アクセス行為はどのような法律で規制されていますか?

不正アクセス行為そのものや、それによって引き起こされる被害は、複数の法律によって規制されています。企業はこれらの法律を遵守し、適切なセキュリティ体制を構築する義務があります。

不正アクセスに関連する主な法律
  • 不正アクセス禁止法: 他人のID・パスワードの無断使用や、セキュリティホールを攻撃する行為自体を禁止する法律。
  • 個人情報保護法: 不正アクセスにより個人情報が漏洩した場合の、企業の報告義務や安全管理措置義務などを定めている。
  • 刑法: コンピュータウイルスを作成・提供する行為や、システムを破壊して業務を妨害する行為(電子計算機損壊等業務妨害罪)などを処罰する。
  • 不正競争防止法: 不正な手段で企業の営業秘密(技術情報や顧客情報など)を取得・使用する行為を規制する。

不正アクセスの代表的な手口にはどのような種類がありますか?

攻撃者は様々な手口を組み合わせてシステムへの侵入を試みます。代表的な手口を理解し、それぞれに対応した対策を講じることが重要です。

代表的な手口の種類
  • パスワードリスト攻撃: 他のサービスから漏洩したIDとパスワードのリストを使い、ログインを試行する。
  • 総当たり攻撃(ブルートフォースアタック): パスワードのあらゆる組み合わせを機械的に試し、認証を突破しようとする。
  • フィッシング詐欺: 金融機関や公的機関を装った偽のメールやSMSで偽サイトに誘導し、IDやパスワードを盗み取る。
  • SQLインジェクション: Webアプリケーションの脆弱性を利用し、不正なデータベース操作命令を実行させて情報を窃取・改ざんする。
  • ゼロデイ攻撃: ソフトウェアの脆弱性が発見されてから、修正プログラムが提供されるまでの間に、その脆弱性を悪用して攻撃する。

被害が発生した場合、どこに報告・相談すればよいですか?

不正アクセスの被害に遭った場合、速やかに然るべき機関に報告・相談することが、被害の拡大防止と適切な事後対応につながります。相談先は被害の内容によって異なります。

主な報告・相談窓口
  • 警察: 犯罪として被害届を提出する場合。各都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口に連絡する。
  • 個人情報保護委員会: 個人情報の漏洩・滅失・毀損が発生、またはその恐れがある場合に報告義務がある。
  • IPA(情報処理推進機構): 技術的な助言や情報提供を求める場合の相談窓口。「情報セキュリティ安心相談窓口」などがある。
  • JPCERT/CC: インシデントに関する技術的な対応の調整や支援を行う専門機関。
  • 監督官庁: 金融、医療など、業種によっては所管の監督官庁への報告が別途必要になる場合がある。

サイバー保険はどこまで被害を補償してくれますか?

サイバー保険は、不正アクセスによって生じる様々な損害を補償するための保険です。補償範囲は契約内容によって異なりますが、一般的には直接的な損害だけでなく、事後対応にかかる費用も対象となります。ただし、企業の故意や重大な過失、基本的なセキュリティ対策を怠っていた場合などは、補償の対象外(免責)となる可能性があるため注意が必要です。

サイバー保険の主な補償範囲
  • 損害賠償金: 顧客や取引先など第三者への損害賠償金、訴訟費用など。
  • 事故対応費用: 原因調査費用(フォレンジック)、復旧費用、コールセンター設置費用、見舞金・見舞品購入費用など。
  • 喪失利益: システム停止期間中に得られなかった逸失利益や、事業継続のために要した追加費用。

まとめ:不正アクセス被害の全体像を理解し、経営課題として対策を

本記事では、不正アクセスが引き起こす直接的・間接的な被害の多様性について、具体的な事例を交えながら解説しました。被害は、情報漏洩や金銭的損害といった目に見えるものから、ブランドイメージの毀損、損害賠償責任、サプライチェーンへの波及といった二次的なものまで複雑に連鎖し、事業継続に深刻な影響を及ぼします。国内の被害事例からもわかるように、業種や企業規模を問わず、あらゆる組織が攻撃の標的となり得るのが現実です。これらのリスクを単なる情報システム部門の技術的な課題としてではなく、全社で取り組むべき経営課題として認識することが不可欠です。被害の全体像を正しく理解し、インシデント発生を想定した事前の対策や、被害発覚時の迅速な初期対応体制を構築することが、企業の存続を守る上で極めて重要と言えるでしょう。

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